ソテツは起源の古い植物で、同じ裸子植物であるイチョウとともに生きた化石と呼ばれることがあります。このソテツの分類ははっきりせず、図鑑ごとに違ったりもします。細かく分類を分ける場合もありますが、最近は日本のソテツ(蘇鉄)を含むCycas属をソテツ科、Cycas属以外のZamia属などをザミア科とする分類方法もあります。
さて、それでは遺伝的にはどのように分類されるのでしょうか? また、ソテツにはCycas、Zamia、Encephalartos、Macrozamia、Dioon、Stangeriaなど沢山の属がありますが、それぞれの関係性はどのようになっているのでしょう?
本日ご紹介するのは、ソテツの遺伝子を解析して系統関係を探ったK. D. Hill, M. W. Chase, D. W. Stevenson, H. D. Hills & B. Schutzmanによる2003年の論文、『THE FAMILIES AND GENERA OF CYCAD : A MOLECULAR PHYLOGENETIC ANALYSIS OF CYCADOPHYTA BASED ON NUCLEAR AND PLASTID DNA SEQUENCES』です。
論文ではまずソテツについての経緯を示しています。現在の学名のシステムを作ったLinneは、Cycas circinalisとZamia pumilaを記載しましたが、その後は調査の進展により1800年までに7種、1850年までに33種、1900年までに85種が記載されました。 ソテツはソテツ目という単一の目にすべて含まれ、(この論文が書かれた2003年の時点で)3~5科、10~12属、約300種とされています。
分類は変遷を繰り返してきました。ソテツは1789年にde Jussieuによりシダとされましたが、1809年にRichardによりシダとヤシの間にある分類群とされました。1827年のBrownと1829年のBrongniartにより針葉樹との類似性が観察され、これが1830年のLindleyや1843年のLehmannによりより高次の分類群の確立に繋がりました。1837年にRichenbachによりソテツ科からザミア科を分離しましたが、当時は受け入れられなかったようです。1868年にde Candolleはすべてのソテツを1科にまとめました。1959年および1961年にJohnsonはStangeria科を創設し、ソテツ科、ザミア科とあわせて3科とし、後続の研究者もこれに従いました。1981年にStevensonはBowenia科を創設し、StangeriaとBoweniaの間に関連性があるとしました。
その後、1990年にChigua、1998年にEpicycasが新たに記載され、その分類については議論の余地があります。
ソテツ目の分子系統
Bowenia
┏━B. serrulata
┏━━━┫
┃ ┗━B. spectabilis
┃ Encephalartos
┃ ┏━━E. leavifolius
┃ ┃
┃ ┏┫┏━E. ghellinkii
┃ ┃┗┫
┏┫ ┃ ┗━E. arenarius
┃┃┏┫ Lepidozamia
┃┃┃┃ ┏━L. hopei
┃┃┃┗━┫
┃┃┃ ┗━L. peroffskyana
┃┃┃ Macrozamia
┏┫┃┃ ┏M. moorei
┃┃┗┫ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┗M. communis
┃┃ ┃ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┗━M. elegans
┃┃ ┃┏┫
┃┃ ┃┃┗━━M. pauliguilielmi
┃┃ ┗┫
┃┃ ┗━━━M. fraseri
┃┃ Dioon
┃┃ ┏━D. edule
┏┫┗━━━━┫
┃┃ ┗━D. tomasellii
┃┃ Ceratozamia
┃┃ ┏━C. miqueliana
┃┃┏━━━━━┫
┃┃┃ ┗━C. norstogii
┃┃┃ Chigua
┃┃┃ ┏━━━C. restrepoi
┃┃┃ ┃ Zamia
┃┃┃ ┏┫ ┏━Z. lindenii
┏┫┗┫ ┃┗━┫
┃┃ ┃ ┃ ┗━Z. skinneri
┃┃ ┃ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┃ ┏━Z. floridana
┃┃ ┃ ┃┗━━┫
┃┃ ┃┏┫ ┗━Z. pseudo
┃┃ ┃┃┃ parasitica
┃┃ ┃┃┃
┃┃ ┗┫┗━━━━━Z. paucijuga
┫┃ ┃ Microcycas
┃┃ ┗━━━━━━M. calocoma
┃┃ Stangeria
┃┗━━━━━━━━━S. eriopus
┃ Cycas
┃ ┏━C. circinalis
┃ ┏━┫
┃ ┃ ┗━C. furfuracea
┗━━━━━━┫
┃ ┏━C. revoluta
┗━┫Epicycas
┗━E. miquelii
上に示しました分子系統を見ますと、Chigua属はZamia属に、Epicycas属はCycas属に含まれるということです。
①Cycas属
Cycas属は分岐の根元にあり、他のソテツから離れています。分類学的にはCycasとその他のソテツという分け方が妥当かもしれません。Cycas属はインド洋から南アジア、東南アジア、東アジア、ニューギニア島を含まないオセアニアの島嶼部に分布します。
②Stangeria属
Stangeria属はCycasの後に分岐したグループです。しかし、Bowenia属はBowenia属との類似性をStevensonに指摘されていましたが、遺伝子解析ではStangeria属に近縁ではありませんでした。Stangeria属はアフリカに分布します。
③オーストラリアのソテツ
Macrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属は南半球Cladeです。形態学により指摘されてきたLepidozamia属とMacrozamia属の近縁性より、Lepidozamia属とEncephalartos属の方が近縁でした。ただし、Macrozamia属とLepidozamia属はオーストラリアに分布し、Encephalartos属はアフリカに分布します。Encephalartos属は地理的にはかなりの距離がありますから、系統関係にはやや疑問があります。
④アメリカ大陸のソテツ
Microcycas属はZamia属の姉妹群ですが、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属の明確な姉妹群ではありませんが、分析結果では他の属よりは近縁なようです。しかし、形態学的な系統関係の想定よりも、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属と遺伝的な違いは大きいようです。しかし、Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属はすべて中央アメリカ周辺に分布します。
⑤Bowenia属、Dioon属
Bowenia属はオーストラリアに分布し、③のMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属に関連性があります。Dioon属はアメリカ大陸に分布しますが、Bowenia属を含むグループの姉妹群としました。
しかし、著者はBowenia属、Stangeria属、Dioon属は、遺伝子解析でもややあやふやな部分があるため、さらなる解析が必要であるとしています。
分かりにくいのでまとめます。
┏━━Bowenia
┃ (オーストラリア)
┏┫ ┏Encephalartos
┃┃┏┫(アフリカ大陸)
┃┃┃┗Lepidozamia
┃┗┫ (オーストラリア)
┃ ┗━Macrozamia
┃ (オーストラリア)
┣━━━Dioon
┏┫ (アメリカ大陸)
┃┃ ┏━Ceratozamia
┃┃ ┃ (アメリカ大陸)
┃┗ ━┫┏Microcycas
┏┫ ┗┫(アメリカ大陸)
┃┃ ┗Zamia
┃┃ (アメリカ大陸)
┫┗━━━━Stangeria
┃ (アフリカ大陸)
┗━━━━━Cycas
(アジアなど)
以上が論文の簡単な要約です。ここからは、私の軽い感想を述べます。
ソテツ目の中で最も祖先的なのはCycas属で、おそらくは熱帯アジアが起源なのでしょう。もちろん、もともと広く地域に分布していて、やがて分布域が減少して残ったのが現在の分布である可能性はあります。化石記録については知らないので、なんとも言えません。
Cycas属の次に現れるStangeria属はアフリカ大陸原産ですが、Cycas属がマダガスカルまで到達していることを考えたらそこまで奇妙な結果ではないのかもしれません。
ここからは2~3グループに別れます。まず、アメリカ大陸に分布するCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属は近縁です。アフリカ原産のStangeria属からどのように伝播したのでしょうか。南アメリカ東岸とアフリカ大陸西岸はパズルのようにピッタリ合わせられることが知られていますが、両者はもともと1つでした。ですから、大陸が分離する前にStangeria属あるいはStangeria属の祖先が広く分布しており、分離後にアメリカ大陸でCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属が進化したのかもしれません。
Dioon属はやや立ち位置が微妙なのでグループを分けました。Dioonも他のアメリカ大陸原産属と同じように進化したのでしょう。
最後にMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属、Bowenia属ですが、Lepidozamia属、Bowenia属はオーストラリアに分布していますから、近縁なのも分かります。しかし、Encephalartos属がアフリカ原産なのはなぜでしょうか? しかも都合の悪いことに、Bowenia → Macrozamia → Lepidozamia・Encephalartosのように見えますから、まるでオーストラリアからアフリカに派生したかのようです。おそらくは、オーストラリアとアフリカ大陸が1つだった時代の共通祖先が2つに別れたのかもしれませんが判然としません。
どうにもあやふやな部分や伝播が気になります。後続の研究がないか調べてみます。
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さて、それでは遺伝的にはどのように分類されるのでしょうか? また、ソテツにはCycas、Zamia、Encephalartos、Macrozamia、Dioon、Stangeriaなど沢山の属がありますが、それぞれの関係性はどのようになっているのでしょう?
本日ご紹介するのは、ソテツの遺伝子を解析して系統関係を探ったK. D. Hill, M. W. Chase, D. W. Stevenson, H. D. Hills & B. Schutzmanによる2003年の論文、『THE FAMILIES AND GENERA OF CYCAD : A MOLECULAR PHYLOGENETIC ANALYSIS OF CYCADOPHYTA BASED ON NUCLEAR AND PLASTID DNA SEQUENCES』です。
論文ではまずソテツについての経緯を示しています。現在の学名のシステムを作ったLinneは、Cycas circinalisとZamia pumilaを記載しましたが、その後は調査の進展により1800年までに7種、1850年までに33種、1900年までに85種が記載されました。 ソテツはソテツ目という単一の目にすべて含まれ、(この論文が書かれた2003年の時点で)3~5科、10~12属、約300種とされています。
分類は変遷を繰り返してきました。ソテツは1789年にde Jussieuによりシダとされましたが、1809年にRichardによりシダとヤシの間にある分類群とされました。1827年のBrownと1829年のBrongniartにより針葉樹との類似性が観察され、これが1830年のLindleyや1843年のLehmannによりより高次の分類群の確立に繋がりました。1837年にRichenbachによりソテツ科からザミア科を分離しましたが、当時は受け入れられなかったようです。1868年にde Candolleはすべてのソテツを1科にまとめました。1959年および1961年にJohnsonはStangeria科を創設し、ソテツ科、ザミア科とあわせて3科とし、後続の研究者もこれに従いました。1981年にStevensonはBowenia科を創設し、StangeriaとBoweniaの間に関連性があるとしました。
その後、1990年にChigua、1998年にEpicycasが新たに記載され、その分類については議論の余地があります。
ソテツ目の分子系統
Bowenia
┏━B. serrulata
┏━━━┫
┃ ┗━B. spectabilis
┃ Encephalartos
┃ ┏━━E. leavifolius
┃ ┃
┃ ┏┫┏━E. ghellinkii
┃ ┃┗┫
┏┫ ┃ ┗━E. arenarius
┃┃┏┫ Lepidozamia
┃┃┃┃ ┏━L. hopei
┃┃┃┗━┫
┃┃┃ ┗━L. peroffskyana
┃┃┃ Macrozamia
┏┫┃┃ ┏M. moorei
┃┃┗┫ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┗M. communis
┃┃ ┃ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┗━M. elegans
┃┃ ┃┏┫
┃┃ ┃┃┗━━M. pauliguilielmi
┃┃ ┗┫
┃┃ ┗━━━M. fraseri
┃┃ Dioon
┃┃ ┏━D. edule
┏┫┗━━━━┫
┃┃ ┗━D. tomasellii
┃┃ Ceratozamia
┃┃ ┏━C. miqueliana
┃┃┏━━━━━┫
┃┃┃ ┗━C. norstogii
┃┃┃ Chigua
┃┃┃ ┏━━━C. restrepoi
┃┃┃ ┃ Zamia
┃┃┃ ┏┫ ┏━Z. lindenii
┏┫┗┫ ┃┗━┫
┃┃ ┃ ┃ ┗━Z. skinneri
┃┃ ┃ ┏┫
┃┃ ┃ ┃┃ ┏━Z. floridana
┃┃ ┃ ┃┗━━┫
┃┃ ┃┏┫ ┗━Z. pseudo
┃┃ ┃┃┃ parasitica
┃┃ ┃┃┃
┃┃ ┗┫┗━━━━━Z. paucijuga
┫┃ ┃ Microcycas
┃┃ ┗━━━━━━M. calocoma
┃┃ Stangeria
┃┗━━━━━━━━━S. eriopus
┃ Cycas
┃ ┏━C. circinalis
┃ ┏━┫
┃ ┃ ┗━C. furfuracea
┗━━━━━━┫
┃ ┏━C. revoluta
┗━┫Epicycas
┗━E. miquelii
上に示しました分子系統を見ますと、Chigua属はZamia属に、Epicycas属はCycas属に含まれるということです。
①Cycas属
Cycas属は分岐の根元にあり、他のソテツから離れています。分類学的にはCycasとその他のソテツという分け方が妥当かもしれません。Cycas属はインド洋から南アジア、東南アジア、東アジア、ニューギニア島を含まないオセアニアの島嶼部に分布します。
②Stangeria属
Stangeria属はCycasの後に分岐したグループです。しかし、Bowenia属はBowenia属との類似性をStevensonに指摘されていましたが、遺伝子解析ではStangeria属に近縁ではありませんでした。Stangeria属はアフリカに分布します。
③オーストラリアのソテツ
Macrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属は南半球Cladeです。形態学により指摘されてきたLepidozamia属とMacrozamia属の近縁性より、Lepidozamia属とEncephalartos属の方が近縁でした。ただし、Macrozamia属とLepidozamia属はオーストラリアに分布し、Encephalartos属はアフリカに分布します。Encephalartos属は地理的にはかなりの距離がありますから、系統関係にはやや疑問があります。
④アメリカ大陸のソテツ
Microcycas属はZamia属の姉妹群ですが、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属の明確な姉妹群ではありませんが、分析結果では他の属よりは近縁なようです。しかし、形態学的な系統関係の想定よりも、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属と遺伝的な違いは大きいようです。しかし、Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属はすべて中央アメリカ周辺に分布します。
⑤Bowenia属、Dioon属
Bowenia属はオーストラリアに分布し、③のMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属に関連性があります。Dioon属はアメリカ大陸に分布しますが、Bowenia属を含むグループの姉妹群としました。
しかし、著者はBowenia属、Stangeria属、Dioon属は、遺伝子解析でもややあやふやな部分があるため、さらなる解析が必要であるとしています。
分かりにくいのでまとめます。
┏━━Bowenia
┃ (オーストラリア)
┏┫ ┏Encephalartos
┃┃┏┫(アフリカ大陸)
┃┃┃┗Lepidozamia
┃┗┫ (オーストラリア)
┃ ┗━Macrozamia
┃ (オーストラリア)
┣━━━Dioon
┏┫ (アメリカ大陸)
┃┃ ┏━Ceratozamia
┃┃ ┃ (アメリカ大陸)
┃┗ ━┫┏Microcycas
┏┫ ┗┫(アメリカ大陸)
┃┃ ┗Zamia
┃┃ (アメリカ大陸)
┫┗━━━━Stangeria
┃ (アフリカ大陸)
┗━━━━━Cycas
(アジアなど)
以上が論文の簡単な要約です。ここからは、私の軽い感想を述べます。
ソテツ目の中で最も祖先的なのはCycas属で、おそらくは熱帯アジアが起源なのでしょう。もちろん、もともと広く地域に分布していて、やがて分布域が減少して残ったのが現在の分布である可能性はあります。化石記録については知らないので、なんとも言えません。
Cycas属の次に現れるStangeria属はアフリカ大陸原産ですが、Cycas属がマダガスカルまで到達していることを考えたらそこまで奇妙な結果ではないのかもしれません。
ここからは2~3グループに別れます。まず、アメリカ大陸に分布するCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属は近縁です。アフリカ原産のStangeria属からどのように伝播したのでしょうか。南アメリカ東岸とアフリカ大陸西岸はパズルのようにピッタリ合わせられることが知られていますが、両者はもともと1つでした。ですから、大陸が分離する前にStangeria属あるいはStangeria属の祖先が広く分布しており、分離後にアメリカ大陸でCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属が進化したのかもしれません。
Dioon属はやや立ち位置が微妙なのでグループを分けました。Dioonも他のアメリカ大陸原産属と同じように進化したのでしょう。
最後にMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属、Bowenia属ですが、Lepidozamia属、Bowenia属はオーストラリアに分布していますから、近縁なのも分かります。しかし、Encephalartos属がアフリカ原産なのはなぜでしょうか? しかも都合の悪いことに、Bowenia → Macrozamia → Lepidozamia・Encephalartosのように見えますから、まるでオーストラリアからアフリカに派生したかのようです。おそらくは、オーストラリアとアフリカ大陸が1つだった時代の共通祖先が2つに別れたのかもしれませんが判然としません。
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