去年は幾つかの多肉植物の即売会で、パキポディウムの小苗を何種類か購入したりしました。元より全種類集めるつもりはありませんでしたから、現在は手持ちにない種類を見かけてもスルーし、手持ち株の育成に重点をおいています。さて、そんなパキポディウムですが、過去には遺伝子解析による最新の論文を記事にしたことがあります。
そんな中、白い花を咲かせるパキポディウムに対する論文を見つけました。Jonas Lüthyの2008年の論文、『Notes on Madagascar's white-flowering, non-arborescent pachypodium and description of a new subspecies』です。現在のパキポディウムの分類は著者のLüthyの基準を採用していますから、Lüthyの論文は思いの外、重要です。では、早速内容に入りましょう。
花の色はパキポディウムの分類の歴史において重要な役割を果たしてきました。基本的に樹木性パキポディウムは白い花、非樹木性パキポディウムは黄色い花、さらには赤い花のP. baroniiとP. windsoriiがあります。花の色の違いにより、フランスの植物学者であるPichonはパキポディウムを3亜属に分けました。樹木性で白い花のChionopodium亜属(chion=雪)、低木状で黄色い花のChrysopodium亜属(chrysos=金)、赤い花のPorphyropodium亜属(porphyreos=紫)です。この分類は白い花を咲かせる非樹木性パキポディウムが発見される1980年代まで疑問視されませんでした。

エブルネウム P. eburneum
Boiteauは白い花を咲かせるP. rorulatumらしきパキポディウムをManandora河とMania河の合流地点近くの岩だらけの頂上で観察し、1949年以前に報告しました。しかし、Pichonは自身の分類の例外となるはじめてのケースであることを認識しましたが、それ以上の注意は払われませんでした。このBoiteauの観察は後のP. eburneumの最初の報告だったようです。実際にP. eburneumが新種として記載されたのは1997年のことでした。ただし、1980年代後半にはすでに園芸市場では取引されており、P. rorulatum albiflorumという俗称で呼ばれていました。1992年から始まった自生地の探索は幾度かの失敗の後、1996年にスイスのWalter ösliとRalph HoffmannによりIbity山で発見されました。この発見が、新種の正式な記載に繋がるきっかけでした。
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Pachypodium eburneum

イノピナツム P. inopinatum
1980年代後半に白い花を持つ低木状のパキポディウムが園芸市場に登場しました。RauhによりP. rorulatumの白花個体とされました。1993年にP. eburneumの話でも登場したWalker ösliとRalph HoffmannはVohombohitra山脈のManakana近くで自生地を発見しました。1996年にP. inopinatumとして正式に記載され、P. rorulatumとの比較がなされました。著者はP. densiflorumとの関係があると考えているようです。

新種のパキポディウム?
Ibity山でP. eburneumが発見された後、プラントハンターは別の地域の個体群を報告し、ösliはIbity山の西にあるAndrembesoa渓谷で地元の写真家が撮影した開花写真を所有しています。2004年には花の直径が7cmにもなるややトゲの強いパキポディウムが、P. cf eburneumとして流通しました。CastillonはIbity山の南の地域の自生地を報告しており、1998年にはP. eburneumがP. densiflorumやP. brevicauleと一緒に生えているところを観察しました。新たな自生地はこれからも見つかる可能性があります。

レウコキサンツム
P. brevicaule subsp. leucoxanthum ssp. nov.

2004年頃、園芸市場に新たな白い花のパキポディウムが出現しました。Andrembesoa周辺からの採取を示唆していますが、自生地はまだわかっておりません。このパキポディウムは"P. brevicaule white flower"と呼ばれていますが、花は白色から淡い黄色まで幅があります。最近の研究では種子がP. brevicauleとは異なることが明らかとされています。P. brevicauleは非常に均一であることが知られており、亜種として区別するための新しい名前が必要です。著者はP. brevicaule subsp. leucoxanthumと命名しました。これは、「白い、淡い」を表す'leucos'と「黄色」を表す'xanthos'からなります。
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Pachypodium brevicaule subsp. leucoxanthum

以上が論文の簡単な要約となります。
しかし、近年の論文では遺伝子解析の結果から、P. densiflorumは産地により遺伝子に違いがあることがわかりました。おそらく本来のP.densiflorumはP. brevicauleと近縁です。P. eburneumはややはっきりしませんが、系統的にはP. densiflorumやP. brevicauleと近縁でしょう。また、P. horombenseと分布が近いP. densiflorumは、おそらくP. densiflorumではなくP. horombenseに含まれるのでしょう。さらに、3つ目のグループはP. densiflorumとP. inopinatumとP. brevicaule subsp. leucoxanthumからなります。驚くべきことに、P. brevicaule subsp. leucoxanthumはP. brevicaule subsp. brevicauleとは近縁ではありません。しかし、これらの成果は現在の学術的な分類としては正式に採用されていません。更なる詳細な解析を必要としているのかも知れませんが、いずれパキポディウム属全体の全面的な改訂は避けられないように思われます。

ちなみに、著者がこの論文で提案したPachypodium brevicaule subsp. leucoxanthumは現在認められています。論文にあるssp.nov.とは単に新亜種という意味です。著者は種子がP. brevicauleとは異なると述べていますが、将来的には別種になるかも知れません。
また、巨大な花を咲かせるパキポディウムについてですが、Pachypodium enigmaticumのことでしょうか? 論文では簡単にしか触れられていませんから、断言できませんが…


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