Uncarinaというマダガスカル島原産の塊根植物が最近販売されるようになりました。Uncarinaはゴマ科の植物で、多くの種類は黄色い花を咲かせます。趣味の園芸の「多肉植物 コーデックス」の巻を購入して読んでいたところ、Uncarinaの交配と採種についての解説があり、初めてUncarinaの不思議な形の果実を知りました。



本の写真ではUncarinaの果実は、返しのついたトゲだらけのやたらに攻撃的なフォルムでした。なぜ、Uncarinaはこのようなトゲだらけの果実を持っているのでしょうか?
一般的に 果実や種子のトゲは動物の毛に付着して運ばれるためにあります。私も子供のころは、オナモミやヌスビトハギの種子が知らない間に服に付いていたこともありました。では、Uncarinaの果実を運ぶ動物はなんでしょうか? この疑問に答える論文が見つかりました。それが、2009年のJeremy J. Midgley & Nicola Illingの『Were Malagasy Uncarina fruits dispersed by the extinct elephant bird?』です。

トゲに被われた果実や種子は2種類あり、体毛に付着する粘着イガと、踏みつけることにより蹄や足に刺さる踏みつけイガとがあります。昔私の服についたオナモミは粘着イガでしょう。では、踏みつけイガとはどういうものでしょうか。知られている例では、Uncarinaに近縁とされるHarpagophytumの果実があります。HarpagophytumはUncarinaとよく似た果実を持ち、その特徴から果実はライオンゴロシ、英語で"devils claw"と呼ばれます。Harpagophytumの果実はダチョウに踏まれてその足につき、ダチョウが走る度に少しずつ壊れて、種子が少しずつこぼれていくそうです。Harpagophytumの果実は丈夫なため、ダチョウの踏みつけがないと種子が出てきません。

実際のUncarinaの果実を観察してみましょう。Uncarinaの果実は熟すと地面に落ちますが、ここが重要です。普通、動物の毛に付着する場合は、地面ではなくてある程度高い場所、つまりは生った状態が好ましいはずです。その場合は植物の近くを動物が通って体が植物に触れれば、果実が自然と付着するはずです。しかし、果実が地面に落ちた場合、踏まれることはあったとしても、自然と毛に付着するのは難しいのではないでしょうか。
また、著者はUncarinaのトゲが大きくてトゲ同士が離れすぎているため、毛に付着するのは難しいのではないかと推察しています。実際に毛に付着する果実や種子は、トゲは小さくてトゲに生えるさらに細かいトゲや毛があるといいます。しかし、Uncarinaの種子は無毛です。
これらの情報から、Uncarinaは粘着イガではないと考えられるのです。

Uncarinaの果実は踏みつけイガである可能性が高いとして、想定される動物像はどんなものでしょうか。まずは、頑丈なUncarinaの果実を破壊できる体重がないといけません。想定される動物は、ある程度大型である必要があります。
現在、マダガスカル島に生息する動物で可能性があるのはキツネザルだけですが、最大のキツネザルであるインドリ(Indri indri)は6~7kgで体重が軽すぎます。大型キツネザルとしては、紀元前に絶滅したArchaeoindris fontoynontiiはゴリラサイズで、体重は200kgに達したと考えられています。ただし、キツネザルは足の裏が柔らかいので、Uncarinaの種子を踏むつけても大丈夫な硬さはないと考えられます。そして、硬い足の裏で踏みつけて、果実が壊されなくてはならないことも重要です。また、巨大キツネザルの化石はUncarinaの分布域からは発見されていません。

著者はUncarinaの果実を運んだのは、"elephant bird"ではないかと考えています。では、
"elephant bird"とはなんでしょうか? 直訳だと「象の鳥」ですが、これは調べてみるとエピオルニス(Aepyornis)という絶滅した鳥のことでした。エピオルニスは高さ3~4m、体重400~500kgになる巨大な飛べない鳥でした。17世紀までは生存していた可能性があるようです。Harpagophytumとダチョウの関係のように、Uncarinaの果実を踏みつけて運んだ可能性があるのはエピオルニスしか候補がありません。

類似した果実を持つUncarinaとHarpagophytumは、ともに巨鳥による踏みつけイガによる種子の分散がおきます。しかし、Harpagophytumはアフリカ大陸原産で、しかもマダガスカルに近いアフリカ東岸には分布しておりません。ですから、踏みつけイガを持つUncarinaとHarpagophytumの共通祖先がアフリカ大陸とマダガスカルに拡散し、アフリカ大陸ではHarpagophytum、マダガスカルではUncarinaに進化したという筋書きは難しいかもしれません。むしろ、アフリカ大陸とマダガスカルで、それぞれ個別に踏みつけイガを進化させただけかもしれません。このように、別々に同じ機能を獲得した場合の進化を、一般に収斂進化と呼びます。

また、Uncarinaは種類によってトゲのサイズが異なります。問題となるのは、Uncarina  leandriiの極端に短いトゲです。7.5mm以下という短さですから、エピオルニスをターゲットとした可能性は低そうです。おそらくは、絶滅したゾウガメにより運ばれた可能性を著者は指摘しています。

というわけで、Uncarinaの種子をばらまく可能性が高い動物はエピオルニスやゾウガメなど、絶滅してしまっていることが明らかになりました。踏みつけ果実は踏みつけられないと頑丈な果実が壊れずに種子がこぼれないため、そもそも種子は発芽しません。運搬者がいないと繁殖が出来ませんから、将来的に絶滅する可能性があります。確かに、Uncarinaの野生個体はそのほとんどが大型個体に片寄っています。しかし、地域によっては、小型の若いUncarinaも確認されています。エピオルニスは絶滅したのにどうしてでしょうか。
わかったこととして、若いUncarinaが見られる地域では、大型のUncarinaは家畜の通り道沿いに点在していることです。そして、牛がUncarinaの果実を踏みつけて運んでいるらしいことがわかりました。自然環境が保全されている地域では果実の運搬者がいないために増えることができず、開発されている撹乱した環境では増えることができるという皮肉な状況と言えます。

以上が論文の簡単な要約となります。
UncarinaとHarpagophytumの収斂進化は、たまたま似ていただけだという結論は、やや唐突な感じがします。しかし、UncarinaとHarpagophytumは近縁ですから、元々果実にトゲなどの装飾が発達しやすい下地は共通していたのかもしれません。そして、巨大な鳥が生息する環境も共通しています。収斂する要素はそれなりにあるのでしょう。
しかし、人の手が入ったことにより個体数を増やすことが可能となった珍しい例です。しかし、農業や牧畜、さらには資源開発が進めば、Uncarinaが育つこともやがて難しくなるでしょう。そもそも、エピオルニスが絶滅したのは人が原因なのですから、Uncarinaからしたら今さらありがたい話でもないでしょうけどね。


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