サボテンや多肉植物は乾燥に耐えるために、水分を蓄えるために厚みのある葉、太い根、太い幹など様々な適応が見られます。その中でも高度に多肉化したものとして、サボテン科が非常に有名です。そのため、サボテンは、特に大型の柱サボテンの幹の構造と光合成や貯水の関係性については研究が行われています。
しかし、その種類の多さや多様性ではサボテンと双璧をなすトウダイグサ(ユーフォルビア)科については、その手の研究は行われて来ませんでした。アフリカには沢山の種類の柱サボテン状の巨大なユーフォルビアが自生しますが、ユーフォルビアの幹の構造についての研究した論文を見つけました。それは、2018年のP. W. Rundel, K. J. Esler, T. W. Rundelによる『Canopy architecture and PAR absorption of Euphorbia cooperi in the Matobo Hills, Zimbabwe』という論文です。今回の論文で調査しているEuphorbia cooperiは、日本では「瑠璃塔」の名前で知られています。私も苗を入手して育てています。

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瑠璃塔 Euphorbia cooperi

大型の柱サボテンは、幹にひだ(稜)があります。一般的に水分を貯蔵するだけなら断面は円に近い方が有利でしょう。しかし、乾燥地に生えるサボテンが常に過不足なく水分を貯めているわけではありません。乾季が続けば水分が抜けていき縮み、雨が降ればパンパンに水分を吸収して膨れるわけです。この時に、水分の増減による収縮と膨張を稜が、アコーディオンのように柔軟に調整しているとされています。良く似た姿のユーフォルビアはどうでしょうか?

E. cooperiは10mに達する、沢山の枝が出る樹木状ユーフォルビアです。分布も広く、南アフリカのKwaZulu-Natal、スワジランド、North-West州、Mpumalanga、Limpopo州からモザンビーク、ジンバブエ、ボツワナ、ザンビア、タンザニアにまで及びます。
E. cooperiは幹の上部で沢山枝分かれします。著者が観察したE. cooperiは4稜でしたが、5稜の集団もありました。断面は四角形ではなく、稜の間が凹んだ形でした。E. cooperiは段を重ねるように育ち、円錐形を重ねたような珍しい形になります。
柱サボテン
と柱状ユーフォルビアの違いは、ユーフォルビアの強く木質化した幹と柔軟性のなさです。また、サボテンは稜が浅く断面は円に近くなりますが、ユーフォルビアは稜が深く3~6稜と多様性があります。また、調査したE. cooperiの枝の平均年齢は15歳で、大型の個体では28年ものの枝もありました。

調査はジンバブエ西部のMatobo丘陵の標高1199m地点で行われました。E. cooperiには変種がありますが、調査したのはE. cooperi var. cooperiです。現地はMatobos Batholithと呼ばれる隆起した地形で、ジンバブエと南アフリカの古代の花こう岩からなります。E. cooperiは他の樹木が生えない岩だらけの斜面を好みますが、開けた落葉樹林でも見かけます。E. cooperiは、E. confinalis、E. griseola、Combretum imberbe、Commiphora marlothii、Ficus thonningiなどと共に自生します。
Matobo丘陵は、夏に雨季があり冬は乾燥します。雨季は11月から翌5月まで続き、その間に年間降水量の87%の雨が降ります。雨季の平均最高気温は10月と11月に29~30℃、平均気温は14~15℃です。冬は日中の平均最高気温は21℃ですが、夜は4℃まで下がります。

E. cooperiの幹は木質化するため光合成出来ません。しかし、大型の個体は多くの枝があるために、光合成出来る表面積は非常に大きくなります。調査した133個体の中で最大のものは、合計120mの枝長と43.5m2の光合成面積がありました。E. cooperiはサイズが大きいほど表面積も大きく、表面積が大きい分だけ水分損失が大きくなります。しかし、サイズが大きいほど体積が増すことから貯水量が大きくなり、水分損失をカバーしていることが考えられます。
次に稜がある意味です。枝の周囲の長さと断面積の比率をモデル化して、計算上の水分損失と光合成面積を算出しました。もし稜がない場合、つまり枝の断面が四角形だと、生長により貯水量は増えますが光合成面積は増えませんでした。しかし、稜がある場合は生長により体積あたりの表面積が増加しました。
若いE. cooperiは干魃に敏感である可能性がありますが、生長に従い体積が増して蒸散による水分損失率が最小となり干魃に非常に強くなります。

以上が論文の簡単な要約となります。
理屈は少し分かりにくく、大変申し訳なく思います。これでもかなり要点だけの抽出で簡素化していますが、私の理解力と文章力の限界が原因です。
さて、E. cooperiは古い幹は木質化しますが、この木質化した幹は当然ながら光合成には寄与しません。しかも、大型になるにつれ木質化は進行します。一見して大型化は光合成の効率を下げますが、E. cooperiは沢山の枝を出すことにより光合成の効率を高めているのです。しかも、稜を持つことにより表面積を増加させて、さらに光合成の効率を上昇させています。
しかし、表面積の増加は蒸散による水分損失の増加を招きます。この場合、断面が円に近いほうが貯水量が増加し水分損失率は減少しますから、稜の溝が深いと水分損失率は上昇するでしょう。ただし、これは光合成効率と水分損失率のバランスの話であって、ゼロか百かというものではないでしょう。E. cooperiの場合は、生長につれ太くなる幹は木質化しますから光合成せず蒸散も起こらないでしょう。ですから、木質化した幹は水分の貯蔵という意味では優れています。

乾燥地に生える植物は環境に適応するために、様々な戦略を取っています。その中でも、乾燥への適応度が特に高いサボテンとユーフォルビアで、その大型化に伴い柱状の類似した形状と稜による光合成効率の上昇など、非常に似ていることは不思議です。サボテンはアメリカ大陸で多肉ユーフォルビアはアフリカ大陸と地理的にも離れており、分類も近縁ではありません。それでも、これだけの共通点があるのは、サボテンやユーフォルビアの選んだ道が乾燥に対する最適解であったということを示しているのかも知れません。


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