植物とは何でしょうか?
光合成をする?葉緑体がある?動かない?きれいな花を咲かせる?
まあ、植物に対する印象は人様々でしょう。
しかし、光合成、葉緑体、動かない、花というこれらの特徴は、残念ながら植物全体に共通するものではありません。実は植物の学術的な定義ははっきりと決まっています。それは、『葉緑体の一次共生』、これだけです。

葉緑体があれば植物?
葉緑体を持ち光合成をする生物を見回しますと、陸上植物だけではなく、単細胞のものも沢山あります。例えば、葉緑体を持つ繊毛虫、葉緑体を持つ鞭毛虫、葉緑体を持つアメーバなどです。一見してまったく似ていないのに、何故か皆葉緑体を持ち光合成をするのです。とても不思議です。
そして、これらは全て植物とされてきました。しかし、結局はこれらはそれぞれ別の分類群として分けられることになりました。共通点である葉緑体は関係ないことになりました。なぜでしょうか?

ここで、ひとつ例え話をしましょう。
例えば、あなたの体に葉緑体を移植したとします。そうなった場合、あなたは「植物」でしょうか?
いいえ、違います。あなたは 「人間」です。正確に言えば、葉緑体を移植された「人間」でしょう。大事なのは器である人体の方であって、後で追加されただけの葉緑体ではないからです。

こんな簡単な事がなかなかわかりませんでした。そのため、光合成をする生物はまったく似ていなくても、植物とされてきました。しかし、それは仕方がない部分もあったのです。なぜなら、葉緑体という複雑な細胞内小器官が、それぞれ別に進化したとは考えられないからです。しかも、葉緑体自体はどれも似通っているので、一度の進化により獲得されたはずです。では、これらの生物はどのように葉緑体を獲得したのでしょうか?


マーギュリスの細胞内共生説

アメリカの生物学者であるリン・マーギュリスが、葉緑体、ミトコンドリア、鞭毛に関して、細胞に細菌が共生しやがて細胞内小器官となったとする「細胞内共生説」を唱えました。葉緑体やミトコンドリアがかつての共生体ではないかという説は過去にもありましたが、進化の道筋を示して定式化し、広く普及させたのはマーギュリスです。そう言えば、細胞内共生説から発想された「パラサイト・イヴ」という小説もありましたね。

さて、葉緑体やミトコンドリアは、細胞核とは別に独自の遺伝子を持っており、細胞とは独立して増えます。あと、あまり重視されない傾向がありますが、葉緑体とミトコンドリアは脂質二重膜で出来ています。細胞内小器官は細胞核以外は脂質一重膜ですから、葉緑体とミトコンドリアの特異性がわかります。細胞自体が脂質二重膜に包まれていますが、それは細菌の細胞も同じで、かつて細菌だった葉緑体とミトコンドリアも脂質二重膜に包まれているのは当然のことです。

植物は3種類

葉緑体を持ち光合成をする生物のうち、植物として認められたのは、灰色植物、紅色植物、緑色植物だけです。植物は単細胞の原生動物に藍藻が共生して、やがて細菌内小器官になりました。藍藻とは光合成する細菌(バクテリア)です。この藍藻を直接取り込んで葉緑体とした、つまり一次共生したグループを植物と呼ぶのです。

1, 灰色植物は単細胞の鞭毛を持つ、小さな分類群です。葉緑体は原始的で、藍藻によく似ています。

2, 紅色植物はいわゆる紅藻のことで、アサクサノリなど食用になるものもあります。他には寒天をとるテングサやオゴノリ、サラダに入っている赤いギザギザした形のムカデノリ、味噌汁にいれるフノリなどが有名です。

3, 緑色植物は陸上植物である種子植物、シダ植物、コケ植物が含まれます。ただし、単細胞で鞭毛で泳ぐプラシノ藻、ボルボックスやイカダモなどを含む緑藻、大型になるアオサや車軸藻なども含まれます。


謎の脂質四重膜
単細胞の葉緑体を持つ生物を詳細に調べた結果、面白いことがわかりました。葉緑体がなんと脂質四重膜に包まれていたのです。これは、一体どういう事なのでしょうか?
さらに調べてみると、四重膜の間にヌクレオモルフと命名された核の残骸がクリプト藻やクロララクニオン藻の仲間で見つかりました。これは葉緑体の遺伝子ではありません。植物の細胞核のなごりです。つまり、四重膜の内側二枚は葉緑体由来で、外側二枚は植物の細胞膜由来ということです。
これは、植物(原生動物+藍藻)を細胞内に取り込んで、藍藻ではなく植物を葉緑体としたグループです。つまりは二次共生です。
藍藻を葉緑体としたのではなく、原生動物が植物(原生動物+藍藻)を取り込んで光合成をしているため、これらは植物と見なされません。また、これらの生物は、遺伝子解析の結果から互いに近縁ではなく、様々な分類群に別れることが判明しました。

原生生物+紅藻
植物を取り込んだ二次共生生物のうち、紅色植物をセレクトしたグループです。つまりは、原生動物+紅色植物です。

1, クリプト藻は単細胞で鞭毛を持ち遊泳します。葉緑体は四重膜でヌクレオモルフがあります。

2, ハプト藻は単細胞で鞭毛を持ちますが、ハプトネマという不思議な器官を持っています。ハプトネマを移動や食作用に使用します。また、円石という奇妙な形のカルシウムの殻を持つものがあります。葉緑体は脂質四重膜を持ちます。

3, 渦鞭毛藻は不思議な鞭毛を持ち、赤潮の原因となります。葉緑体は脂質三重膜を持ちますが、これは四重膜が減少して出来たのかもしれません。光合成をしないで捕食性あるいは寄生性のものが、半数の種類を占めます。

4, 不等毛藻は3回分岐する特殊な鞭毛を持つグループです。葉緑体は脂質四重膜を持ちます。代表的なものは、珪藻土の原料となる珪藻や、昆布などの褐色の大型海藻を含む褐藻があります。

ハプト藻とクリプト藻は、星の砂で知られる太陽虫とともに、ハクロビアに分類されます。
渦鞭毛藻は繊毛虫やマラリア原虫とともに、アルベオラータに分類されます。
不等毛藻はストラメノパイルに分類され、菌や原生動物のようなグループも含みます。

原生生物+緑藻
こちらは、原生生物が緑藻を二次的に取り込んで葉緑体としたグループです。

1, ユーグレナ藻は、いわゆるミドリムシの仲間です。鞭毛があり泳ぎます。葉緑体は脂質三重膜で、ヌクレオモルフがあります。最近、健康食品でユーグレナというものがありますが、これもミドリムシが原料です。

2, クロララクニオン藻は、アメーバ状の光合成生物です。葉緑体は脂質四重膜で、ヌクレオモルフがあります。また、葉緑体から巨大なピレノイドが突出しており、見分けることは簡単です。

ユーグレナ藻は睡眠病をひきおこすトリパノゾーマてともに、エクスカバータに分類されます。
クロララクニオン藻は、リザリアに分類されます。

分類学の大転回
生物界の分類の最初は、動くもの=動物、動かないもの=植物でした。やがて、顕微鏡の発明により微生物が発見されて、プランクトンや細菌の分類学上の位置についても考察されました。ホイタッカーの五界説では、細菌が原核単細胞段階で最も原始的、派生した原生生物が真核単細胞段階、そこから真核多細胞段階の植物・菌・動物が現れたとしています。次にマーギュリスの細胞内共生説を受けて、イギリスのキャバリエ=スミスにより、分類群の細分化が進められました。
さらに、アメリカのカール・ウーズにより、生物は真正細菌・古細菌・真核生物の3つに分けられるという3ドメイン説が出ました。
真核生物の分類も刷新されて、単細胞と多細胞、葉緑体の有無は無視した体系が作られました。例えば、動物は菌類とまとめられてオピスコンタとされるなど、8つの分類群に大別されています。よって、灰色植物・紅色植物・緑色植物をまとめてアーケプラスチダ(植物)とされ、他の光合成生物はエクスカバータ、ハクロビア、アルベオラータ、ストラメノパイル、リザリアに振り分けられました。ここいら辺の話も面白いので、そのうちまとめてみたいと思っています。


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