実はというほどのことではありませんが、植物に関する本をポツポツと読んだりしています。まあ、植物に関係ない本の方が多いのですけどね。しかし、読書感想文は苦手ですから、あまりブックレビューは書きません。しかし、年末だけはこの1年を振り返るために、今年のベスト10をご紹介します。
今年は131冊の本を読みました。今年は何かと忙しくこれでも例年より少ない方です。読んだのはほんどが新書です。読む分野は、生物学、社会学、西洋哲学、歴史学、考古学、文化人類学、宗教学、民俗学といったあたりが中心です。とは言うものの、新刊が良く出るのはやはり歴史でしょう。新書では日本史がやはり多く、中国史や西洋史も割とあります。哲学はあまり出ませんが、講談社現代新書が『今を生きる思想』というシリーズを出し始めたことは嬉しく思います。
さて、今年一番面白かった本は以下の通りでした。

①『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』, 秦正樹/著, 中公新書 
新型コロナウイルスの流行以来、関係する様々な陰謀論がネット空間やSNSを騒がせました。SARS-CoV-2の出自をめぐる陰謀論や、ワクチンに関する一連の陰謀論もありました。一応断っておきますが、この本は別に新型コロナ関連の陰謀論を中心に扱っているわけではありません。しかし、陰謀論そのもののメカニズムと危険性がよくわかります。時節をとらえた時事ネタではありますが、ある種の普遍性を持つ内容ですから新型コロナ以外の話題でもなお有効です。

②『「笛吹き男」の正体 東方植民のデモーニッシュな系譜』, 浜本隆志/著, 筑摩選書
いわゆる「ハーメルンの笛吹き男」に関する論考です。単なるおとぎ話の類いかと思いきや、実は実際におきていた事件であるというのです。事件そのものはオカルト的なものではなく、ドイツ騎士団の活躍により獲得した土地に、人口増によりあぶれた農民を集めて送り込むという当時のシステムが関係しているというのです。話が謎解きのように進行するので、大変楽しい時間を過ごせました。

③『曾国潘 「英雄」と中国史』, 岡本隆司/著, 岩波新書
中国史は好きですが、最後はすべてを灰塵に帰して終わりますから、何とも言えない諸行無常を感じます。本作は主に太平天国に対峙する曾国潘が話の中心です。2020年に出版された同じ岩波新書の『太平天国』も読みましたが、合わせて読むとより無情感を感じることが出来ます。中国史はエピソードがいちいち物語として優秀で、劇を見ているような気持ちになります。

④『謎の海洋王国ディルムン メソポタミア文明を支えた交易国家の勃興と崩壊』, 安倍雅史/著, 中公叢書
本を読んでいると、いやはや知らないことは幾らでもある、というより知らないことの方が多いという事実に打ちのめさせられます。己がいかに無知かを知ることは謙虚を知る契機でしょう。本作は正にそれで、メソポタミア文明を知ってはいても、ペルシャ湾の小島に数えきれないくらいのメソポタミア時代の遺跡があるという事実に驚かされます。基本的に知らないことばかり書いてあり、本にかぶり付きで読みました。

⑤『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』, 堀部貴紀/著, ベレ出版
この本はすでに新刊が出た時に記事にしていますから、詳しくは書きませんが一つだけ。最近では学者の書くサボテンや多肉植物の本がありませんでしたから、日本にサボテン学者が生まれたこと自体、祝福すべきことですよね。
以前のブックレビューした記事はこちら。


⑥『スピノザ -読む人の肖像』, 國分功一郎/著, 岩波新書
スピノザに関しては過去に何冊か解説書を読んでいますが、まあそれほど本は出ていません。だから、今年は『スピノザ 人間の自由の哲学』(講談社現代新書)も出版されれたこともあり、スピノザを学ぶ良い機会となっています。特に本書は内容の濃い労作ですから、流し読むようなことはせずに、じっくり時間をかけて読みたい本です。年末年始に哲学はいかがでしょうか?

⑦『ショーペンハウアー 欲望にまみれた世界を生き抜く』, 梅田孝太/著, 講談社現代新書
講談社現代新書の新しいシリーズ「今を生きる思想」の一冊。このシリーズは全体の紹介ではなく、ある一点に重点を置くような解説が特徴です。シリーズはどれも面白かったのですが、個人的にショーペンハウアーを贔屓にしているので、選ばせていただきました。まあ、ショーペンハウアー自体、解説本が出ませんから、入門書と言えど貴重ではあります。私はかつて読んだ「生の嘆き ショーペンハウアー倫理学入門」(法政大学)に非常に衝撃を受けた口なので、ショーペンハウアーというだけでやや前のめりになってしまいます。

⑧『日本の高山植物 どうやって生きているの?』, 工藤岳/著, 光文社新書
高山植物には縁がありませんが、その生態には興味があります。本州の高山植物は氷河期に分布を拡大した北方系の植物の生き残りです。受粉と受粉媒介者との関係もそうですが、植物学の知識を色々学ぶことが出来ました。実際のところ、私が学術論文を読む際の最大のネックは専門知識の欠如でした。というのも、論文は基礎知識を知っている前提で書かれがちです。正直、わからないことだらけです。私も少しずつですが、このような良書を参考に勉強しながら記事を書いていきたいものです。

⑨『ソ連核開発前史』, 市川浩/著, ちくま新書
ロシアによるウクライナ侵攻は世界に衝撃を与えました。戦争が長引くにつれロシアが核兵器を使用するのではないかという懸念もされるようになりました。このロシアの核技術はソ連時代から引き継いだものです。ソ連崩壊は世界情勢がガラリと変わる出来事で、1990年前後に大量の研究書やルポルタージュが世に出されました。私も世界史の転換点として学ぶ必要性を感じ、ここ10年くらい少しずつ本を集めています。しかし、核開発は機密中の機密ですから、核技術に重点を置いた本ははじめて読みました。独裁国は現実ではなく方針に沿った発言しか許されないため、安全性に対する懸念と権威的体制は相性が悪く非常に危険です。ソ連はロシアに生まれ変わりましたが、プーチンの事実上の独裁状態ですから、ソ連時代からの危うさまで引き継いでしまいました。

⑩『南洋の日本人町』, 太田尚樹/著, 平凡社新書
ヨーロッパが香辛料を求めて大航海時代が訪れました。しかし、実際にはヨーロッパは交易に関しては完全に後進国であり、中国から東南アジア、インド、ペルシャ、アフリカ東岸まで含む超巨大交易圏がすでに発展していました。この辺りの話には非常に興味があり、過去に出た本を含め割と読んでいるほうだと思います。しかし、交易圏の日本人の存在は他の著作でも記載はありましたが、話の中心にはならず詳しくはわかりませんでした。しかし、本書を読んでみて思いの外、巨大交易圏に日本人がいたことに驚きます。

若い頃はジャンルを選ばず主に小説を読んできましたが、ここ十年ちょいは小説はまったく読まなくなりました。今は代わりに新書を中心に読んでいます。しかし、2019年から始まったSARS-CoV-2の流行は私の読書生活にも打撃を与えました。だいたい一年に150冊以上読みますから、新刊だけだと興味のある分野のものはそんなに出版されませんから、どうしても足りなくなります。ですから、春と秋の神田神保町古本祭りで毎年古本を100冊以上購入していましたが、SARS-CoV-2により古本祭りは中止が続いていました。そのせいで、私の古本在庫はついにほとんどなくなってしまいました。今年の秋の古本祭りは開催されましたが、残念ながら予定が合わず行けませんでした。というわけ、今年の読書は新刊の比率が高くなっています。毎年、60~80冊の新刊を購入しますが、いずれにせよ来年は新刊だけでは足りないでしょうから、なんとかしなければ…


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