Dioonは中米からメキシコまでに分布する大型のソテツです。その涼しげで優美な葉から、日本でもDioon eduleなどはまれに栽培されることがあります。私も世界最大のソテツと言われるDioon spinulosumの苗を育てています。このDioon spinulosumについては、発見されたばかりで情報が少なかったため研究者が現地を訪れて調査したという記事を書きました。なんと1909年の論文でした。
Dioon spinulosum
ソテツ自体は古代から存在する起源の古い植物です。ソテツの分類について記事にしましたが、Dioonは微妙な立ち位置にいるようです。
さて、ソテツについては何度か記事に書いてきましたが、Dioonの分類についての論文を見つけました。しかも、ただの分類ではなく、その進化と地理的な分布について考察する壮大な内容の論文です。Brian L. Dorsey, Timothy J. Gregory, Chodon Sass & Chelsea D. Spechtの2018年の論文、『Pleistocene diversification in an ancient lineage : a role for glacial cycles in the evolutionary history of Dioon Lindl.(Zamiaceae)』です。
Dioonの遺伝子を解析することにより、4つのグループにわけられることがわかりました。ソテツは古い時代から存在するにも関わらず、このグループは割と新しい時代に急速に進化したことが推測されます。
Dioonの分子系統
Dioonはメキシコの太平洋側に広く分布するWestern Clade、メキシコ南部のくびれ部分の太平洋側に固まって分布するSouthern Clade、メキシコのメキシコ湾沿いに分布するEdule Clade、Edule Cladeより南のメキシコ湾南部に分布するSpinulosum Cladeにわけられます。
下のDioonの分子系統を見ると、種分化の方向はSpinulosum Clade→Edule Clade→Southern Clade→Western Cladeとなっています。つまり、もともとメキシコ南部が起源で、北上しメキシコ湾沿いだけではなくて、やがて太平洋側にも分布が拡がったように見えます。
Dioonの分子系統
┏Westrn Clade
┏┫
┃┗Southern Clade
┏┫
┃┗━Edule Clade
┫
┗━━Spinulosum Clade
Western Clade
┏D. sonorense1
┏━━━┫
┃ ┗D. sonorense2
┃
┫ ┏━━━D. tomasellii1
┃┏━━┫
┃┃ ┗D. tomasellii2
┗┫
┃ ┏━D. stevensonii1
┗━┫
┗━━D. stevensonii2
Southern Clade
┏━━D. planifolium1
┃
┏━┫ ┏D. caputoi1
┃ ┗━┫
┃ ┗D. caputoi2
┃
┃ ┏━D. holmgrenii1
┃ ┃
┃┏┫ ┏D. holmgrenii2
┃┃┗━┫
┃┃ ┗━━D. holmgrenii3
┃┃
┃┃┏━━━D. merolae1
┃┃┃
┣┫┃┏━━━D. merolae2
┃┃┃┃
┃┃┃┃ ┏━D. merolae3
┃┃┣┫┏━┫
┫┃┃┃┃ ┗━D. merolae4
┃┗┫┗┫
┃ ┃ ┃┏D. merolae5
┃ ┃ ┗┫
┃ ┃ ┗━D. merolae6
┃ ┃
┃ ┗━━━━D. planifolium2
┃
┃ ┏━━D. purpusii1
┃ ┏┫
┃ ┃┗━━━━D. argenteum
┃┏┫
┃┃┗━D. purpusii2
┗┫
┃ ┏━━━━D. califanoi1
┃┏━┫
┗┫ ┗━D. califanoi2
┃
┗━━━━D. purpusii3
Edule Clade
┏━━━D. edule1
┃
┃┏━━━━━D. angustifolium1
┫┃
┃┃┏━━━━━━D. angustifolium2
┗┫┃
┃┃┏━━━━D. edule2
┗┫┃
┃┃ ┏━━━D. edule3
┗┫┏┫
┃┃┗━━━D. edule4
┃┃
┗┫ ┏━D. edule5
┃ ┏┫
┃ ┃┗━━━━D. edule6
┗━┫
┃┏━━D. edule7
┗┫
┗D. edule8
Spinulosum Clade
┏D. rzedowskii1
┏━━┫
┃ ┗D. rzedowskii2
┏━━┫
┃ ┃ ┏━D. spinulosum1
┃ ┗━┫
┫ ┗━━D. spinulosum2
┃
┃ ┏━━D. mejiae1
┗━━━┫
┗━D. mejiae2
更新世の進化
遺伝子解析は遺伝子の変化の速度を計算することにより、どのくらい前に種同士が分かれたのかを推測することも出来ます。その推測によると、中新世後期にSpinulosum Cladeと他3Cladeが分かれ、更新世に各Cladeは急激に種類が増えたことが示唆されています。これは、一体どういうことなのでしょう?
更新世は新生代第四紀の約258万年前から約1万年前までの時代です。更新世は氷期と氷期の間の暖かい間氷期を15回繰り返しました。どうやら、この氷期の繰り返しがDioonの急激な進化に関係があるようです。
気温の急激な上昇は植物層の標高を上げます。分かりにくいので、日本の植物で例えましょう。例えば、氷期で寒かった時期に、本州に寒帯~亜寒帯の植物が分布を拡大しました。しかし、やがて温暖な間氷期が訪れると、寒帯~亜寒帯の植物は育つことが出来なくなり、山を登りはじめます。山は標高が高くなるほど気温が低下しますから、適した低い気温の標高に分布するようになります。これらの植物を私達は高山植物と呼んでいるのです。この時、高山植物はもはや平地では育ちませんから、違う山同士の植物で交配出来なくなります。つまり、それぞれの山で孤立し交わらないため、山ごとに異なる進化をして別種になっていくのです。
どうやらDioonも同じで、氷期と間氷期の繰り返しにより、標高が上がると孤立し、標高が下がると分布を拡げるということが、急速な種類の増加に繋がっていると考えられるのです。Dioonは高山植物ではありませんが、育つのに適した気温があります。暖かくなりすぎれば、最適な気温帯を求めて山を登りはじめるのです。
ソテツは生きた化石と呼ばれますが、Dioonに関しては非常に新しい種類ばかりであることがわかりました。更新世は258万年前からですから、あるいはすごい昔のような気もしてしまいますが、数億年前に誕生したソテツからみたら最近の話です。まあ、人類誕生が600~700万年前と考えられていますから、人類よりもDioonの方が新顔です。もちろん、Dioonの祖先の誕生はさらに古い時代ですけど、生きた化石の急激な進化は意外性があります。ただの遺伝子解析による種類の遠近だけではなく、進化の理由まで考察する大変面白い論考でした。こういう良い論文があると紹介しがいがありますね。
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Dioon spinulosum
ソテツ自体は古代から存在する起源の古い植物です。ソテツの分類について記事にしましたが、Dioonは微妙な立ち位置にいるようです。
さて、ソテツについては何度か記事に書いてきましたが、Dioonの分類についての論文を見つけました。しかも、ただの分類ではなく、その進化と地理的な分布について考察する壮大な内容の論文です。Brian L. Dorsey, Timothy J. Gregory, Chodon Sass & Chelsea D. Spechtの2018年の論文、『Pleistocene diversification in an ancient lineage : a role for glacial cycles in the evolutionary history of Dioon Lindl.(Zamiaceae)』です。
Dioonの遺伝子を解析することにより、4つのグループにわけられることがわかりました。ソテツは古い時代から存在するにも関わらず、このグループは割と新しい時代に急速に進化したことが推測されます。
Dioonの分子系統
Dioonはメキシコの太平洋側に広く分布するWestern Clade、メキシコ南部のくびれ部分の太平洋側に固まって分布するSouthern Clade、メキシコのメキシコ湾沿いに分布するEdule Clade、Edule Cladeより南のメキシコ湾南部に分布するSpinulosum Cladeにわけられます。
下のDioonの分子系統を見ると、種分化の方向はSpinulosum Clade→Edule Clade→Southern Clade→Western Cladeとなっています。つまり、もともとメキシコ南部が起源で、北上しメキシコ湾沿いだけではなくて、やがて太平洋側にも分布が拡がったように見えます。
Dioonの分子系統
┏Westrn Clade
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┃┗Southern Clade
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┃┗━Edule Clade
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┗━━Spinulosum Clade
Western Clade
┏D. sonorense1
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┃ ┗D. sonorense2
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┃ ┏━D. stevensonii1
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Southern Clade
┏━━D. planifolium1
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┃ ┏━D. holmgrenii1
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┃┏┫ ┏D. holmgrenii2
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┃┃ ┗━━D. holmgrenii3
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┃┃┏━━━D. merolae1
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┃┃┃┃ ┏━D. merolae3
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┃ ┃ ┃┏D. merolae5
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┃ ┃ ┗━D. merolae6
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┃ ┗━━━━D. planifolium2
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┃ ┏━━D. purpusii1
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┃┃┗━D. purpusii2
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┃ ┏━━━━D. califanoi1
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┗┫ ┗━D. califanoi2
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┗━━━━D. purpusii3
Edule Clade
┏━━━D. edule1
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┗D. edule8
Spinulosum Clade
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┗━D. mejiae2
更新世の進化
遺伝子解析は遺伝子の変化の速度を計算することにより、どのくらい前に種同士が分かれたのかを推測することも出来ます。その推測によると、中新世後期にSpinulosum Cladeと他3Cladeが分かれ、更新世に各Cladeは急激に種類が増えたことが示唆されています。これは、一体どういうことなのでしょう?
更新世は新生代第四紀の約258万年前から約1万年前までの時代です。更新世は氷期と氷期の間の暖かい間氷期を15回繰り返しました。どうやら、この氷期の繰り返しがDioonの急激な進化に関係があるようです。
気温の急激な上昇は植物層の標高を上げます。分かりにくいので、日本の植物で例えましょう。例えば、氷期で寒かった時期に、本州に寒帯~亜寒帯の植物が分布を拡大しました。しかし、やがて温暖な間氷期が訪れると、寒帯~亜寒帯の植物は育つことが出来なくなり、山を登りはじめます。山は標高が高くなるほど気温が低下しますから、適した低い気温の標高に分布するようになります。これらの植物を私達は高山植物と呼んでいるのです。この時、高山植物はもはや平地では育ちませんから、違う山同士の植物で交配出来なくなります。つまり、それぞれの山で孤立し交わらないため、山ごとに異なる進化をして別種になっていくのです。
どうやらDioonも同じで、氷期と間氷期の繰り返しにより、標高が上がると孤立し、標高が下がると分布を拡げるということが、急速な種類の増加に繋がっていると考えられるのです。Dioonは高山植物ではありませんが、育つのに適した気温があります。暖かくなりすぎれば、最適な気温帯を求めて山を登りはじめるのです。
ソテツは生きた化石と呼ばれますが、Dioonに関しては非常に新しい種類ばかりであることがわかりました。更新世は258万年前からですから、あるいはすごい昔のような気もしてしまいますが、数億年前に誕生したソテツからみたら最近の話です。まあ、人類誕生が600~700万年前と考えられていますから、人類よりもDioonの方が新顔です。もちろん、Dioonの祖先の誕生はさらに古い時代ですけど、生きた化石の急激な進化は意外性があります。ただの遺伝子解析による種類の遠近だけではなく、進化の理由まで考察する大変面白い論考でした。こういう良い論文があると紹介しがいがありますね。
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