ツリスタ属は2016年に認められた、割と新しい分類群です。遺伝子解析の結果からは、ツリスタ属はアストロロバ属やアロエ属から別れたアリスタロエ属・ゴニアロエ属と近縁である事がわかりました。さらに、ガステリア属やハウォルチオプシス属も近縁で、ここら辺も含めと私は好きでチマチマ集めています。そんな中でもツリスタ属は4種類と少なく、産地ごとの個体差が大きくコレクションする楽しみがあります。
本日は今年の五反田TOCで開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手したプミラの変種オウクワエについてです。


DSC_1759
Tulista pumila(ohkuwai) GM 602
Vrede, NW of Anysberg
非常にイボ(結節)が発達しているタイプです。プミラ系の最優美種です。ラベルにはohkuwaiとありますが、正確にはohkuwaeですね。


学名の後の"GM602"は採取情報がわかるフィールド・ナンバーというもので、「採取人+採取番号」の組み合わせからなっています。早速調べてみました。

Field number : GM 602
Collector : Gregorz Matuszewski
Species : Mammillaria meiacantha
Locality : Mexico, Coahuilauila
                          (Huachichil, 2050m)
Date : 2002

なんと、サボテンの情報が出て来てしまいました。ちなみに、"GM 602.1"と"GM 602.2"もありますが、やはり情報はサボテンでした。ただし、採取人のGregorz Matuszewskiは主に北米で活動しているみたいですから、南アフリカ原産のツリスタの採取人としては違和感があります。
とりあえず、"GM"と"Haworthia"で調べると新たな情報が出てきました。

Field number : GM 408
Collecter : J. Gerhard Marx
Species : Haworthia pumila
Locality : Western Cape, South Africa

もちろん、これは"GM 602"の情報ではありませんが、単に「GM」と言った場合にはGregorz Matuszewskiの場合とJ. Gerhard Marxの場合がある事がわかりました。残念ながら"GM 602"の情報は見つかりませんでした。まあ、単純に探し方が悪いだけという可能性もあります。しかし、そもそもフィールド・ナンバーを検索できるサイトは、フィールド・ナンバーを収集しているだけで、すべてのフィールド・ナンバーが登録されているわけではありません。普通に見つからないこともあります。
また、このフィールド・ナンバーからは、他の情報も読み取れます。植物の学名が"Haworthia pumila"となっていますね。当然ながら現在では"Tulista pumila"です。間違っているようにも思えますが、フィールド・ナンバーは採取時点での学名で登録されますから、これで問題ありません。むしろ、学名が変わる度に登録情報を訂正するのは、あまりにも大変です。


さて、では後半の"Vrede, NW of Anythberg"を調べてみましょう。Anythbergは南アフリカ南西部にある地名です。NWはNorth Westですから、Anythbergの町から北西部が採取地名です。北西部にはAnythberg国自然公園がありますが、Vredeは良くわかりません。

さて、ではGM 602を採取したJ. Gerhard Marxとは何者なのでしょうか? 調べてみると、どうやら南アフリカの芸術家とのことです。しかも、ハウォルチアのコレクターで、原産地に自生するハウォルチアの美しい図版を書いています。Gerhard Marxの作出した交配種もあるようです。また、Euphorbia suppressa MarxやEuphorbia audissoui Marxの命名者としても知られています。

さて、ツリスタ属ははじめて命名された時はアロエ属で、やがてハウォルチア属が創設されるとそちらに移り、最終的にツリスタ属となった経緯がありますから、学名(異名)は最低でも3つはあることになります。しかし、産地による個体差が激しいこともあり、それらを別種として命名したりしたこともあり、沢山の異名が付けられてきました。
先ずはプミラの来歴を見てみましょう。これは、変種を含んだプミラ全体の学名です。やはり、アロエ→ハウォルチア→ツリスタという経緯です。しかし、アピクラ属とする意見もありましたが、このアピクラ属は現在は存在しない属名です。また、Aloe arachnoidesの変種とする意見もありましたが、これは現在のHaworthia arachnoideaのことです。また、マキシマという種小名が出てきますが、プミラをマキシマと呼ぶことが結構あります。しかし、マキシマの初命名はプミラの命名の51年後です。学名は先に命名された種小名が優先されるルールですから、当然ながらマキシマは認められません。

1753年 Aloe pumila L.
1789年 Aloe arachnoides var. pumila (L.) Aiton
1804年 Aloe margaritifera var. maxima Haw.
1809年 Haworthia pumila (L.) Duval
              Haworthia maxima (Haw.) Duval
1821年 Apicra maxima (Haw.) Steud.
2013年 Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

いよいよ、変種オウクワエの登場です。2016年にHaworthia sparsaとHaworthia ohkuwaeが、プミラの変種とされました。これにより、変種スパルサ、変種オウクワエ、変種プミラが誕生しました。変種プミラは変種スパルサと変種オウクワエが出来たことにより、その2変種と区別するために出来た名前です。これはプミラに限らず、変種が出来ると自動的に区別するための変種が出来る決まりとなっています。
先ずは基調種である変種プミラの来歴を見てみましょう。いや、先程プミラの学名は見たじゃないかと思われるかもしれませんが、3変種を含んだプミラ全体に対する学名でした。変種プミラは他の変種を含まないため、Tulista pumilaとTulista pumila var. pumilaは同じではないということです。変種プミラの異名は私が確認しただけで23もありました。さすがにすべて書くのも意味がなさそうですから、代表的な異名であるマルガリティフェラ系のみの来歴を見てみましょう。
1840年にはツリスタ属を提唱した
Constantine Samuel Rafinesqueの名前が見えます。この時、ツリスタ属は認められませんでしたが、2013年にGordon Dougles Rowleyがツリスタ属を復活させました。また、この他にも、semimargaritifera系、granata系、semiglabrata系、subalbicans系、papillosa系、corallina系が存在しました。

1753年 Aloe pumila var. margaritifera L.
1768年 Aloe margaritifera (L.) Burm.f.
1811年 Apicra margaritifera (L.) Willd.
1819年 Haworthia margaritifera (L.) Haw.
1840年 Tulista margaritifera (L.) Raf.
1891年 Catevala margaritifera (L.) Kuntze

変種スパルサと変種オウクワエの学名は、最初はハウォルチア属の独立種でしたが、やがてツリスタ属となりプミラの変種とされました。

2006年 Haworthia sparsa M.Hayashi
              Haworthia ohkuwae M.Hayashi
2016年 Tulista pumila var. sparsa
                             (M.Hayashi) Breuer
              Tulista pumila var. ohkuwae
                             (M.Hayashi) Breuer

そう言えば、入手時の名札には"Tulista ohkuwai"とありました。オウクワ"エ"ではなく、オウクワ"イ"です。ネットで検索しても、販売されているものはオウクワイが多いようです。これは、種小名が人名から来ていた場合、語尾が男性なら「-i」、女性なら「-ae」をつけるためです。しかし、人名の末尾が「-a」で終わる場合は、男女関係なく「-e」をつけることになっているため、"ohkuwai"は間違いで"ohkuwae"が正しい学名となります。



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