本日は2022年のColin C.Walkerの記事、『Euphorbia evolution and taxonomy』をご紹介します。タイトルは「ユーフォルビアの進化と分類学」ですが、内容的には2021年に発表されたユーフォルビアに関する論文の紹介記事です。記事は3つのパートからなっています。早速、記事を見てみましょう。

①ユーフォルビアの分類
遺伝子解析の発達は、長い歴史を誇る植物分類学を一新してしまいました。特にここ10年と少しで急速に普及・発展し、その精度も高くなっています。全世界の植物学者が協力して植物の分類を決定しようとしたAPGというプロジェクトがあり、分類体系は様変わりしました。遺伝子解析によりユーフォルビアの分類も大きな影響を受けることになりました。

さて、ユーフォルビアは種類も多く姿も多様ですが、近年の遺伝子解析においてまとまりのあるグループであることが明らかとなっています。今までユーフォルビアから分離されてきたグループも、ユーフォルビアに合併される傾向があります。
2021年の論文、『Plastome evolution in the hyperdiverse genus Euphorbia (Euphorbiaceae) using phylogenomic and comparative analysis : large - scale expansion and contraction of the inverted repeat region』では、ユーフォルビア属は単系統です。Chamaesyce、Cubanthus、Eleophorbia、Endadenium、Monadenium、Pedilanthus、Poinsettia、Synadeniumは、ユーフォルビア属内で他のユーフォルビアと入れ子状となっていることが示されています。ユーフォルビア属の4つの亜属である、Athymalus、Chamaesyce、Esula、Euphorbiaは単系統でした。

次にやはり2021年の論文、『Euphorbia mbuinzauensis, a new succulent species in Kenya from the Synadenium group in Euphorbia sect. Monadenium (Euphorbiaceae) 』では、わずか14種類のグループであるシナデニウム属に焦点を当てています。シナデニウムは以前は熱帯アフリカの東部と南部のみに分布する、高さ18mまでの樹木です。既知の植物と一致しない種が発見されたので、分子生物学的研究が行われました。この新種はEuphorbia mbuinzauensisと命名されました。ケニア原産の高さ4mほどの低木です。この研究によりシナデニウム属がユーフォルビア亜属の構成員であることを確認しました。

②マダガスカル・ユーフォルビアの学名の改定
2番目はマダガスカルのユーフォルビアについての論文です。2021年の2本の論文、『Novelties in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』と『Taxonomic change and new species in Malagasy Euphorbia』です。

マダガスカルには200以上のユーフォルビアがあり、多様性があります。この2つの論文ではその分類法と命名法を再評価しています。マダガスカルのユーフォルビア48種類を評価しており、これらの論文の種名の変更を基に、将来的に学名が大きく改定される可能性があります。

1つ目の論文の焦点は、花キリンEuphorbia miliiの分類方法の再検討です。E. miliiの由来は1826年の命名以来謎のままであり、この名前は園芸業界で様々な品種に対して総称として使用されています。Euphorbia milii Des Moul.の名前は、先端を切ったような葉の種類に限定されます。楕円形の葉を持つ、赤色や黄色の花(苞)を持つ良く栽培される種類をEuphorbia splendens Bojer ex Hookerの名前で復元されています。
他のE. milii複合体については以外の通りに改定されております。
E. milii var. longifolia→E. betrokana
E. splendens var. bevilaniensis→E. bevilaniensis
E. splendens var. hislopii→E. hislopii
E. milii var. imperatae→E. imperatae
E. milii var. bosseri→E. neobosseri
E. milii var. roseana→E. roseana
E. splendens var. tananarivae→E.tananarivae
E. milii var. tenuispina→E. tenuispina


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Euphorbia imperatae cv. 

また、Euphorbia bosseri Leandriの分類方法も改定され、一般的なE. platycladaは異名となります。E. platyclada var. hardyiはEuphorbia hardyiとして変種から独立種に昇格しました。

他にも、いくつかの低木種の分類も改定されました。
E. primulifolia var. begardii→E. begardii
E. francoisii var. crassicaulis→E. crassicaulis
E. perrieri var. elongata→E. paulianii
E. berevoensis(E. nicaiseiを含む)
E. delphinensis
E. fanjahiraensis(E. isalensisを含む)
E. guillemetii(E. beharensisを含む)
E. leandriana(E. horombensisを含む)
E. mangokyensis(E. razafindratsiraeを含む)
E. pachyspina
E. perrieri
E. psammiticolia
E. werneri


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Euphorbia begardii

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Euphorbia mangokyensis

2番目の論文では、14種類ものマダガスカルの新種ユーフォルビアが記載され、近縁な種類と比較しています。その14種は、E. agatheae、E. atimovatae、E. fuscoclada、E. graciliramulosa、E. kalambatitrensis、E. linguiformis、E. mahaboana、E. makayensis、E. multibrachiata、E. parvimedusae、E. perrierioides、E. rigidispina、E. spannringii、E. tsihombensisです。
また、非公式なE. rubrostriataグループの新しい組み合わせが提案されています。E. itampolensis(E. neobosseri var. itampolensis)、再評価されているのはE. mahafalensis、E. rubrostriata(E. mainianaを含む)、E. xanthadenia(E. croizatii、E. ebeloensis、E. emiliennaeを含む)です。
さらに、新しい異名と新しい組み合わせが提案されています。
E. moratii var. antsingiensis→E. antsingiensis
E. enterophora subsp. crassa→E. crassa
E. rangovalensis(E. castilloniを含む)
E. enterophora→E. xylophylloides

③Euphorbia susannaeの調査
3つ目は、日本ではすっかり普及種となったEuphorbia susannaeについてです。その論文は2021年の『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。著者らはE. susannaeの分布と環境を調査し、野生のE. susannaeの個体数が非常に少数であることを報告しています。
実はこの論文は既に記事にしています。詳細は以下のリンクをどうぞ。


最後に
以上が最新のユーフォルビアのニュースとなります。ユーフォルビアは種類が多い割に論文が少なく、園芸的に人気があるアフリカの多肉質なユーフォルビアとなると、残念ながらほとんどない状態です。しかし、ユーフォルビア属自体は大変動の最中で、モナデニウム属などがユーフォルビア属に吸収合併されました。ユーフォルビア属内の大まかな分類も概ね解決しており、後は詳細な種の所属を明らかにすることや、種同士の関係性が気になるところです。次にマダガスカルのユーフォルビアについてですが、これは非常に大きな改定です。これからの分類が刷新される可能性もあり、重要な論文かもしれません。時間があれば一度読んでみたいと思っています。最後にEuphorbia susannaeについてですが、これは思いの外重要な論文です。多肉植物は、環境破壊や違法採取などにより、個体数を減らしたり絶滅が危惧されているものも沢山あります。しかし、希少植物を保護するにせよ現地調査は欠かせません。まずは知るところからがスタート地点です。しかし、残念ながらアフリカのユーフォルビアは、減少している可能性があるといった曖昧な情報が多く調査もなされていないため、仮に絶滅していてもそのことすら感知されない可能性があります。大変悲しいことです。


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