最近、Bowiea volubilisについて少しずつ調べています。Bowieaは葉のないモジャモジャした蔓を伸ばす緑色の玉葱のような球根植物です。アフリカでは薬草として利用されてきたことや、現在はB. volubilisの亜種とされているsubsp. gariepensisについても記事にしました。実際の薬理作用についても気になるところで、良さげな論文がありましたら記事にしてご紹介出来ればと考えております。
Bowieaにはもうひとつ、Bowiea kilimandscharicaという小型種があります。しかし、このB. kilimandscharicaは現在ではB. volubilisと同種とされ、B. kilimandscharicaという学名は異名とされています。しかし、小型であること位しか情報がありません。何か情報はないかと調べても、B. kilimandscharicaについては、何故かよくわかりません。せめて、B. kilimandscharicaが初めて記載された論文を探してはみたものの、1934年に出版されたドイツ語の「Notizblatt des Botanischen Gartens und Museums zu Berlin-Dahlem.」という雑誌らしいのですが、PDF化されていないのか見つかりません。まあ、探し方が悪いだけかもしれませんが…
しかし、調べる過程でBowieaを含むアフリカの球根植物の分類に挑戦した論文を発見しました。B. kilimandscharicaの調査は続行するとして、本日はアフリカの球根植物についての論文をご紹介します。
ご紹介するのは、Mario Martine-Azorin, Manuel B. Crespo, Maria Angeles-Vargas, Michael Pinter, Neil R. Crouch, Anthony P. Dold, Ladislav Mucina, Martin Pfosser & Wolfgang Wetschnigの2022年の7月に出たばかりの論文『Molecular phylogenetics of subfamily Urgineoideae (Hyacinthaceae) : Toward a coherent generic circumscription informed by molecular, morphological, and dirtributional data』です。
内容はキジカクシ科Urginea亜科(ヒヤシンス亜科)植物の遺伝子解析による分子系統を構築し、今後の分類の改訂を提案してあるようです。大変力が入った研究で、内容や議論されている内容をつぶさに検討すると、大変なボリュームとなってしまいますから、私の記事では分子系統を示すに留めたいと思います。まあ、球根類には詳しくないので、よく分からないという部分も大なのですが…
Urginea亜科の分子系統
┏Austronea
┏┫
┃┗Fusifilum
┃
┏┫ ┏Boosia
┃┃┏┫
┃┃┃┃┏Fusifilum magnifium
┃┗┫┗┫
┃ ┃ ┗Urginea revoluta
┃ ┃
┏┫ ┗Geschollia
┃┃
┃┣Urgineopsis
┃┃
┃┣Drimia
┃┃
┃┣Litanthus
┃┃
┃┣Schizobasis
┃┃
┃┣Rhadamanthopsis
┃┃
┃┃┏Rhadamanthopsis
┃┣┫ namibiensis
┃┃┗Aulostemon
┃┃
┃┣Squilla
┃┃
┃┣Tenicroa
┃┃
┃┗Rhodocodon
┃
┃ ┏Ebertia
┃┏┫
┃┃┗Vera-duthiea
┃┃
┃┃ ┏Indurgia
┣┫ ┃
┃┃ ┏┫┏Spirophyllos
┃┃ ┃┗┫
┏┫┃┏┫ ┗Urginea
┃┃┃┃┃
┃┃┗┫┗Iosanthus
┃┃ ┃
┃┃ ┃┏Sekanama
┃┃ ┗┫
┃┃ ┗Zulusia
┃┃
┃┃ ┏Ledurgia
┃┃ ┃
┃┃ ┏╋Thuranthos
┏┫┃ ┃┃
┃┃┃┏┫┗Zingela
┃┃┃┃┃
┃┃┗┫┗Urginavia
┃┃ ┃
┏┫┃ ┗Sagittanthera
┃┃┃
┃┃┗Striatula
┏┫┃
┃┃┗Mucinaea
┫┃
┃┗Rhadamanthus
┃
┗Bowiea
馴染みがない名前が多いのですが、南アフリカなどのアフリカの冬型球根としては、Drimia、Urginea、Schizobasisあたりは辛うじて知られています。最近ではケープバルブも見かけるようになってきましたから、聞いたことがあるものもあるかもしれません。しかし、ケープバルブと言っても、要するに南アフリカの冬型球根の総称ですから、分類すると特に近縁ではないいくつものグループが含まれています。この論文では扱われていない種類も沢山あります。
気になるBowieaについてですが、この論文ではB. gariepensisもB. kilimandscharicaも独立種とされています。分子系統を見ると、B. volubilisとB. kilimandscharicaは近縁で、B. gariepensisの2株は少し離れています。現在のところは、B. kilimandscharicaはB. volubilisに含まれてしまい、B. gariepensisはB. volubilisの亜種とされていますが、3種類の関係性は分子系統の結果と符合します。特徴や分布が異なり、生殖隔離もあるようですから、3種は別種としても良いのでないかと思います。そもそも、Bowieaの種の認定を左右する根拠は1987年のBruynsの論文によるものでしょうから、遺伝子解析が発達した近年の研究により改訂されるべきでしょう。この論文は2022年の最新のものですから、今後学名の変更の可能性はあります。ただし、そのためには様々な地域のB. volubilisとB. kilimandscharicaを比較して、B. kilimandscharicaがB. volubilis集団から明瞭に分離できるということが求められるかもしれません。
Bowieaの分子系統
┏B. gariepensis 1
┏━━━━┫
┃ ┗━━B. gariepensis 2
┫
┃ ┏━B. kilimandscharica
┗━┫
┗━━━━B. volubilis
以上が論文の内容ですが、本当に一部のみの抜粋です。論文では様々な議論が展開されています。著者は分類群を統合する分類学の流れに対し、意義を唱えています。例えば、一塊の分類群は「教育目的にはより実用的」(Chase et al., 2009)であるとか、分類群は「数が少ないほど扱いがより安定する」(Manning et al., 2004, 2009)と述べられています。しかし、その議論はあまりに推測的で不当ではないか、科学的根拠に欠けるのではないかと、著者は考えているようです。
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Bowieaにはもうひとつ、Bowiea kilimandscharicaという小型種があります。しかし、このB. kilimandscharicaは現在ではB. volubilisと同種とされ、B. kilimandscharicaという学名は異名とされています。しかし、小型であること位しか情報がありません。何か情報はないかと調べても、B. kilimandscharicaについては、何故かよくわかりません。せめて、B. kilimandscharicaが初めて記載された論文を探してはみたものの、1934年に出版されたドイツ語の「Notizblatt des Botanischen Gartens und Museums zu Berlin-Dahlem.」という雑誌らしいのですが、PDF化されていないのか見つかりません。まあ、探し方が悪いだけかもしれませんが…
しかし、調べる過程でBowieaを含むアフリカの球根植物の分類に挑戦した論文を発見しました。B. kilimandscharicaの調査は続行するとして、本日はアフリカの球根植物についての論文をご紹介します。
ご紹介するのは、Mario Martine-Azorin, Manuel B. Crespo, Maria Angeles-Vargas, Michael Pinter, Neil R. Crouch, Anthony P. Dold, Ladislav Mucina, Martin Pfosser & Wolfgang Wetschnigの2022年の7月に出たばかりの論文『Molecular phylogenetics of subfamily Urgineoideae (Hyacinthaceae) : Toward a coherent generic circumscription informed by molecular, morphological, and dirtributional data』です。
内容はキジカクシ科Urginea亜科(ヒヤシンス亜科)植物の遺伝子解析による分子系統を構築し、今後の分類の改訂を提案してあるようです。大変力が入った研究で、内容や議論されている内容をつぶさに検討すると、大変なボリュームとなってしまいますから、私の記事では分子系統を示すに留めたいと思います。まあ、球根類には詳しくないので、よく分からないという部分も大なのですが…
Urginea亜科の分子系統
┏Austronea
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┃┗Fusifilum
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┏┫ ┏Boosia
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┃┃┃┃┏Fusifilum magnifium
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┃ ┃ ┗Urginea revoluta
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┏┫ ┗Geschollia
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┃┣Urgineopsis
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┃┣Drimia
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┃┣Litanthus
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┃┣Schizobasis
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┃┣Rhadamanthopsis
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┃┃┏Rhadamanthopsis
┃┣┫ namibiensis
┃┃┗Aulostemon
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┃┣Squilla
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┃┣Tenicroa
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┃┗Rhodocodon
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┃ ┏Ebertia
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┃┃┗Vera-duthiea
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┃┃ ┏Indurgia
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┃┃ ┏┫┏Spirophyllos
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┏┫┃┏┫ ┗Urginea
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┃┃┗┫┗Iosanthus
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┃┃ ┃┏Sekanama
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┃┃ ┗Zulusia
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┃┃ ┏Ledurgia
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┃┃ ┏╋Thuranthos
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┃┃┃┏┫┗Zingela
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┃┃┗┫┗Urginavia
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┏┫┃ ┗Sagittanthera
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┃┃┗Striatula
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┃┃┗Mucinaea
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┃┗Rhadamanthus
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┗Bowiea
馴染みがない名前が多いのですが、南アフリカなどのアフリカの冬型球根としては、Drimia、Urginea、Schizobasisあたりは辛うじて知られています。最近ではケープバルブも見かけるようになってきましたから、聞いたことがあるものもあるかもしれません。しかし、ケープバルブと言っても、要するに南アフリカの冬型球根の総称ですから、分類すると特に近縁ではないいくつものグループが含まれています。この論文では扱われていない種類も沢山あります。
気になるBowieaについてですが、この論文ではB. gariepensisもB. kilimandscharicaも独立種とされています。分子系統を見ると、B. volubilisとB. kilimandscharicaは近縁で、B. gariepensisの2株は少し離れています。現在のところは、B. kilimandscharicaはB. volubilisに含まれてしまい、B. gariepensisはB. volubilisの亜種とされていますが、3種類の関係性は分子系統の結果と符合します。特徴や分布が異なり、生殖隔離もあるようですから、3種は別種としても良いのでないかと思います。そもそも、Bowieaの種の認定を左右する根拠は1987年のBruynsの論文によるものでしょうから、遺伝子解析が発達した近年の研究により改訂されるべきでしょう。この論文は2022年の最新のものですから、今後学名の変更の可能性はあります。ただし、そのためには様々な地域のB. volubilisとB. kilimandscharicaを比較して、B. kilimandscharicaがB. volubilis集団から明瞭に分離できるということが求められるかもしれません。
Bowieaの分子系統
┏B. gariepensis 1
┏━━━━┫
┃ ┗━━B. gariepensis 2
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┃ ┏━B. kilimandscharica
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┗━━━━B. volubilis
以上が論文の内容ですが、本当に一部のみの抜粋です。論文では様々な議論が展開されています。著者は分類群を統合する分類学の流れに対し、意義を唱えています。例えば、一塊の分類群は「教育目的にはより実用的」(Chase et al., 2009)であるとか、分類群は「数が少ないほど扱いがより安定する」(Manning et al., 2004, 2009)と述べられています。しかし、その議論はあまりに推測的で不当ではないか、科学的根拠に欠けるのではないかと、著者は考えているようです。
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