南アフリカは多肉植物の宝庫で、その多様はアフリカでも他の追随を許しません。ユーフォルビアやアロエと言えば南アフリカかマダガスカルですし、ガステリアやハウォルアと言えば断然南アフリカでしょう。そんな多肉植物の楽園である南アフリカですが、大型の樹木のようなユーフォルビアがあちらこちらに生えています。そんな樹木状ユーフォルビアについて書かれた記事を見つけました。

本日ご紹介するのは、Sean Gildenhuysの2006年の記事、『The three most abundant tree Euphorbia species of Transvaal (South Africa)』です。
表題にあるTransvaalとは南アフリカの北部4州であるLimpopo州、Mpumalanga州、Gauteng州、North-West州にあたる地域をかつてはそう呼んでいました。このTransvaal原産のユーフォルビアは割と希少なものが多く、Euphorbia barnardii、Euphorbia clivicola、Euphorbia knoblii、Euphorbia waterbergensis、Euphorbia zoutpansbergensisは分布域が狭く個体数も少ないことが知られています。しかし、記事では分布が広く個体数が非常に多い3種類のユーフォルビアが取り上げられています。その3種類とは、Euphorbia cooperi var. cooperi、Euphorbia ingens、Euphorbia tirucalliで、どこにでも生えるためこの3種類で構成された地域もあります。この3種類は樹木状で大型となります。


Euphorbia cooperi var. cooperi
日本では瑠璃塔の名前で知られているユーフォルビアです。
学名はE. cooperiを英国に紹介した植物収集家・栽培家のThomas Cooperに対する献名です。1900年にThomas Cooperの義理の息子であるN.E.Brownは、王立植物園で栽培されている双子葉植物リストに適切な説明もなくE. cooperiを命名しました。1907年にA.Bergerは多肉ユーフォルビアのハンドブックを出版し、E. cooperiについて適切な説明を付加しました。そのため、現在の学名はE. cooperi N.E.Br. ex A. Bergerとなっています。N.E.Brownが最初に命名したものの、命名規約の要件を満たしていないため、要件を満たしたA.Bergerの名前も入っているわけです。しかし、残念ながらA.BergerのハンドブックのE. cooperiのイラストは間違っていてE. ingensが書かれています。また、Thomas Cooper自体がE. ingensとE. cooperiを混同していたようです。

さて、E. cooperi var. cooperiは約10mほどの高さになります。根元から分岐せずに、枝は上部に固まってつきます。枝は分節構造が積み重なるため、クビレが生じます。
E. cooperi var. cooperiは南アフリカに広く分布し、KwaZulu-Natal、スワジランド、North-West州、Mpumalanga、Limpopo州からモザンビーク、ジンバブエ、ボツワナまで見られます。Limpopo州のPenge地区に固有のE. grandialataと混同される可能性がありますが、E. grandialataの方がトゲが長く、E. cooperiとは異なり花序に柄があります。
E. cooperi var. cooperiの乳液は非常に毒性が高く、皮膚に触れるだけで激しい痛みを引き起こし、水ぶくれや失明の可能性すらあります。E. cooperiの原産地では、E. cooperiの乳液を加熱して「鳥もち」を作り水辺の枝に塗って鳥を捕まえます。また、漁にも使われるそうです。

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瑠璃塔 Euphorbia cooperi

Euphorbia ingens
日本では沖天閣の名前で知られているユーフォルビアです。
E. cooperi var. cooperiと時折見られるのが、Euphorbia ingensです。種小名は「巨大な」という意味で、枝が頑丈で重いことを差します。E. ingensは1831年にJ.F.Dregeにより発見され、1843年にE.Mayerにより記載されました。
E. ingensは高さ10mになり多くの枝を持つ樹木状ユーフォルビアです。E. ingensはKwaZulu-Natal、スワジランド、Mpumalanga、Gauteng、North-West州、Limpopo州、モザンビーク、ジンバブエに自生します。南アフリカにはE. ingensの近縁種はいませんが、より北部ではE. candelabrum、E. kamerunicaなどの近縁種が数種類あります。E. ingensは非常に広範囲に分布するため変動に幅があり、変種あるいは新種が分離される可能性もあります。
Transvaalのユーフォルビアの中でもE. ingensの乳液は非常に毒性が高く、皮膚への刺激性が高く火傷を引き起こします。目に入ると失明の危険性があります。ただし、地元の人は下剤(※)として利用していると言います。また、乳液は潰瘍や癌に効果があるとされているそうです。

E. ingensは材木としても利用されます。E. ingensは生長が早く干魃に強く、Limpopo州ではよく使われます。また、E. ingensは非常に頑丈な生垣として植栽されます。

※記事には詳しく書いてありませんが、おそらくは駆虫薬でしょう。砂糖を入れると書いてありましたが、おそらくかなり希釈するはずです。

Euphorbia tirucalli
日本ではミルクブッシュや緑サンゴなどの名前で知られているユーフォルビアです。
E. tirucalliは樹木状ユーフォルビアの中でも最も有名で、おそらく最も普及しています。E. tirucalliは世界中で帰化しており、その起源は定かではありません。南アフリカでは、東ケープ州からMpumalanga、North-West州、Limpopo州に分布します。E. tirucalliはトゲのない円筒形の枝が分岐する独特のフォルムの植物で、近縁種の多くはマダガスカル原産です。

E. tirucalliは1753年にCarl von Linneにより命名されましたが、タイプはインドで栽培されていた個体から作成されました。このインドのE. tirucalliはモザンビークに立ち寄った初期のポルトガル人によりもたらされた可能性があります。ただ、それ以前にすでに導入済みだったのかもしれません。種小名はインドの住民の呼び方から来ています。
E. tirucalliは低木状から高さ10mに達することもあります。E. tirucalliの乳液はやはり危険ですが、アフリカやインドでは生垣にされてきました。虫の駆除や矢毒、E. tirucalliの乳液を米と煮て鳥もちを作ります。また、乳液は不妊症やインポテンツに効果があるとされ飲まれることがありますが、これは流石に危険性が高く致命的となりかねないようです。さらに、多くの病気(淋病、梅毒など)や癌、イボなどの治療に役立つとされています。
E. tirucalliの乳液の抽出物は石油の代替品として研究され肯定的な結果が得られているそうです。また、乳液をゴムの代用品として使用されましたが低品質です。
E. tirucalliは様々な美しい園芸品種が作られており、挿し木で簡単に増やせることもあり南アフリカでは造園用として盛んに利用されています。


以上が簡単な要約となります。
しかし、毒性の高いユーフォルビアの乳液を薬としようというだけでとんでもないなあと思ってしまいます。しかし、現代の薬自体が毒から作られてきたという事実があります。毒というのは人体に強く作用していることから、作用が分かれば用法容量次第で薬となるのです。E. tirucalliは世界中に生えているせいか、乳液の中の有効成分を解析した沢山の論文が出ています。しかし、逆を言えばユーフォルビアは化学成分の論文ばかりで、植物自体についての論文が少ないのは残念です。知りたいことは山程あるわけですが…



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