アロエは巨大に育つものがあります。Aloe feroxやAloe marlothiiなどは高さ数メートルに育ち、数十センチメートルの花序を沢山出します。しかも、このような巨大アロエは蜜の量も非常に多く、蜜を求めて様々な生き物が訪れます。当然ながらアロエは受粉をしてもらうために蜜を求める生き物を利用するわけですが、この蜜は他の生き物にとっても重要です。アロエは大抵は赤・橙・黄色系統の花を咲かせる種類が多く、色で花を探す鳥類や赤系統の花を好むミツバチやマルハナバチに対するアピールなのかもしれません。蜜の量が多ければ、ネズミなどの小型の哺乳類も蜜を舐めに来るかもしれません。
アフリカには花の蜜を専門として生きるタイヨウチョウ(sunbird)が分布します。アメリカ大陸にはやはり花の蜜で生きるハチドリがいますが、タイヨウチョウもハチドリと同じく非常にカラフルで美しい鳥として知られています。そして、アロエにもタイヨウチョウが訪れることが知られていますが、その受粉への貢献度について詳しくはわかっていませんでした。

本日ご紹介するのは、Aloe feroxの受粉に貢献する鳥について調査した、Carolina Diller, Miguel Castaneda-Zarate and Steven D.Johnsonの『Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文です。論文は2019年と最近のものです。
内容に入る前に少し用語の解説をします。生物の世界では、何かに対し専門的に特化したスペシャリスト(specialist)と、様々なものに浅く広く対応したジェネラリスト(generalist)が存在します。例えば、ある食物Xを食べることに特化したスペシャリストに対して、ジェネラリストはスペシャリストほど上手くXを食べることが出来ないということは良くあります。ただし、スペシャリストはX以外の食物も食べることが出来ます。スペシャリストとジェネラリスト、どちらが有利かはわかりません。なぜなら、スペシャリストもジェネラリストも存在するからです。環境次第ではないでしょうか。また、スペシャリストと一口に言っても、必ずしもジェネラリストよりも効率的に上手く出来るとは限らず、単純にそのXに依存しているだけの場合もあります。
次に受粉を行う生物を花粉媒介者と言いますが、一般的にはポリネーター(pollinator)と呼びます。アロエには様々なポリネーターが訪れます。

論文ではAloe feroxを観察し、アロエにポリネーターが訪れたあとに
花の柱頭に着いた花粉を数えました。Aloe feroxは高さ5mになるアロエで、最大13本の総状花序を出し、1本の総状花序には約280個の花が咲きます。調査は2017年の開花期にあたる、8月の乾季に南アフリカのLower Mpushini Valley自然保護区において、Aloe feroxの大規模な500以上の大群落において実施されました。
Aloe feroxを訪れた鳥は、スペシャリストとしてアメジストタイヨウチョウ(Chalcomitra amethystina)、ジェネラリストとしてサンショクヒヨドリ(Pycnonotus tricolor)、ハタオリドリ(Ploceus spp.)、アカガタテリムク(Lamprotornis nitens)でした。ハタオリドリはフィールドの観察では種類の特定までは出来なかったようです。
観察期間中、アメジストタイヨウチョウが4回で24個の花に、サンショクヒヨドリは10回で92個の花に、ハタオリドリは5回で45個の花、アカガタテリムクは6回で69個の花に訪れました。
観察期間の12日間にAloe feroxを訪れたスペシャリストは77羽、ジェネラリストは242羽でした。スペシャリストはアメジストタイヨウチョウが71回、シロハラタイヨウチョウが6回訪れました。ジェネラリストはハタオリドリが79回、アカガタテリムクが65回、サンショクヒヨドリが60回、クロオウチュウ(Dicrurus adsimilis)が20回、チャイロネズミドリ(Colius striatus)で18回でした。


さて、実際にAloe feroxの柱頭に付着した花粉を調べると、面白い結果が得られました。スペシャリストが訪れてもAloe feroxにはあまり花粉は付かないというのです。ポリネーターが入らないように網を被せた花と違いが見られなかったのです。ポリネーターが訪れなくても、多少は自分の花粉が付いてしまうこともあるのですが、スペシャリストはそのレベルあったということです。逆にジェネラリストの訪れた花は、スペシャリストの訪れた花の倍以上の花粉が付いていました。つまりは、Aloe feroxにとって、スペシャリストであるタイヨウチョウよりもジェネラリストの方が優れたポリネーターであるということです。

スペシャリストの嘴は長く、ジェネラリストの嘴は短いからであると言われることがあるようです。しかし、今回の観察期間中の鳥を調べると、スペシャリストとジェネラリストの嘴の長さに差はありませんでした。違いは嘴の太さで、スペシャリストの嘴は細くジェネラリストの嘴は太いということです。今回の観察期間中では、ジェネラリストはスペシャリストよりも大型でした。ジェネラリストは蜜を吸うために、顔を花に突っ込みその時に頭で雄しべを押し広げていることが観察されました。逆にスペシャリストのタイヨウチョウは、小さい頭に細い嘴、長い舌を持つため、雄しべに触れないで蜜を吸うことが出来るのです。よって、Aloe feroxに対してタイヨウチョウは蜜泥棒ということになります。

以上が論文の内容となります。
蜜を餌とする専門のタイヨウチョウが、受粉に寄与しないという驚くべき論文でした。2点ほど補足説明をしましょう。
まず1つ目は、Aloe feroxとタイヨウチョウの目的が異なることです。Aloe feroxはポリネーターに受粉してもらうために蜜を準備しているわけですが、タイヨウチョウは受粉を助けるために花を訪れているわけではありません。タイヨウチョウからすれば、いかに効率的に蜜を得られるかが重要なのであって、Aloe feroxが受粉するか否かはどうでも良いことです。邪魔な雄しべに触れないで、素早く嘴を花に差し込んで蜜だけを抜き取る。正にスペシャリストの技です。この場合、タイヨウチョウの方が一枚上手と言えます。対して、ジェネラリストはタイヨウチョウのようにスマートに蜜を得られません。しかし、下手だから頭を花粉だらけにして、上手いことAloe feroxに利用されて、知らずに受粉の手助けをしているのです。
2つ目は、これはAloe feroxに対するタイヨウチョウのポリネーターとしての能力がないと言っているだけで、他の植物の花では異なるかもしれないということです。例えば、Gasteriaはタイヨウチョウをポリネーターとしています。この場合、タイヨウチョウは花の蜜に特化したスペシャリストですが、Gasteriaはタイヨウチョウに特化した一段レベルの高いスペシャリストです。不特定多数の花の蜜を利用するタイヨウチョウは、自分をターゲットにしたGasteriaに上手く利用されているのです。
野生の生き物は何も相手を思いやって行動しているわけではなく、あくまで自分の利益のために行動しています。ですから、Aloe feroxとタイヨウチョウの関係は、上手く噛み合わなかっただけで、Aloe feroxがへまをしたわけでもタイヨウチョウが上手く出し抜いたわけでもありません。この関係は偶然の産物と言えます。
実はスペシャリストの訪問を妨げたりジェネラリストを呼ぶ算段を用意している植物もあります。ではAloe feroxが無策であるのは何故なのか気になります。考えたこととして、小型のアロエは花の数が少ないため受粉は確実性が欲しいでしょうから、蜜泥棒対策は必要でしょう。しかし、数えきれないほどの花を咲かせるAloe feroxは、そのすべての花が受粉しなくても十分なのかもしれません。無駄が多いようにも感じられますが、スペシャリストを妨げたりすることにも相応のコストがかかります。要するに戦略が異なるだけではないでしょうか。大型だからコストをかけて花を沢山咲かせる戦略、小型だから花は少ないけれど蜜泥棒対策にコストをかける戦略という、サイズに合わせた現実的な戦略を講じているわけです。

植物とポリネーターの関係は非常に複雑で面白く感じます。この論文では蜂の影響を避けるため、蜂が活発に活動する時間帯は花に網を被せていました。では、蜂の受粉に対する貢献度はいかほどでしょうか? また、このような大型アロエでは、ネズミなどの小型哺乳類も蜜を求めて訪れます。小型哺乳類の多くは夜行性ですから、昼行性の鳥類とは競合しないでしょう。では、小型哺乳類はアロエとどのような関係を築いているのでしょうか? どうにも気になることが沢山出て来てしまいました。最近は忙しく中々じっくりと論文を探す時間が取れませんが、少しずつ調べていくつもりです。


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