昨日はアロエ類の蜜の組成について記事にしましたが、今日はその続きです。具体的には1993年のNectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』と、一部は2001年のInfrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』のデータをご紹介します。
まずは近年のアロエ類の遺伝子解析の結果を示します。今回の論文は遺伝子解析前のものなので、古い分類となっています。私の記事では気が付いたものは最新の分類に修正しています。


分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文では蜜に含まれる糖の組成を解析しています。【Fructose, Glucose, Sucrose】の順番に糖の比率を示しています。Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。

Astroloba、Aristaloe、Gonialoe、Tulistaは近縁なグループです。
Astrolobaは虫媒花ですが、基本的に白花です。蜂は色のついた花に来ますから、Astrolobaに来るのは蛾あるいは蝿や虻なのかもしれません。
また、遺伝子解析の結果からPoellnitziaはAstrolobaに含まれることになりました。しかし、Poellnitziaは赤い花が咲かせ、鳥媒花とされているようです。論文によると、Astrolobaは果糖の比率は低くショ糖の比率が高い傾向がありますが、Poellnitziaはショ糖はなく果糖とブドウ糖の比率が高くなっています。よく見ると、Poellnitziaの蜜の組成はAloe(狭義)によく似ています。Aloeは鳥媒花ですから鳥が好む糖の組成なのかもしれません。
Aristaloeはデータがありません。GonialoeはAstrolobaに組成はよく似ています。Gonialoeも赤花です。
Tulistaは典型的なHaworthia型の花で目立たない白花です。蜜の組成は果糖が少なくショ糖が多くなっています。しかし、Haworthia(狭義)と比較するとブドウ糖が低く、成分はAstrolobaに近縁です。

Astroloba
A. congesta【4%, 32%, 64%】
A. foliolosa【4%, 16%, 80%】
A. spiralis【2%, 13%, 85%】

旧・Poellnitzia
A. rubriflora①【48%, 52%, - %】
A. rubriflora②【47%, 53%, - %】

DSC_1835
Poellnitzia rubriflora
=Astroloba rubriflora


Gonialoe
G. variegata【45%, 55%, - %】

Tulista
T. minima【7%, 24%, 69%】
T. pumila① 【1%, 14%, 85%】
T. pumila② 【3 %, 17%, 80%】
T. pumila③ 【7%, 19%, 74%】


DSC_0900
Gonialoe variegata

DSC_0788
Tulista pumila

HaworthiopsisとGasteriaは姉妹群です。Haworthiopsisはややまとまりがありませんが、Gasteriaはよくまとまった分類群です。
Gasteriaは分布と分類がリンクしています。Gasteriaは南アフリカの原産で、西部→南西部→南部→南東部→北東部という風に、分布を広げながら進化したようです。論文で扱われたGasteriaは、西部にはG. pillansii、南西部にはG. vlokii、G. brachyphylla、G. carinata、G. disticha、南部にはG. rawlinsonii、南東部にはG. excelsa、G. actinacifoliaがあります。また、G. maculataは現在ではG. oliquaのことです。
西部と南西部のGasteriaはショ糖が低く、南部と南東部のGasteriaはショ糖がやや低めの傾向です。まあ、調べた種類が少ないので断言出来ませんが…
Gasteria全体としてはAstrolobaに近縁ですが、ブドウ糖の比率は低い傾向があります。ショ糖に特化したグループと言えます。ただし、Gasteriaは鳥媒花ですが、ショ糖の比率が低いAloe(狭義)やPoellnitziaとは異なる組成です。糖の組成は花粉媒介者の好みを反映していないのでしょうか? ただの系統関係の遠近を示すだけなのでしょうか?

Gasteria
G. acinacifolia【10%, 14%, 76%】
G. baylissiana【2%, 4%, 94%】
G. brachyphylla【1, 1, 98】
G. carinata【5,% 8%, 87%】
G. disticha【2%, 4%, 94%】
G. excelsa【7%, 9%, 84%】
G. maculata
   var. maculata【2%, 2%, 96%】
G. maculata
   var. liliputana①【7%, 8%, 85%】
G. maculata
   var. liliputana②【6%, 7%, 87%】
G. pillansii【2%, 3%, 95%】
G. pulchra【6%, 8%, 86%】
G. rawlinsonii【12%, 13%, 75%】
G. vlokii【5%, 9%, 86%】
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Gasteria baylissiana

HaworthiopsisはGasteriaと蜜の組成の傾向は似ていますが、どちらかと言えばAstrolobaに似ています。Haworthiopsis自体は虫媒花でしょう。同じ虫媒花であるAstrolobaやTulistaのグループとHaworthiopsis+Gasteriaのグループが別れた時の祖先的な蜜の組成が残存しているのかもしれません。
H. koelmaniorumはややHaworthiopsisからやや遺伝的距離が離れています。しかし、糖の組成はHaworthiopsisとしては普通です。

Haworthiopsis
H. glauca【1%, 19%, 80%】
H. granulata①【5%, 25%, 70%】
H. granulata②【4%, 24%, 72%】
H. koelmaniorum【5%, 23%, 72%】
H. limifolia①【4%, 41%, 55%】
H. limifolia②【3%, 24%, 73%】
H. longiana【3%, 20%, 77%】
 H. nigra【 - %, 25%, 75%】
H. tessellata①【1%, 29%, 70%】
H. tessellata②【2%, 24%, 74%】
H. viscosa【2%, 32%, 66%】
H. woolley【1%, 22%, 77%】
DSC_1948
Haworthiopsis koelmaniorum

DSC_1796
Haworthiopsis nigra

以上が論文に示されたデータの結果です。解説は私の個人的な考えですから、論文の著者の考えではありませんからご注意下さい。
しかし、かねてよりの懸案であったAloeとPoellnitziaについての蜜の組成が示すことができてすっきりしました。逆にGasteriaについては、鳥媒花なのに糖の組成が同じ鳥媒花であるAloeやPoellnitziaとは異なる結果でしたが、この謎に対する答えを私は持ち合わせておりません。引き続き調査が必要でしょう。



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