ベンケイソウ科の植物は手軽な多肉植物として、昔から栽培されてきました。ベンケイソウと言われてもぴんとこないかもしれませんが、ベンケイソウ科にはここ数年大人気のエケベリア属Echeveriaをはじめ、クラッスラ属Crassula、センペルビブム属Sempervivum、セダム属Sedum、カランコエ属Kalanchoe、エオニウム属Aeonium、オロスタキス属Orostachys、アドロミスクス属Adromischus、コチレドン属Cotyledonなどが含まれます。
この内、セダムはベンケイソウ科最大のグループで、約470種が知られています。セダムは日本ではマンネングサなどと呼ばれ昔から栽培されてきましたが、丈夫で耐寒性が高いので屋外で野生化しています。私の自宅にも得体の知れないセダムがいつの間にか生えてきました。本日はそんなセダムを含むベンケイソウ科植物の現在の分類に一石を投じる内容の論文をご紹介します。

論文の経緯として、以下に示す流れがあります。近年の遺伝子解析技術の進展により、多肉植物の分類にも遺伝子解析が応用されるようになりました。最近では多肉植物を遺伝子解析した沢山の論文が出されています。それはベンケイソウ科植物も同様で、沢山の種類があるセダムもデータが蓄積されてきました。

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庭に蔓延る謎のセダム

ご紹介するのは、Thibaud F. E. Messerschmid, Johannes T. Klein, Gudrun Kadereit & Joachim W. Kadereitの2020年の論文、『Linnaeus's folly -phylogeny, evolution and classification of Sedum (Crassulaceae) and Crassulaceae subfamily Sempervivoides』です。論文のタイトルは「リンネの愚かさ」というとんでもないものですが、当たり前ですが内容と関係があります。

論文の内容に入る前に一般的なベンケイソウ科の分類を示します。3つの亜科に分かれており、ほとんどはセンペルビブム亜科に含まれます。
①クラッスラ亜科
    Classula, Tillaea
②カランコエ亜科
    Adromischus, Cotyledon, Kalanchoe, Tylecodon
③センペルビブム亜科
    Aeonium, Sempervivum, Orostachys,
    Sedum, Dudleya, Echeveria, Graptopetalum
    など28属


ここからは論文の内容に移ります。まずは遺伝子解析の結果を示します。クラッスラ亜科とカランコエ亜科は系統の根本にあり、センペルビブム亜科とは分離できています。
センペルビブム亜科は、まずTelephium cladeがあり、Orostachys, Hylotelephium, Meterostachys, Sinocrassula, Kungia, Phedimus, Rhodiola, Umbilicusが含まれます。アジア原産のものが多いようです。ただし、OrostachysとHylotelephium、Meterostachysは明らかに同属です。将来的に統合される可能性が高いでしょう。
次にSempervivumとJovibarbaはひとつのグループをなします。主にヨーロッパ原産です。
Aeonium cladeとLeucosedum clade、Acre cladeについては主題に関わることなので、詳細を見ていきましょう。
ベンケイソウ科の分子系統
                ┏①Acre clade
            ┏┫
            ┃┗②Leucosedum clade
            ┃
            ┣━③Aeonium clade
        ┏┫
        ┃┗━Sempervivum/Jovibarba
    ┏┫
    ┃┗━━Telephium clade
┏┫
┃┗━━━Kalanchoe亜科

┗━━━━Crassula亜科

まずはAcre cladeから見てみましょう。
Acre cladeは世界中に分布します。原産地ごとにグループを作る傾向がありますが、アジア原産種でも2系統あったりします。基本的にAcre cladeはLeucosedumとともに、セダム属のグループです。

Acre cladeの分子系統
            ┏━━北米原産種
        ┏┫
        ┃┗━━Macaronesia原産種
    ┏┫
    ┃┃        ┏Sedum farinosum
    ┃┗━━┫    ※Macaronesia原産
┏┫            ┗Sedum anglicum
┃┃                    ※ヨーロッパ原産
┃┗━━━━ヨーロッパ原産種

┣━━━━━アジア原産種①

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━アフリカ原産種

┣━━━━━Sedum multiceps
┃                     ※北米原産
┣━━━━━アジア原産種②

┗━━━━━Sedum acre
     ※ヨーロッパ、アジア、北米原産


アメリカ原産種37種類、Macaronesia原産種2種を調べていますが、Macaronesiaとはヨーロッパや北アフリカに近い大西洋の島々のことです。Macaronesia原産種として、Sedum lancerottense, Sedum nudumが調べられています。
ここはSedumとVilladiaが入れ子状となっています。Sedum①にはSedum plicatum, Sedum reniforme, Sedum andinum, Sedum jurgensenii, Sedum goldmanii, Villadia albifloraが含まれ、Villadia①にはVilladia imbricata, Villadia recurva, Villadia nelsonii, Villadia minutifloraが含まれます。Sedum①とVilladia①は姉妹群で近縁です。しかし、V. albifloraは完全にSedum①に含まれてしまっています。
Villadia②はVilladia①と近縁ではありません。Villadia②はVilladia aristata, Villadia misera, Villadia pringleiが含まれます。つまり、Villadiaはまったくまとまりがない属ですから、おそらくはSedumに吸収されてなくなる可能性が高い属です。
Sedum②はSedum hemsleyanum, Sedum oxypetalum, Sedum guatemalense, Sedum greggiiが含まれます。
EcheveriaとGraptopetalumは近縁ですが、ともにSedumの中に埋め込まれてしまっています。LeucosedumやThompsonellaとともに、Sedumに吸収されてしまう可能性が大です。

Acre clade, 北米原産種の分子系統
                ┏━Sedum①
            ┏┫
            ┃┗━Villadia①
            ┃
            ┃┏━Sedum chloropetalum
            ┣┫
        ┏┫┗━Sedum quevae
        ┃┃
        ┃┣━━Sedum bourgaei
        ┃┃
        ┃┗━━Sedum retusum
    ┏┫
    ┃┣━━━Villadia②
    ┃┃
    ┃┃        ┏Sedum trichromum
    ┃┣━━┫
    ┃┃        ┗Sedum alamosanum
    ┃┃
┏┫┗━━━Sedum alexanderi
┃┃
┃┃            ┏Sedum compactum
┃┣━━━┫
┃┃            ┗Sedum obcordatum
┃┃
┃┗━━━━Sedum oxacanum

┣━━━━━Sedum②

┣━━━━━Sedum palmeri

┣━━━━━Lenophyllum acutifolium

┣━━━━━Sedum versadense

┃            ┏━Echeveria fulgens
┃        ┏┫
┃        ┃┗━Graptopetalum bellum
┃        ┃
┃        ┣━━Sedum clavatum
┃    ┏┫
┃    ┃┣━━Sedum commixtum
┃    ┃┃
┣━┫┗━━Thompsonella minutiflora
┃    ┃
┃    ┗━━━Sedum corynephyllum

┣━━━━━Sedum fuscum

┗━━━━━Macaronesia原産種

その他の地域で調べられた種は以下の通りです。
ヨーロッパ原産種は、Sedum sexangulare, Sedum alpestre, Sedum grisebachii var. horakiiが含まれます。
アジア原産種①は、Sedum erythrospermum, Sedum morrisonense, Sedum nokoense, Sedum formosanum, Sedum alfredii, Sedum emarginatum, Sedum polytrichoides, Sedum makinoi, Sedum baileyi, Sedum bulbiferum, Sedum sarmentosum, Sedum lineare, Sedum triactina, Sedum trullipetalum, Sedum obtrullatum, Sedum oreades, Sedum multicauleが含まれます。
アジア原産種②は、Sedum uniflorum subsp. oryzifolium, Sedum uniflorum subsp. Japonicum, Sedum zentaro-tashiroi, Sedum tosaense, Sedum mexicanum(アメリカにも分布)が含まれます。
アフリカ原産種は、Sedum ruwenzoriense, Sedum mdyeri-johannisが含まれます。
ユーラシア大陸原産種は、Sedum tuberiferum, Sedum borissovae, Sedum apoleiponはヨーロッパ原産、Sedum ursiはアジア原産、Sedum urvillei, Sedum annuum, Sedum laconicumはヨーロッパとアジア原産です。

取り敢えず、Acre cladeについては以上となります。しかし、驚くべきことに、エケベリアがセダムに吸収される可能性が指摘されています。この2020年の論文の意見が採用された場合、センペルビブム亜科は大幅な改変を受けることになるでしょう。おそらくは、Acre cladeはすべてセダム属とされてしまうのではないでしょうか。なぜなら、学名は先に命名された名前を優先とする「先取権の原理」があるからです。
1828年に命名されたEcheveria D.C.より、1753年に命名されたSedum L.が優先されます。将来的にエケベリアという名前は学術的に消滅し、園芸でしか用いられない俗名に零落してしまうのでしょうか?
記事が
長くなってしまいましたので、明日に続きます。


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