Dioon spinulosumは最近販売されるようになったソテツの仲間です。種子のついた苗をたまに園芸店で見かけます。私も苗を園芸店で購入しましたが、以前にD. spinulosumについての記事を書いた際、意外と情報がないことに気が付きました。
とりあえず、D. spinulosumが命名された1883年の論文を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。まあ、140年近く前の古い論文ですから仕方がないことです。しかし、代わりに1909年に書かれたD. spinulosumについての論文を見つけました。Charles J. Chamberlainの『Dioon spinulosum』です。いや、こちらも100年以上前の古い論文ですけどね。
論文を読むと、当時はDioonはまだ3種類しか見つかっていなかったようです。D. edule、D. spinulosum、D. purpusiiですが、D. purpusiiはほんの数ヶ月前に記載されたばかりで、D. eduleとよく似ていたために間違われてきたとあります。
論文の中では1883年のDioon spinulosumを公表したEichlerの記述について書かれております。しかし、どうやら記載時のD. spinulosumの葉は最大65cmしかないため、まだ若い苗だったのかもしれません。D. spinulosumはメキシコのVera Cruz州Cordobaの苗床由来で、そこのガーデナーによるとTuxtla近くに自生しているとのことです。ただ、この時は球果が見つからなかったので、Dioonであるか疑わしいと思われるかもしれないとEichlerは述べています。
D. spinulosumははじめはDyerにより発見されたようで、産地はProgresoとされています。おそらくは栽培された個体から標本が作られたようです。
補足 : この時(1909年)の学名はDioon spinulosum Dyerとされていることから、EichlerはD. spinulosumをはじめて記載したのはDyerだと考えていたようです。しかし、現在ではDioon spinulosum Dyer ex Eichlerとなっていることから、どうやらDyerの記述は学名を命名する際の要件を満たしていなかったのでしょう。それを、Eichlerが正式に記載したという形になっています。
著者は1906年のメキシコへの旅行中、Vera Cruzの公園でD. spinulosumの小さな個体を見つけましたが、野生個体であるかはわかりませんでした。州捜査局のAlexander M. GawはそのD. spinulosumがVera Cruzの南東部の町Tlacotalpamに由来していることを突き止めました。また、ほとんどの人がD. spinulosumとD. eduleを区別していないことにも気が付きました。
1908年に著者はD. spinulosumを採集するためにメキシコ南部を訪れました。Tuxtepecに向かう途中のTierra Blanca付近でD. spinulosumを沢山見かけるらしく、実際にTierra Blancaの西部と少し北にある山でD. spinulosumを見つけました。南に行くほど沢山生えているという情報があり、実際にTierra Blancaから離れ、Vera Cruzの南約60マイルには非常に豊富で巨大なD. spinulosumが見られました。土地は石灰岩地でD. spinulosumは日陰を好むようです。
Tierra Blancaの南西部約40マイルのPapaloapam川沿いの町Tuxtepecから、半日ほど馬に乗ると豊富なD. spinulosumがある山に着きました。場所によってはD. spinulosumが唯一の大型植物であり、Dioonの森と言っても過言ではありませんでした。今回の調査では高さ12mのD. spinulosumを発見しましたが、BarnesとLandは著者の数ヶ月後にTierra Blancaを訪れ高さ16mのD. spinulosumを発見したということです。著者は、「細い幹と優雅な曲線を描く葉は、Dioon eduleのずんぐりした幹と堅くまっすぐ上の伸びる葉とは対照的」と称します。
Dioon spinulosum
(1909, C. J. Chamberlain)
幹の表面の畝模様は樹冠により形成されるため、樹齢を推測する根拠となります。これは、D. eduleは明瞭で樹冠が2年持つことがすでに明らかであるため、幹を見ればD. eduleの樹齢がわかるというものです。しかし、D. spinulosumは幹の表面の畝模様が不明瞭でありそもそもはっきりしないだけではなく、D. eduleのように樹冠が2年持つのか不明ですから、D. spinulosumの樹齢の根拠にはならないかもしれません。それでも、D. eduleよりもD. spinulosumは生長が早い可能性があり、最大個体でも樹齢400年は超えないのではないかと著者は考えております。著者はD. spinulosumの10mの個体は、D. eduleの1mの個体より若いのではないかと感じているようです。
D. spinulosumは急峻な崖地に生えるものは、根が岩に沿って垂れ下がり、12m以上地上に露出することもあります。
幹はD. eduleほど硬くないとのことです。
Eichlerの観察では長さ65cmの葉では小葉は片側で38枚、Dyerの観察では1mの葉で小葉は片側で70枚でした。高さ2m以上で葉のサイズは最大になりますが、フルサイズの葉は2.2mとなり片側117枚の小葉があります。
Dioon spinulosumの小葉とトゲ
(1909, C. J. Chamberlain)
我が家のDioon spinulosum
小葉はまだ片側17枚に過ぎません。
Dioon spinulosumの巨大な球果
(1909, B. J. Chamberlain)
球果は裸子植物最大で、3月頃に最大15kgに達します。
以上が論文の簡単な要約となります。まだ、Dioon spinulosumの報告から年月が経っていないこともあり、著者も確かめながらの探索的な内容となっています。「半日馬に乗って」という表現を見ると、そのような時代の論文かと改めて思いました。しかし、このような古い論文が残っていること、さらにはPDF化して保存と公開をしてくれた方には多大な感謝を述べなくてはならないでしょう。
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とりあえず、D. spinulosumが命名された1883年の論文を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。まあ、140年近く前の古い論文ですから仕方がないことです。しかし、代わりに1909年に書かれたD. spinulosumについての論文を見つけました。Charles J. Chamberlainの『Dioon spinulosum』です。いや、こちらも100年以上前の古い論文ですけどね。
論文を読むと、当時はDioonはまだ3種類しか見つかっていなかったようです。D. edule、D. spinulosum、D. purpusiiですが、D. purpusiiはほんの数ヶ月前に記載されたばかりで、D. eduleとよく似ていたために間違われてきたとあります。
論文の中では1883年のDioon spinulosumを公表したEichlerの記述について書かれております。しかし、どうやら記載時のD. spinulosumの葉は最大65cmしかないため、まだ若い苗だったのかもしれません。D. spinulosumはメキシコのVera Cruz州Cordobaの苗床由来で、そこのガーデナーによるとTuxtla近くに自生しているとのことです。ただ、この時は球果が見つからなかったので、Dioonであるか疑わしいと思われるかもしれないとEichlerは述べています。
D. spinulosumははじめはDyerにより発見されたようで、産地はProgresoとされています。おそらくは栽培された個体から標本が作られたようです。
補足 : この時(1909年)の学名はDioon spinulosum Dyerとされていることから、EichlerはD. spinulosumをはじめて記載したのはDyerだと考えていたようです。しかし、現在ではDioon spinulosum Dyer ex Eichlerとなっていることから、どうやらDyerの記述は学名を命名する際の要件を満たしていなかったのでしょう。それを、Eichlerが正式に記載したという形になっています。
著者は1906年のメキシコへの旅行中、Vera Cruzの公園でD. spinulosumの小さな個体を見つけましたが、野生個体であるかはわかりませんでした。州捜査局のAlexander M. GawはそのD. spinulosumがVera Cruzの南東部の町Tlacotalpamに由来していることを突き止めました。また、ほとんどの人がD. spinulosumとD. eduleを区別していないことにも気が付きました。
1908年に著者はD. spinulosumを採集するためにメキシコ南部を訪れました。Tuxtepecに向かう途中のTierra Blanca付近でD. spinulosumを沢山見かけるらしく、実際にTierra Blancaの西部と少し北にある山でD. spinulosumを見つけました。南に行くほど沢山生えているという情報があり、実際にTierra Blancaから離れ、Vera Cruzの南約60マイルには非常に豊富で巨大なD. spinulosumが見られました。土地は石灰岩地でD. spinulosumは日陰を好むようです。
Tierra Blancaの南西部約40マイルのPapaloapam川沿いの町Tuxtepecから、半日ほど馬に乗ると豊富なD. spinulosumがある山に着きました。場所によってはD. spinulosumが唯一の大型植物であり、Dioonの森と言っても過言ではありませんでした。今回の調査では高さ12mのD. spinulosumを発見しましたが、BarnesとLandは著者の数ヶ月後にTierra Blancaを訪れ高さ16mのD. spinulosumを発見したということです。著者は、「細い幹と優雅な曲線を描く葉は、Dioon eduleのずんぐりした幹と堅くまっすぐ上の伸びる葉とは対照的」と称します。
Dioon spinulosum
(1909, C. J. Chamberlain)
幹の表面の畝模様は樹冠により形成されるため、樹齢を推測する根拠となります。これは、D. eduleは明瞭で樹冠が2年持つことがすでに明らかであるため、幹を見ればD. eduleの樹齢がわかるというものです。しかし、D. spinulosumは幹の表面の畝模様が不明瞭でありそもそもはっきりしないだけではなく、D. eduleのように樹冠が2年持つのか不明ですから、D. spinulosumの樹齢の根拠にはならないかもしれません。それでも、D. eduleよりもD. spinulosumは生長が早い可能性があり、最大個体でも樹齢400年は超えないのではないかと著者は考えております。著者はD. spinulosumの10mの個体は、D. eduleの1mの個体より若いのではないかと感じているようです。
D. spinulosumは急峻な崖地に生えるものは、根が岩に沿って垂れ下がり、12m以上地上に露出することもあります。
幹はD. eduleほど硬くないとのことです。
Eichlerの観察では長さ65cmの葉では小葉は片側で38枚、Dyerの観察では1mの葉で小葉は片側で70枚でした。高さ2m以上で葉のサイズは最大になりますが、フルサイズの葉は2.2mとなり片側117枚の小葉があります。
Dioon spinulosumの小葉とトゲ
(1909, C. J. Chamberlain)
我が家のDioon spinulosum
小葉はまだ片側17枚に過ぎません。
Dioon spinulosumの巨大な球果
(1909, B. J. Chamberlain)
球果は裸子植物最大で、3月頃に最大15kgに達します。
以上が論文の簡単な要約となります。まだ、Dioon spinulosumの報告から年月が経っていないこともあり、著者も確かめながらの探索的な内容となっています。「半日馬に乗って」という表現を見ると、そのような時代の論文かと改めて思いました。しかし、このような古い論文が残っていること、さらにはPDF化して保存と公開をしてくれた方には多大な感謝を述べなくてはならないでしょう。
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