日本に生えるソテツ(蘇鉄、Cycas revoluta)は、針葉樹やイチョウなどと同じく裸子植物です。身近な針葉樹と言えば杉や桧ですが、花粉症の原因となり問題となっています。これは杉や桧が風媒花であることが重要です。風媒花は文字通りの風任せなため、数打ちゃ当たるの戦法で大量の花粉を撒き散らす必要があるのです。
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Cycas revoluta

植物の進化は陸上に上陸後、コケ植物→シダ植物→裸子植物→被子植物という順番でした。被子植物の登場により、昆虫に受粉してもらうための目立つ花が登場しました。針葉樹の花が目立たないのは、昆虫にアピールする必要がないからです。同じように、イネ科やカヤツリグサ科の植物の花も風媒花なため、非常に目立たない地味な花です。ですから、裸子植物は虫媒花ではなく、風媒花とされてきました。
しかし、1986年に海外のソテツであるZamia furfuraceaがゾウムシにより受粉されることが報告されました。それ以来、1987年にZamia pumilaがゾウムシとアザミウマにより受粉されるとし、1993年にはMacrozamia、1995年にはEncephalartos、2002年にはBowenia、2004年にはLepidozamiaについて昆虫による受粉が確認されました。
ソテツ類の分類は、裸子植物ソテツ綱ソテツ目です。科は2つか3つとするのがスタンダードですが、今回はソテツ科とザミア科の2つに分ける分類を採用します。ソテツ科はソテツ属(Cycas)の1属で約100種類からなり、ザミア科は9~10属で約200種類からなります。1986年以来のソテツの虫媒花の発見は、すべてザミア科によるものでした。ソテツ科は虫媒花の可能性について指摘されることはありましたが、確実性のある研究はこれまでありませんでした。日本に生えるCycas revolutaについては風媒花と考えられて来ました。

今回ご紹介するのは、Cycas revolutaの虫媒花の可能性を探った2007年の『IS CYCAS REVOLUTA (CYCADACEAE) WIND- OR INSECT-POLLINATED?』です。著者は京都大学のMasumi Kono & Hiroshi Tobeです。
まず、最近の研究によるとCycas revolutaの自然の自生地では受粉は雨季であり、風媒花にとっては不利です。また、受粉時に花から揮発性の強い臭いが放出されることが知られています。
研究は沖縄県与那国島において行われました。Cycas revolutaは雌雄異株で、雄株は1~2年、雌株は2~3年ごとに開花します。観察は2004年の5~6月で、頻繁に雨が降っていたにも関わらず受粉しました。
Cycas revolutaの花で採取された昆虫は、雄株ではカネタタキ(Ornebius kanetataki)、フタスジシュロゾウムシ(Derelomus bicarinatus)、アミメヒラタゴキブリ(Onychostylus notulatus)でした。雌株ではクロハナケシキスイ(Carpophilus chalybeus)、キバナガヒラタケシキスイ(Epuraea mandibularis)、オキナワゴボウゾウムシ(Larinus latissimus)が豊富でした。
受粉の1ヶ月後、雌の花にはクロハナケシキスイ、キバナガヒラタケシキスイ、オキナワゴボウゾウムシが頻繁に観察されました。ゴキブリやダンゴムシ、ヨコバイ、ムカデ、クモ、サソリ、トカゲも見られましたが、隠れるための一時的なものであると見なされました。自然に受粉した18個体中の15個体にはケシキスイが繁殖し幼虫も見られました。
ケシキスイの幼虫に最大10.5%が食害されていましたが、この場合でも146個の種子を作りました。
捕獲したケシキスイを電子顕微鏡で観察したところ、Cycas revolutaの花粉が付着していることが確認されました。

昆虫が訪れるのを網で防いだ場合でも、雄株と雌株の距離が2m以内の場合では約100個の種子を作りました。ですから、風媒により受粉するのは間違いありません。しかし、距離が2mを超えると受粉効率は著しく減少しました。つまりは、距離が近い場合には風媒が有効ですが、距離が遠い場合は虫媒により受粉するということです。

以上が論文の内容となります。著者はCycas revolutaが虫媒の初期段階にある可能性を指摘しています。風媒花から虫媒花へ、その両方へ跨がる受粉形式は例をみない奇妙なものです。昆虫に対する報酬も、蜜や花粉ではなく、花(胚)自体が食害によりダメージを受けるという不完全なものです。しかし、花の進化というものを考えた時に、Cycas revolutaの奇妙な受粉形式はその過渡期にあるものとして重要な意味を持つのかもしれませんね。


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