最近、多肉植物について書かれた学術論文を少しずつ記事にして紹介しています。残念ながら興味を覚える方は少ないようで、あまり受けは良くないみたいですが、懲りずに論文を探しては読んでいます。そんな中、パキポディウムの進化と分類について書かれた論文を見つけましたのでご紹介します。本日は2013年に発表された『Phylogeny of the plant genus Pachypodium (Apocynaceae)』という論文を簡単に解説させていただきます。

パキポディウム属はアフリカ南部とマダガスカルに分布します。この論文では21種類のパキポディウムを調べています。調べたのはリボソームDNAのITS領域と葉緑体DNAのtrn LF領域で、パキポディウム属の系統関係を調べる目的の研究です。
結論はパキポディウムは5つのグループにわかれていることが明らかになったということです。過去に花の構造や形態、分布等の情報からパキポディウム属の分類がなされてきましたが、この論文の解析結果とおおよそ一致していましたが、異なる部分もありました。

今までの分類体系では、まずマダガスカル産のNesopodium亜属とアフリカ大陸産のPachypodium亜属に分けられます。旧・分類体系を示します。この時、"Subgenus"は「亜属」、"Section"は「節」、"Series"は「列」と日本語では訳されるようです。

旧・分類体系
★Subgenus Nesopodium
1, Section Gymnopus
1-1, Series Romasa
    P. brevicaule subsp. brevicaule
    P. brevicaule subsp. leucoxantum
    P. rosulatum subsp. bemarahense
    P. rosulatum subsp. bicolor
    P. rosulatum subsp. cactipes
    P. rosulatum subsp. gracilius 
    P. rosulatum subsp. makayense 
    P. rosulatum subsp. rosulatum
1-2, Series Densiflora
    P. densiflorum
    P. eburneum
    P. horombense
    P. inopinatum
2, Section Leucopodium
2-1, Series Contorta
    P. decaryi
    P. rutenbergianum
    P. sofiense
2-2, Series Ternata
    P. geayi
    P. lamerei
    P. mikea
2-3, Series Pseudoternata
    P. ambongense
    P. menabeum
3, Section Porphyropodium
    P. baronii
    P. windsolii
★Subgenus Pachypodium
    P. bispinosum
    P. namaquanum
    P. saundersii
    P. succulentum

遺伝子解析の結果をまとめたものが、下の分子系統になります。まずは、Section Gymnopusを見てみます。ここからは、論文の解析結果を見ながら、私の個人的な考えをお示しします。というのも、論文では試験方式やデータの処理法方などが議論され、必ずしも分類体系の提唱はされていないからです。ですから、その結果を見た我々が解釈する必要があるのです。

分子系統
        ┏━Section Gymnopus①
    ┏┫
    ┃┗━Section Gymnopus②
┏┫
┃┗━━Section Porphyropodium

╋━━━Section Leucopodium

┣━━━Section African①

┗━━━Section African②

Section Gymnopus①の詳細を見ると、まず気がつくのはP. densiflorumのまとまりのなさです。P. densiflorumは8個体を見ていますが、分布域が広いのが特徴です。P. horombenseに遺伝的に近縁とみられるP. densiflorum6は、実際に採取された地点がP. horombenseの採取された地点に近い個体です。また、P. inopinatumに遺伝的に近縁とみられるP. densiflorum7やP. densiflorum8は、やはり採取地点が近い関係にあります。これをみる限り、本来のP. densiflorumはP. densiflorum1~5であって、P. densiflorum6はP. horombenseのdensiflorumタイプでP. densiflorum7やP. densiflorum8はP. inopinatumのdensiflorumタイプなのではないかと疑わせます。
次はP. brevicauleです。P. brevicaule subsp. brevicauleと白花種のP. brevicaule subsp. leucoxantumの遺伝的位置は近くありません。P. brevicaule subsp. brevicauleはP. densiflorum系統であり、P. brevicaule subsp. leucoxantumはP. inopinatum系統です。
次はP. rosulatum subsp. bicolorですが、他のP. rosulatum系とは乗っている枝が異なり、むしろP. densiflorumやP. brevicauleと近縁に見えます。P. rosulatum系統とするのは無理があるのではないでしょうか? 分布を見ると、P. rosulatum subsp. bicolorはマダガスカル中部で、どちらかと言えばp. densiflorumやP. brevicaule subsp. brevicauleに近く見えます。

Section Gymnopus①
        ┏━━━P. eburneum1
        ┃
        ┃┏━━P. eburneum2
        ┃┃
        ┃┣━━P. brevicaule subsp. brevicaule1
        ┃┃
        ┃┣━━P. brevicaule subsp. brevicaule2
        ┃┃
        ┃┣━━P. brevicaule subsp. brevicaule3
        ┃┃
    ┏╋┫┏━P. densiflorum1
    ┃┃┃┃
    ┃┃┣╋━P. densiflorum2
    ┃┃┃┃
    ┃┃┃┗━P. densiflorum3
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━P. densiflorum4
    ┃┃┃
    ┃┃┗━━P. densiflorum5
    ┃┃
    ┃┃┏━━P. densiflorum6
    ┃┃┃
┏┫┗╋━━P. horombense1
┃┃    ┃
┃┃    ┣━━P. horombense2
┃┃    ┃
┃┃    ┗━━P. horombense3
┃┃
┃┃    ┏━━P. densiflorum7
┃┃    ┃
┃┃┏╋━━P. densiflorum8
┃┃┃┃
┫┣┫┗━━P. inopinatum
┃┃┃
┃┃┗━━━P. brevicaule subsp. leucoxantum
┃┃
┃┗━━━━P. rosulatum subsp. bicolor

┃┏━━━━P. rosulatum subsp. gracilius
┣┫
┃┗━━━━P. rosulatum subsp. gracilius

┣━━━━━P. rosulatum subsp. cactipes

┗━━━━━P. rosulatum subsp. makayense

次にSection Gymnopus②を見てみましょう。P. rosulatum subsp. rosulatumは5個体が非常によくまとまっています。分布はマダガスカル北部です。しかし、Section Gymnopus①のP. rosulatum subsp. makayenceやP. rosulatum subsp. gracilius、P. rosulatum subsp. cactipesはマダガスカル南部に分布し距離があると言えます。この、マダガスカル南部に分布するP. rosulatumの亜種たちは、P. rosulatum系統とするべきではなく、それぞれ独立種とする方が自然に思えます。
また、旧・分類体系のSeries RomasaやSeries Densiflora は、分子系統ではまったく意味をなさない分類となっています。なぜなら、P. rosulatum系がまとまりがないことや、P. brevicaule系はP. rosulatum系ではなくP. densiflorum系に近縁だからです。

Section Gymnopus②
┏━━━Section Gymnopus①

┃    ┏━P. rosulatum subsp. rosulatum1
┃┏┫
┫┃┗━P. rosulatum subsp. rosulatum2
┃┃
┃┣━━P. rosulatum subsp. rosulatum3
┃┃
┗╋━━P. rosulatum subsp. rosulatum4
    ┃
    ┣━━P. rosulatum subsp. rosulatum5
    ┃
    ┗━━P. rosulatum subsp. bemarahense

Section Porphyropodiumは、赤い花を咲かせるパキポディウムです。マダガスカル原産のパキポディウムは基本的に黄花ですから少し違います。外見上はSeries Gymnopusとは葉の形がまったく違います。ただし、Section GymnopusとSection Porphyropodiumは姉妹群です。マダガスカル原産のパキポディウムは、一応は遺伝的にアフリカ大陸産のパキポディウムと区別できることになります。
P. windsoriiはP. baroniiの変種とする考え方もありますが、この結果からだけでは近縁であることしかわかりません。

Section Porphyropodium
┏━━━Section Gymnopus

┫    ┏━P. baronii1
┃┏┫
┗┫┗━P. baronii2
    ┃
    ┃┏━P. windsorii1
    ┗┫
        ┗━P. windsorii2

Section Leucopodiumはどちらかと言えば、縦長に育つタイプです。P. lamereiは7個体を調べていますが、割とまとまっています。P. mikeaはP. lamereiと同じ枝に乗っていますが、P. lamereiとほぼ同種とすべきか、P. lamereiから進化した種類とすべきかはわかりません。とても近縁であることはわかります。
P. lamerei、P. mikea、P. menabeum、P. geayiは姉妹群です。P. lamerei、P. mikea、P. geayiはマダガスカル南部、P. menabeumはマダガスカル中部、P. ambongenseはマダガスカル北部に分布します。
旧・分類体系では、P. decaryi、P. rutenbergianum、P. sofienseはSeries Contrtaとされていますが、分子系統でもこれは支持されています。ただし、それ以外のSeriesは支持されません。P.rutenbergianumとP. sofienseはマダガスカル北部、P. decaryiはマダガスカル最北端に分布します。

Section Leucopodium
                ┏P. lamerei1
                ┃
                ┣P. lamerei2
                ┃
            ┏╋P. lamerei3
            ┃┃
            ┃┣P. lamerei4
            ┃┃
        ┏┫┗P. mikea
        ┃┃
        ┃┃┏P. lamerei5
        ┃┃┃
        ┃┗╋P. lamerei6
        ┃    ┃
    ┏┫    ┗P. lamerei7
    ┃┃
    ┃┃┏━P. menabeum1
    ┃┃┃
    ┃┣╋━P. menabeum2
    ┃┃┃
┏┫┃┗━P. menabeum3 
┃┃┃
┃┃┗━━P. geayi
┃┃
┫┗━━━P. ambongense

┃        ┏━P. decaryi1
┃    ┏┫
┃┏┫┗━P. decaryi2
┃┃┃
┗┫┗━━P. decaryi3
    ┃
    ┣━━━P. rutenbergianum
    ┃
    ┗━━━P. sofiense

Section Africanはアフリカ大陸産のパキポディウムです。
Section African①のP. bispinosumとP. succulentumは近縁で、分布も南アフリカ南部に重なります。P. namaquanumも近縁で、南アフリカとナミビアの国境付近とナミビアの一部に分布します。相対的にはSection African①に所属する種は分布も近いと言えます。
Section African②に所属するP. lealiiとP. saundersiiは分布域が大きく離れています。P. saundersiiは南アフリカ、ジンバブエ、モザンビークの国境付近に分布しますが、P. lealiiはナミビア北部、ボツワナ北部、ナミビアとアンゴラの国境付近に分布が点在します。P. lealiiは分布が点在していてそれぞれが離れていますから、もともとは広い分布域を持っており、徐々に分布が狭くなり残ったのが、現在の点在する分布なのでしょう。

Section African①
    ┏━P. bispinosum
┏┫
┫┗━P. succulentum

┗━━P. namaquanum

Section African②
┏━P. lealii

┗━P. saundersii


いかがだったでしょうか? 意外だった、あるいは実際に育てている実感として近いと思った方もおられるかもしれません。私自身、最新の科学の知見に詳しいわけではなく、勉強しながら論文を探しています。しかし、科学は最新の情報が、あっという間に古臭くなったりしますから、最新情報を追いかけるのは素人の私には難しい部分があります。この記事も、来年頃にはいつの話をしているのか、ずいぶんと古い知識を語っているなぁと評されるかもしれませんね。
それはそうと、実は論文はそのほとんどが一般に公開されており、誰でも読むことが出来ます。研究者は最新の論文を読んで情報を得ますから、科学の発展のためには直ぐに読めることは重要です。そして、科学者か論文を書いた時に、読んで参考とした論文名を最後に一覧の形で表記します。この時にどれだけ多くの論文で引用されたかが、論文の価値を決めます。引用されるということは、多くの研究者が読んで重要と認めた論文という意味ですからね。
しかし、残念ながら一部の論文は、というか一部の論文の掲載紙は有料です。買えばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、タイトルと数行の要約では本当に知りたい内容であるかわかりませんから、購入して読んでみて初めて要不用がわかるわけです。流石に手当たり次第とはいかないもので、手に入る論文だけですが、今後も懲りずに紹介出来ればと考えております。


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