マカレンシス(Euphorbia makallensis)はエチオピア原産のユーフォルビアです。マカレンシスは安価なミニ多肉が園芸店に並ぶこともある普及種ですが、どういうわけがほとんど情報がありません。元より国内のサイトにはたいした情報はないのですが、割と海外のサイトでは詳しい情報が得られることが多いと感じています。しかし、マカレンシスはそれも見つけられませんでした。以前、情報がないということと、学名についてのみの薄い記事を書いたことがあります。
しかし、ネットの情報がダメなら論文を読めばいいのです。しかし、意外とユーフォルビアの論文ってないんです。いや、検索すると沢山出てくるのですが、多肉植物ではないユーフォルビアの論文がほとんどです。しかも、大抵はヨーロッパのユーフォルビアの化学成分についてのもので、アフリカ原産のユーフォルビアは有名な種類について調べても、出てくる論文がない場合が多いと感じています。
そんな中、マカレンシスについて書かれた論文を見つけました。Trevor Wilson & Neil Munroによる2019年の論文、『Euphorbia makallensis Carter, a northern Ethiopia cushion-forming Euphorbia of very limited distribution』です。

1973年、エチオピアのTigray州は繰り返される干魃と飢饉に見舞われました。エチオピア皇帝Haile Selassieの甥である州知事のRas Mengesha Seyoum殿下は、イギリス大使を通じて財政的・技術的な支援を求めました。先ずはイギリスのコンサルタント会社により、Tigrayの植生、土壌、地形が調査されました。農地の開発のためには情報が必要だったのでしょう。
1974年から1975年にエチオピアの開発調査の過程で、小規模な農地の近くにクッション状の植物が発見されました。これが後のマカレンシスです。マカレンシスはトラックで移動する際にはただの岩だと思われていましたが、突如として花を咲かせました。植物は採取され、Addis Ababaの国立植物標本館に持ち込まれました。採取されたのは標高2293m地点でした。数週間後、キュレーターにより新種と判断されました。
標本はイギリスのキュー王立植物園にも送られ、採取地点の調査や、研究のために栽培も行われました。
マカレンシスはIgre Hariba村の近くの約4平方kmの狭い範囲に限定されていました。自生地は標高2260~2385mのAcacia etbaicaと希にEuclea schimperiが疎らに生える、石灰岩を含む玄武岩の岩場と急な丘の中腹でした。

マカレンシスの1975年の栽培の試みは失敗しましたが、キュー王立植物園では成功し、1981年に新種Euphorbia makallensis S. Carterとして記載されました。Carterはマカレンシスは、ソマリア北部とアラビア半島に自生するクッション状ユーフォルビアに関連性があるように見えると述べました。マカレンシスは4稜(希に5稜)で、一見してモロッコ原産のE. resinifera(白角キリン)に似ています。
マカレンシスはTigray中央に限定的と考えられていましたが、2011年に著者のN. Munroは標高2323mにあるHawzenの南、元のグループから北に75kmで、新たな野生のマカレンシスを発見しました。このグループは砂岩由来の土壌に育っていました。

2018年11月初旬、著者の二人はマカレンシスの2つの自生地に赴きました。Igre Hariba村の近くのグループはその分布やサイズに変化はないようでした。Hawzenのグループは開花しているものもありました。マカレンシスの自生地では5月と6月に乾季が終わり、11月の降雨の後に開花します。
マカレンシスは限られた自生地に生えますが、減少している様子はありませんでした。付近の農地とも分かれており、どうやら邪魔にはならないため、農地開発の影響は考えなくても良さそうです。

以上が論文の簡単な解説です。
一般の情報が少ないマカレンシスですが、少し情報が得られました。瓢箪から駒ではありませんが、農地の調査から新種の発見というやや珍しい経緯でした。しかし、マカレンシスは原産地がエチオピア高地ですから、夏の暑さを嫌うのかもしれません。エチオピア高地産と言えばEuphorbia gymnocalycioidesですが、難物として知られています。マカレンシスはE. gymnocalycioidesほどではないにしろ、注意が必要である可能性もあります。普及種ではありますが、思ったより趣深いユーフォルビアなのかもしれません。


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