最近、ガステリアが気になって仕方ありません。まったくもって、すっかり流行りから外れた感のあるガステリアですが、だからといってその美しさや素晴らしさが減衰したなんてことはありません。そんなこんなで、じわじわガステリアを集めはじめていますが、最近記事にするようになってからは、論文も少し読んだりしています。そんな論文ですが、中々面白いことが書いてあり、特にガステリア・ピランシーの立ち位置が意外と重要かもしれないと考えさせられました。
ガステリア・ピランシーは南アフリカ西部に分布する大型のガステリアです。しかし、遺伝子解析の結果から、ピランシーはガステリア属の中でも系統的には原始的とされています。

ピランシーの苗。
2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、何とガステリア属29種の遺伝子を解析して、系統関係を推測しています。シークエンス解析という遺伝子の配列を読む技術があるのですが、その中でもサンガー法という方法があり、そのサンガー法と新しいシークエンス技術で解析した論文です。ここでは、細かい技術的な話や系統解析の議論は省略して、最終的な結論のみを示します。種と種の関係性と、進化の道筋を示した分子系統です。
南アフリカを大まかに北西部、南西部、南部、南東部、北西部に分けると、それぞれの産地のガステリアは遺伝的に近いことが分かりました。面白いのは、ガステリア属は南アフリカの北西部で生まれて、①→②→③→④→⑤と西から東へ分布を拡げながら東進して様々な種に別れたように見えるのです。この系統の根元にある①北西部産ガステリアとはGasteria pillansiiのことです。
ガステリア属の分子系統
┏━━━━①北西部産ガステリア
┃ (G. pillansii)
┫┏━━━②南西部産ガステリア
┃┃
┗┫┏━━③南部産ガステリア
┃┃
┗┫┏━④南東部産ガステリア
┗┫
┗━⑤北東部産ガステリア
②南西部産ガステリア
┏━━━━━━G. vlokii
┃
┫ ┏━━━━G. koenii
┃┏┫
┃┃┗━━━━G. brachyphylla
┗┫
┃ ┏━━━G. thunbergii
┃┏┫
┃┃┗━━━G. carinata
┗┫ var. glabra
┃
┃┏━━━G. retusa
┗┫
┃┏━━G. carinata
┗┫
┃┏━G. langebergensis
┗┫
┗━G. disticha
③南部産ガステリア
④南東部産ガステリア
⑤北東部産ガステリア
┏━━━━━━━③G. bicolor
┏┫
┃┗━━━━━━━③G. rawlinsonii
┃
┫┏━━━━━━━③G. nitida
┃┃
┃┃ ┏━━━━④G. excelsa
┃┃ ┏┫
┃┃ ┃┗━━━━④G. pulchra
┃┃ ┃
┃┃┏ ┫ ┏━━━━④G. ellaphieae
┃┃┃ ┃ ┃
┃┃┃ ┃ ┃ ┏━━④G. polita
┗┫┃ ┗ ┫┏┫
┃┃ ┃┃┃┏━④G. acinacifolia
┃┃ ┃┃┗┫
┃┃ ┗┫ ┗━④G. barbae
┃┃ ┃
┃┃ ┃┏━━④G. armstrongii
┗┫ ┗┫
┃ ┃┏━④G. glauca
┃ ┗┫
┃ ┗━④G. glomerata
┃
┃ ┏━━━━⑤G. croucheri
┃┏┫
┃┃┗━━━━⑤G. loedolffiae
┗┫
┃┏━━━━⑤G. tukhelensis
┗┫
┃┏━━━⑤G. batesiana
┗┫ var. batesiana
┗━━━⑤G. batesiana
var. dolomitica
論文の内容はここまでとして、ピランシーの自生地の情報を調べて見ました。
ピランシーは"Namaqua gasteria"の名前の通り、ナマクアランドに生えます。分布で言うと、南アフリカとナミビア最西端です。ピランシーはアフリカ西岸に生える唯一のガステリアで、また冬に雨季がある地域なんだそうです。夏は40℃に達します。
ピランシーはナマクアランドの海岸の断崖から標高1000mまで見られ、低木の下や岩陰に生えます。pHは6.8~7.8ですから、どちらかと言えば弱アルカリ性で育つと言えます。
自生地では、根元から子を吹いて約150個体が密集して1mほどの塊となるそうです。
Clanwilliamの南では、Diospyros ramulosa(柿の仲間)やMontinia caryophyllacea(乾燥地の低木)の陰にピランシーは生え、Lampranthus thermarum(マツバギクの仲間)やTylecodon paniculatus("阿房宮")、Tylecodon reticulatus("万物想")、Cotyledon orbiculata、Stapelia hirsuta、Prenia pallensがともに生えます。
Port Nolloth地域のOograbies山では、ピランシーはTylecodon racemosusやTylecodon similis、Tylecodon schaeferianus("群卵")、Haworthia arachnoidea、Crassula hemisphaerica("巴")、Crassula columella、Conophytum stephaniiなどが生える、世界有数の多肉植物の産地に生えます。しかし、これだけ分布域が広く、しかも個体数が多いためまったく保護の必要はないとのことです。
ピランシーの学名は1910年に命名されたGasteria pillansii Kensitです。Kensitは南アフリカの植物学者、分類学者のHarriet Margaret Louisa Bolusです。Kensitは旧姓で、一般にはL.Bolusの略名で知られているかもしれません。L.Bolusはアフリカ多肉植物協会の副会長や南アフリカ王立協会のフェローなど歴任し、大変な業績のある人物のようです。
また、ピランシーには1929年に命名されたGasteria neliana Poellnという異名があります。
ピランシーには変種があり、2007年に命名されたGasteria pillansii var. hallii van Jaarsv.と、1992年に命名されたGasteria pillansii var. ernesti-ruschii (Dinter & Poelln.) van Jaarsv.があります。var. ernesti-ruschiiは1938年に命名された時はGasteria ernesti-ruschii Dinter & van Jaarsv.でしたが、現在はピランシーの変種となりました。
G. pillansii var. halliiは、Port Nolloth近くのOograbies山、G. pillansii var. ernesti-ruschiiはナミビア極北から知られています。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村
ガステリア・ピランシーは南アフリカ西部に分布する大型のガステリアです。しかし、遺伝子解析の結果から、ピランシーはガステリア属の中でも系統的には原始的とされています。

ピランシーの苗。
2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、何とガステリア属29種の遺伝子を解析して、系統関係を推測しています。シークエンス解析という遺伝子の配列を読む技術があるのですが、その中でもサンガー法という方法があり、そのサンガー法と新しいシークエンス技術で解析した論文です。ここでは、細かい技術的な話や系統解析の議論は省略して、最終的な結論のみを示します。種と種の関係性と、進化の道筋を示した分子系統です。
南アフリカを大まかに北西部、南西部、南部、南東部、北西部に分けると、それぞれの産地のガステリアは遺伝的に近いことが分かりました。面白いのは、ガステリア属は南アフリカの北西部で生まれて、①→②→③→④→⑤と西から東へ分布を拡げながら東進して様々な種に別れたように見えるのです。この系統の根元にある①北西部産ガステリアとはGasteria pillansiiのことです。
ガステリア属の分子系統
┏━━━━①北西部産ガステリア
┃ (G. pillansii)
┫┏━━━②南西部産ガステリア
┃┃
┗┫┏━━③南部産ガステリア
┃┃
┗┫┏━④南東部産ガステリア
┗┫
┗━⑤北東部産ガステリア
②南西部産ガステリア
┏━━━━━━G. vlokii
┃
┫ ┏━━━━G. koenii
┃┏┫
┃┃┗━━━━G. brachyphylla
┗┫
┃ ┏━━━G. thunbergii
┃┏┫
┃┃┗━━━G. carinata
┗┫ var. glabra
┃
┃┏━━━G. retusa
┗┫
┃┏━━G. carinata
┗┫
┃┏━G. langebergensis
┗┫
┗━G. disticha
③南部産ガステリア
④南東部産ガステリア
⑤北東部産ガステリア
┏━━━━━━━③G. bicolor
┏┫
┃┗━━━━━━━③G. rawlinsonii
┃
┫┏━━━━━━━③G. nitida
┃┃
┃┃ ┏━━━━④G. excelsa
┃┃ ┏┫
┃┃ ┃┗━━━━④G. pulchra
┃┃ ┃
┃┃┏ ┫ ┏━━━━④G. ellaphieae
┃┃┃ ┃ ┃
┃┃┃ ┃ ┃ ┏━━④G. polita
┗┫┃ ┗ ┫┏┫
┃┃ ┃┃┃┏━④G. acinacifolia
┃┃ ┃┃┗┫
┃┃ ┗┫ ┗━④G. barbae
┃┃ ┃
┃┃ ┃┏━━④G. armstrongii
┗┫ ┗┫
┃ ┃┏━④G. glauca
┃ ┗┫
┃ ┗━④G. glomerata
┃
┃ ┏━━━━⑤G. croucheri
┃┏┫
┃┃┗━━━━⑤G. loedolffiae
┗┫
┃┏━━━━⑤G. tukhelensis
┗┫
┃┏━━━⑤G. batesiana
┗┫ var. batesiana
┗━━━⑤G. batesiana
var. dolomitica
論文の内容はここまでとして、ピランシーの自生地の情報を調べて見ました。
ピランシーは"Namaqua gasteria"の名前の通り、ナマクアランドに生えます。分布で言うと、南アフリカとナミビア最西端です。ピランシーはアフリカ西岸に生える唯一のガステリアで、また冬に雨季がある地域なんだそうです。夏は40℃に達します。
ピランシーはナマクアランドの海岸の断崖から標高1000mまで見られ、低木の下や岩陰に生えます。pHは6.8~7.8ですから、どちらかと言えば弱アルカリ性で育つと言えます。
自生地では、根元から子を吹いて約150個体が密集して1mほどの塊となるそうです。
Clanwilliamの南では、Diospyros ramulosa(柿の仲間)やMontinia caryophyllacea(乾燥地の低木)の陰にピランシーは生え、Lampranthus thermarum(マツバギクの仲間)やTylecodon paniculatus("阿房宮")、Tylecodon reticulatus("万物想")、Cotyledon orbiculata、Stapelia hirsuta、Prenia pallensがともに生えます。
Port Nolloth地域のOograbies山では、ピランシーはTylecodon racemosusやTylecodon similis、Tylecodon schaeferianus("群卵")、Haworthia arachnoidea、Crassula hemisphaerica("巴")、Crassula columella、Conophytum stephaniiなどが生える、世界有数の多肉植物の産地に生えます。しかし、これだけ分布域が広く、しかも個体数が多いためまったく保護の必要はないとのことです。
ピランシーの学名は1910年に命名されたGasteria pillansii Kensitです。Kensitは南アフリカの植物学者、分類学者のHarriet Margaret Louisa Bolusです。Kensitは旧姓で、一般にはL.Bolusの略名で知られているかもしれません。L.Bolusはアフリカ多肉植物協会の副会長や南アフリカ王立協会のフェローなど歴任し、大変な業績のある人物のようです。
また、ピランシーには1929年に命名されたGasteria neliana Poellnという異名があります。
ピランシーには変種があり、2007年に命名されたGasteria pillansii var. hallii van Jaarsv.と、1992年に命名されたGasteria pillansii var. ernesti-ruschii (Dinter & Poelln.) van Jaarsv.があります。var. ernesti-ruschiiは1938年に命名された時はGasteria ernesti-ruschii Dinter & van Jaarsv.でしたが、現在はピランシーの変種となりました。
G. pillansii var. halliiは、Port Nolloth近くのOograbies山、G. pillansii var. ernesti-ruschiiはナミビア極北から知られています。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村
コメント