最近では多肉植物に力をいれている園芸店では、パキポディウムの実生苗も見かけるようになって来ました。しかし、流石にまだビッグバザールで見かけるマカイエンセやイノピナツムなどは販売されていません。本日ご紹介するエニグマティクムも同様で、まだそれほど流通していないパキポディウムです。私も園芸店の多肉植物即売会では見かけたことはありませんでしたが、2021年11月に開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手しました。エニグマティクムはパキポディウムの中でも発見が遅く、学名は2014年に命名されたPachypodium enigmaticum Pavelka, Prokes, V.Vlk, Lavranos, Zidek & Ramav.です。また、エニグマティクムはちょっと珍しい発見の経緯がありました。何か資料はないかと探っていたところ、エニグマティクムの命名者らの書いた論文を見つけました。Peter Pavelka, Borivoj Prokes, Vitezslav Vlk, John J. Lavranosによる『Pachypodium enigmaticum -a new species in the Densiflorum complex』です。


Pachypodium enigmaticum
まだ小さい苗です。
早速、論文の内容に入りましょう。
著者らは2003年から8回もマダガスカルでパキポディウムの調査を実施しました。目的の1つは、Pachypodium densiflorumの分布と変動を探ることにありました。P. densiflorumは中央高地の広大な地域に分布しています。
2003年に著者らは、マダガスカルで園芸農園を営むAlfred Razafindratsiaeから、葉が無毛のP. densiflorumを購入しチェコ共和国に持ち帰りました。しかし、驚いたことに、P. densiflorumとおぼしきパキポディウムは、初秋に直径62mmに達する非常に大きな黄花を咲かせたのです。著者らも知らないパキポディウムであり、入手の経緯からして野生個体が存在するのか疑わしいようにも思われました。Razafindratsiaeは野生個体が由来であると主張していましたが、実際にP. densiflorum × P. brevicauleの交雑種は自然界でも発生しているため、交雑の可能性も考えたようです。著者らはP. densiflorumの分布域の西側の境界を3週間かけて探索し、ついにRazafindratsiaeの農園のパキポディウムと同一の個体群を発見しました。そのため、Alfred Razafindratsiaeの農園のパキポディウムの起源は野生個体であり、新種であることが判明しました。種小名の"enigmaticum"は、農園で栽培されている間、このパキポディウムが謎であったことから命名されました。著者らはこの地域を5回訪れましたが、それ以外の地域では発見されておりません。
P. densiflorumは分布が広いため、形態が変化しやすいようです。花が咲くまではP. enigmaticumとP. densiflorumは区別が難しく、日本国内ではP. enigmaticumと偽ったP. densiflorumが流通したこともあるみたいです。著者らはP. enigmaticumの特徴を炙り出すために、良く似たP. densiflorumの特徴をまとめています。著者らの本来の目的がP. densiflorumの分布と変動を探ることにあったわけですから、著者ら以上にP. densiflorumの特徴を述べられる人物は稀でしょう。
さて、P. densiflorumは花色も非常に多様で、北部の個体群は黄色、Itremoの中央部ではオレンジ色、南端のAmbalavao周辺に向かって再び黄色になります。花のサイズも北部では約3.0~3.5cm、Itremoでは2.0~3.0cm、南部では約2.0cmに達します。葉の毛は北部では少なく、Itremoの中央部では葉は楕円形あるいは狭い倒卵形で密に毛があり、南部では葉は倒卵形で毛があります。
P. enigmaticumの花は非常に大きく形状も異なります。P. eburneumやP. graciliusの花は花冠筒はカップ状で雄しべはカップの奥にあります。しかし、P. enigmaticumはは花冠筒が非常に細く(通常3mm)、かつ非常に長く(最大3.5cm)、雄しべは突出します。開花時期も異なり、野生のP. densiflorumやP. brevicauleは10月から12月に開花しますが、野生のP. enigmaticumは6月から7月に開花します。著者らは基本的には花の構造により、P. enigmaticumを新種と考えました。花の構造による分類は植物学の基本ですから、オーソドックスな記載と言えます。
その他の可能性として、P. densiflorum以外のパキポディウムとも比較しています。P. enigmaticumの産地はP. brevicauleと似ており、特に若い苗の頃は茎の形状や葉に毛がないなど良く似ています。しかし、P. brevicauleの花は最大でも3.0cmほどで、花の構造が異なり雄しべは突出しません。
また、その他のパキポディウムと比較しても、類似した種はありません。自然状態では開花時期、生息地、花の構造、さらには花粉媒介者も異なり雑種は見つかりませんでした。
Lüthyによる分類法 : Nesopodium亜属、Gymnopus節、Densiflora列
Holotype : 2003年にAlfred Razafindratsiaeが収集
分布 : マダガスカルの固有種。標高920mのMandoto地区。
以上がエニグマティクムの論文の簡単な紹介でした。まさか、ファームで新種が発見されるとは驚かされますが、まさに原産地ならではの話でしょう。
しかし、私が育てているエニグマティクムはまだ小さい苗ですから、まだまだ花は咲きそうにありません。何年先かわかりませんが、その巨大な花を咲かせてくれる日を楽しみにしています。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村


Pachypodium enigmaticum
まだ小さい苗です。
早速、論文の内容に入りましょう。
著者らは2003年から8回もマダガスカルでパキポディウムの調査を実施しました。目的の1つは、Pachypodium densiflorumの分布と変動を探ることにありました。P. densiflorumは中央高地の広大な地域に分布しています。
2003年に著者らは、マダガスカルで園芸農園を営むAlfred Razafindratsiaeから、葉が無毛のP. densiflorumを購入しチェコ共和国に持ち帰りました。しかし、驚いたことに、P. densiflorumとおぼしきパキポディウムは、初秋に直径62mmに達する非常に大きな黄花を咲かせたのです。著者らも知らないパキポディウムであり、入手の経緯からして野生個体が存在するのか疑わしいようにも思われました。Razafindratsiaeは野生個体が由来であると主張していましたが、実際にP. densiflorum × P. brevicauleの交雑種は自然界でも発生しているため、交雑の可能性も考えたようです。著者らはP. densiflorumの分布域の西側の境界を3週間かけて探索し、ついにRazafindratsiaeの農園のパキポディウムと同一の個体群を発見しました。そのため、Alfred Razafindratsiaeの農園のパキポディウムの起源は野生個体であり、新種であることが判明しました。種小名の"enigmaticum"は、農園で栽培されている間、このパキポディウムが謎であったことから命名されました。著者らはこの地域を5回訪れましたが、それ以外の地域では発見されておりません。
P. densiflorumは分布が広いため、形態が変化しやすいようです。花が咲くまではP. enigmaticumとP. densiflorumは区別が難しく、日本国内ではP. enigmaticumと偽ったP. densiflorumが流通したこともあるみたいです。著者らはP. enigmaticumの特徴を炙り出すために、良く似たP. densiflorumの特徴をまとめています。著者らの本来の目的がP. densiflorumの分布と変動を探ることにあったわけですから、著者ら以上にP. densiflorumの特徴を述べられる人物は稀でしょう。
さて、P. densiflorumは花色も非常に多様で、北部の個体群は黄色、Itremoの中央部ではオレンジ色、南端のAmbalavao周辺に向かって再び黄色になります。花のサイズも北部では約3.0~3.5cm、Itremoでは2.0~3.0cm、南部では約2.0cmに達します。葉の毛は北部では少なく、Itremoの中央部では葉は楕円形あるいは狭い倒卵形で密に毛があり、南部では葉は倒卵形で毛があります。
P. enigmaticumの花は非常に大きく形状も異なります。P. eburneumやP. graciliusの花は花冠筒はカップ状で雄しべはカップの奥にあります。しかし、P. enigmaticumはは花冠筒が非常に細く(通常3mm)、かつ非常に長く(最大3.5cm)、雄しべは突出します。開花時期も異なり、野生のP. densiflorumやP. brevicauleは10月から12月に開花しますが、野生のP. enigmaticumは6月から7月に開花します。著者らは基本的には花の構造により、P. enigmaticumを新種と考えました。花の構造による分類は植物学の基本ですから、オーソドックスな記載と言えます。
その他の可能性として、P. densiflorum以外のパキポディウムとも比較しています。P. enigmaticumの産地はP. brevicauleと似ており、特に若い苗の頃は茎の形状や葉に毛がないなど良く似ています。しかし、P. brevicauleの花は最大でも3.0cmほどで、花の構造が異なり雄しべは突出しません。
また、その他のパキポディウムと比較しても、類似した種はありません。自然状態では開花時期、生息地、花の構造、さらには花粉媒介者も異なり雑種は見つかりませんでした。
Lüthyによる分類法 : Nesopodium亜属、Gymnopus節、Densiflora列
Holotype : 2003年にAlfred Razafindratsiaeが収集
分布 : マダガスカルの固有種。標高920mのMandoto地区。
以上がエニグマティクムの論文の簡単な紹介でした。まさか、ファームで新種が発見されるとは驚かされますが、まさに原産地ならではの話でしょう。
しかし、私が育てているエニグマティクムはまだ小さい苗ですから、まだまだ花は咲きそうにありません。何年先かわかりませんが、その巨大な花を咲かせてくれる日を楽しみにしています。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村
コメント