熱帯雨林は植物の宝庫ですから、昔から大変興味があります。生える植物も面白いものばかりです。日本でも世界中の植物が販売されるようになり、熱帯雨林原産の珍しい植物も見かけるようになっています。私も本などで熱帯雨林について調べたりしたものです。本日はそんな熱帯雨林についてのとりとめのない話をします。熱帯雨林とは何かとか、その定義とか言う話ではなく、単純に植物の話です。
熱帯雨林は高さ数十メートルの高木が隙間なく生えています。ですから、林床(森林の中の地面)は非常に暗く、下草すら生えていません。我々が熱帯と言って想像するカラフルな花々やトロピカル・フルーツは全く見当たりません。雑草の1本もなく、樹木の枝もはるか頭上にありますから、緑の葉すらないひたすらに薄暗い空間です。そもそも、熱帯雨林の土壌は貧弱で浅いことが知られています。立ち並ぶ巨木も深く根を張ることが出来ません。これは、落ち葉が地上に落ちてきても直ぐに分解されてしまい、積もらないことが原因です。暖かく湿潤なので微生物も活発です。そこにスコールでも降れば、葉の分解物も流されてしまいいつまで経っても土壌が堆積しないことになります。しかも、熱帯雨林には冬がありませんから、日本の秋のように一斉に落ち葉が降り積もることもありませんからなおさらです。
ただし、熱帯雨林は温暖・湿潤ですから、非常に多様性が高い世界です。単位面積あたりの樹木の種類は非常に高くなっています。ある1本の樹木の周囲数十メートル範囲に、同じ種類の樹木が存在しないなんてことも珍しくありません。樹木で言うならば、森林の多様性は暖かさに依存します。雪が多く湿潤でも、寒冷地では1種類の樹木からなる純林であることもあります。これは、環境の持つキャパシティーや、樹木が寒冷地に適応出来るか否かなどの複数の要因がありそうです。
とは言うものの、以上は極度に成熟した、ある種理想的な熱帯雨林の話です。実際には熱帯雨林は非常に動的です。実際の熱帯雨林は環境や地形も一様ではありませんから、多少は落ち葉も積もりますし、林床に生える植物は沢山あります。とは言うものの、やはり熱帯雨林に生える草本は暗い環境に適応したものが多いのも事実です。インテリアとして室内に飾られる観葉植物でも熱帯雨林原産のものは深く濃い緑色をしていて、室内でも日照不足にならずに育てることが出来るのです。
熱帯雨林の樹木は、常に古いものや、腐朽菌に侵されたもの、日照の奪い合いに敗れた樹木などが次々と枯れていきます。枯れた林床には日が差し、一斉に沢山の種類の芽生えが生えてきます。これを倒木更新と言いますが、熱帯雨林だけではなく世界中の森林で起きている現象です。この倒木更新は偶然起きている訳ではありません。なぜなら、たまたま倒木の周囲で種子がその時に出来て、その種子がこぼれて倒木により日が差して芽が出たというまぐれ当たりでは、一斉に生えてくる急速な芽生えを説明出来ないからです。一斉に生えてくる芽生えには、2つのメカニズムがあります。1つは暗い林床で発芽して耐える実生の存在です。日本のブナ林ではカイワレ大根のようにヒョロヒョロしたブナの実生が沢山生えています。ブナ林の林床は暗いので、まともな生長は望めませんからいつかは枯れてしまいます。しかし、このブナの実生は数年間、この状態で耐えることが出来ます。倒木があった時に、既に発芽しているヒョロヒョロの苗は日を浴びて急速に生長し、周囲の苗と競争するのです。もう1つが、貯蔵種子の存在です。これは、周囲の環境が変わるまで何年も種子のまま耐えるものや、種子がばらまかれても直ぐには発芽せずに、バラバラに発芽するものものがあります。後者は一斉に発芽してすべて枯れてしまうより、発芽をずらしてどれか1つが生き残れば良いという戦略です。
次に林冠を見てみます。林冠とは樹木が葉を広げる日照の争奪戦が行われる最前線です。実はこの林冠には沢山の草本が見られます。それは、いわゆる着生植物と呼ばれるもので、根で樹木の枝や幹に貼りついて育ちます。着生は寄生とは異なり根はただの足場で、自身で光合成を行っています。着生植物は日照を求めて明るい林冠に進出した植物ですが、熱帯雨林ではメジャーな存在です。我々日本人が見慣れた温帯の森林では、着生植物はほとんど見ることはありませんから実に対照的です。
代表的な着生植物と言えばラン科の植物です。もちろん、紫蘭やアツモリソウ、ジュエル・オーキッドなど地上に生える種類もありますが、ランの大半は着生です。よく栽培されるDendrobium(デンファレやセッコクを含む)、Cymbidium、Phalaenopsis(胡蝶蘭)、Cattleya、Oncidium、風ランなどはすべて野生種は着生植物です。

このように、胡蝶蘭はコルク板に着生させて育てることも出来ます。
ラン科は超巨大なグループで、世界中に分布します。特に南アジアから東南アジア、熱帯アフリカ、中南米の熱帯域に集中しています。着生ランは毎日発生する濃霧から水分を吸収しているといいます。着生ランの根はうどんのように太く、スポンジのように水を吸収する特殊な仕組みがあります。
次にパイナップル科が有名です。その中でも、Tillandsiaはエアープラントなどと呼ばれて昔から流通しています。Tillandsiaはかなり特殊な植物で、根は固着するためだけにあり、本来の水を吸収する働きはありません。そのかわり、葉の全体から水分を吸収することが出来ます。また、最近流行りのタンク・ブロメリアなども着生するパイナップルの仲間です。タンク・ブロメリアも着生しますが、葉を筒状にして水を貯めます。この小さな水たまりの中で育つオタマジャクシもいるそうです。

Tillandsia
たまに思い出したかのように針金のような硬い根を出すこともあります。
次はシダ植物です。日本でも沖縄に行くと、あちこちにシマオオタニワタリが着いています。着生シダでは、最近ビカクシダが人気ですね。日本でもシノブの仲間が木の幹や岩に着いていることがあります。

シマオオタニワタリ
シダの葉は硬いものが多いので普通はシダを専門としている種類のヨトウムシくらいしかつきませんが、シマオオタニワタリの葉は柔らかいので普通の毛虫に食害されることがあります。
他にも熱帯雨林には様々な着生植物が自生します。例えば、アリノスダマと呼ばれるアリ植物は、現在地では珍しい植物ではなくあちこちに生えています。アリノスダマは膨らんだ茎の中が迷路状となっており、アリが巣を作ります。住み着いたアリの存在は、アリノスダマにとって2つのメリットがあります。1つは外敵からの防御です。葉を食害する毛虫などが来ても、直ぐにアリが気付いて排除に動きます。アリからしたら家に危害を加えて来たのですから、攻撃は当たり前のことです。もう1つは栄養面です。迷路の中の決まった部屋に、アリはゴミや仲間の死骸を捨てます。その部屋には根が出て来て養分を吸収するのです。
熱帯ではアリを利用するアリ植物が沢山あります。アリに住み家を提供するだけではなく、蜜や養分を与える植物すらあります。蜜を出してアリを集める植物は熱帯以外でも見られ、日本でもアカメガシワなどの葉に蜜腺が見られます。そういえば、クスノキの葉にはダニ室という小さな部屋があり、そこに肉食性のダニが住み着いてハダニを食べるのだそうです。あまり研究されていませんが、このようなダニを利用する植物も沢山あるのかもしれません。
基本的に着生は根がむき出しですから、基本的に養分不足です。養分を如何にして得るかも重要です。アリノスダマは上手くアリを利用していますね。そういえば、シマオオタニワタリも葉の内側に落ち葉を貯めて、水分と栄養を得ていると聞いたことがあります。また、ランの種子の発芽にはラン菌と呼ばれる菌類が必要とされますが、実はラン菌はランに支配されており都合よくランに栄養を提供させられています。共生関係でも完全に対等であるとは限らないのです。松茸なんかは逆に強引に松に共生関係を強いるらしく、見方によっては松茸は松の病気のようなものかもしれません。この植物と菌との関係はとても重要ですから、そのうち記事にしたいと思います。
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熱帯雨林は高さ数十メートルの高木が隙間なく生えています。ですから、林床(森林の中の地面)は非常に暗く、下草すら生えていません。我々が熱帯と言って想像するカラフルな花々やトロピカル・フルーツは全く見当たりません。雑草の1本もなく、樹木の枝もはるか頭上にありますから、緑の葉すらないひたすらに薄暗い空間です。そもそも、熱帯雨林の土壌は貧弱で浅いことが知られています。立ち並ぶ巨木も深く根を張ることが出来ません。これは、落ち葉が地上に落ちてきても直ぐに分解されてしまい、積もらないことが原因です。暖かく湿潤なので微生物も活発です。そこにスコールでも降れば、葉の分解物も流されてしまいいつまで経っても土壌が堆積しないことになります。しかも、熱帯雨林には冬がありませんから、日本の秋のように一斉に落ち葉が降り積もることもありませんからなおさらです。
ただし、熱帯雨林は温暖・湿潤ですから、非常に多様性が高い世界です。単位面積あたりの樹木の種類は非常に高くなっています。ある1本の樹木の周囲数十メートル範囲に、同じ種類の樹木が存在しないなんてことも珍しくありません。樹木で言うならば、森林の多様性は暖かさに依存します。雪が多く湿潤でも、寒冷地では1種類の樹木からなる純林であることもあります。これは、環境の持つキャパシティーや、樹木が寒冷地に適応出来るか否かなどの複数の要因がありそうです。
とは言うものの、以上は極度に成熟した、ある種理想的な熱帯雨林の話です。実際には熱帯雨林は非常に動的です。実際の熱帯雨林は環境や地形も一様ではありませんから、多少は落ち葉も積もりますし、林床に生える植物は沢山あります。とは言うものの、やはり熱帯雨林に生える草本は暗い環境に適応したものが多いのも事実です。インテリアとして室内に飾られる観葉植物でも熱帯雨林原産のものは深く濃い緑色をしていて、室内でも日照不足にならずに育てることが出来るのです。
熱帯雨林の樹木は、常に古いものや、腐朽菌に侵されたもの、日照の奪い合いに敗れた樹木などが次々と枯れていきます。枯れた林床には日が差し、一斉に沢山の種類の芽生えが生えてきます。これを倒木更新と言いますが、熱帯雨林だけではなく世界中の森林で起きている現象です。この倒木更新は偶然起きている訳ではありません。なぜなら、たまたま倒木の周囲で種子がその時に出来て、その種子がこぼれて倒木により日が差して芽が出たというまぐれ当たりでは、一斉に生えてくる急速な芽生えを説明出来ないからです。一斉に生えてくる芽生えには、2つのメカニズムがあります。1つは暗い林床で発芽して耐える実生の存在です。日本のブナ林ではカイワレ大根のようにヒョロヒョロしたブナの実生が沢山生えています。ブナ林の林床は暗いので、まともな生長は望めませんからいつかは枯れてしまいます。しかし、このブナの実生は数年間、この状態で耐えることが出来ます。倒木があった時に、既に発芽しているヒョロヒョロの苗は日を浴びて急速に生長し、周囲の苗と競争するのです。もう1つが、貯蔵種子の存在です。これは、周囲の環境が変わるまで何年も種子のまま耐えるものや、種子がばらまかれても直ぐには発芽せずに、バラバラに発芽するものものがあります。後者は一斉に発芽してすべて枯れてしまうより、発芽をずらしてどれか1つが生き残れば良いという戦略です。
次に林冠を見てみます。林冠とは樹木が葉を広げる日照の争奪戦が行われる最前線です。実はこの林冠には沢山の草本が見られます。それは、いわゆる着生植物と呼ばれるもので、根で樹木の枝や幹に貼りついて育ちます。着生は寄生とは異なり根はただの足場で、自身で光合成を行っています。着生植物は日照を求めて明るい林冠に進出した植物ですが、熱帯雨林ではメジャーな存在です。我々日本人が見慣れた温帯の森林では、着生植物はほとんど見ることはありませんから実に対照的です。
代表的な着生植物と言えばラン科の植物です。もちろん、紫蘭やアツモリソウ、ジュエル・オーキッドなど地上に生える種類もありますが、ランの大半は着生です。よく栽培されるDendrobium(デンファレやセッコクを含む)、Cymbidium、Phalaenopsis(胡蝶蘭)、Cattleya、Oncidium、風ランなどはすべて野生種は着生植物です。

このように、胡蝶蘭はコルク板に着生させて育てることも出来ます。
ラン科は超巨大なグループで、世界中に分布します。特に南アジアから東南アジア、熱帯アフリカ、中南米の熱帯域に集中しています。着生ランは毎日発生する濃霧から水分を吸収しているといいます。着生ランの根はうどんのように太く、スポンジのように水を吸収する特殊な仕組みがあります。
次にパイナップル科が有名です。その中でも、Tillandsiaはエアープラントなどと呼ばれて昔から流通しています。Tillandsiaはかなり特殊な植物で、根は固着するためだけにあり、本来の水を吸収する働きはありません。そのかわり、葉の全体から水分を吸収することが出来ます。また、最近流行りのタンク・ブロメリアなども着生するパイナップルの仲間です。タンク・ブロメリアも着生しますが、葉を筒状にして水を貯めます。この小さな水たまりの中で育つオタマジャクシもいるそうです。

Tillandsia
たまに思い出したかのように針金のような硬い根を出すこともあります。
次はシダ植物です。日本でも沖縄に行くと、あちこちにシマオオタニワタリが着いています。着生シダでは、最近ビカクシダが人気ですね。日本でもシノブの仲間が木の幹や岩に着いていることがあります。

シマオオタニワタリ
シダの葉は硬いものが多いので普通はシダを専門としている種類のヨトウムシくらいしかつきませんが、シマオオタニワタリの葉は柔らかいので普通の毛虫に食害されることがあります。
他にも熱帯雨林には様々な着生植物が自生します。例えば、アリノスダマと呼ばれるアリ植物は、現在地では珍しい植物ではなくあちこちに生えています。アリノスダマは膨らんだ茎の中が迷路状となっており、アリが巣を作ります。住み着いたアリの存在は、アリノスダマにとって2つのメリットがあります。1つは外敵からの防御です。葉を食害する毛虫などが来ても、直ぐにアリが気付いて排除に動きます。アリからしたら家に危害を加えて来たのですから、攻撃は当たり前のことです。もう1つは栄養面です。迷路の中の決まった部屋に、アリはゴミや仲間の死骸を捨てます。その部屋には根が出て来て養分を吸収するのです。
熱帯ではアリを利用するアリ植物が沢山あります。アリに住み家を提供するだけではなく、蜜や養分を与える植物すらあります。蜜を出してアリを集める植物は熱帯以外でも見られ、日本でもアカメガシワなどの葉に蜜腺が見られます。そういえば、クスノキの葉にはダニ室という小さな部屋があり、そこに肉食性のダニが住み着いてハダニを食べるのだそうです。あまり研究されていませんが、このようなダニを利用する植物も沢山あるのかもしれません。
基本的に着生は根がむき出しですから、基本的に養分不足です。養分を如何にして得るかも重要です。アリノスダマは上手くアリを利用していますね。そういえば、シマオオタニワタリも葉の内側に落ち葉を貯めて、水分と栄養を得ていると聞いたことがあります。また、ランの種子の発芽にはラン菌と呼ばれる菌類が必要とされますが、実はラン菌はランに支配されており都合よくランに栄養を提供させられています。共生関係でも完全に対等であるとは限らないのです。松茸なんかは逆に強引に松に共生関係を強いるらしく、見方によっては松茸は松の病気のようなものかもしれません。この植物と菌との関係はとても重要ですから、そのうち記事にしたいと思います。
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