植物は葉緑体を持ち光合成をします。光合成は植物の基本的なエネルギー獲得システムであり、植物の緑色や赤色は葉緑体に含まれる光合成色素の色が現れたものです。そんな植物の中でも、乾燥地に生える多肉植物は、特別な光合成システムを獲得しています。簡単に解説して行きます。
180218_124304

光合成の基本システムとC3植物
まず、光合成を簡単に説明します。水と光エネルギーからNADPに水素をつけてNADPHとする光化学系Iと、ADPにリン酸をつけてATPとする光化学系IIがあり、副産物としてできる酸素を放出します。この、光と水からNADPHとATPを作る反応を明反応と言います。さらに、NADPHとATPのエネルギーを用いて、二酸化炭素をカルビン・ベンソン回路に取り込んで、ブドウ糖を合成する反応を暗反応と言います。この時に光が必要なのは明反応で、暗反応は明反応で作られたNADPHとATPがあれば光がなくても作動します。これが光合成の基本ですが、二酸化炭素がカルビン・ベンソン回路に入ると3個の炭素からなる物質に変換されることから、このシステムで光合成する植物をC3植物と言います。日本に生える植物の多くはC3植物です。
120430_173543

呼吸
注意が必要なのは、光合成で作られたブドウ糖はそのままではエネルギーにはならないということです。ブドウ糖は呼吸により最終的にATPに変換されます。ATPは植物でも動物でも共通のエネルギー源です。ブドウ糖を解糖系によってピルビン酸に変換し、アセチルCoAとなりクエン酸回路に入ってNADとFADに水素が渡されて、NADHとFADHとなります。この時に副産物として二酸化炭素が出来ます。水素伝達系によりNADHやFADHの水素が水と酸素と反応して、大量のATPが合成されます。
動物の呼吸は酸素を吸って二酸化炭素を出しますが、これはATPを合成するために呼吸していることになります。

120430_173621

気孔と乾燥
光合成をする時の酸素の放出や二酸化炭素の取り込みは、葉の表面にある気孔と呼ばれる開閉する穴で行われます。しかし、乾燥地に生えることが多い多肉植物は、二酸化炭素を取り込むために頻繁に気孔を開くと、水分まで失われてしまいます。これを防ぐために、C3植物とは異なるシステムを進化させたものもあります。それは、C4植物とCAM植物です。
07-04-22_15-20

C4植物
C4植物は、取り込んだ二酸化炭素を炭素が4つの物質に変換するC4回路があります。そのC4回路からカルビン・ベンソン回路に炭素が渡されて、最終的にブドウ糖を合成します。C4回路は低濃度の二酸化炭素でも働き、二酸化炭素を濃縮します。そのため、高温・乾燥時に気孔を閉じたまま、二酸化炭素不足にならないで光合成を効率的に行うことが出来ます。
では、C4植物はC3植物よりも有利なのではないかと考えてしまいますが、必ずしもそうとは言えません。C4植物は二酸化炭素を固定するのにC3植物よりも多くのエネルギーが必要なため、日本の様な温帯域ではC3植物の方が有利でしょう。特に太陽光が届きにくい林床などの日陰~半日陰の環境では、C4植物は圧倒的に不利です。あくまでも、C4植物は高温や乾燥に適応した方法なのです。
C4植物は必ずしも多肉植物ではありませんが、イネ科、カヤツリグサ科、アカザ科、トウダイグサ科(Euphorbia)やヒユ科、キク科(Othonna、Senecio)が代表格です。しかし、トウダイグサ科はC3、C4、CAM植物を含むなど、必ず分類群ごとに別れているわけではないので注意が必要です。
DSC_1314

CAM植物
CAM植物はサボテン科やパイナップル科(Tillandsia、Dyckia)で見られる乾燥に耐性を持つ植物に特有の光合成の方式です。ベンケイソウ科(Adromischus、Aeonium、Curassula、Dudleya、Echeveria、Sedum、Sempervivum)で典型的に見られるためベンケイソウ型有機酸代謝といわれ、頭文字をとってCAM(Curassulacean Acid Metabolism)植物と呼びます。また、CAM植物はマダガスカル島の植物に多いと言われているそうです。
基本的にCAM植物はC4植物と同じで、二酸化炭素をC4回路に取り込みます。CAM植物では日中は気孔を閉じて、気温が下がる夜間に気孔を開きます。そして、二酸化炭素をC4回路に取り込んで、リンゴ酸を合成します。このリンゴ酸は液胞に貯蔵されます。夜間も乾燥する場合は気孔を閉じて、呼吸により出された二酸化炭素を使ってリンゴ酸を合成します。最後は貯蔵されたリンゴ酸の炭素を用いてカルビン・ベンソン回路が働きます。
ちなみに、多肉植物の葉が分厚く水分を溜め込んでいるのは、リンゴ酸を液胞に貯蔵するためでもあるわけですが、あまり知られていない様に思われます。
この様にCAM植物はC4植物よりも水分の損失が少なく、乾燥への耐性が強いと言えます。しかし、最大光合成速度は小さく、CAM植物の生長は遅いとされます。ただし、ベンケイソウ科植物は、あまり乾燥していない場合にはC3植物の様に、直接カルビン・ベンソン回路に二酸化炭素を供給することもあり、必ずしも生長が遅いとは限りません。
120714_083143

おわりに
光合成は寄生性や腐生性のもの意外のほとんどの植物にとって、その生の根幹を司るものです。ですから、光合成のシステムは植物好きならば知っていて当然とは言いませんが、知っておいてもいいのではないでしょうか。例えば光合成を促進するために、一日中光を当てていれば、それだけ植物は良く育つのかというと、そうは上手くいきません。もう、お分かりですよね?
植物についてそのメカニズムまで知ることは、意外と植物栽培に有用だったりします。例えば葉や根、茎の役目は何か、知ることはとても重要です。根毛は水分や栄養の吸収のためにありますが、太い根は水分や栄養の吸収には、まったく関係がないことはご存知ですか? ではなんのためにあるのでしょうか? こんなこと一つとっても、植え替え時の根の扱いが変わります。皆さんも植物学を学んでみてはいかがでしょうか。


ブログランキングに参加中です。

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村