ユーフォルビア属は傷付くと乳液を出しますが、この乳液には毒性があります。この乳液が肌につくと炎症、ひどいと水ぶくれを引き起こすと言われています。ただし、ユーフォルビアの毒性は種類により異なります。ユーフォルビアの中でも特に毒性が強いと言われるのが、Euphorbia poissonii、Euphorbia venenifica、Euphorbia unispinaの、誰が呼んだか「猛毒三兄弟」です。猛毒三兄弟は円筒形の木質化するもあまり太くならない茎を持ち、先端から多肉質の葉を出します。海外では"Cylindrical Euphorbia"なんて呼ばれています。しかし、このEuphorbia venenificaという学名と、Euphorbia unispinaとの関係性については議論があるようです。
Euphorbia poissonii
本日ご紹介するのは、2020年にOdile Weber、Ergua Atinafe、Tesfaye Awas & Ib Friisの発表した『Euphorbia venefica Tremaux ex Kotschy (Euphorbiaceae) and other shrub-like cylindrically stemmed Euphorbia with spirally arranged single spines』です。
まず、エチオピアを調査してE. venenificaを探しました。さらに、世界中の大学や博物館に収蔵されている標本や資料を調査しました。
資料によると、フランスの写真家、建築家のPierre TrémauxがスーダンでE. venenificaと思われるユーフォルビアを発見し、1853年にEuphorbia mamillaris Trémauxと命名しました。しかし、E. venenificaは適切に命名されずかなりの混乱を経験したようです。Euphorbia mamillarisは1753年に命名されたEuphorbia mammillaris L.とmが入らないだけの同名であり混同される可能性があります。1857年にKotschyはE. venenificaに対する新しい情報と説明を提供しました。この時のドイツ語の説明では、Euphorbia veneficaという学名がつけられていました。これは命名規約の要件を満たしたものであり、Euphorbia venenificaと呼ばれている植物は、Euphorbia venefica Trémaux ex Kotschyが正しい学名であるとしています。しかし、その後はSchweinfurth(1862 & 1867, 1873)やBrown(1911)は、E. veneficaではなくE. venenificaと表記しています。
国際命名規約ではタイプミスや正書法の誤りの修正を除いて、元の綴りを保持する必要があるとしています。E. veneficaもE. venenificaも、毒を表す"venenum"というラテン語に基づいています。
ただし、E. veneficaに綴り上の誤りはなく、E. venenificaへの変更は命名規約上は認められないということです。上記のことからE. venenificaについては、ここからはE. veneficaと呼ぶことにします。
さて、Cylindrical Euphorbiaには、E. venefica、E. unispina、E. poissonii、E. sapinii、E. darbandensisが知られています。このうち、E. sapiniiとE. darbandensisは資料が不十分なため、論文では扱われておりません。また、E. veneficaに一見類似したE. sudanicaとE. pagonumは、茎のコルク質があまり発達しないなど、E. veneficaと明らかに特徴が異なります。著者は特徴が一致するE. venefica、E. unispina、E. poissoniiについて、その違いを詳しく調べています。
まず、E. veneficaとE. unispinaは、葉の形に違いがあるとされています。しかし、著者の調べた限りでは、どうやら葉の形の違いはE. veneficaの個体ごとの変異幅の範囲に収まってしまうと言います。E. veneficaは東アフリカ、E. unispinaはギニア湾沿いから東アフリカまで広く分布します。しかし、どちらかと言えば東アフリカと西アフリカで葉の形が異なるのではないかと述べています。つまりは、今まで言われてきたE. veneficaとE. unispinaの特徴は、どうやら当てはまらないということになります。よって、E. veneficaとE. unispinaは区別出来ない以上は、これらは同種であるというのが著者の主張です。
では、E. veneficaとE. poissoniiの関係はどうでしょうか。E. poissoniiの際立った特徴として、トゲがないことがあげられます。また、若い苗ではまれにトゲが見られることもあるそうです。ただし、1992年のNewtonのレビューでは、トゲの有無によるものではなく、大きい緑色のCyathia(Euphorbia特有の杯状の花)を持つものをE. poissonii、小さく赤色のCyathiaを持つものをE. unispinaとしました。ところが、Cyathiaの色は乾燥標本にすると色褪せてしまうため、過去の標本で確認出来ませんでした。
また、雄花が赤くなることがあると趣味家に指摘されることがあるそうです。また、実際の植物のCyathiaの観察では、種類ごとの共通した特徴は見られませんでした。
さて、やや混沌としてきましたが、E. poissoniiに関する歴史を振り返ります。1969年にRauhは植物園で行われた発生形態学的研究により、E. poissonii、E. venefica、E. unispina、E. sapinii、E. darbandensisは、同一種内であっても葉の形状とトゲの形成にはバリエーションがあるとしています。したがって、これらをE. venenifica(=E. venefica)の変種と見なすことを提案しました。2004年にArbonnierはRauhの結論に同意して、E. venefica、E. unispinaをE. poissoniiと同種であるとしました。しかし、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」からすると、これは誤りです。E. veneficaは1857年、E. unispinaは1911年、
E. poissoniiは1902年の命名ですから、命名が一番早いE. veneficaとされるべきです。
ただし、著者は詳細にE. veneficaとE. poissoniiの特徴を比較検討した結果、特徴が異なることを明らかにしました。よって、E. veneficaとE. poissoniiは別種とすべきとしております。
E. venefica
・トゲはよく発達し長さ8mmまで。
・果実の小花柄は5mm以内。
E. poissonii
・トゲは若い苗の時はあるが、成体では全くないか未発達。
・果実の小花柄は5mm以上。
以上が論文の内容となります。著者の主張をまとめますと、E. venenificaという学名は誤りで、正しくはE. venefica、②E. veneficaとE. unispinaは同種であり、E. veneficaとすべきである、③E. veneficaとE. poissoniiは別種、ということになります。このうち、①と③は認められていますが、②はこれからかもしれません。イギリス王立植物園のデータベースでは以下のようになっていました。
・Euphorbia venefica
Trémaux ex Kotschy, 1857
異名 : Euphorbia mamillaris
Trémaux, 1853
※nomen illegitimum
・Euphorbia unispina N.E.Br., 1911
・Euphorbia poissonii Pax, 1902
ちゃんと、E. venenificaはE. veneficaとなっていますが、E. unispinaは健在です。また、E. mamillarisはnomen illegitimum=非合法名とされております。
最後にE. poissoniiについて、私の所有苗を観察してみます。
葉の付け根に2~3mmの小さなトゲがありますが、脆くて直ぐに脱落してしまいます。生長すると出なくなるのでしょうか。
若い葉は先端が平らで、頂点は少し尖ります。
成熟した葉は先端がやや凹みます。
まとめ : 猛毒三兄弟の長男はE. venenificaと呼ばれがちでしたが、本名はE. veneficaでした。次男はE. poissoniiです。三男E. unispinaは長男E. veneficaと同一人物でした。
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Euphorbia poissonii
本日ご紹介するのは、2020年にOdile Weber、Ergua Atinafe、Tesfaye Awas & Ib Friisの発表した『Euphorbia venefica Tremaux ex Kotschy (Euphorbiaceae) and other shrub-like cylindrically stemmed Euphorbia with spirally arranged single spines』です。
まず、エチオピアを調査してE. venenificaを探しました。さらに、世界中の大学や博物館に収蔵されている標本や資料を調査しました。
資料によると、フランスの写真家、建築家のPierre TrémauxがスーダンでE. venenificaと思われるユーフォルビアを発見し、1853年にEuphorbia mamillaris Trémauxと命名しました。しかし、E. venenificaは適切に命名されずかなりの混乱を経験したようです。Euphorbia mamillarisは1753年に命名されたEuphorbia mammillaris L.とmが入らないだけの同名であり混同される可能性があります。1857年にKotschyはE. venenificaに対する新しい情報と説明を提供しました。この時のドイツ語の説明では、Euphorbia veneficaという学名がつけられていました。これは命名規約の要件を満たしたものであり、Euphorbia venenificaと呼ばれている植物は、Euphorbia venefica Trémaux ex Kotschyが正しい学名であるとしています。しかし、その後はSchweinfurth(1862 & 1867, 1873)やBrown(1911)は、E. veneficaではなくE. venenificaと表記しています。
国際命名規約ではタイプミスや正書法の誤りの修正を除いて、元の綴りを保持する必要があるとしています。E. veneficaもE. venenificaも、毒を表す"venenum"というラテン語に基づいています。
ただし、E. veneficaに綴り上の誤りはなく、E. venenificaへの変更は命名規約上は認められないということです。上記のことからE. venenificaについては、ここからはE. veneficaと呼ぶことにします。
さて、Cylindrical Euphorbiaには、E. venefica、E. unispina、E. poissonii、E. sapinii、E. darbandensisが知られています。このうち、E. sapiniiとE. darbandensisは資料が不十分なため、論文では扱われておりません。また、E. veneficaに一見類似したE. sudanicaとE. pagonumは、茎のコルク質があまり発達しないなど、E. veneficaと明らかに特徴が異なります。著者は特徴が一致するE. venefica、E. unispina、E. poissoniiについて、その違いを詳しく調べています。
まず、E. veneficaとE. unispinaは、葉の形に違いがあるとされています。しかし、著者の調べた限りでは、どうやら葉の形の違いはE. veneficaの個体ごとの変異幅の範囲に収まってしまうと言います。E. veneficaは東アフリカ、E. unispinaはギニア湾沿いから東アフリカまで広く分布します。しかし、どちらかと言えば東アフリカと西アフリカで葉の形が異なるのではないかと述べています。つまりは、今まで言われてきたE. veneficaとE. unispinaの特徴は、どうやら当てはまらないということになります。よって、E. veneficaとE. unispinaは区別出来ない以上は、これらは同種であるというのが著者の主張です。
では、E. veneficaとE. poissoniiの関係はどうでしょうか。E. poissoniiの際立った特徴として、トゲがないことがあげられます。また、若い苗ではまれにトゲが見られることもあるそうです。ただし、1992年のNewtonのレビューでは、トゲの有無によるものではなく、大きい緑色のCyathia(Euphorbia特有の杯状の花)を持つものをE. poissonii、小さく赤色のCyathiaを持つものをE. unispinaとしました。ところが、Cyathiaの色は乾燥標本にすると色褪せてしまうため、過去の標本で確認出来ませんでした。
また、雄花が赤くなることがあると趣味家に指摘されることがあるそうです。また、実際の植物のCyathiaの観察では、種類ごとの共通した特徴は見られませんでした。
さて、やや混沌としてきましたが、E. poissoniiに関する歴史を振り返ります。1969年にRauhは植物園で行われた発生形態学的研究により、E. poissonii、E. venefica、E. unispina、E. sapinii、E. darbandensisは、同一種内であっても葉の形状とトゲの形成にはバリエーションがあるとしています。したがって、これらをE. venenifica(=E. venefica)の変種と見なすことを提案しました。2004年にArbonnierはRauhの結論に同意して、E. venefica、E. unispinaをE. poissoniiと同種であるとしました。しかし、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」からすると、これは誤りです。E. veneficaは1857年、E. unispinaは1911年、
E. poissoniiは1902年の命名ですから、命名が一番早いE. veneficaとされるべきです。
ただし、著者は詳細にE. veneficaとE. poissoniiの特徴を比較検討した結果、特徴が異なることを明らかにしました。よって、E. veneficaとE. poissoniiは別種とすべきとしております。
E. venefica
・トゲはよく発達し長さ8mmまで。
・果実の小花柄は5mm以内。
E. poissonii
・トゲは若い苗の時はあるが、成体では全くないか未発達。
・果実の小花柄は5mm以上。
以上が論文の内容となります。著者の主張をまとめますと、E. venenificaという学名は誤りで、正しくはE. venefica、②E. veneficaとE. unispinaは同種であり、E. veneficaとすべきである、③E. veneficaとE. poissoniiは別種、ということになります。このうち、①と③は認められていますが、②はこれからかもしれません。イギリス王立植物園のデータベースでは以下のようになっていました。
・Euphorbia venefica
Trémaux ex Kotschy, 1857
異名 : Euphorbia mamillaris
Trémaux, 1853
※nomen illegitimum
・Euphorbia unispina N.E.Br., 1911
・Euphorbia poissonii Pax, 1902
ちゃんと、E. venenificaはE. veneficaとなっていますが、E. unispinaは健在です。また、E. mamillarisはnomen illegitimum=非合法名とされております。
最後にE. poissoniiについて、私の所有苗を観察してみます。
葉の付け根に2~3mmの小さなトゲがありますが、脆くて直ぐに脱落してしまいます。生長すると出なくなるのでしょうか。
若い葉は先端が平らで、頂点は少し尖ります。
成熟した葉は先端がやや凹みます。
まとめ : 猛毒三兄弟の長男はE. venenificaと呼ばれがちでしたが、本名はE. veneficaでした。次男はE. poissoniiです。三男E. unispinaは長男E. veneficaと同一人物でした。
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