最近、「アロエ・プリカティリス」の名前で、まったくトゲがなく青白いアロエを目にします。"乙姫の舞扇"の名前もありますが、その名前の通り、葉は旋回しないで左右にきれいに別れて並びます。国内では割りと珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っていて入手は容易になってきました。
プリカティリスは2013年にアロエ属から独立し、クマラ属Kumaraとなりました。クマラ属はKumara plicatilis(乙姫の舞扇)とKumara haemanthifolia(眉刷毛錦)の2種類のみからなる分類群です。プリカティリスがアロエから分離した経緯は以下の記事をご参照下さい。

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Kumara plicatilis

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"fun aloe"の名前の通り扇状。"plicatilis"も「折り畳むことが出来る」という意味ですから、扇の様な見た目から来ているみたいですね。

プリカティリスは南アフリカの西ケープ州のいくつかの山に自生し、幹は高さ3~5mになります。プリカティリスの自生地はFranschhoekとElandskloofの間の地域に限定され、17の個体群がそれぞれ10km以上離れて点在するそうです。プリカティリスは水はけの良い弱酸性の岩の多い斜面に生えます。
プリカティリスはフィンボス(南アフリカの灌木植生地域。地中海性気候で冬に雨が多い海岸から山岳までの地域)に生えますが、プリカティリス以外のアロエはほとんど生えません。例外はAloiampelos commixtaやKumara haemanthifoliaです。また、海外の松やアカシアが侵入しているそうですが、それほど増えておらず現状においては、問題になってはいないようです。プリカティリスの最大の脅威は園芸用の採取ですが、それほど盛んではないのか個体数の減少は見られていません。
フィンボスではどうやら山火事が起きるみたいですが、プリカティリスの幹は燃えにくいとされています。環境に対応しているということなのでしょう。

そういえば、プリカティリスは挿し木で増やせるらしいのですが、その事と関連して面白い報告があります。Werner Voigtが2009年に、Goudiniのプリカティリスがケープハイラックスという動物による食害を受けている事を報告しています。ハイラックスはプリカティリスの幹に登り、枝を噛み砕いて水分の豊富な中を食べるそうです。この時に地面に落ちた先端部分は直ぐに根付くそうです。

プリカティリスの花には蜂や甲虫などの昆虫、さらにはタイヨウチョウが蜜を吸いにきて受粉します。昆虫とタイヨウチョウという組み合わせは、アロエ属とクマラ属の共通点ですね。

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いつの間にやら根がはみ出していました。来年は植え替えしないといけませんね。

育てた感想としては、プリカティリスは非常に丈夫で、遮光しなくても日焼けしないし、乾燥にも恐ろしく強い植物だということです。調べたところ、pH5.5~6.5という酸性土壌で育つという情報もありました。普通、酸性土壌と言った場合でも実際は弱酸性のpH6.5から中性が普通ですから、ここまで酸性に耐えられることは珍しく感じます。しかし、私は何も考えないで、適当な用土で植えていて実際に育っているわけですから、そこまでうるさくはないのでしょう。

プリカティリスの学名は2013年に命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyです。プリカティリスがはじめて命名されたのは1753年に命名されたAloe disticha var. plicatilis L.でした。A. distichaは現在のGasteria distichaのことです。しかし、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.と独立しました。つまりは、クマラ属になるまで200年以上アロエ属だったわけです。
これはまったくの余談ですが、Aloe distichaと命名された多肉植物は3種類あります。一つ目は1753年のAloe disticha L.で現在のGasteria disticha (L.) Haw.、二つ目は1768年のAloe disticha Mill.で現在のAloe maculata All.、最後に1785年のAloe disticha Thunb.で現在のGasteria carinata var. thunbergii (N.E.Br.) van Jaarsv.です。混乱の元なので、一応記しておきました。
プリカティリスは異名が沢山ありますが、アロエ属とされた異名は1782年にAloe linguiformis L.f.、1784年にAloe tripetala Medik.、1785年にAloe lingua Thunb.、1796年にAloe flabelliformis Salisb.が命名されています。ここでもややこしいことに、Aloe linguiformis Mill.がGasteria distichaの異名だったり、Aloe linguiformis DCがGasteria carinataの異名だったり、Gasteria distichaやGasteria carinataがかつてはAloe linguaの別の変種扱いされてきたり、なんとも複雑な経緯を辿っています。
また、プリカティリスは現在は存在しないリピドデンドルム属とされたことがあります。1811年に命名されたRhipidodendrum distichum Willd.あるいは1821年に命名されたRhipidodendrum plicatile (L.) Haw.です。リピドデンドルム属はそもそもは、Rhipidodendrum dichotomumつまりはAloidendron dichotomum(=Aloe dichotoma)とプリカティリスのために創設された属名だったりします。



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