昨日はメキシコ原産のソテツであるDioon eduleの情報についての記事を書きましたが、本日はD. eduleの論文をご紹介したいと思います。D. eduleはDioonの代表種であり、様々な角度から研究がなされています。非常に面白そうな論文が沢山あります。しかし、最近ではやや忙しく中々思ったように論文を読めていないのが悩みです。

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Dioon edule

そんな中、読んだ論文はAndrew P. Vovidesの1990年の論文、『Spatial Distribution, Survival, and Fecundity of Dioon edule (Zamiaceae) in a Tropical Deciduous Forest in Veracuruz, Mexico, with Notes on Its Habitat』です。

著者は野生のD. eduleが集中するメキシコのVeracuruz州中央の熱帯林で、その生長と繁殖に関するデータを4年間にわたり収集しました。
まずは実生の定着具合を見てみましょう。調査によると、高さ10cm以下の若い苗はほぼ枯れてしまうことが分かりました。やはり、小さな内は環境の変化や乾燥に耐えられないのでしょう。しかし、高さ40~50cmくらいに生長すると枯れてしまう個体は5%以下でした。ある程度生長できれば環境の変化にも対応出来るのでしょう。
次に樹齢を見てみましょう。調査した区域の139個体のD. eduleの中で最高齢は2001~2250歳と見られる個体が1本ありました。1501~2000歳の個体は0本、1251~1500歳の個体が1本、1001~1250歳の個体が2本、751~1000歳の個体が2本、501~750歳の個体が11本、251~500歳の個体が13本、0~250歳の個体が109本ありました。ここで分かることは、D. eduleは非常に寿命が長いということだけではありません。0~250歳の個体が109本ということは、この250年の間に生き残った実生は109本しかないということでもあります。この0~250歳の死亡率は88%にもなるようです。

種子を人工的に発芽させた場合、発芽率は98%と非常に高いことが分かりました。しかし、野生状態だとネズミ(Peromyscus mexicanus)に種子を食べられてしまうことが明らかとなっています。しかし、一般的にソテツには毒があり、ラットにD. eduleの種子を砕いて与えると24時間以内に死亡してしまいます。つまり、D. eduleの種子を食べるP. mexicanusはソテツの毒に耐性があるということです。
また、新しく葉は柔らかく、Eumaeus deboraという蝶の幼虫により食害されます。
実生が枯死する最大の要因は、おそらく極端な乾燥です。1983年の乾季には1~2歳のD. eduleはほぼ死滅しました。さらに、D. eduleの実生を人工的に2年間育てた後に2週間の乾燥させたことにより、20個体中18個体が枯死しました。やはり、若い個体にとって乾燥は大敵のようです。
D. eduleの生息地は山火事が起きやすく、大型の個体は耐えられますが、苗は耐えられないでしょう。しかし、山火事により一時期に土壌中に窒素が増加することにより、開花に寄与しているということです。結果的に種子の生産が増加するということです。


生育環境を見てみましょう。土壌の深さを測定すると、D. eduleの84%はたった6~20cmしかない浅い土壌に生えていることが分かりました。多くの場合、岩場に生えていました。土壌はカリウムとリン酸が貧弱であり、かなりの貧栄養のようです。pHは7.7でした。この岩場に育つことにより、種子が岩の隙間に入りネズミに食べられてしまう可能性は低くなるようです。
D. eduleには菌根が確認されているそうです。あまり知られていませんが、野生の樹木の根はキノコの菌糸で被われており、樹木とキノコの間で養分のやり取りがあり共生関係にあります。これを菌根と呼びます。菌根はまれな現象ではなく、森林には普遍的に存在し非常に重要な仕組みであることが分かってきました。D. eduleも共生している菌根から水分や栄養をもらい、乾燥し栄養の少ない過酷な環境に耐えているのでしょう。

以上が論文の簡単な要約となります。D. eduleが尋常ではない寿命を持つこと、あまりに過酷な環境ゆえに実生苗がほとんど死滅してしまうこと、そしてその過酷な環境に耐える仕組みがあることが分かりました。このような調査は単にD. eduleの科学的な知見が増えるだけではなく、将来保護を行うための基本的な下地にもなります。しかし、このような地味な研究には資金が中々出ない現状のため、多くの植物が調査すらされずに人知れず開発や違法採取で絶滅していることは大変悲しいことです。著者はD. eduleの繁殖にも関わっているようですから、そこら辺の活動についてもそのうち記事に出来たらと思っておりません。


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