先週、Gasteria glomerataについての記事をまとめました。その記事のコメント欄で、Gasteria batesiana var. dolomiticaについてリクエストがありました。
調べてみますと中々面白いガステリアであることは分かりました。しかし、私自身はドロミチカを育てておりませんから、写真もないし記事としてはややつまらないのではと思いまして、ガステリアについて書かれた論文の軽い紹介も含め一つの記事とさせていただきます。

バテシアナとドロミチカ
さて、ドロミチカの基本情報の紹介です。しかし、ドロミチカはバテシアナの変種ですから、バテシアナについても解説します。そういえばバテシアナは「春鶯囀」なる名前がつけられていますね。
ここで一つ注意しなければならないことがあります。Gasteria batesianaは、Gasteria batesiana var. batesianaのことを言っている場合と、G. batesiana var. batesianaとG. batesiana var. dolomiticaを合わせた総称のことを言っている場合があります。学術的には単にGasteria batesianaと書いた場合は変種も全て含めた総称ですが、園芸的・あるいは趣味家がGasteria batesianaと書いた場合はvar. batesianaのことを言っています。ですから、園芸的には、春鶯囀=G. batesiana var. batesianaと、G. batesiana var. dolomiticaがあって区別しますが、var. batesianaは省略されて単にG. batesianaと表記されてしまいます。実にややこしいですね。
ですから、ここで言うバテシアナはvar. batesianaとvar. dolomiticaを合わせた解説と思って下さい。

分布域
バテシアナの分布はKwaZulu-Natal北部のTukhela (Tugela) riverの北部からLimpopo州のOlifants riverまでの内陸部の断崖の東側に自生します。実はバテシアナはガステリア属の中で最も北に自生する種であることが知られています。その中でもドロミチカはMpumalangaの切り立ったドロマイトの崖に自生しますが、ドロミチカはバテシアナの中でも自生地は最北端にあるとのことです。

ドロマイトについて
ここで一つドロマイトについて、考えたいことがあります。ドロマイトは苦灰石あるいは白雲石と呼ばれますが、苦灰石の苦(苦土)=マグネシウム、灰(石灰)=カルシウムを示しています。つまり、ドロマイトはマグネシウムとカルシウムを含んだ鉱物であるということです。ドロマイトはカルシウムを含むためアルカリ性ですが、このアルカリ性かつマグネシウムを含むという特徴はかなり重要なことに思えるのです。

畑に野菜などを作る時に石灰を撒きますが、あれは酸性に傾きすぎた土をアルカリ性で中和するためです。別に土をアルカリ性にしているわけではありません。微生物の働きで酸が出来ます。さらに、植物の根からも酸が出ますから、土はやがて酸性が強くなり、植物の栽培に適さなくなります。ですから、石灰を撒くわけです。
ただし、水田に鉄分とケイ素補給のために撒く「ケイカル」を畑に撒くと、土は何年もアルカリ性になります。しかし、土がアルカリ性だと何故か作物の出来がいまいちとなり勝ちでした。その原因は、アルカリ性だとマグネシウムの吸収が悪くなるためと考えられています。

現在戦火に見舞われているウクライナは昔から優れた穀倉地帯として有名ですが、土壌はアルカリ性です。何故、作物が育つのでしょうか。それは土壌にマグネシウムが豊富に含まれているからです。日本の土壌はミネラルが余りありませんから、マグネシウムを畑に撒けばアルカリ性でも問題なく作物は育ちます。話をまとめると、土壌がアルカリ性だとマグネシウムの吸収を阻害するものの、マグネシウムが豊富なら問題はないということです。

よって、ドロマイトはアルカリ性ですが、マグネシウムを含むためドロミチカは生育できるのではないかということです。ドロミチカの栽培はアルカリ性にした方が良いかは分かりませんが、もし石灰を撒いてアルカリ性にするならば、マグネシウムもあった方が良いいと思います。やはり、ただの石灰ではなくマグネシウムが豊富な苦土石灰が良いのではないでしょうか? 苦土石灰は苦土=マグネシウム、石灰=カルシウムですが、これは苦灰石(ドロマイト)と同じですね。調べたところ、なんと苦土石灰はドロマイトを粒状に加工したものとのことです。苦土石灰を与えることが、ドロミチカの生育にプラスになるかもしれません。


保全状況
学術調査によるとバテシアナは自生地では非常に希な植物とのことです。しかし、現地ではバテシアナは薬用植物として利用されています。詳細は書かれていませんでしたが、ただの薬草ではなく呪術的な意味合いがあるようです。アフリカには呪術医(ウイッチドクター)がおり、未だに幅を利かせていますからね。まあ、それでもバテシアナは崖に生えますから、採取できない高さにあるものは無事とのことです。いずれにせよ、珍しい植物であることは間違いありません。

新しい論文
ガステリア属は見分けるべき特徴が少なく、皆良く似ているため、学者泣かせの植物です。生長に伴い葉の形が変わったりもしますから、その分類や系統関係の推測はさらに難しいものとなっています。
2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、何とガステリア属29種の遺伝子を解析して、系統関係を推測しています。ただし、この論文は100ページを超える大部なもので、まだ全てを読めてはいません。とりあえず、バテシアナについてのみ見てみると、以下の様な系統となっています。


        ┏━━G. batesiana
    ┏┫            var. dolomitica
    ┃┗━━G. batesiana
┏┫                var. batesiana
┃┗━━━G. tukhelensis

┃┏━━━G. croucheri
┗┫
    ┗━━━G. loedolffiae

この系統図を見た時に、おやっと思いました。南アフリカの東側のガステリアの分布と、分子系統がぴったり合っているからです。南アフリカのガステリアは東側では、G. loedolffiae→G. croucheri→G. tukhelensis→G. batesiana→G. batesiana var. dolomiticaという順番で北東に並ぶように分布します。どうやら、南アフリカの南端から東側にガステリア属が分布を拡げたようです。現在、その最先端がドロミチカと言えるのかもしれません。

鳥媒花
ガステリア属は鳥に花粉を運んでもらう鳥媒花です。それは、ドロミチカも同様です。花粉を運ぶのは、蜜を吸いにくるタイヨウチョウです。ちなみに、タイヨウチョウは南アフリカに21種類いるそうです。

面白い増えかた
ドロミチカは葉先が土に触れると、なんと葉先から子を吹く性質があります。葉が反り返る形状からして、地面に葉先が触れる事が多いのかもしれません。根元からのみ子吹きするよりも、少し離れた場所に新しい株が定着すれば、分布を拡大するに当たって有利なのでしょう。

学名
バテシアナの学名は1955年に命名されたGasteria batesiana G.D.Rowleyです。ドロミチカは1999年に命名されたGasteria batesiana var. dolomitica van Jaarsv. & A.E.Wykです。命名者はともに南アフリカの植物学者であるErnst van JaarsveldとAbraham Erasmus van Wykです。 



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