ツリスタをご存知ですか?
ツリスタ属Tulistaは2013年にハウォルチアから分離されて出来ました。かつてはハウォルチアの中でも硬葉系ハウォルチアと呼ばれる仲間の一員でした。しかし、ツリスタ属自体が新しいこともあり、それほど浸透しておりません。今でもハウォルチアとして販売されています。そんな、ツリスタについて調べてみましたので、ご紹介します。

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Tulista minor 
      (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno
※swellens


ツリスタ収集中
そんなツリスタですが、ツリスタ属自体が有名ではないのと、ハウォルチア時代から元々人気があったわけではないので、ネット検索してもあまり情報はありません。「ツリスタ」で検索すると、まず釣りのゲームが出て来てしまうほどです。むしろ、"Tulista"で検索して海外のサイトを見た方が情報が出て来ます。
私はかつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスHaworthiopsisとツリスタTulistaは個人的に大好きで、じわじわ集めています。特に渋いツリスタはあまり販売していないこともあって、出会ったら優先的に購入するようにしています。
しかし、ツリスタは残念ながら大人気というわけではないので、入手が中々困難です。まあ、ネットで探せば入手可能でしょうが、私はあえてネットでの多肉植物の購入に制限をかけていて、イベントや園芸店で直接見て手にしたものだけを購入することにしています。これは、実際に見ないと品質がとかネット詐欺がとかではなく、ネット通販に手を出したら際限なく買ってしまいそうだからです。そうでなくても置き場が狭いのに、買うだけ買って育てられないでは困りますから。とはいえ、イベントで実物を手にとって見るのがとても楽しくて好きだからということも大事な理由ですけどね。

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Tulista marginata
                (Lam.) G.D.Rowley


ツリスタの復活
ツリスタは基本的にはじめに命名された時はアロエで、次はハウォルチアとされ、最後にツリスタという経緯をたどってきました。それぞれの属の創設年は以下の通りです。
1753年 Aloe L.
1809年 Haworthia Duval
1840年 Tulista Raf.
では、1840年にツリスタが誕生したのかというと、実のところ異なります。ツリスタ属の命名者であるRaf.は、オスマン帝国生まれでアメリカで活動し、独学で多くの動植物を命名したConstantine Samuel Rafinesqueのことです。しかし、Rafinesqueの業績は生前アカデミアで評価されませんでした。ですから、ツリスタ属は1840年に提唱されたものの、認められていなかったのです。この忘れ去られたツリスタを復活させたのが、ハウォルチオプシスをハウォルチアから独立させたGordon Dougles Rowleyです。Rowleyはサボテン・多肉植物を専門とする、イギリスの植物学者兼作家です。Rowleyは2013年にハウォルチアからハウォルチオプシスとツリスタを分けましたが、Rafinesqueが命名されたものの認められなかったツリスタを復活させました。
Rafinesqueがツリスタを命名した時に、どのような種を含んでいたのかはよくわかりませんが、Tulista margaritifera=Tulista pumilaは確認しています。ただ、Rowleyはツリスタ属をかなり幅広く採用したようで、旧アロエ属であるGonialoe3種とAristaloe1種、さらにHaworthiopsis(当時はHaworthia)7種、Astroloba7種を含んでいました。しかし、当時ツリスタとされたハウォルチオプシスのうち2種類と後に追加された2種類だけが、現在では正当なツリスタ属所属とされております。

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Tulista pumila var. ohkuwae
                       (M.Hayashi) Breuer


ツリスタの遺伝子解析
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文では、アロエやハウォルチアの遺伝子解析を行っています。論文によると、ツリスタ属はゴニアロエ属(千代田錦)、アリスタロエ属(綾錦)、アストロロバ属に近いとされています。G.D.Rowleyがツリスタ属にゴニアロエやアリスタロエ、アストロロバを入れたのは、それほど検討違いではなかったというか、どの範囲までがツリスタ属かというどこで線を引くかという問題に過ぎないのかもしれません。
この論文ではツリスタはまだハウォルチアとして扱われていますが、T. marginata、T. kingiana、T. pumilaはよくまとまったグループとなっています。ツリスタはハウォルチア(軟葉系ハウォルチア)とはそれほど遺伝的に近くはなく、Tulista + Gonialoe + Aristaloe + Astrolobaというグループと、Gasteria + Haworthiopsis(硬葉系ハウォルチア)のグループが姉妹群を形成しています。この論文自体、なかなか面白い内容なので、そのうち記事にしてご紹介できればと考えております。


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Tulista pumila
                 (L.) G.D.Rowley

ツリスタの学名
現在認められているツリスタ属に所属する種は、4種類です。命名が早い順に見ていきましょう。

プミラ Tulista pumila
プミラの学名は1753年に命名されたAloe pumila L.から始まります。最初はアロエ属とされました。まあ、しかしツリスタ、ハウォルチオプシス、アストロロバあたりは、属が創設されるまではアロエ属の所属されるのというのは良くある話です。アロエ属の創設が1753年ですから、プミラはアロエの創設メンバーでした。1789年には、Aloe arachnoides var. pumila (L.) Aitonという学名もありましたが、どの程度浸透して認められた学名であるかはわかりません。ちなみに、Aloe arachnoidesとは、現在のHaworthia arachnoideaのことです。
さらに、1809年にはHaworthia pumila (L.) Duvalとされました。アロエからハウォルチアに移動しましたが、なんと1809年はハウォルチア属の創設の年です。プミラはアロエ属に続いて、ハウォルチア属の創設メンバーでもあるわけです。
そして、2013年にはついにTulista pumila (L.) G.D.Rowleyと命名されました。お察しのように、プミラはツリスタ属でもその創設メンバーです。

ちなみに、プミラには2つの変種が認められております。2006年に命名されたHaworthia sparsa M.HayashiHaworthia ohkuwae M.Hayashiがあり、現在ではいずれもプミラの変種とされています。つまり、2016年に命名されたTulista pumila var. sparsa (M.Hayashi) BreuerTulista pumila var. ohkuwae (M.Hayashi) Breuerです。
 
プミラには異名が沢山あり、代表的なものとしてマルガリティフェラ系とセミグラブラタ系、セミマルガリティフェラ系があります。
マルガリティフェラ系は、1753年にAloe pumila var. margaritifera L.としてプミラの変種とされました。しかし、1768年にはAloe margaritifera (L.) Burm.f.とされ独立しましたが、1811年にApicra margaritifera (L.) Willd.、1819年にはHaworthia margaritifera (L.) Haw.、1840年にTulista margaritifera (L.) Raf.、1891年にはCatevala margaritifera (L.) Kuntzeとされましたが、現在ではプミラと同一種とされています。


②マルギナータ Tulista marginata
マルギナータの学名は1783年に命名されたAloe marginata Lam.から始まります。1891年にはCatevala marginata (Lam.) Kuntze、1938年にはHaworthia marginata (Lam.) Stern、そして最終的には2013年命名のTulista marginata (Lam.) G.D.Rowleyとなりました。

マルギナータには異名があり、代表的なものとしてアルビカンス系とヴィレスケンス系があります。アルビカンス系は、1804年のAloe albicans Haw.、1811年のApicra albicans (Haw.) Willd.、1812年のHaworthia albicans (Haw.) Haw.です。ヴィレスケンス系は1821年のHaworthia virescence Haw.、1829年のAloe virescence (Haw.) Schult. & Schult.f.です。


③ミノル(ミノー) Tulista minor
ミノルの学名は1789年に命名されたマルガリティフェラ(=プミラ)の3つの変種として始まりました。つまり、1789年に命名されたAloe margaritifera var. minor AitonAloe margaritifera var. minima AitonAloe margaritifera var. majorです。
ミノル系は1809年にはHaworthia minor (Aiton) Duval、1821年にはApicra minor (Aiton) Steud.1829年に命名されたAloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.、そして2018年にTulista minor (Aiton) Gideon F.Sm & Moltenoとされました。

実はミノル以外もしばらくは独立種として、ミノルと平行して学名は変遷しました。
ミニマは1812年にはHaworthia minima (Aiton) Haw.、1891年にはCatevala minima (Aiton) Kuntze
1997年にはHaworthia pumila subsp. minima (Aiton) Halda
2014年にはTulista minima (Aiton) Boatwr. & J.C.Manningとされました。
マイヨル(マジョール)は1809年には、Haworthia major (Aiton) Duvalとされたました。しかし、ミニマもマイヨルも、ミノルと同種であるとして異名となりました。

ミノルにはその他にも沢山異名がありますが、有名な所ではマキシマとオパリナがあります。
マキシマは1804年にAloe margaritifera var. maxima Haw.、1809年にはHaworthia maxima (Haw.) Duval、1821年にApicra maxima (Haw.) Steud.となりました。
オパリナは2001年にHaworthia opalina M.Hayashi、2016年にはTulista opalina (M.Hayashi) Breuerとなりました。

※ミノルとかマイヨルとか読み方に違和感があるかもしれませんが、学名はラテン語ですからラテン語読みしています。悪しからず。

④キンギアナ Tulista kingiana
キンギアナは1937年に命名されたHawortha kingiana Poelln.から始まりました。1997年にはプミラの変種とするHaworthia pumila var. kingiana (Poelln.) Halda、そして2017年にTulista kingiana (Poelln.) Gideon F.Sm & Moltenoとなりました。

ちなみに、2001年に命名されたHaworthia zenigata M.Hayashiは、2016年にTulista opalina var. zenigata (M.Hayashi) Breuerとされましたが、現在ではゼニガタはキンギアナに含まれると考えられているようです。

旧・ツリスタの構成員
2013年にG.D.Rowleyがツリスタ属を復活させた時、アストロロバやハウォルチオプシスも混じっていました。今ではツリスタの所属ではありませんが、その時の構成員を紹介します。
2013年 
Astroloba rubriflora, Astroloba bullulata, Astroloba congesta, Astroloba corrugata, Astroloba foliolosa, Astroloba herrei, Astroloba spiralis, Haworthiopsis koelmaniorum, Haworthiopsis pungens, Haworthiopsis viscosa, Aristaloe aristata
2014年 ゴニアロエを追加
Gonialoe variegata, Gonialoe dinteri, Gonialoe sladeniana


終わりに
いかがでしょうか。たった4種類のツリスタ属にもこれだけの歴史があるのです。それを沢山の研究者たちが、長い年月意見を戦わせてきたわけです。
ちなみに、学名の中でアピクラ属やカテバラ属という属名が出て来ますが、これらは現在は使用されない幻の学名です。学術史に埋もれた旧学名にも様々なドラマがあったのかもしれません。
地味で人気があるとは言えない多肉植物でも、調べると思う以上に色々なことがわかります。こういう多肉植物の楽しみかたもあるのです。ホームセンターや百均で買ったミニ多肉にも、長く複雑な研究史があるのかもしれません。皆さんも一つ調べてみてはいかがでしょうか?



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