かつてのHaworthia sensu lato(広義のハウォルチア属)は2013年に分割され、Haworthia sensu stricto(狭義のハウォルチア属)、Haworthiopsis、Tulistaになりました。その中でもツリスタ属はたった4種類から構成されています。その4種類とはTulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingiana、Tulista minorです。ただし、Tulista minorはTulista minimaと呼ばれることもあります。
ここからが本題です。私には以前から疑問に思っていたことがあります。それは、T. minorとT. minimaのどちらを選択するべきかということです。どうやら、近年ではT. minorで統一する流れのようですが、その根拠が今一つわからなかったのです。なぜならば、T. minorもT. minimaも、1789年にAloe margaritiferaの変種として、スコットランドのWilliam Aitonにより命名されました。本来ならば、先に命名された種小名が優先されますが、この場合は同時に命名されています。どちらを優先すべきなのでしょうか? なぜ、T. minorが認めているのでしょうか?
しかし、なんとその答えが書かれた論文を見つけました。是非ご紹介したいのですが、その前にT. minorとT. minimaの命名年表を下記に示します。


1789年 Aloe margaritifera var. minor Aiton
              Aloe margaritifera var. minima Aiton
1809年 Haworthia minor (Aiton) Duval
1812年 
Haworthia minima (Aiton) Haw.
1821年 Apicra minor (Aiton) Steud.
1829年 Aloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.
1891年 
Catevala minima (Aiton) Kuntze
1997年 
Haworthia pumila subsp. minima
                                     (Aiton) Halda
2014年 
Tulista minima
              (Aiton) Boatwr. & J.C.Manning

2018年 Tulista minor
              (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno

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Tulista minor

さて、今日ご紹介する論文は、Gideon F. Smith, Estrela Figueiredo & Steven Moltenoによる2018年の『A new combination in Tulista, T. minor (Alooideae, Asphodelaceae)』です。
1789年にAloe margaritifera var. minorとAloe margaritifera var. minimaを命名したAitonは"minor"と"minima"を別種と認識していました。しかし、どうやら同じ論文の中で命名されたようです。この場合、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」ではどちらを優先すべきか判断出来ません。フランスのHenri August Duvalが"minor"をハウォルチアとしたのは1809年、イギリスのAdrian Hardy Haworthが"minima"をハウォルチアとしたのは1812年ですから、ハウォルチアへの移行は3年の差があります。著者はこの事を重視しているようです。調べたところ、どちらかに正式な学名とすることを初めて公表した著者の意見が優先されるそうです。これは「第一校訂者の原理」と呼ばれます。"minor"の場合はDuvalが第一校訂者となります。よって、ツリスタ属に変更する場合でも、その基礎となる種小名は"minor"となります。

話をまとめます。著者らが主張する学名に使われる種小名"minor"は、1789年にAitonによりAloe margaritifera var. minor Aiton(※Basionym)と命名されました。1809年にDuvalによりHaworthia minor (Aiton) Duval(※Homotypic synonym)とされましたが、著者らはDuvalを第一校訂者として、H. minorを根拠とする
Tulista minor (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno, comb. nov.(※comb. nov.=所属が変更された)としました。ちなみに、他にも種小名"minor"を使用した異名(Homotypic synonym)として、1821年のApicra minor (Aiton) Steudel、1829年の Aloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.が知られています。
また、正統性がなく無効とされる異名(Heterotypic synonym)として、1789年の
Aloe margaritifera var. minima Aiton、 1812年のHaworthia minima (Aiton) Haworth、2014年のTulista minima (Aiton) Boatwright & J.C.Manningが知られています。

補記1 : 同じ著者らの2017年の論文では、ツリスタ属はT. opalinaを含め5種類としていました。しかし、今回ご紹介した2018年の論文ではツリスタ属は4種類とし、T. opalinaを認めるかは議論のあるところであるとしています。T. opalinaを認めるか否か、2017年から2018年の1年で情勢が変わったのかもしれませんね。

補記2 : "minor"は「ミノー」と読むことが一般的ですが、ラテン語の読み方では「ミノル」です。個人的な好みでラテン語読みにこだわっている関係上、「ミノル」と読ませていただきました。
そういえば、"minima"は「小さな」、"minor"は「より小さな」という意味です。初めに"minor"と"minima"を命名したAitonは、大小2つの個体を見て、大きい個体は他種より小さいから"minima"として、それより小さい個体を"minor"と命名したのでしょうかね? 名前のミステリーはまだ未解決かもしれません。



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