私はユーフォルビアが好きでチマチマ集めていますが、とにかくユーフォルビアは種類が多く多様なので、今一つ掴み所がないような気がしていました。ではユーフォルビアとは何かと聞かれると、具体的な種類を挙げてみだり、毒があります位しか言えないことに気が付きました。そこで、最近ではユーフォルビアについた書かれた論文を少しずつ読んだりしています。
先週、というか8月22日から30日までの9日間に渡り、ユーフォルビアについての論文の長い紹介をしました。この時紹介したのは、2013年に発表された『
Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文でした。

ただし、この論文はユーフォルビア節(柱サボテン状のユーフォルビア)を中心としたものでしたから、園芸店でよく目にするホリダE. polygona var. horridaや瑠璃晃E. susannae、オベサE. obesa、孔雀丸E. flanaganiiなどのユーフォルビアについては、わずか4種類を調べただけでした。ですからこの部分、つまりはリザンチウム亜属について調べた論文を探していました。
それが、2013年に発表された『A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文です。調べているのは、Subgenus Athymalus、つまりアティマルス亜属です。この場合のSubgenus Athymalus=Subgenus Rhizanthiumのことです。学者によりAthymalusだったりRhizanthiumだったりしますが、この論文ではAthymalusを採用しています。
さて、今日からこの論文の内容を何回かに分けて紹介しようと思います。「ユーフォルビアの系統分類」はその⑨の続きとして、その⑩というナンバリングから開始したいと思います。

では、実際の論文の内容を見てみましょう。
Subgenus Athymalusは約150種で、ほとんどが多肉植物ですが樹木もあります。旧世界の乾燥地に限定して分布します。ほとんどがサハラ以南のアフリカ原産で、マカロネシアと西アフリカ、いくつかはアラビア半島、マダガスカル、23種はアフリカの角付近に固有、72種は南部アフリカ原産です。そのうち、60種は南アフリカの固有種ということです。この論文では、Subgenus Athymalusのうち88種類について、核リボソームITSと葉緑体のndhF領域を分析しました。

Subgenus Athymalusの分子系統
            ┏━━Section Anthacanthae
        ┏┫
        ┃┗━━★⑥Section Balsamis
        ┃
    ┏┫┏━━★⑤Section Somalica
    ┃┃┃
    ┃┗┫┏━★④Section Crotonoides
┏┫    ┗┫
┃┃        ┗━★③Section Lyciopsis
┃┃
┫┗━━━━★②Section Pseudacalypha

┗━━━━━★①Section Antso

一応、用語を説明しておきますが、"Subgenus"は「亜属」のことで、ユーフォルビア属はEsula亜属、Athymalus(=Rhizanthium)亜属、Chamaesyce亜属、Euphorbia亜属にわかれます。"Section"とは「節」をあらわしますが、属の下には亜属、節、亜節、列、亜列と小分類があります。「列」は"Series"ですが、今回の論文では出てきません。

系統図を見るとわかりますが、Section Antsoが根元にあります。Section Somalica、Section Crotonoides、Section Lyciopsisは一つのグループを形成します。Section Anthacanthaeは非常に多様で、5亜節からなります。本日はAnthacanthae節以外について解説させていただきます。


            ┏━━━━━Section Anthacanthae
            ┃
            ┃                ┏E. larica
            ┃            ┏┫
            ┃            ┃┗E. masirahensis
        ┏┫        ┏┫
        ┃┃        ┃┗━E. rubrisemminalis
        ┃┃    ┏┫
        ┃┃    ┃┃┏━E. balsamifera
        ┃┃    ┃┗┫            subsp. adenensis
        ┃┗⑥┫    ┗━E. balsamifera
        ┃        ┃                    subsp. balsamifera
        ┃        ┗━━━E. meuleniana
        ┃
    ┏┫            ┏━━E. hamaderoensis
    ┃┃            ┃
    ┃┃        ┏╋━━E. marie-cladieae
    ┃┃        ┃┃
    ┃┃┏⑤┫┗━━E. socotrana
    ┃┃┃    ┃
    ┃┃┃    ┗━━━E. scheffleri
    ┃┃┃
    ┃┃┃            ┏━E. benthamii
    ┃┗┫        ┏┫
    ┃    ┃        ┃┗━E. crotonoides
    ┃    ┃┏④┫
    ┃    ┃┃    ┣━━E. caperonioides
    ┃    ┃┃    ┃
    ┃    ┃┃    ┗━━E. insarmentosa
    ┃    ┃┃
    ┃    ┗┫        ┏━E. cuneata
    ┃        ┃    ┏┫
    ┃        ┃    ┃┗━E. smithii
┏┫        ┃    ┃
┃┃        ┗③┫┏━E. bongensis
┃┃                ┃┃
┃┃                ┗╋━E. matabelensis
┃┃                    ┃
┃┃                    ┗━E. oatesii
┃┃
┃┃            ┏━━━E. acalyphoides
┫┃        ┏┫
┃┃        ┃┗━━━E. species
┃┃    ┏┫
┃┃    ┃┗━━━━E. hadramautica
┃┗②┫
┃        ┗━━━━━E. longituberculosa

┗━━━━━━①━E. antso


①Section Antso
E. antsoはマダガスカル原産の、半多肉質の樹木です。高さ4-15mとなり、時にわずかに塊茎状となります。

②Section Pseudocalypha
Section Pseudocalyphaはほとんどの種が北東アフリカとアラビア半島原産です。多肉植物を含みます。
E. acalyphoidesはアンゴラ、チャド、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、タンザニア、イエメンの原産です。一年草または亜低木ということです。E. speciesは何のことを言っているのか良くわかりません。"species"はそのまま「種」という意味ですから種小名としては違和感があります。E. hadramauticaはエチオピア、オマーン、ソマリア、ソマリア、イエメンの原産です。ケニアには移入された可能性があります。多肉質の亜低木で、多肉質の幹から波打つ葉を出し、まるでドルステニアのようです。E. longituberculosaは、確かにその名前で流通していますが、『World Checklist of Vascular Plants』ではヒットしません。おそらくは、E. longetuberculosaのことを言っているものと推測します。E. longetuberculosaはジブチ、エチオピア、ケニア、オマーン、ソマリア、イエメンの原産です。多肉質の茎から枝分かれする細い枝を伸ばします。

③Section Lyciopsis
Section Lyciopsisは高さ0.1-5mの低木が多く、北東アフリカとアラビア半島に分布します。
E. cuneataはベナン、チャド、ジブチ、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、ギニア、モザンビーク、ナイジェリア、オマーン、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、タンザニア、トーゴ、イエメンの原産です。細い幹の樹木ですが、塊根があります。E. smithiiはオマーン原産の樹木です。E. bongensisはケニア、ルワンダ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビアの原産の塊根植物です。E. matabelensisはアンゴラ、ボツワナ、ケニア、マラウイ、モザンビーク、ソマリア、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の樹木です。E. oatesiiはザンビア、ジンバブエ原産の塊根植物です。

④Section Crotonoides
Section Crotonoidesは高さ0.5-1.5mの一年草で、茎はたまに木質またはわずかに多肉質です。東アフリカ原産です。
E. benthamiiはアンゴラ、マラウイ、ナミビア、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の一年草です。E. crotonoidesはアンゴラ、ボツワナ、エチオピア、ケニア、マラウイ、モザンビークナミビア、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の一年草です。E. caperonioidesとE. insarmentosaはナミビア原産ですが、情報がありません。

⑤Section Somalica
0.2-8mの樹木で、東アフリカ原産です。
E. hamaderoensisはソコトラ原産ですが、情報がありません。E. marie-cladieaeはソコトラ原産の樹木です。E. socotranaはソコトラ原産の樹木です。E. scheffleriはエチオピア、ケニア、タンザニア、原産の樹木です。ソマリアでは移入された可能性があります。

⑥Section Balsamis
E. laricaはイラン、オマーン、イエメンの原産で、多肉質の棒状の茎を持つ植物(Pencil-stem)で、枝分かれして叢生します。E. masirahensisは調べたところ、現在ではE. laricaと同種とされているようです。E. rubrisemminalisはイエメンの亜低木で、Pencil-stemとされています。E. balsamifera subsp. adenensisは現在では、E. adenensisとして独立しました。オマーン、サウジアラビア、ソコトラ、ソマリア、スーダン、イエメン原産の半多肉植物です。幹が太る。E. balsamifera subsp. balsamiferaはカナリア諸島、モロッコ、西サハラ原産で幹が太る。E. meulenianaはイエメン原産の低木です。E. laricaとE. rubrisemminalisは良く似たPencil-stemですが、非常に系統的に近縁です。葉は非常に小さいのですが、葉の大きいE. balsamiferaやE. meulenianaから進化した可能性があります。

前の論文では園芸店で見る有名種がなかったことから、今回の論文はそこを紹介すると言っておきながら、今日の内容はどうにもそぐわない感じになってしまいました。しかし、切のいいところでまとめようとすると、どうしてもこうなってしまいます。どうか、ご容赦の程を。
明日はオベサやホリダ、バリダ、笹蟹丸などのお馴染みのユーフォルビアが登場します。



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