ダシリリオンの小さな実生苗を育てていますが、一体なんの仲間なのか以前から気になっていました。まあ、おそらくはリュウゼツランだのトックリランだのに近いのだろうとは感じていました。そこで、論文を調べてみたところ幾つか出てきたのですか、割と新しい論文がありましたので本日はそれをご紹介したいと思います。なぜ、新しい方が良いかというと、過去の知見を踏まえて試験されているということ以外にも理由があります。遺伝子を解析する分子生物学は新しい科学ですから、近年急激に進歩しています。90年代後半や2000年代前半くらいの論文は、精度が悪く信頼性が高くありません。というわけで、Ran Meng, Li-Ying Luo, Ji-Yuan Zhang, Dai-Gui Zhang, Ze-Long Nie & Ying Mengの2021年の論文、『The Deep Evolutionary Relationships of the Morphologically Heterogeneous Nolinoideae (Asparagaceae) Revealed by Transcriptome Data』をご紹介します。名前を見るに中国の研究者でしょうか? もしそうならば、今まで読んだ多肉植物の論文の中では、はじめてですね。なんだかんだで、多肉植物の論文は多肉植物先進国のヨーロッパとアメリカ、多肉植物の原産国であるメキシコや南アフリカあたりがほとんどのような気がします。

さて、現在の分類体系でキジカクシ科Asparagaceaeスズラン亜科Nolinoideaeに所属する植物は、形態学的に非常に不均一なグループで、かつては様々な科に分けられていました。あまりにも異なる見た目と、遺伝子解析の難しさから中々正しく理解されてきませんでした。この論文では調べた種類は少ないものの、逆に2126個もの遺伝子を調べることにより精度と解像度を上げることに成功しています。
このスズラン亜科の分類はかなり複雑な経緯をたどってきたようです。スズラン亜科は以前はRuscaceae sensu lato(広義)またはConvallariaceae sensu lato(広義)として知られていました。スズラン亜科は伝統的にEriospermaceae、Polygonateae、Ophiopogoneae、Convallarieae、Ruscaceae sensu stricto(狭義)、Dracaenaceae及びNolinaceaeとして知られる7つの異種系統で構成される複雑なグループでした。遺伝子解析の結果を以外に示します。

スズラン亜科の分子系統

                                    ┏Polygonatum
                                ┏┫      sibiricum
                                ┃┗Polygonatum
                            ┏┫       cyrtonema
                            ┃┗━Polygonatum
                        ┏┫        zanlanscianense
                        ┃┗━━Disporopsis
                    ┏┫               aspera
                    ┃┗━━━Maianthemum
                ┏┫                 japonicum
                ┃┃┏━━━Aspidistra
                ┃┗┫              fenghuangensis
                ┃    ┗━━━Tupistra chinensis
            ┏┫
            ┃┃┏━━━━Theropogon
            ┃┗┫                     pallidus
            ┃    ┗━━━Liriope platyphylla
        ┏┫
        ┃┃┏━━━Beaucarnea recurvata
        ┃┗┫
        ┃    ┗━━Dasylirion longissimum
    ┏┫
    ┃┗━━━━━━━Ruscus aculeatus
┏┫
┃┃┏━━━━━━Dracaena angustifolia
┃┗┫
┫    ┗━━━━━━━Sansevieria trifasciata

┗━Eriospermum lancifolium

遺伝子解析の結果から、6グループに分けられました。Eriospermumは比較のための外群です。
①Polygonateae
Polygonatum、Disporopsis、Mainthemumは近縁なグループです。Polygonatumとはいわゆるアマドコロ属で、ナルコユリが有名です。Mainthemumはマイヅルソウ属です。
Polygonataeは単系統でよくまとまった分類群ですが、Mainthemumはやや距離があるようです。

②Convallarieae
AspidistraとTupistraは姉妹群です。Aspidistraとはハラン属のことです。代表的なのはConvallaria、つまりはスズラン属です。
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ドイツスズラン Convallaria majalis var. majalis

③Theropogon + Liriope
次にTheropogonとLiriopeは姉妹群です。Theropogonは東アジアに分布するスズラン様の草本です。Liriopeはいわゆるヤブラン属です。
Ophiopogoneae(ジャノヒゲ類)はConvallarieaeに含まれていましたが、実際の系統関係は不明でした。この論文ではTheropogonとLiriopeがOphiopogoneaeを代表しています。そして、遺伝子解析の結果では、OphiopogoneaeはPolygonateae + Convallarieaeに近縁であることが示されました。
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ヤブラン Liriope muscari

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ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus

④nolinoides
BeaucarneaとDasylirionは姉妹群です。Beaucarneaはトックリラン属のことです。
nolinoidesは伝統的にはユリ科でしたが、その後ドラセナ科やトックリラン科とされました。Nolina、Dracaena、Yuccaは繊維状の葉と木質化する幹からリュウゼツラン科Agavaceaeとする考え方もあります。その花や果実や種子の特徴からは、Convallarieaeと近縁とされていました。しかし、遺伝子解析の計算方法の違いにより、Convallarieae-Dracaenaceae-Ruscaceae、あるいはAspidistreae-Convallarieaeに近縁とする2つの結果が得られています。この論文では、nolinoidesはruscoidsやdracaenoidsのような木質化するグループより、草本のConvallarieaeに近縁としています。
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トックリラン Beaucarnea recurvata

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ダシリリオン

⑤ruscoids
Ruscusとはナギイカダ属のことです。
ruscoidsは伝統的にキジカクシ科と近縁と考えられてきましたが、遺伝子解析ではConvallarieaeと近縁でした。

⑥dracaenoids
DracaneaとSansevieriaは姉妹群です。実はSansevieriaはDracaenaに含まれるとする考え方が主流のようで、Sansevieria属は学術的には存在しません。どうも、2017~2018年頃に変更されたみたいです。論文が見つかれば記事にしたいですね。
dracaenoidsはユリ科、リュウゼツラン科、ドラセナ科、ナギイカダ科、スズラン科などに含まれたこともあり、系統関係はあやふやでした。しかし、特徴からはnolinoidesと近縁である可能性がありましたが、実際にはruscoidsと近縁でした。
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ボウチトセラン Dracaena angolensis
                         (=Sansevieria cylindrica)


この論文の主眼は遺伝子解析の精度を高めることです。というのも、通常は2つの遺伝子を解析して系統関係を類推することが多いのですが、どうもスズラン亜科の過去の研究ではあまり高い精度を達成できていないみたいです。一応関係性は示されますが、精度が低いと信頼性も低いということになります。ですから、この論文では信頼性を高めることに成功したということです。しかし、dracaenoids、ruscoids、nolinoidesという木質化する各グループが、近縁であっても一つのグループにまとまっていないことがわかりました。さらなる詳細な研究が待たれます。

以上が論文の簡単な要約です。
この論文によりわかったこと、分類体系の確実性を増したことは確かでしょう。しかし、それは欠けたピースを少し埋めただけとも言えます。むしろこれからです。将来的な研究結果を楽しみにしています。


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