ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

どれだけ小さな庭でも、そこに土があれば何かしらの雑草がたくましくも生えてきます。ガーデニングを趣味としている方なら、雑草は大なり小なり厄介な存在でしょう。私も育てている多肉植物の鉢に、どこから来たのか様々な雑草が生えてきます。早期に抜かないと根を深く張ってしまい、中々取り除くのにも手を焼くことになります。こんな趣味の範疇の園芸でも厄介な存在なのですから、農業における雑草は厄介どころの話ではないでしょう。もちろん、科学の力により除草剤なるものが開発され使用されます。しかし、たかが雑草と侮るなかれ。雑草には人間の知恵など凌駕する力があるようです。本日はその雑草が主役の話をしたいと思います。参考とするのは2003年に出版された『雑草の逆襲』(全国農村教育協会)です。早速、簡単に内容をご紹介しましょう。

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農業では雑草は実に厄介な存在です。せっかくまいた肥料を吸ってしまいますし、背丈が高くなれば日照を遮ります。あまりに雑草が蔓延ると、そこから病害虫が拡がることもあります。風通しも悪くなりカビなどによる病気も起こりやすくなります。そのため、除草剤がまかれますが、日本各地で異変が起きているというのです。雑草は本来、実に沢山の種類があります。しかし、除草剤をまいていると、何故か1種類の雑草のみが蔓延る、奇妙な光景が現れ始めたのです。
事の起こりは1980年の埼玉県のことでした。荒川堤外地の桑畑でパラコートなどのビピリジリウム系除草剤に抵抗性があるハルジオンが見つかりました。驚くべきことに、このハルジオンは通常の16倍の除草剤にも耐えることが分かりました。

では何故除草剤が効かないのでしょうか? そもそもパラコートはどのように効くのかというと、葉に光が当たると光合成しますが、その反応にパラコートが作用して活性酸素を生じて葉の組織に損傷が生じるようです。そこで、パラコートに耐性のあるハルジオンやアレチノギクの葉を切って、切り口から標識したパラコートを吸わせてみました。すると、パラコートは葉脈にはありましたが、葉の組織にはありませんでした。つまり、光合成がおきる葉の組織にパラコートが行かないため、活性酸素が生じないということのようです。
しかし、不思議なのはハルジオンのパラコート耐性が、原産地の北米ではなく日本で初めて発生したという事実です。一般的に原産地は種内の多様性が高いことから、北米でこそパラコート耐性が出てくるような気がします。ただ、ハルジオンは日本では大量発生しますが、北米では重要な雑草ではありません。これは、ハルジオンが本来は存在しない侵略者であるため、競争相手がいないだとか、北米でハルジオンにつく病害虫が日本にはいないだとか理由は色々と考えられます。そのため、ハルジオンに対し日本では北米より大量のパラコートが使われてきたということかもしれません。

さて、除草剤に限らず薬剤耐性が起きる仕組みとは、①薬剤の吸収・移行を阻害する、②薬剤を分解してしまう、③薬剤の作用部位が変異してしまう、という3つが考えられます。ハルジオンのケースは①の薬剤の吸収・移行の阻害によるものですね。
さらに、北海道や東北で、水田雑草であるミズアオイやアゼトウガラシにSU剤という除草剤に対する耐性が見られました。SU剤は植物がアミノ酸を合成する過程のアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害しますが、ミズアオイやアゼトウガラシはALSの変異によりSU剤が効かないと考えられているようです。つまり、③の薬剤の作用部位の変異によるものです。
また、何も除草剤抵抗性は日本だけの話ではなく、世界中で起きている現象です。しかも、複数種類の作用機序が異なる除草剤に抵抗性を獲得した雑草も現れているようです。さらには、オーストラリアのボウムギやカリフォルニアのイヌビエのように、解毒機構を発達させてほとんどの除草剤を無効化する「スーパーバイオタイプ」と呼ばれる恐ろしい雑草さえ出てきてしまっています。②の薬剤の分解によるものですね。


しかし、考えて見れば雑草とは実にたくましいもので、人類の叡智など軽々と乗り越えてしまいます。まったく異なるタイプの除草剤が開発されても、基本的にはいたちごっこで、直ぐに乗り越えられてしまうのでしょう。これは、近年重大な問題と化している抗生物質に耐性のある細菌の出現と同じ現象です。こちらも多剤耐性菌の出現により医療現場に多大な負荷がかかってしまっています。やはり、こちらも除草剤と同様に終わりのない戦いを強いられています。
除草剤自体は人体にも有害な物質ですから、使わないに越したことはないのでしょう。しかし、狭い庭ですら雑草を蔓延らせている私には、農家は広い農地を手作業で雑草を抜くべきだとはとても言えません。やはり、人間の知恵など「たかが雑草」にすら勝てないのでしょうか? こうなってしまうと、除草剤とはまったく異なる手法による、新たな除草方法が求められているのかもしれませんね。


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今年も植え替えをしなくてはならないのですが、すっかり忘れていていつの間にやら3月も終わってしまいます。あわてて植え替えようと思ったのですが、肝心の土がちょろっとしかありませんでした。仕方がないので、取り敢えず少しだけ植え替えしました。

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本日はこれだけ。

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先日、横浜にあるコーナン港北インター店で購入したばかりの多肉植物たちです。傷んだものもあった中からいいやつを選びましたが、根の状態が心配ですから最優先で植え替え。

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まずは、十二の巻から。根の張りは悪いものの、腐っている感じはありませんでした。むしろ、カラカラに乾いていて痩せているパターンみたいです。

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植え替え後。鉢も大きくしました。乱れた荒いバンドがワイルドでいい感じです。

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植え替え後のGasteria glomerata。割と良い状態でした。よく見ると根元に子供が吹いています。植え替え前は埋もれて気が付きませんでした。

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植え替え前のTulista marginata。去年、少し焦がしました。その後、調子を落としていましたから植え替えました。

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植え替え後。根張りは今一つでした。今年はきれいに育てたいものです。

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植え替え前のAloe descoingsii。Ruchiaさんから購入したので、根に問題はないでしょう。ただ、枯れ葉が邪魔なので植え替えついでに取り外します。

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植え替え後。枯れ葉を除いてすっきりしました。

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去年のクリスマスイブに木更津Cactus & Succulentフェアで購入したEuphorbia balsamifera。妙に乾きやすい土に植わっていたので気になっていました。

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根は割と貧相でしたが、弱った感じはありません。

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植え替え後。枝分かれさせてこんもりとした感じに育てたいものです。

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植え替え前のEuphorbia handiensis。去年の冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入しました。おそらく、E. balsamiferaと同じ業者さんから購入。

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少しネジラミがいました。根を流水でこすり洗いしましたが、通常はこの物理攻撃が一番効きます。しかし、根がゴツゴツしているため、何やらすべて取りきれた気がしません。

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植え替え後。根に殺虫剤を吹き掛けて、用土に浸透移行性殺虫剤を仕込みましたが、効果の程は分かりません。

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そういえば、庭の乙女椿が満開でした。樹は小さいですが、今年は咲き年のようです。

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普及種ですが花の形が非常に整った良い品種です。

まだまだ植え替えしなくてはならない多肉植物は沢山ありますから、徐々にやっていきます。いや、まずは用土を買い込まなくては。まあ、こんな風にぐずぐずやっていると、あっという間に夏になってしまいそうです。


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昨日はザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションの多肉植物BIG即売会に行ってきた訳ですが、せっかく新羽まで来たのですから、コーナン港北インター店にも寄りました。新羽駅からバスで折本町というバス停で降りて横断歩道を渡って直ぐにあります。ガーデン館という巨大な温室があり、特に多肉植物が豊富で、とにかく売り場が広いので数だけならトップクラスかもしれません。見映えの良い大型で高額なものから、安価なミニ多肉植物まで様々です。今回は何がありますでしょうか?

今回、新しくアガヴェ・コーナーが出来ていたのは、やはり流行を感じました。しかし、全体的には今回はまだ寒いこともあり、どうやらホームセンターで一冬越したものが多いようです。ユーフォルビアなどはやや痛みや葉先の枯れが目立ちました。しかし、エケベリアなどのベンケイソウ科は回転が良いせいか、新しいものも多かったように見受けられます。何故かSansevieriaがかなり充実しており、1つのコーナーが出来ていました。アロエも割とありやや珍しいものもありました。流石にアロエに痛みはありませんでしたが。さて、ハウォルチアやガステリアがあるコーナーを見ましたが、軟葉系ハウォルチアは割と元気なのに、何故か硬葉系ハウォルチアとガステリアは痛みが激しく買う気にはなりませんでした。とはいえ、少し面白いものもありましたから、元気なものを選んで購入しました。まあ、ホームセンターですから、多肉植物の入荷が活発になるのはこれからですよね。

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グロメラータ
Gasteria glomerata。私が去年入手して育てている株はやや白味がかり葉に丸みがあるタイプですが、こちらは緑色が強く葉が長いタイプ。こちらのタイプのほうが、van Jaarsveldが新種として記載した当時の写真の個体に近く見えます。


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十二の巻
Haworthiopsis attenuata系品種を「十二の巻」と呼びます。白いバンドの入り方は様々ですが、この個体はバンドの幅は広いものの、バンド間が広いのが大変面白い。一部、バンドが崩れて「ドーナツ冬の星座」みたいになっています。ちなみに、H. fasciataではないので注意。


昨日に続き、ザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションとコーナン港北インター店にはしごしてきました。個人的には大満足で、色々と見られて楽しかったです。
3月は先週の「春のサボテン・多肉植物のビッグバザール」もありましたし、来週にもイベントがあります。3/26には町田シバヒロという町田駅近くの公園で「つながる輪多肉petitfes.vol11」という多肉植物のイベントがあり、同日にルームズ大正堂八王子店ガーデンメッセで開催される「Succulent Blossom vol.4」という多肉植物のイベントがあります。一応行ってみる予定ですが、初めてなのでどういうイベントかはよく分かりません。もし行けたら記事にしたいと思います。



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横浜市営地下鉄ブルーラインの新羽駅近くにあります、ザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションに行って来ました。今日と明日の2日間「多肉植物BIG即売会」が開催されたからです。まあまあ遠いので滅多に行けませんが、イベントとなれば話は別です。実に去年の夏以来のヨネヤマプランテイションですが、何か面白い多肉植物はあるのでしょうか?
あいにくの雨模様でしたが、花粉症の私にとってはこの時期の雨は逆に有り難く感じます。まあ、少し肌寒くはありましたが。さて、開店時間前に到着しました。いつも、開店時間前に始まっていますが今回もそうで、売り場はまあまあ込み合っていました。今年はイベント・スペースが広くなり、割と珍しいラインナップでした。目移りしましたが、安いものだけを購入しました。
売り場は今ブームのアガヴェ・コーナーができていたのが印象的でした。相変わらず、パキポディウムの苗も沢山ありました。珍しくサボテンも割と充実していましたね。あと、ガステリアがちょいちょいあり、少し驚きましたが。しかし、レアものは非常に高額なので断念。結局はお手頃なユーフォルビアをチョイスしました。通常、園芸店ではユーフォルビアは普及種しか見かけませんが、今回は色々と取り揃えていたのでまったく嬉しい限りです。


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Euphorbia fianarantsoaeです。花キリンは分類が混沌としていますから、勉強しなくてはと思っています。

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Euphorbia bubalinaです。「昭和キリン」の名前があります。逆鱗竜E. clandestinaに近い仲間ですがどうにも逆鱗竜は間延びしやすく苦手なのですが、昭和キリンはどうでしょうか? 詰まった良い形に育てたいものです。

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Euphorbia heterodoxaです。不思議な形ですが、これもユーフォルビアです。外見的にも、いかにもな南米原産種。しかし、E. heterodoxaの画像を漁ると、このように筋張ってはいないみたいなんですよね。むしろ、E. apparicianaの近縁種にも見えます。E. weberbaueri感が強いのですがよく分かりません。新大陸のユーフォルビアには詳しくないので詳しく調べてみる必要があります。

ということで、あまり見かけないユーフォルビアがあり園芸店の開催としては、かなり満足感の高い即売会でした。しかも、この3点は非常に安価でしたから、懐にも優しいというオマケつきです。これで大満足で帰宅するかと思いきや、実はまだ続きます。このあと、横浜市営バスに乗って、コーナン港北インター店のガーデン館を見に行くからです。せっかく遠く横浜まで来たのですから、バスで10分ほどと近いので立ち寄ります。コーナンの記事は明日まとめます。
さて、「多肉植物BIG即売会」は明日も開催されます。多肉植物好きなら見に行っても損はないと思います。


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最近、植物と菌類との関係について、幾つか記事にしています。ここで一つ、良い本がありますからご紹介します。それほど重要な話には思えないかもしれませんが、大抵の植物は菌類と共生関係を結んでいます。
さて、本日は2020年に出版された『菌根の世界』(築地書館)をご紹介します。内容はまあ実際に手にとって読んでいただくとして、菌根の基礎的な部分のみ解説させていただきます。なお、説明しにくい部分もありますから、私が一部情報を追加していますので悪しからず。

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さて、まずはキノコの話から始めましょう。キノコには大まかに分けて3つのタイプの生態があります。1つは落ち葉を分解するキノコで、身近な例ではブナシメジやツクリタケ(マッシュルーム)、えのき茸、フクロタケなどです。2つ目は木材を分解するキノコで、身近な例では椎茸や舞茸、ヒラタケ、ナメコ、キクラゲなどがあります。そして、3つ目が植物と共生関係を結ぶ菌根菌です。菌根菌では松茸やトリュフ、ポルチーニなどが有名ですが、一般的に栽培が難しく高額なキノコです。もちろん、ここに名前が出たキノコだけではなく、他にも沢山の種類のキノコがあります。これらのキノコが作る菌根を「外生菌根」と呼び、植物の根の周囲に服を着せたかのように、キノコの菌糸が被います。植物とキノコの間で栄養分のやり取りがあり、植物の生育にとって非常にプラスとなっていることが分かっています。

菌類にはキノコを作らないものもあり、一般的にカビと呼ばれています。カビには、生き物の死骸を腐らせるものと、植物に寄生するタイプの病害菌と、植物と共生するカビがあります。植物と共生するカビは、アーバスキュラー菌根と呼ばれる特殊な菌根を形成します。アーバスキュラー菌根は、なんと植物の根の組織にカビの菌糸が入り込んで、植物と菌が一体化してしまいますから、これを「内生菌根」と呼んでいます。アーバスキュラー菌根は痩せ地に生える植物でよく発達し、貧栄養に育つ植物にとって極めて重要な存在です。また、様々な作物などでアーバスキュラー菌根菌の接種により、植物の生育が良くなることが確認されています。アーバスキュラー菌根菌は、栽培困難な外生菌根とは異なり、相手を選ばずしかも簡単に接種できます。
さらに、驚くべきことに4億3000年前に初めて植物が陸上に進出した時、すでにアーバスキュラー菌根が存在していた可能性があります。なぜなら、上陸したばかりの植物にはちゃんとした根がないため、栄養分を上手く吸収出来ていたとは考えにくいのです。アーバスキュラー菌根菌が存在していれば、根の代わりに菌糸が栄養分を運んでいたのではないかというのです。さらに、アグラオフィトンという植物化石の仮根(まだ未発達な根)にアーバスキュラー菌根に類似な構造が観察されています。アーバスキュラー菌根菌であるグロムス菌亜門は、(おそらく遺伝子解析により)4~5億年前に近縁な菌類から分かれたと考えられており、その点においても符合します。


アーバスキュラー菌根菌は農業への応用が期待されますが、実はすでに製品化されているそうです。しかし、残念ながらあまり普及していない現実があります。なぜなら、菌根は土壌中の栄養分が少なく場合により効果が期待できるわけで、日本のような過剰に化成肥料をまく農業では効果が表に出にくからです。実験的には肥料を減らしても高い収率が期待できるということですから、使い方次第では面白いのではないかと思います。最近、サボテンにアーバスキュラー菌根菌を接種した論文をご紹介しましたが、生長が良くなり病原菌の影響を減じました。乾燥した過酷な環境に生きる多肉植物はいかにも菌根菌と関係していそうです。アーバスキュラー菌根菌の応用は効果が期待できるかもしれません。

以上のように、簡単に菌根について解説させていただきました。しかし、これはいわばさわりの部分でしかなく、内容的には様々な角度から菌根について語られています。植物と菌類の関係は様々で非常に複雑です。外生菌根の話や蘭菌の話、苔やシダの菌根の話など大変興味深い内容です。大変面白く勉強になる良い本ですからオススメします。


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最近、沖縄で海外のソテツにつく害虫が見つかりました。Aulacaspis yasumatsuiというカイガラムシの一種です。昨日、ニュースで初めて知ったのですが、沖縄は2例目で実は昨年の10月に奄美大島で発見されており、すでに700本のソテツに拡がってしまっているそうです。その増殖の早さから思いの外、大事になる可能性があります。

ニュースの元記事はこちら。
A. yasumatsuiはタイなどの東南アジア原産のカイガラムシです。繁殖力が強く世界中の温暖地に拡散してしまっています。野生ソテツの宝庫であるメキシコではA. yasumatsuiをかなり警戒しているようです。今までA. yasumatsuiが確認されたソテツはCycasだけではなく、Zamia、Dioon、Stangeria、Macrozamia、Bowenia、Encephalartosで見つかっていますから、ソテツの仲間はすべて被害に合うと考えた方が良いようです。

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Dioon spinulosum

カイガラムシはカメムシの仲間で植物の汁を吸いますが、吸われた部位は白く細胞が死んだ状態となります。大量に増えればやがて光合成が出来なくなります。葉についたA. yasumatsuiは葉をすべて取ってしまえば済みますが、幹の鱗片の間や地下部位についたA. yasumatsuiを除去するのは大変な困難でしょう。

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もし、A. yasumatsuiが鱗片の隙間に入ってしまったらと考えると、とても除去しきれる気がしません。

A. yasumatsuiがついて何もしなければ1年ほどでソテツは枯死する可能性があると言います。対策は、見える範囲にいるものは取り除くか、カイガラムシ用の殺虫剤をまくしかありません。それでも、地下部位などすべてを取り去るのは至難の技かもしれません。また、もし本土にA. yasumatsuiが定着してしまった場合、除去しても野外の他のソテツから新たなA. yasumatsuiがやって来るかもしれません。


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Zamia furfuracea

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Cycas revoluta

A. yasumatsuiは東南アジア原産ですから、寒さに弱いような気もしますがよく分かりません。そもそも、私は熱帯原産のソテツを冬は室内に取り込んでいます。温室で育てている人もいるでしょう。そうなると、もしA. yasumatsuiが寒さに弱かったとしても、冬に生き残るでしょうからA. yasumatsuiの耐寒性の有無に意味はないかもしれません。また、屋外にあったとしても、土壌中は暖かいので地下で生き残るものもあるかもしれませんし、一般的に耐寒性が高い卵で冬を越す可能性もあります。沖縄は離れているからなどと楽観視は出来ないでしょう。近年、ソテツシジミという、ソテツを食害する南方系の蝶が、1992年に沖縄で確認されてから、現在では関東地方各地で確認されるに至りました。この蝶も日本列島をじわじわ北上して来たわけです。地球温暖化により気温も上昇してきていますから、A. yasumatsuiが本土に上陸するのも時間の問題でしょう。

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Dioon edule

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Zamia integrifolia(=Z. floridana)

ソテツシジミが関東地方のあちこちで発見されているニュースを見て、まあいざとなれば芋虫を捕殺するだけなので、それほどの脅威は感じませんでした。しかし、Aulacaspis yasumatsuiは初期に気が付かず蔓延してしまうと、手に負えなくなる可能性が大です。私もソテツを何種類か育てていますから、注意しないといけませんね。


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植物の種子は地面にばらまかれたら直ぐに発芽する訳ではありません。大抵は発芽に適した時期まで休眠します。とはいっても種子の発芽可能な期間は決まっています。条件が発芽に適していない場合でも、種子が何年も耐えられるとは限りません。場合によっては毎年新しい種子が出来るので、種子の寿命はその年のみというこのもあるのでしょう。また、よくあるパターンとして、研究者が種子を良い条件で何年も保存し、種子を撒いたら発芽しましたという場合でも、実際の野生に生える植物では様々な悪条件により速やかに種子が死亡したりします。このギャップを埋めるためには、野外で種子を含む土壌を採取してきて、その土壌中にある種子が発芽するかを確認することが必要となります。かつてKumara plicatilis(=Aloe plicatilis)の種子寿命について調べた論文を記事にしたことがありますが、やはり自然状態の種子ときちんと研究室で管理された種子では発芽可能な期間が異なりました。

Kumara plicatilisの発芽についての記事はこちらをご参照ください。
さて、本日はサボテンの種子に関する論文をご紹介します。それは、Lucía Lindnw-López, Guadalupe Galíndez, Silvia Sühring, Valeria Pastrana-Ignes, Pablo Gorostiague, Angela Gutiérrez & Pablo Ortega-Baesの2018年の論文、『Do cacti soil seed banks? An evalution using species from the Southern Central Andes』です。

まずは、内容に入る前に用語の説明から。土壌中で発芽せずにいる種子を'seed bank'と言います。直訳すると「種子銀行」ですが、今回は貯蔵種子と訳させていただきます。また、論文中で土壌中の貯蔵種子を'soil seed bank'と呼び、これをSSBと略しています。貯蔵種子の区分として、種子の生存が1年以下の一過性の貯蔵種子、1年以上生存し続ける持続性貯蔵種子に分類出来ます。

過去の研究ではサボテンの種子はSSBを形成出来るとされています。しかし、これは種子の形態学的及び生理学的特性から推察された結論であって、実際の野生のサボテンの種子について調べたものではありませんでした。そこで、この論文では野生のサボテンのSSBを調査することとしたのです。

調査はアルゼンチンのサボテンの多様性が高いとされるSalta州の12の地点で実施されました。野生個体から採取された種子を地面に埋めました。土壌の採取は新しい種子が形成される前に行われました。直径10cm、深さ3cmの円筒形の金属製の筒により土壌を採取しました。また、1つの地点で裸地とナース植物の下の2点の採取が実施されました。ナース植物とは乾燥地に生え葉を繁らせ陰を作る植物で、その木陰は遮光され地面の温度を下げます。そのため、ナース植物の下は実生が生き残りやすい環境と考えられています。
残念ながら種子が少なく分析出来ないサボテンもありました。論文で分析できたのは、Echinopsis atacamensis、Echinopsis terscheckii、Echinopsis thionantha、Gymnocalycium saglionis、Gymnocalycium schickendantzii、Gymnocalycium spegazziniiの6種類でした。

さて、これらのサボテンの種子は24ヶ月後に回収した場合、生き延びたものはありませんでした。全体的な傾向としては、生存率は経過時間が長いほど低下しました。6ヶ月後ではE. thionanthaとG. spegazziniiは生存率が低下しましたが、それ以外の4種類の種子はほとんど生存率は低下しませんでした。しかし、1年後では6種類すべてで非常に生存率は低下しましたが、発芽能力がある種子が存在します。

このように、サボテンは短期間ではあるもののSSBがあることが分かりました。しかし、著者らは他の論文の報告から、単純に発芽能力が経年劣化するのではなく、病原性真菌の感染により種子が死亡している可能性も指摘しています。個別の種子を見てみると、G. schickendantziiは採取されて直ぐの種子より、6ヶ月に回収された種子の方が発芽率が良いという意外な結果でした。これは、一度種子が休眠して後熟成している可能性が指摘されます。
この研究では、ナース植物の効果は確認出来ませんでした。E. thionanthaはナース植物の下の種子は発芽率が低下しました。理由は定かではありませんが、経過時間の方がファクターとしては大きいようです。一般的にはナース植物の効果は複数の報告があります。しかし、ナース植物のアレロパシー効果により付近の種子にダメージがあった可能性も指摘されます。アレロパシー効果とは植物が様々な物質を放出して、周囲に影響を与えることを言います。この場合は、ナース植物の将来的な競争相手となる可能性のある他植物の種子が発芽しないように、ナース植物が生長阻害物質を放出しているのかもしれません。ナース植物となる植物も慎重に選ぶ必要性があったのかもしれません。


以上が論文の簡単な要約です。乾燥地の過酷な環境下でも、サボテンの種子は1年間は生存するものもあることが示されました。個人的には、流石に自生地では短期間に発芽出来ないと速やかに死亡するような気がしていました。それが、まさか短期間であろうと貯蔵種子が存在することに驚きました。多肉植物は過酷な環境に生えるものが多いので、貯蔵種子の存在が私の中で俄に面白い存在となりました。興味が出てきましたから、何か良い論文がないか調べてみたいと思います。


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植物は常に闘っています。とはいえ、動物の喰う・喰われるの関係に比べると、非常に静かで密やかな闘いです。植物は常に周囲の他の植物と、光や栄養分を巡り競いあっているのです。その闘いには植物ごとに独自の戦略があります。本日はオオブタクサの戦略を例に、植物の闘いを見てみましょう。参考としたのは1996年に出版された、鷲谷いづみによる『オオブタクサ、闘う -競争と適応の生態学』(平凡社・自然叢書)です。

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まずはオオブタクサとはどんな植物なのでしょうか。実はオオブタクサは正式な名称ではなく、実際にはクワモドキというそうです。ブタクサに似ていて(実際に近縁)、とても大きいのですから、オオブタクサの方が実態を表しているような気がしますから、以降はクワモドキではなくオオブタクサで統一します。
オオブタクサは北米原産の帰化植物で、大豆に混入して持ち込まれた可能性があるそうです。輸入された大豆は種苗用ではなく加工用ですから、どのような経緯で野外に逸出したのかは良く分かりません。河原などによく生えるのだそうです。関東地方でもかなり増えているようです。しかし、生える場所からしてあまり目につきにくいような気がします。
オオブタクサは一時期のセイダカアワダチソウのように、ある区域を埋め尽くしてしまうことがあります。オオブタクサは風媒花ですから、密集地では花が咲くと大量の花粉で周囲が黄色く見えるほどだそうです。風媒花は風任せですから、数打ちゃ当たる方式で虫媒花より多くの花粉を作り、しかも周囲にばらまきやすい構造となっています。ですから、オオブタクサは花粉症の原因の1つになっています。ちなみに、セイダカアワダチソウは虫媒花ですから、それほど沢山の花粉を作りませんし花粉をやたらに環境中にばらまいたりはしません。風媒花ではないのでそんなもったいないことはしないでしょう。セイダカアワダチソウが花粉症の原因のように言われますが、果たして本当なのでしょうか。あのように、目立つ花を咲かせるのですから、虫媒花であるのはどちらかと言われたら分かりやすい方ですよね。


さて、日本の植物からするとオオブタクサはインベーダー(侵入者)なわけですが、そもそも日本の環境中にインベーダーの入り込む余地がなければ定着しません。一般的には隙を付くのが定石で、空いたニッチに侵入する場合と、攪乱地に侵入する場合があります。ニッチとは生態的地位という分かりにくい訳語がありますが、要するにどういう場所でどんな環境かということです。空いたニッチ、つまりある環境を他の生き物が利用していない場合、競争相手がいないため簡単に侵入出来ます。次に攪乱地ですが、一般的には山火事や崩落地、洪水の跡など流動的な場所です。攪乱地では本来の生態系が崩壊していますから、様々な生き物が侵入するチャンスがあります。そのため、攪乱地では周囲より様々な生き物が見られ多様性が著しく高いことがあります。また、人工的な都市環境は本来の自然とは全く異なりますから、侵入者の比率が高い環境と言えます。しかし、オオブタクサは隙を付く戦略ではなく、あくまで競争して打ち勝つという在来の植物に真っ向勝負を挑んでいます。
※河原自体は攪乱地でもあります。

そもそも、オオブタクサは北米においても特殊な植物です。アメリカで実施された調査では、オオブタクサが生えると遷移が進まなくなるそうです。一般的に裸地には、まずイネ科の雑草など生長の早い一年草が生えてきます。その後は、先駆植物という荒れた環境に生える植物、例えばアカメガシワや松が生えます。環境は移り変わり、対応するように植物相も移り変わりますが、これを遷移と言います。オオブタクサは一年草としては非常に大型で、最大6mにもなります。背が高いと日照を独占できますから、オオブタクサは大変有利です。日照を巡る競争に勝てないのなら、オオブタクサが占有する区域では他の植物が生えることは非常に困難です。オオブタクサが生えると種の多様性は1/8にまで低下するということです。

では、なぜオオブタクサは他の雑草と競争して打ち勝つことが出来るのでしょうか? 背が高くなり太陽光を独占出来るということも確かに1つの理由ですが、オオブタクサより早く芽吹き生長する植物がいたら、オオブタクサの実生は陰となり育たないかもしれません。なぜ、オオブタクサが勝てるのか、非常に不思議です。
その理由の1つが、オオブタクサの種子のサイズが1cm近くにもなり、周辺の雑草の中では大型であることが原因だと考えられています。種子が大きければそれだけ沢山の養分を含んでいますから、発芽すると種子の沢山の養分を使って急激に生長することが出来るのです。
種子が大きいほど養分が多くなり生長が早くなりますから、他の雑草も種子を大きくした方が有利な気もします。しかし、種子の大きさは種によってバラバラですが、そこにもやはり意味があります。オオブタクサは親植物が巨大なので、大きな種子を作ることが出来るという側面もあります。しかし、それだけではないのかもしれません。
種子を作るには沢山の栄養分をつぎ込まなくてはなりませんから、親植物が種子を作れる限界があります。仮に親植物の種子につぎ込める栄養分が等量と仮定しましょう。その場合、大きな種子ならコストが高いので少数しか出来ず、小さな種子ならコストが低いので沢山作ることが出来ます。小さな種子は大量にばらまかれて、種子の養分は少ないので育たないものも多いのでしょう。しかし、実は種子のサイズは、種子に貯蔵された養分だけの問題ではありません。なぜなら、大きな種子は重いため基本的に親植物の近くに落下しますが、小さな種子は軽いため親植物から離れてあちこちに分散します。オオブタクサが同じ場所に高密度に生えるのは、種子が重くあまり拡散されないからでしょう。小さな種子はオオブタクサ集落でオオブタクサと競争する必要はなく、広く拡散してそのうちのどれかが良い条件であれば問題がないという訳です。そう考えると、必ずしも大きな種子が有利とは言えないような気がします。要するに戦略が異なるだけと言えるでしょう。


次にオオブタクサは種子の目覚めが早いと言います。関東地方では2月頃だと言います。種子は暖かくなると芽を出しますが、オオブタクサは他の雑草の種子が目覚める前にいち早く芽を出すのです。これは非常に有利な戦略ですが欠点もあります。早く芽を出してしまうと、まだ寒いこともあって霜が降りたり寒波などでせっかくの実生がダメージを受けて枯れてしまうかもしれません。しかし、オオブタクサはイヤらしいことに、種子の発芽にバラつきがあり、次から次へと順次発芽するので問題がないようです。
これは非常に優れた戦略です。何でも、オオブタクサはオギ原にまで侵入しているそうですが、これは種子の目覚めの早さと関係があるかもしれません。オギやススキなどは地下茎に栄養分を貯蔵しているため、暖かくなると急激に生長します。オギは人の背丈ほどになりますから、オギ原はオギが占有することは普通です。しかし、オギが目覚める4月までにオオブタクサはすでに生長を開始しており、アドバンテージがある状態から競争を始めるのです。


今回はオオブタクサを例に取りましたが、非常に面白い生態を持っていました。しかし、他の植物も非常に多様な戦略を取っています。何となく庭に生えているように見える雑草も、実は優れた戦略の末にそこに生えているのかもしれませんね。


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昨日、五反田TOCビルで春のサボテン・多肉植物のビッグバザールが開催されました。
今年は杉花粉の飛散量が大変なことになっており、花粉症の私は苦しい日々を送っています。仕事もあるプロジェクトが佳境に入り疲労が蓄積していますから、ビッグバザールに行くか悩みました。しかし、個人的に多肉植物の流行り廃りを見に行く楽しみがあり、世相の多肉植物の流行りを目撃出来るビッグバザールはどうしても行かなくてはなりません。
しかし、最近は忙しいこともあり多肉植物に割ける時間が中々取れませんから、むやみやたらに増やすのも考えものです。まあ、見るだけでも構わない位の意気込みでビッグバザールに参加しました。さて、今年のビッグバザールはどんな感じでしょうか?

毎度そうですが、整理券が配られる早い時間には行きません。だいたいは開催時間ギリギリくらいの到着なので、混雑のピークを見ることにはなります。昨日は何故か山手線が遅延しており、想定より少しだけ遅れての到着でした。しかし、今回のビッグバザールは恐ろしい混み具合で、エレベーターホールの前まで人に溢れていました。待機列の整理がいまいちで、よく分からない列が出来ていたりしてやや混乱した雰囲気でしたが…。開場してからも待機列は動かず、会場に入るまで10分くらいかかりました。大変な盛況具合です。暖かくなり新型コロナも自粛が解禁されたこともあるのでしょう。
さて、肝心の会場ですが、意外にも大混雑といった感じではありませんでした。これはあれですね。今回は待機部屋がないから廊下で余計に混雑していただけですね。しかし、多肉植物ブームはまだまだ続く感じがします。若い人が多いこともあり、今後も盛り上がっていきそうです。

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今回の入場証はこんな感じ。ちゃんと日付も入るようになりました。

さて、今回のビッグバザールですが、アガヴェ専門店が2つもありました。ここ数回のビッグバザールに出店しているお店は人だかりが凄まじく、全く売り物が見えませんでした。今、流行りのアガヴェはなんでしょうか? 気になりますが、私のような野次馬が熱心なアガヴェファンを掻き分けて見に行くのも憚られましたから断念しました。その他にも初出店とおぼしきお店もありました。また、今回はエケベリアなどのベンケイソウ科植物も割と目につきました。ピクタ系ハウォルチアも専門店が2つほどありましたし、中々人気があるようです。ビッグバザールではお世話になる可能性が高いラフレシアリサーチさんは、種子販売と輸入品と思われる抜き苗(ベアルート)が並んでいましたね。コミフォラが安かったのですが、基本的にベアルートは買わない主義なので今回は断念しました。

ここからは、購入品に入ります。例によって名前はラベル表記のままです。
①入り口直ぐ左のアロエのカット苗が売っているブースへ。今回はカラフルなアナナスも並んでいました。このブースではGonialoe sladenianaやEuphorbia greenwayiをかつて購入したことがあります。今回はFouquieriaを購入しました。基本的にFouquieria fasciculataは小苗でも高額なので買わないのですが、今回はえらく安かったので購入。

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Fouquieria fasciculata
いつの間にやらフォウクィエリアも7種類目です。私が目ざとく探しているからというより、最近は本当に何でも売っているからだと思います。

②次は大型の高級コーデックスを並べているブースへ。毎度、足下に安い苗をザルに入れて並べていますが、非常に安いユーフォルビア苗(花キリン系が多い)がありますから今回もチェックしました。やはり、安いユーフォルビア苗が豊富にありましたので購入。
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ユーフォルビア・スクアローサ
Euphorbia squarrosaの実生苗。「奇怪ヶ島」などという、凄い名前があるようです。「飛竜」E. stellataのように塊根から枝を沢山出すタイプです。


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ユーフォルビア・ウーディー
Euphorbia woodiiの実生苗。中型のタコものユーフォルビア。最近は販売されるタコものも色々増えてきました。タコものは育てるのが苦手なんですが、よく目にする種類以外は非常に高額なことが多いので、安いとつい手が出てしまいます。


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ユーフォルビア・カプサインテマリエンシス
Euphorbia cap-saintemariensisの実生苗。塊根性花キリンです。E. decaryi var. cap-saintemariensisとされたこともありますが、遺伝子解析の結果ではE. decaryiやE. francoisii系ではなく、E. tulearensisに近縁なようです。すでに花芽がありますから、近日花を御披露目出来そうです。


③次は毎回出店しているガステリアやハウォルチアなどの交配種が並ぶブースへ。毎回出店していますが、購入は今回が始めてです。タコものの小苗を1つ購入。
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神蛇丸 クラバリオイデス var. トルンカタ
Euphorbia clavarioides var. truncataの実生苗。難物との噂がありますがどうでしょうか? 現在は「飛蛮頭」(なんという名前だ!)Euphorbia clavarioidesと同種扱いされていますが、枝が水平に並ぶタイプです。ちなみに、truncataとは、ラテン語で断ち切られたという意味です。「玉扇」Haworthia truncataは、まさに'truncata'と言ったところです。

④最後は以前にEuphorbia handiensis、木更津Cactus & SucculentフェアではEuphorbia balsamiferaを購入したブースへ。
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Euphorbia viguieri var. capuroniana
これも一応は花キリンの仲間です。Euphorbia viguieri var. capuroniiとしているサイトが結構ありますが、おそらくはEuphorbia capuroniiとの混同なので誤りですよね。


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Euphorbia horrida var. norveldensis
正しくはvar. noorsveldensisです。var. norveldensisはネットでも出てきますから、どうやら誤った名前が流通しているみたいですね。また、ホリダがポリゴナの変種となったことから、2013年にEuphorbia polygona var. noorsveldensisとなりました。
しかし、ポリゴナ系はいつの間にか11変種もあることになりました。しかし、違いがよく分かりません。var. polygona、var. horrida、var. anopliaくらいは分かりますが、市販されている様々なタイプのホリダがどの変種にあたるのかさっぱり分かりません。ポリゴナ系を分類したD.H.Schnabelの論文を探してみます。

今回は冬型はほとんどなく、最近少ないパキポディウム実生苗も復活の兆しがありました。また、今回はユーフォルビアが豊富でしたから、アロエは沢山あったものの購入しませんでした。Aloe pseudoparvulaは結構気になりましたが、安い苗しか買わないと決めてきたので購入せず。原種ガステリアやアストロロバは相変わらず壊滅状態でしたが、初出店のブースで硬葉系ハウォルチアがまあまあありました。H. coarctataやH. viscosaあたりですかね。総評としては概ね満足で、色々見られて良かったです。しかし、朝方は肌寒かったものの、結構気温は上がり会場の熱気もあり正直暑かったです。この分だと夏のビッグバザールは恐ろしい地獄の暑さになりそうです。

しかし、ビッグバザールの会場となるTOCビルは3月に建て替えが始まるため、これからどうするのか気になっていましたが、夏と秋のビッグバザールもTOCで開催するようです。どうやらTOCビルの工事が6ヶ月~1年ほど延期となったことが原因とのこと。五反田TOCは行きやすくてよかったので、とりあえずはほっとしています。


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早いもので、すでに3月も半ばです。本日は五反田TOCで開催されている春のサボテン・多肉植物のビッグバザールに行っています。ところで、ここのところ春めいた暖かい日が続きますが、杉も春を感じているのか花粉もいよいよ増えてきて花粉症の私は苦しい毎日ではあります。しかし、少しずつ生長する多肉植物も出てきました。嬉しいやら辛いやら…

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Dendrobium lindleyi
1本だけ早く咲きましたが、続けて3本咲いて実に華やか。そういえば、デンドロビウムに限らず蘭は根元に偽球根(pseudobulbous)があり、栄養分を貯蔵します。蘭は着生するものが多いし、かなり特殊化した植物です。

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Gasteria baylissiana
蕾は膨らんでいましたがようやく咲きました。実にかわいらしい花です。自生地ではガステリアの蜜を吸いに来た太陽鳥により受粉します。日本ではガステリアの蜜を吸いに来る生き物はいるのでしょうか?


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Aloe albiflora
花茎が伸びてきました。アロエらしからぬ白い花が楽しみです。


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Euphorbia phillipsioides
冬に一度咲きましたから、これで二度目の開花です。花はユーフォルビアの中でも特に小さく目立ちません。

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Euphorbia phillipsiae
こちらも少しだけ開花。


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Euphorbia greenwayi
根元から伸びてきた新芽があっという間に生長しました。勢いがあります。


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Euphorbia begardii
葉はほとんど落ちましたが、花芽がいつの間にか出ていて、1つだけ急に開花しました。花色は徐々にピンク色になります。Euphorbia primulifolia var. begardiiでしたが、最新の論文ではEuphorbia begardiiとされ独立種としています。キュー王立植物園のデータベースでも、論文を受けて学名が変更されています。

最新のユーフォルビアの論文はこちらをどうぞ。


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Euphorbia imperatae cv.
花キリンは割と一年中花が咲いたりしますが、暖かいせいか生長が始まり花芽が沢山付いています。これからが楽しみです。それはそうと、こちらも最新の論文で学名が変わりました。Euphorbia milii var. imperataeから独立しています。いままでは、すべてE. milii系にまとめる傾向がありましたが、肝心のE. miliiとは何かは混乱しはっきりしていなかったようです。


3月は多肉植物のイベントが沢山ありますが、行くか否か悩みどころです。見るだけでも楽しいので、なるべく行きたいですが花粉症が酷いので引きこもりたくもなります。そういえば、今日はつくばでザワフェス・リユニオンという多肉植物のイベントが開催されています。つくば駅の近くですから行きやすいのもいいですね。しかし、残念ながらビッグバザールと被るので行けませんが、興味はあります。被らない日にまた開催されるなら、一度見に行きたいですね。ビッグバザールの報告は明日します。お楽しみに。


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花粉を運ぶのは誰か? 植物のポリネーター(花粉媒介者)については個人的に気になっており、過去にはアロエやアガヴェについて論文を調べて記事にしました。しかし、陸上植物のライフサイクルを考えた時、ポリネーターの働きにより種子が出来るだけでは駄目で、その種子が散布される必要があります。果実を動物に食べてもらい、あちこちで糞をして糞中の種子がばらまかれるタイプのものが多いでしょう。また、オナモミのようにトゲなどにより動物の体に付着して運ばれるものも割とあります。エライオソームという栄養分が着いている種子は、蟻に巣穴に運搬してもらうタイプです。また、Uncarinaは踏みつけ種子で、果実が脚に絡み付いて踏まれる度に種子がこぼれるなんていうタイプもあります。逆に動物を利用しない植物は多くは羽があり風で散布されます。また、ユーフォルビアは種子を弾け飛ばしますが、散布すると言っても対して距離ではありません。
このように、種子の散布は様々な方法があり、植物によって様々な工夫が見受けられます。最近はこの種子の散布が気になるところです。ということで、本日はその一例を調査した論文をご紹介します。それはLaura Yanez-Espinosa, Felipe Barragan-Torres, Alejandra Berenice Ibarra & Jaime Ivan Moralesの2019年の論文、『Dispersal of Dioon edule cycad seeds by rodents in tropical oak forest in Mexico』です。この論文ではメキシコのサンルイスポトシ州の熱帯オーク林でDioon eduleというソテツの種子の行方を追跡しています。

ソテツは中生代に豊富で多様性があり、コーンごと種子を草食恐竜が食べることにより、糞として種子を拡散したと言われています。恐竜は絶滅しましたが、現在のソテツの種子は誰が運んでいるのでしょうか?
まず、実際のソテツの種子は1~3cmと大きいので、重力で落下し親植物の近くに留まります。しかし、雨により分散し、または小川の流れに乗ることもあります。とはいえ、基本的に分散力は低い種子と言えるでしょう。論文では自動撮影により種子を運ぶ動物を観察しました。結果は4種類のネズミが、Dioon eduleの種子を持ち去りました。しかし、ソテツの種子には毒があると言われています。
実際にマウスにDioon eduleの種子を与えると、神経系にダメージがあり7日後に死亡したそうです。しかし、この実験はDioon eduleの種子のみを餌とした場合です。実際に様々なものを食べている場合には、それほど問題にはならないようです。ネズミの巣穴にファイバースコープを入れて、巣穴の内部に貯蔵された種子を観察しましたが、やはり齧られて食用とされていることが分かります。
さて、せっかくの種子が食べられてしまっては意味がないような気もしますが、実際にはあちこちに貯蔵した種子のほとんどは放置される運命のようです。日本でもリスやネズミがドングリをやはりあちこちに貯蔵しますが、そのほとんどは利用されません。巣穴は地上より湿り気があり発芽に適した環境です。しかも、ネズミの糞などで周辺環境は富んでいます。何より、親株から離れた場所に移動できるメリットは計り知れません。

ネズミの種類により種子に対する行動に差があります。小型のネズミより中型のネズミの方が、Dioon eduleの種子を積極的に巣穴に運びます。これは、どういう理由でしょうか? 単純にとらえるならば、小さいネズミは大きい種子を運ぶのが大変だからです。エネルギー効率を考えた場合、大きすぎる種子は運搬にかかるコストが高くなりすぎて非効率的です。自身のサイズに見合ったより小型の種子を運搬する方が良いということになります。逆に中型のネズミにとっては、Dioon eduleの種子を運搬することは大したコストがかからないのでしょう。しかし、論文では他の可能性にも言及しています。それは、種子の毒性についてです。今さら種子の毒性について蒸し返すのかと思われるかもしれませんが、ちゃんと理由があります。小型のネズミにとっては、Dioon eduleの種子は毒性が高すぎるのかもしれません。なぜなら、Dioon eduleの種子を同じ量食べた場合、体重の重い中型のネズミにとっては許容量ですが、体重の軽い小型のネズミにとっては致命的かもしれないからです。小型のネズミにとっては、運ぶのが大変な割にほんの少しずつしか食べられない効率の悪い食べ物です。

以上が論文の簡単な要約と言うより、一部を抜粋したものです。実は論文にはオークのドングリと比較したりとか様々な要素が含まれますが、今回は敢えて省きました。それは、種子が運ばれることのメリット・デメリットと、種子を運ぶ動物のメリット・デメリットについて重視したからです。
ネズミは何もソテツのために種子を運んでいるわけではありませんが、結果的に種子は拡散されます。しかし、そのネズミもサイズによりメリット・デメリットを天秤にかけて、自身のためだけに種子を運ぶのです。自然の中に何とも言えない絶妙なバランスが存在することに、大変驚かされますね。


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普段は本ばかり読んでいるので、積み上がった本の山が出来てしまいました。仕方がないので整理していたところ、大昔に神保町の古本街で入手したサボテンの本が出てきました。昭和28年に刊行された『サボテン綺談』(伊藤芳夫/著、朝日新聞社)です。

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タイトルに綺談とありますように、様々なサボテンに関するエピソードが語られます。ここいらへんの話も大変面白いのですが、後半の日本におけるサボテン受容、あるいは需要について書かれた日本サボテン史が個人的に大変興味深く感じます。昔のサボテンの流行はどのようなものだったのでしょうか?

模索期 1573~1865年
サボテンの渡来は非常に古いようですが、徐々に本草学者の目に止まるようになりました。しかし、「草にあらず、木にあらず」だとか「草中の異物なり」などと、変わってるなあ位の感想だったみたいです。模索期末期には様々なサボテンが海外から入ってきたようですが、育て方が分からずに丈夫なウチワサボテン以外は枯れてしまったみたいです。

黎明期 1865~1912年
明治時代に入り海外との交通が開け、流行があったようです。サボテンの斑入物が大流行し、サボテンの品評会が開かれ、早くもサボテン業者が現れました。明治末期には日露戦争の好景気により、サボテンは流行し多くのサボテン業者が出てきました。

混乱期 1912~1925年
大正時代に入ると様々な階級に普及し、東京中心だったのが関西にも拡がり、大正末期には全国に拡がりました。様々なサボテンが輸入され各業者が名前を付けたので非常に混乱した状態でした。

黄金期 1925~1942年
昭和に入りますが、この時代には研究熱心な栽培家が現れ始めました。大きなサボテン業者も現れ日本中の業者がカタログを出していたようです。

空白期 1942~1950年
太平洋戦争突入によりサボテン栽培どころではなくなり、業者も鳴りを潜めました。

復興期 1950年~
終戦後の混乱から復興までですが、戦争により多くのサボテンは珍品・銘品含め失われました。しかし、サボテンも復興の兆しがあり、若い世代も入ってきて、各所に愛好団体ができて様々な催し物が開かれています。斑入り物も流行っているそうです。

この本の出版が昭和28年、つまりは1953年ですから、終戦からまだ8年しか経っていません。まさに復興期の最中に書かれたということがわかります。とはいえ、サボテンの本が出版されるのは需要があるからです。すでに、サボテン・ファンは沢山いたということなのでしょう。しかし、このようにサボテンの歴史を知ると、それ以降も気になってしまいます。この本が出版されてから現在までのサボテンの流行はどうなのでしょうか?  ここ10年くらいは多肉植物ブームで、塊根植物、エケベリア、アガヴェなど、次から次へと流行が移り変わり、サボテンは少数派です。しかし、裾野が広がったことからサボテン人口自体は増えているような気もします。多肉植物のイベントでは若い人が非常に多いので、サボテン界にも新しい風が吹いているのかもしれませんね。


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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産のユーフォルビアです。現在地の情報については、論文を参照に割と詳しい解説をしたことがあります。

原産地の情報についてはこちらの記事をご参照下さい。
冬に入手したこともあり完全に休眠状態でしたが、最近は日中暖かいせいか新しいトゲが出てきました。春がやって来ているという実感を感じます。

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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産ですが、分布はカナリア諸島で2番目に大きいFuerteventura島のハンディア(Jandia)半島にあるハンディア自然公園の保護区域内の2箇所しか知られておりません。非常に狭い範囲に生える固有種です。火山の堆積谷に育ち、気候は非常に乾燥し暑く強風が吹きます。Euphorbia canariensisやAeonium sp.と共に生育します。ハエ(greenbottle flies)により受粉するそうです。
剣光閣の学名は、1912年に命名されたEuphorbia handiensis Burchardです。種小名は自生地のハンディア半島から来たのでしょう。


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昨今、環境問題が声高に叫ばれてはいますが、中々どうして解決策が見つからない難題です。環境破壊や異常気象は植物の生育にも多大な影響を与えます。日本でも夏の暑さは徐々に酷くなり、熱帯のようなスコールがあったり、超大型台風が頻繁に発生したりと異変は続きますが、実際に冷夏・暖冬も含め農作物の被害は相当なものがあります。異常気象を含め気候変動は野生の植物にも様々な影響を与えるはずです。分かりやすい例では、温暖化によって高山植物の分布はかなり変動しているそうです。数十年も継続して調査されている山では、かなりダイナミックに分布や高山植物の種類が変動していることが分かりました。高山はある意味で極端な環境ですから、気候変動の影響を受けやすいように思えます。その極端な環境に適応しているので、高山植物は急激な変動には対応しにくい植物と言えるでしょう。同様に極端な環境に育つ多肉植物にも、気候変動は影響して来るはずです。本日は、そんな多肉植物の1つ、砂漠に生えるパキポディウムと気候変動の関係について考察したDanni Guo, Leslie W. Powrie, Danielle W. Boydの2019年の論文、Climate Change and Biodiversity Threats on Pachypodium Species in South Africa』です。

南アフリカ南部にはPachypodium succulentumとPachypodium bispinosumという2種類のパキポディウムが分布します。この2種類のパキポディウムは分布が重なり、一見して良く似ていますが、遺伝的にも近縁であることがわかっています。
気候変動は南アフリカにおいても重大な問題であり、特に降雨量の変動は元より乾燥地に生える多肉植物にとって深刻な脅威である可能性が高いでしょう。
さて、この研究では過去の南アフリカの気象データから、今後の気候変動をコンピューターでシミュレートし、現在の2種類のパキポディウムの分布をやはりコンピューターでシミュレートしています。


結論として、P. bispinosumは気候変動により大幅に生息地が減少することが分かりました。もともとP. bispinosumは生息域が狭いこともあり、急激に個体数が減少する可能性が高いようです。なぜなら、分布が広ければ環境も様々で中には対応出来る環境があるかもしれませんが、分布が狭いとそうはいかないでしょう。
逆にP. succulentumはそれほど生息地が減少しません。ある生息地は消滅しますが、代わりに現在P. succulentumが生息していない他の地域に分布が移動しています。生息地が広いことが幸いしているようです。
さて、気候変動のうちパキポディウムに影響を与える要因をピックアップすると、降水量の季節性、乾季の降水量、暖かい四半期の降水量が挙げられます。これらは正にも負にも影響します。重要なことは、パキポディウムに影響を与えるのは気温ではなく降水量の変動であるということです。

以上が論文の簡単な要約です。地球温暖化は何も気温が高くなるだけではなく、海水面が暖められて海流に影響したりと、蒸発した湿った空気が影響を及ぼしたりと、様々な影響があります。当然ながら、南アフリカの降水量にも影響が出てくるのでしょう。しかし、今回はパキポディウムに影響を与えうるであろう他の様々な要因については考慮されていません。論文の主張だけでは弱く、まだ絶滅のリスクについて語ることは難しいとしています。ただし、それは人間の環境に与える様々な負の影響も加算されることになりますから、パキポディウムの明るい未来を描くことは大変難しいことのように思われます。


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文庫クセジュはフランスの新書のシリーズですが、1941年に出版されている古くからあるシリーズです。日本でも1951年から白水社から翻訳されており、国内だけですでに1000点以上が出版されております。様々な内容の本がありますが、フランス独特?の癖が強くて読みにくいものが多く、一般的とは言えないかもしれません。
さて、気になる文庫クセジュはたまに購入していますが、『花の歴史』というタイトルの本を入手しましたのでご紹介します。1965年の刊行ですから、割と古い本ですね。


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あくまでも、当時のフランスの目の届く範囲の地域と出来事からなりますから、そのほとんどはヨーロッパとヨーロッパの植民地あたりの話が中心となります。内容は3部構成で、「古代の諸民族における花」、「芸術の中の花」、「花の歴史」からなります。
最初の「古代の諸民族における花」は文献や遺物から、ギリシャ、ローマ、エジプト、インドなどの古代に飾られたり植栽された植木な花を再現しています。次に「芸者の中の花」は、彫刻や絵画、文学等による花について語っています。
最後に「花の歴史」ですが、主にヨーロッパで流行した植物の話です。チューリップ・バブルの話やバラ、蘭もありますが、やはり気になるのはサボテンと多肉植物です。少し見てみましょう。

フランスではサボテンは19世紀から流行り始めました。特に第二帝政時代のメキシコ遠征により沢山のサボテンがもたらされました。しかし、それも長続きせず、19世紀末から20世紀初頭にはブームは過ぎ去ったようです。Ch.バルデにより1892年に出版された『フランスの園芸』には、サボテンはわずか一行しか記載がありませんでした。当時流行っていた菊や蘭、シダにかなりの部分を割いているそうです。しかし、それも短期間のことで、やがて愛好家が現れます。最初のサボテン愛好家協会は1890年にアンヴェルス(ベルギーのアントウェルペンのこと)に創立されました。ドイツは長い間サボテンの国になっていました。第二次世界大戦前にはサボテン熱は高まり、1935年にはサボテン協会の会員は2000人以上となり、主要な町にサボテン愛好家のグループがあったほどです。
1932年にはP.フルニエはフランスのサボテン趣味の再興を語っており、その理由を考察しています。曰く、「住居が狭くなり大抵の花は部屋で育てることは困難となったが、サボテンは置いた場所に満足している。その穏やかな不変の姿に接し、熱や苛立ちを鎮める楽しみを見つけている」とのことです。
著者はオプンチア(ウチワサボテン)は非常に丈夫だが、愛好家にあまり求められていないとしています。オプンチアは大きく育つので鉢植えで室内に置けないことが心配され、フランスの気候では花が咲きにくいことが不人気の原因のようです。ウニサボテン(Echinopsis?)は最も普通のサボテンで、栽培が容易く花を多く咲かせます。マミラリアは栽培が比較的易しく花が多く美しいことから、非常に評価されているということです。カニサボテンとクジャクサボテンは最も古くから知られたサボテンの1つで、Phyllocactus phyllanthoidesは夏の間は薔薇色の美しい花が沢山つき非常に良く  知られているそうです。
サボテンは現在では非常に細分化されましたが、はじめて学名がついたのはサボテンをすべて含むCactus属でした。この本が出版された当時はどうだったのでしょうか? 出てくる名前を現在と比較していませんが、結構変わっているものもありそうです。


さて、続いて多肉植物も少しだけ見てみましょう。Sempervivumのことを、山の岩壁に付着したアーティチョークのようと表現しています。ベンケイソウ科では、Sedum、Aeonium、Cotyledon、Crassula、Echeverie、Greenovia、Kalanchoe、Pachyphytum、Rocheaがあるとしています。メセン類は500種類、Agaveは300種類ほど知られているとしています。アオノリュウゼツランは地中海沿岸部や北アフリカ、アゾレス諸島、マデイラ諸島、南アフリカ、マウリチウス島、インド、インドシナで野生化しているそうです。Agave parryiやAgave utahensisはパリ平野でも生育しているとのこと。Agaveの近縁種としてYucca、Agaveに間違われる植物として約200種類あるAloeがあります。Sansevieriaは室内栽培植物として、またAstroloba、Gasteria、Haworthiaはフランスでもコレクションとして増えつつあるようです。euphorbes(Euphorbia)は不思議なほどサボテンに似ており、P.フルニエは「素人でなくても騙される」と述べつつ、800種類以上あるトウダイグサ科植物を分類しています。灌木性ユーフォルビア、柱状ユーフォルビア、メドゥーサ・ユーフォルビア(タコもの)、メロン形ユーフォルビア(E. meloformis、E. obesa)があるとしています。サボテン型のユーフォルビアはサボテンとして18世紀末にフランスに渡来しましたが、最近まで広まりませんでした。スタぺリアの仲間は200種類以上あり、時にサボテンに似ています。スタぺリアは開花時に乾いた音を出して破裂し、驚くほど大きい星形の肉質な花を咲かせます。しかし、不幸なことに死肉の臭いがしてハエを呼ぶので、部屋で栽培することは出来ないとしています。キク科にも多肉植物はあり、KleiniaとOthonna、Senecioが挙げられています。
以上のように多肉植物は現在の主要なものは概ねあったように思います。今では一般的なHaworthiaは当時のフランスではあまり出回っていなかったようですね。また、あまり導入されていない節があるユーフォルビアは、意外にも様々な形態のものが認識されていたことがわかります。


というわけで、58年前に出版された園芸書を少しだけご紹介しました。とはいえ、これは日本語版の出版年ですから、原版はもう少し遡るのでしょう。当時の認識は現在と異なることがありますが、意外とその差異が面白かったりします。サボテンや多肉植物以外の部分の方がヨーロッパでは園芸として長い歴史がありますから、実は今日ご紹介した部分以外の方が面白かったりします。「花の歴史」というタイトル通り、興味深いエピソードが語られます。ご紹介したいのは山々ですが、長くなってしまったので本日はここまでとさせていただきます。


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3月に入り寒暖の差が激しいなっています。朝晩は寒いのですが、日中はかなり暑くなったりします。これからは多肉植物たちの動きが活発になりそうです。3月は多肉植物のイベントも盛り沢山な上、そろそろ屋外の多肉植物置き場の整備もしなければなりません。今年の冬は何故か強風の日が多く、多肉植物置き場のビニールがビリビリに破けたので、張り替えなくては。あと、手狭になってきたので、置き場の拡張を計画中です。

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Aloe parvula
花もそろそろ終わりです。思ったより丈夫で良く育ちますから、来年の花も期待出来ます。


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Dendrobium lindleyi
非常に丈夫で放置していても毎年開花します。去年は4月に咲きましたが、今年は早いですね。やはり、今年の冬は暖かかったみたいです。あと花茎は3本出ていますから、まだまだ楽しめます。


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Ionopsis utricularioides
こちらは東京ドームで開催される世界ラン展で10年前くらい前に購入しましたが、毎年開花します。手がかからなくて楽でいい洋ランです。ヘゴに着生させて育てています。というのも、斜め上方向に新しい芽を出すため、鉢植えだと根が浮き上がってしまい鉢に入らないから育てにくいのです。


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群星冠 Euphorbia stellispina
花芽が上がって来ましたが、群星冠のトゲは花由来です。花が咲かないとトゲが出ません。去年は正月明けには開花しましたから、今年は非常に遅い開花です。群星冠はアフリカのユーフォルビアには珍しく非常に低温に強いため、あまり気温は開花に関係がないような気がします。群星冠はトゲがまばらになりがちです。実は密にトゲをつけるチャレンジ中ですから、新しいトゲが出てほっとしています。


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去年の開花は経緯を追っています。

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Gasteria baylissiana
花芽が膨らんで来ました。小型種なので花茎も短いようです。


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花は小さくてかわいらしいですね。

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Fouquieria columnaris
新しい葉が生えて来ました。Fouquieriaの中では非常に葉が柔らかいせいか、葉ダニが蔓延して葉が萎れて生長がいまいちでした。今年は気を付けたいものです。


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Fouquieria leonilae
正月明けに購入したので、ずっと葉なしでしたがはじめて葉がお目見えしました。

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Euphorbia gamkensis
緑豆くらいのサイズの苗でしたが、冬の間に小豆くらいにはなりました。

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Tulista marginata
葉が回転し始めました。生長すると葉の形が変わるでしょうから、これからが楽しみです。

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Mirabilis jalapa
葉が急激に伸びて来ました。「ミラビリス・ジャラパ」の名前で販売していますが、要するにただのオシロイバナです。何故かネットでは高額で販売されていましたから、あまりにバカバカしいので記事にしたことがあります。しかし、未だに高額で販売されているようです。自分で種を取ってきて撒いた方が早いし、直ぐに大きくなりますから、わざわざ買うものではありませんよね。


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以前、Aloe parvulaについて調べていた時に、嫌石灰植物という言葉を知りました。嫌石灰植物とはケイ酸植物とも言われるようです。最近、イネ科植物などケイ素要求性が高い植物があるという記事を書いたことがあります。取り込んだケイ素で植物は体を補強しています。逆にトマトはほとんどケイ素を吸収しませんが、どうやらトマトは石灰を吸収して体を補強しているみたいです。そのため、トマトはカルシウム要求性が高く、カルシウムが不足すると尻腐れになるそうです。また、バラやカラタチもトゲにカルシウムを蓄積しているようです。しかし、残念ながら日本ではアルカリ性土壌ではまともに植物を育てるのは難しいようです。それは、どうしてでしょうか?

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Aloe parvula

ここで、森林総合研究所の2011年のレポートを見てみましょう。それは、香山雅純、山中高史、青木菜保子による『石灰質土壌に移植されたカシ2種の外生菌根菌の接種効果』です。九州には石灰岩地が多く石灰を採掘しています。そして、鉱山の採掘跡地は緑化が義務付けられているそうです。しかし、そもそも石灰岩地は自然に樹木が生えにくい土地ですから植樹が難しいのです。なぜなら、多量のカルシウムにより土壌が強いアルカリ性となっており、その影響で鉄やマンガン等の微量元素の吸収が抑制され、リンがカルシウムと結合してしまい植物が利用出来ないのです。そのため、石灰岩地の植生は構成が異なります。樹木では、低い標高の石灰岩地の主要樹種であるアラカシや、標高の高い石灰岩地にみられるウラジロガシが知られています。アラカシやウラジロガシはブナ科の植物ですが、ブナ科の植物は菌類と共生関係を結んでおり植物の根に菌糸がまとわりつく菌根を形成します。石灰岩地では菌類菌が分泌する酸により、カルシウムと結合したリンを溶かして植物が活用出来るようなるそうです。
さて、この研究ではアラカシとウラジロガシのドングリを植えて、菌根を形成する茸であるツチグリとニセショウロを培養したものを接種しました。①茸を接種しないグループ、②ツチグリを接種したグループ、③ニセショウロを接種したグループで、10ヶ月栽培しました。1グループあたり10本の個体数で実験しています。土壌のpHは7.03で弱アルカリ性です。

気になる結果は以下のようになりました。
ウラジロガシ
①接種していないグループでは、葉は0.5倍と減ってしまいました。幹と枝は2.5倍と微増、根は1.0倍と変化無しでした。
②ニセショウロを接種したグループでは、葉は1.1倍、幹と枝は2.1倍、根は1.8倍とすべて微増しました。
③ツチグリを接種したグループでは、葉は5.1倍、幹と枝は9,9倍、根は6.4倍とすべて著しく生長しました。

アラカシ
①接種していないグループでは、葉は0.7倍と減ってしまいました。幹と枝は1.4倍、根は1.2倍と共に微増しました。
②ニセショウロを接種したグループでは、葉は3.0倍、幹と枝は3.6倍、根は2.5倍とすべてで増加しました。
③ツチグリを接種したグループでは、葉は7.6倍、幹と枝は9.8倍、根は6.6倍とすべて著しく生長しました。

というように、アラカシもウラジロガシも、菌根菌の接種により生長が促進されました。ここから2つのことが読み取れます。1つは、石灰岩地に生える=アルカリ性土壌に強いと思われるアラカシやウラジロガシが、菌根菌がいないとまともに生長出来ないということです。というよりも、菌根菌と共生しているから石灰岩地で育つことが出来ていたのでしょう。2つ目は、ニセショウロよりツチグリの方が効果的であったことです。これは、ニセショウロがアルカリ性土壌に弱いので、ニセショウロ自体が上手く育たないのでしょう。もしかしたら、嫌石灰植物は共生する菌類がアルカリ性に弱いということもあり得るのかもしれません。
しかし、植物と菌類との共生関係は思った以上に重要であることがわかります。サボテンも菌類との共生が有効であるという論文を昨日記事にしました。他の様々な多肉植物も知られていないだけで、地下では菌類と共生関係を結んでいるのかもしれませんね。



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多くの野生の植物は菌類と共生関係を結んでいます。積もる落ち葉を剥がすと、茸の菌糸が一面に張りめぐらされています。森の木々は地下世界に広がる菌糸により、繋がっていたりします。これを菌根と呼んでいます。菌根は不思議なもので、植物の根が菌糸の服を着ているようなもので、植物と菌類はお互いに養分をやり取りしています。この菌根は思われていたより重要であることが近年わかりつつあり、様々な研究が活発になされているようです。さて、そんな菌根ですが、サボテンに対する影響を調べた研究がありましたのでご紹介します。Domenico Prisaの2020年の論文、『Gigaspora Margarita use to improve flower life in Notocactus and  Gymnocalycium plants and roots protection against Fusarium sp.』です。

この研究ではGigaspora margaritaという菌類をサボテンと共生させて、サボテンの生育とサボテンの病原菌に対する影響力を見ています。まずは、実験に使用したサボテンは、Gymnocalycium baldianum、Gymnocalycium mihanovichii、Notocactus eugeniae、Notocactus leninghausiiです。共生菌のGigaspora margaritaはグロムス門に分類されます。グロムス門は植物の8割と共生可能なグループで、アーバスキュラー菌根を形成します。アーバスキュラー菌根は、植物の根の組織内に菌糸が侵入して深く結びついており、主にリン酸を集めて植物に与えています。

栽培10ヶ月後、Gigaspora margaritaのあるグループとないグループで比較したところ、Gigaspora margaritaのあるグループでは、4種類のサボテンは高さと円周、地上部と根の重量、花と果実の数、花の寿命がすべて高い値でした。これは面白い結果です。根の重量があるということは根の張りが良いということです。当然、サボテンの生長にプラスでしょう。さらに、花数については、サイズが大きく栄養状態が良ければ、花数も増えるのは道理です。しかも、花の寿命が伸びていますから、花数の多さも加算されて、結果として果実も増えています。花の寿命が長いと、それだけ受粉のチャンスが増えますからね。

次に病原菌に対する反応です。この研究では、フザリウム(Fusarium)という植物感染性のカビを接種しています。フザリウムには沢山の種類がありますが、植物寄生性のカビが複数含まれます。フザリウムは実はまとまりのあるグループではありません。菌類には完全世代と不完全世代があり、この2つの世代を繰り返しています。完全世代とは有性生殖により胞子を作る世代で、不完全世代とは分裂や出芽など無性生殖する世代のことです。このうち、不完全世代しか知られていない菌類を不完全菌と呼んでいました。不完全菌は特徴で分類することが難しく、わからないものは取り敢えず不完全菌とされてしまっていたのです。というのも、完全世代と不完全世代では姿が全く異なることが多く、しかも違う植物に寄生します。それぞれの世代がすでに発見されていても、それが同じ種類であるとはわからなかったりします。とまあ、話が脱線しましたが、Gigaspora margaritaの有無で違いはあるのでしょうか?
結果は、Gigaspora margaritaがあることにより、サボテンの死亡率の大幅な低下が見られました。G. baldianumでは死亡率3.61%が0.78%、G. mihanovichiiでは死亡率2.84%が0.21%、N. eugeniaeは死亡率2.46%が0.21%、N. leninghausiiは死亡率0.84%が0.21%になりました。つまり、アーバスキュラー菌根の存在により、有害なフザリウムの被害を減らすことが出来たのです。
植物に感染するカビは特に農作物で良く調べられており、アーバスキュラー菌根菌の存在によりFusariumだけではなく、Aphanomyces、Cylindrocladium、Macrophomina、Phytophthora、Pythium、Rhizoctonia、Sclerotinium、Verticillium、Glomusといった病原菌に対しても防御する効果があることがわかっています。アーバスキュラー菌根菌はフザリウムだけではなく、様々な病原菌に対してもサボテンを守ってくれる可能性があると言えるのではないでしょうか。今後、研究が進展した暁には、サボテン用のアーバスキュラー菌が販売される未来がやって来るかもしれませんね。


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ビスピノスム(Pachypodium bispinosum)はアフリカ大陸原産のパキポディウムです。パキポディウムはマダガスカルで非常に多様化しましたから、やはりパキポディウムと言えばマダガスカルが本番といった感じは否めません。最近のコーデックス・ブームを牽引してきたグラキリウスは、やはりマダガスカル原産で現地球が大量に輸入されて来ました。しかし、アフリカ大陸原産のパキポディウムは今一つ目立たない存在です。しかし、これはこれで面白いので、本日はアフリカ大陸原産のビスピノスムをご紹介します。

ビスピノスムは外見的にはマダガスカル原産のパキポディウムとはかなり異なります。マダガスカルのパキポディウムは枝が太くずんぐり育ち、花が咲くと分岐します。しかし、ビスピノスムは細い枝をヒョロヒョロ伸ばし、開花とは関係なく分岐しアチコチから枝が出てきます。ですから、ビスピノスムは伸びすぎた枝を剪定しながら、まるで盆栽のように育てます。これは、P. succulentumと共通する特徴です。実はビスピノスムはスクレンツム(サキュレンタム)と見た目通り近縁で、花が咲かないと中々区別がつきにくいと言います。ビスピノスムとスクレンツムは南アフリカ南部に分布が重なり、遺伝的にも近縁です。ちなみに、遺伝的解析の結果では、ビスピノスムとスクレンツムは近縁で、この2種類に一番近縁なのはP. namaquanumということです。さて、では良く似たビスピノスムとスクレンツムの違いは何かというと、まずは花が異なります。また、スクレンツムはトゲか短いと言われています。実際に見てみます。
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Pachypodium succulentum
トゲは短く、葉の裏には毛はありません。


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Pachypodium bispinosum
トゲは長く華奢。葉の裏には少しだけ毛があります。


ビスピノスムは南アフリカの東ケープ州に分布しますが、通常は石の多い日当たりの良い場所に見られます。ビスピノスムとスクレンツムは冬は氷点下でも耐えることが出来るそうです。栽培する上では塊根を露出させて育てますが、自生地ではほとんど埋まった状態が通常のようです。我が家のビスピノスムの生育の様子を見てみます。
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2022年2月。去年の冬は葉がすべて落ちました。

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2022年7月。根元から新しい芽が吹きました。

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2023年3月。根元の枝はやたらと枝が伸びました。
購入時の写真も撮ったはずですが、なぜか見付からず…。枝は伸びましたが、思ったほど太りませんでした。とは言うものの、地下の塊根はどうなっているのか気になります。今年は植え替えるので非常に楽しみです。

ビスピノスムの学名は、1782年に命名されたEchites bispinosus L.f.から始まります。Echitesはフロリダ、中米、カリブ海地域に分布するキョウチクトウの仲間です。1837年にはPachypodium glabrum G.Donという命名もありましたが、先に命名された種小名である'bispinosus'が優先されるため、せっかく正しいくパキポディウムとしたのに認められません。1838年にはBelonites bispinosus (L.f.) E.Meyと命名されました。ちなみに、Belonitesはビスピノスムとスクレンツムのためだけに命名された属です。
さて、ビスピノスムがパキポディウムとされたのは1844年のことでした。つまり、Pachypodium bispinosum (L.f.) A.DC.です。良く見ると語尾が'-us'から'-um'に変わっています。属名が変更される時に語尾が変わることもありますが、どういう規則なのかはよくわかりません。ここら辺はラテン語そのものの規則もあるでしょうから、何やら難しそうですね。ちなみに、ビスピノスムを最初に命名したL.f.とはLinne filiusの略ですが、この'filius'は名前ではなく「息子」という意味で、学名のシステムを作ったCarl von Linneの息子です。しかし、Carl von Linneとvon Linneの息子も同じ名前なので、区別するために「リンネの息子」という表記になっているようです。
種小名の'bispinosum'は、'bis-'は「2回」とか「2度」という意味ですが、'pinos'は「松の木」ですが、正直よく分からないなあと思いました。しかし良く考えたら、これは'bis + spino'=「2本のトゲ」ですよね。実際にビスピノスムのトゲは2本がセットで生えてきます。


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ケイ素と言ってもあまりぴんとこないかもしれませんが、実はケイ素自体は地球の地殻の30%弱を占めるくらい大量に存在します。ガラスや水晶は二酸化ケイ素ですから、実は大変身近な存在です。半導体やシャンプーなどに入っているシリコンはケイ素が原料です。流石に植物には関係なさそうですが、大いに関係があります。身近な例ではイネ科の植物には大量のケイ素が取り込まれており、細胞の中に小さな水晶の結晶としてケイ素が存在します。イネ科の雑草が生い茂る草地に入ると皮膚に切り傷がついたりしますが、これは取り込まれたケイ素が原因で切れるのだと言われています。という訳で、植物とケイ素には関係があります。それはどんな関係か、昭和62年(1987年)に出版された『ケイ酸植物と石灰植物』(農文協)を参考にして見ていきましょう。

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日本の土壌は火山灰由来のものが多いのですが、雨が多く火山灰は透水性が良いため、土壌中のケイ素は溶脱してアルミニウムの割合が高くなります。アルミニウムはリン酸と結合してしまうため、地力を著しく落とします。そういう意味においては、日本の土壌は農作物を育てるのに適さないと言えます。土壌から流出したケイ素は河川水に溶け込みますが、 この溶けたケイ素を上手く利用したのが水田です。

そもそも、稲の栽培にはケイ素は不可欠です。なぜなら、水田にケイ素が不足すると生育が遅れ、さらに稲が倒れてしまい健全な生育が困難となるからです。ですから、地力が落ちた水田には、製鉄でできるスラグ(鉱滓)を投入します。スラグの主成分はケイ酸カルシウムですから、非常にケイ素が豊富です。ケイ素が豊富であると、茎や葉がしっかりするだけではなく、いもち病などに強くなることがわかっています。実は稲の葉や茎の15%以上がケイ素からなるわけで、稲は選択的にケイ素を吸収していることがわかります。

稲は強力にケイ素を吸収する希な例ですが、調べると多くの作物にケイ素は関係してきます。例外としてトマトがあり、ほとんどケイ素を吸収しませんから、ケイ素を与えても生長が良くなることはありません。しかし、実験的にケイ素が存在しない条件でトマトを育てると生育に問題が出てくるそうです。全くないというのも良くないのでしょう。さて、他の例を見てみるとキュウリが上げられています。キュウリは稲ほどではないにしろ、ある程度はケイ素を吸収するみたいです。実験的にケイ素を除くと生育に問題が出て、ウドンコ病にかかりやすくなりました。逆にキュウリはケイ素を与えるとウドンコ病に強くなります。実際に私もキュウリにケイ酸カルシウムを与えたところ、葉のサイズが大きくなり厚みが出て、茎に生えるトゲが非常に強くなって触ると刺さって痛いくらいでした。しかも、毎年発生するウドンコ病が出なくなったことには驚きました。あとは、個人的にはオクラの生育が非常に良好になった経験はあります。

という訳で植物もケイ素が必要なのだという話でした。しかし、この本はかなり専門的で盛り沢山な内容ですから、上記の内容は触りに過ぎません。このような良質な本は少ないので大変貴重です。
さて、私が稲の中にあるケイ素を知ったのは、実は園芸関係の話ではなく考古学でした。考古学では稲自体は腐ってしまうため、出土しません。たまたま炭になった炭化米がたまたま見つかった場合のみ、古代に稲作を行っていたと判断されてきました。しかし、上手く炭になった米があって、それがたまたま見つかることは中々ありません。炭化米が見つかっていないから、稲作が行われていなかったとは言いがたいのです。研究者が考えたのは、稲の中にあるケイ素を探すことです。イネ科植物の中には結晶となったケイ素があり、これをプラント・オパールと呼びます。イネ科と言っても種類によりプラント・オパールの形が異なり見分けることが可能です。そこで、遺跡の周囲を調べると、高い密度でプラント・オパールが見つかる場所が見つかったのです。昔は稲穂は地際から刈り取らず、穂刈りしていました。ですから、水田には稲の葉や茎由来のプラント・オパールが大量に残されることになります。このような手法で古代の水田跡を見つけているという話は大変な驚きで、大したものだと感心したものです。
この本を読んだことで、考古学と園芸が繋がりました。本を読んでいるとこのような偶然があり、より読書を楽しむことが出来ます。園芸関係で良い本がありましたら、また紹介させていただきます。


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2年くらい前は、まだコーデックス・ブームの余韻が残っていたのか、パキポディウムの苗があちこちに売っていました。五反田TOCのビッグバザールでも、今よりパキポディウムの実生苗が沢山並んでいました。現在のアガヴェ・ブームはまだ来ていない頃合いです。私もビッグバザールや大型園芸店で何種類かパキポディウムの実生苗を購入しましたが、今日はそのうちの1つであるPachypodium brevicalyxをご紹介します。まずは、我が家のP. brevicalyxの苗の様子から。

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2022年3月。トゲばかりが目立ちます。

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2022年7月。春先の新しい葉に加え、真夏にも新しい葉が生えてきました。

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2022年9月。葉は大きく強い印象です。

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2023年1月。まだ葉は落ちません。

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2023年2月。葉はだいぶ落ちましたが、まだ残っています。どうやら、春までこのまま持ちそうです。しかし、幹はかなり太りました。

P. brevicalyxがはじめて命名されたのは1934年のことで、P. densiflorumの変種とされました。つまりは、Pachypodium densiflorum var. brevicalyx H.Perrierです。1949年には独立種とされ、Pachypodium brevicalyx (H. Perrier) Pichonとされました。しかし、現在はPachypodium densiflorumと同種とされています。P. densiflorumとは葉が先細りとなり葉柄が短く、萼が短いなどの特徴の違いがあります。
'brevicalyx'とは、ラテン語で'brevis'=「短い」と'calyx'=「萼」という意味です。
しかし、P. densiflorumの花のサイズはかなり変動があり、P. brevicalyxはその範囲に入ってしまうということです。分布は標高200mにあるP. densiflorumの自生地のわずかに北西部ということで、P. densiflorumと分布が連続していることからも同種である可能性が高くなります。

しかし、P. brevicalyxは遺伝子が解析されていませんから、外見的特徴だけから判断するのは危険です。最近はあまりパキポディウムの遺伝子解析をしている論文は見かけませんから、P. brevicalyxの分類はまだ確定していないように思われます。また、そもそもP. densiflorum自体が多数の系統がある可能性があるため、P. brevicalyxの立ち位置はどうなるのか今後の研究の進展を待ち望んでおります。



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新型コロナが流行する前は神保町の古本街を度々散策していました。図鑑や理科系の書物が多い店ではサボテンの本もありました。その時に入手したのが、昭和61年に刊行された『サボテンの観察と栽培』です。

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ニュー・サイエンス社のグリーンブックスというシリーズで、ほんの100ページほどの小冊子です。理系の様々な分野の入門書で、この刊で131冊目ですからけっこう続いているシリーズです。

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内容は「サボテンとはどんな植物か」、「サボテンのおもな種類」、「サボテンの栽培」、「サボテンの管理」、「サボテンの繁殖」という5つの章からなります。1章の「サボテンとはどんな植物か」は、やはり当時はわからないことも多くあっさりとしています。原産地や当時の分類に触れています。2章の「サボテンのおもな種類」は、上の画像のように非常に簡単なものです。写真は少しだけあります。まあ、頁数が少ないため仕方がないのでしょう。

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昔懐かしの木製フレーム。

3章、4章、5章は育て方に関する部分です。3章では、まずサボテン栽培の要点は以下の4点としています。
①春先によい用土でていねいに植えつける。
②生長に必要な温度が得られる所に置く。
③十分に日照を与える。
④植物の欲しいときに灌水する。
詳細な解説が続きますが、実に当たり前のことです。しかし、突き詰めれば中々万全の体制を整えるのは難しいものです。栽培設備、用土、鉢、肥料、灌水、温度と通風、日照と遮光と続きます。
4章はサボテンの季節ごとの管理について述べられています。移植の時期と方法、病害虫についても詳しく解説があります。
5章はサボテンの繁殖についてです。一般的な挿し木、接ぎ木、実生の方法が解説されます。


内容的には以上の通りです。100ページ程度ですから種類の紹介は少ないのですが、栽培の基礎については十分な内容だと思います。しかし、今は園芸資材も進歩し種類も増え、ネットで簡単に誰でも入手出来るようになりました。例えば、様々な種類のアルミの簡易フレームが販売されていますから、新しく始める人で木製フレームを自作する人はいないでしょう。とは言うものの、サボテンの栽培方法自体はそれほど変わっていないでしょう。サボテン自体は変わりませんからね。という訳で、古いものですが今でも基本を学ぶには良い本だと思います。


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多肉植物で交配種と言えばエケベリアが大変盛んですが、難易度で言うならばユーフォルビアの交配は非常に簡単です。しかし、何故かそれほど盛んでもないようです。私もたまたま入手した交配種、あるいは自然交雑種が幾つかあります。鉄甲丸系交配種の蘇鉄キリンや峨眉山は割と見かけますが、それ以外もあるにはあります。交配種を集めている訳ではありませんから少しですがご紹介します。

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蘇鉄キリン
蘇鉄キリンは怪魔玉と鉄甲丸(E. bupleurifolia)の交配種と言われていますが、たいした違いはないのでわざわざ見分ける必要はないような気もします。

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怪魔玉
鉄甲丸(E. bupleurifolia)と鱗宝(E. mammillaris)の交配種と言われています。しかし、鉄甲丸と峨眉山の交配種と言っている人もいるようです。

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峨眉山
峨眉山は鉄甲丸(E. bupleurifolia)と瑠璃晃(E. susannae)の交配種とされています。一番有名かつ大変優れた交配種ですが、日本で作出された品種ということです。海外では、Euphorbia ×japonica、あるいはEuphorbia cv. Cockleburと呼ばれています。まあ、E. japonicaと言うと、ノウルシ(E. adenochlora)やイワタイゲキ(E. jolkinii)の異名ですから、ややこしいので使わないことに越したことはありません。

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グロエネフィカ
Euphorbia groenewardii × Euphorbia venefica(異名E. venenifica)らしいです。なんと言うか、全く思い付かない組み合わせです。どうやら、海外で作出されたもののようです。


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混迷閣 Euphorbia ×inconstantia
Euphorbia heptagona(異名E. enopla、紅彩閣) × Euphorbia polygonaらしいです。E. heptagonaと異なり、トゲに小さなささくれ状の小さなトゲが見られ、ホリダ・ポリゴナ系の影響が見受けられます。野生状態で生まれた自然交雑種かもしれません。


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紅彩ロリカ
Euphorbia heptagona × Euphorbia loricataらしいです。なぜか親のE. heptagonaよりトゲが強くなっています。E. loricataの葉が沢山出る特徴も受け継いだ良い交配種です。

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紅彩ホリダ(紅ホリダ)
Euphorbia heptagona × Euphorbia polygona var. horridaらしいです。ホリダほどではないですが、E. heptagonaより太く育ちます。E. ×inconstantiaと似た交配ですが、外見はよりホリダ・ポリゴナ系に寄ります。うっすら白い粉に覆われます。

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Euphorbia ×curvirama
Euphorbia caerulescens × Euphorbia triangularisらしいです。こちらは意外な組み合わせですが、自然交雑種ということです。いかにも野生種といった雰囲気で、交雑種には見えません。


とまあ、こんなところです。私が知らないだけで、他にも沢山の交配種がありそうですが、集めている訳ではないので詳しくはありません。しかし、今後イベントで何か面白い品種を見つけたら購入するかもしれません。


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昨日はネコブカビにより引き起こされる根コブ病についての話をしました。しかし、根にコブが出来るのはネコブカビが原因の場合と、ネコブセンチュウが原因の場合とがあります。一般的に根コブ病と言った場合はネコブカビによる病害ですが、何が異なるのでしょうか? ネコブカビはアブラナ科植物の根元に大きなコブができますが、ネコブセンチュウは根のところどころに小さなコブが出来ます。ネコブセンチュウはアブラナ科以外の植物にもコブを作ります。また、ネコブカビとネコブセンチュウが同時に感染することもあります。

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本日はどうしたら線虫の病害を防ぐことが出来るのかを解説した、『センチュウ おもしろい生態とかしこい防ぎ方』(農文協、1993年)をご紹介します。ちなみに、今回の記事ではネコブセンチュウを取り上げますが、この本は他の線虫の防除についても解説しています。

さて、そもそも線虫とは何かですが、現在は線形動物に分類されています。有名なのは回虫や蟯虫、アニサキスなどの寄生虫ですが、実際にはそのほとんどが土壌中に住む自由生活者で寄生性のものは全体から見ればほんの一握りです。土壌中にはおびただしい量の線虫がおりますが、その大半はカビを食べる食カビ線虫、他の線虫などを捕食する食肉性線虫、細菌を食べる食細菌線虫からなります。今回の主題は植物寄生性線虫です。
植物寄生性線虫にはネコブセンチュウだけではなく、ジャガイモを腐らせるジャガイモシストセンチュウも知られます。また、ネグサレセンチュウも根を腐らせる原因とされがちですが、ネグサレセンチュウはカビを食べる線虫ですから実際の病害の原因ではありません。カビに寄生されて腐った植物で見つかるため、原因とされてきました。重要な植物病害カビであるフザリウムや、ナス科植物で多発する半身萎ちょう病の原因のカビによく見られます。

本題のネコブセンチュウについて見てみましょう。ネコブセンチュウは寄生した植物内で増殖し、やがて耐久性の高い卵を生みます。これが厄介な点で、線虫害の対策として殺線虫剤によりガス消毒が行われてきましたが、残念ながら耐久性の高い線虫の卵は死にません。活動している線虫は死にますから一時的な線虫害は減りますが、翌年にはネコブセンチュウは逆に増殖してしまいます。なぜなら、土壌中には捕食性の線虫や他のネコブセンチュウの天敵が沢山いますが、消毒によりそれらも死んでしまい、ネコブセンチュウにとっては快適な環境となってしまうからです。
実際に線虫害が減ったのは、作付けの関係で夏に2ヶ月くらい畑が裸地だった、イネ科の雑草が沢山生えていた、作付けせずに畑で堆肥を作っていた、線虫が寄生しない作物を作っていた、などの後に作付けした場合です。ネコブセンチュウは寄生性ですから、植物の根の中でしか生きられません。卵の状態ではないネコブセンチュウは何もしなくても、やがて死んでしまいます。ということで、線虫を減らすためには耐久性のある卵を積極的に孵化させてしまうことが重要です。ネコブセンチュウと一言に言っても種類がありますから、まずはそこを見分けることが重要です。
日本で最も一般的なネコブセンチュウは4種類あります。判別方法は、落花生、唐辛子、スイカ(あるいはスイカかトウモロコシ)を植えてみて、根にコブがで来るかどうかで分かります。(+)は根にコブが出来た場合で、(-)は出来なかった場合です。

①落花生(+)→西瓜(+)
             →アレナリアネコブセンチュウ
②落花生(+)→西瓜(-)
             →キタネコブセンチュウ
③落花生(-)→唐辛子(+)
             →サツマイモネコブセンチュウ
④落花生(-)→唐辛子(-)
             →ジャワネコブセンチュウ


さて、後はそれぞれのネコブセンチュウの寄生しにくい作物を作付けして行けば、徐々に土中のネコブセンチュウの卵は減っていきます。アレナリアネコブセンチュウなら苺、キタネコブセンチュウならサツマイモ、小麦、トウモロコシ、西瓜、キュウリ、里芋、サツマイモネコブセンチュウなら苺、落花生、里芋、ジャワネコブセンチュウなら苺、落花生、唐辛子にはほとんど寄生しません。計画的に輪作することにより効果的に被害を減少させることが出来ます。
また、トラップ(罠)作物という方法もあります。被害を受けやすい作物を植えて、線虫が感染したら作物を抜き取ってしまうか、畑に漉き混んでしまいます。ネコブセンチュウは寄生性ですから、植物が枯れてしまうと死んでしまいます。卵を作る前ならば、畑に漉き混んでしまっても問題ないのです。

土壌を豊かにすることも有効な手段です。土壌中に有機物が少なく化成肥料にたよる畑では、土壌中の線虫の90%が有害な線虫であったというような事例が多く見られます。有機肥料や堆肥は寄生性じゃない線虫や他の微生物を増やし、植物寄生線虫を減らす効果があります。
また、作物の生育を良くすることで、根にコブが出来ても収量を高めることが出来ます。木炭の粉末を撒くと根の張りが良くなり、菌類などの微生物の活動が活発になりネコブセンチュウの活動を抑制する効果もあります。また、木酢液はネコブセンチュウが原因のトマトやキュウリの萎ちょうに効果的で、新しい根の伸長を促す効果があります。木酢液は殺菌効果も高く、ネコブセンチュウの感染により引き起こされるナスの青枯病などの二次感染病にも効果があります。


昨日と今日は植物の根にコブを作る病害について解説してきました。植物の病害虫は植物を育てる上で重要なことですから、それなりに関心があります。しかし、あまりこういう特に農学者が書いた良質な本はありません。今後も何か良い本がありましたら、また紹介出来ればと思います。


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植物の根というのは様々で、普段は隠れて見えませんが、植え替えをすると近縁な植物でも根の雰囲気が異なることもあります。しかし、根は隠れて見えないだけに、病害虫が気付かないうちに蔓延ってしまうこともあります。本日はそんな根の異常の1つである根コブ病についての話です。

植物の根にコブが出来る原因は様々です。コブがあったとしても必ずしも病気ではなく、マメ科植物やソテツの根粒だったり植物にとって有用なものもあります。しかし、基本的には根にコブが出来ると植物は極端に生育が悪化するか、枯れてしまいます。コブの原因は多くの場合はネコブカビかネコブセンチュウです。このうち、ネコブカビは主にアブラナ科植物に発生します。アブラナ科植物には、キャベツや白菜、大根、カブ、チンゲン菜、漬け菜類(小松菜、水菜、野沢菜など)があり、ネコブカビの発生は野菜の価格上昇につながり我々の生活に直結します。
本日はそんなネコブカビによる被害を防ぐためにはどうしたら良いのかを解説した『根こぶ病 土壌病害から見直す土づくり』(農文協, 2006)をご紹介します。

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ネコブカビは名前の通りカビの仲間、つまりは菌類です。根にコブが出来ると、カビの菌糸が根の中で育ち、大量の胞子が作られ土壌中にばらまかれます。この胞子で増える性質は実に厄介です。なぜなら、カビの胞子には殺菌剤が効かないからです。活発に生長している菌糸には殺菌剤は効果的ですが、活動を休止し休眠状態の胞子には意味がありません。今までは根コブ病が発生すると土壌を殺菌剤で燻蒸していましたが、この対処法方ではカビの胞子を殺すことは出来ないのです。基本的に畑に何も植えていない時に殺菌しますから、効果のある菌糸は存在しない状態です。しかし、この土壌燻蒸はある程度の効果があるのも事実です。詳しい調べると殺菌剤が胞子の発芽を抑制していることが分かりました。しかし、広い畑の全面を燻蒸するのは多額の費用と手間がかかります。しかも、一度やれば終わりではなく、胞子は生きているので効果が切れる前に繰り返し燻蒸する必要があります。我々消費者から見ても、殺菌剤漬けの畑で作られた野菜はあまり食べたくありませんよね。

一般的にカビは酸性を好みますが、日本の土壌は酸性に成りやすい条件が揃っています。まず、雨が多く土中のカルシウムが溶けて流出しやすく、そもそも河川水が軟水で弱酸性です。さらに、畑では作物を連作しますから、どんどん酸性側に片寄っていきます。作物を植える前に石灰を撒きますが、それは一時的に中和されるだけで直ぐに酸性に戻ってしまい根本的な解決にはなりません。では、次に実験的にネコブカビの胞子を含むアルカリ性土壌で白菜を育ててみると、なんと白菜の根にネコブカビが感性していることが分かりました。では、アルカリ性にしても意味がないのかと思いきや、不思議といつまで観察しても根にコブは出来ません。さらに不思議なことに、土壌中のネコブカビの胞子が減少していることが分かったのです。これは、一体どういうことなのでしょうか? それは、土壌をアルカリ性にしてもネコブカビの胞子は死にませんし普通に発芽し感染しますが、感染しても菌糸は生長出来ず胞子を作ることが出来なくなるようです。しかも、どうやら土壌中の胞子はアブラナ科植物の根に触れると発芽します。ですから、アルカリ性土壌で育つ白菜の根に対しても胞子が次々と発芽してしまうため、土壌中の胞子も減っていくのです。

このアブラナ科植物の根に触れると発芽するネコブカビの胞子の性質を利用して、胞子を減らす方法も考案されています。実はアブラナ科植物の中で大根だけはネコブカビに感染しないことが確認されています。何故かは不明ですが、大根に含まれる辛味成分のおかげではないかとは言われています。大根を植えるとネコブカビの胞子は次々と発芽しますが、感染出来ずに死んでしまいます。ネコブカビは寄生カビですから、休眠に特化した胞子形態でないと土壌中で生きることが出来ないのです。ですから、大根と他のアブラナ科植物を交互に育てると、ネコブカビの被害を最小限に押さえることが出来るのです。

しかし、大根を植えることは対策のひとつであり、被害を減らすための工夫で、根本的な解決策ではありません。ではどうしたら良いのかと言えば、土壌をアルカリ性にしたらいいだけです。しかし、石灰を撒いても一時的なもので、土壌はアルカリ性にはなりません。大量に石灰を撒いても雨の多い日本では、直ぐに流出してしまいます。さらに言うと、ただの石灰を土壌がアルカリ性になるまで撒くと、マンガンやホウ素などの微量元素が不溶化してしまい作物が吸収出来なくなります。特にアブラナ科植物はホウ素要求性が高いので、過剰な石灰の使用は控えなければなりません。

そこで注目される資材が転炉スラグです。スラグとは鉱滓のことで、鉱石の精製過程で出てくる鉱石の滓のことです。転炉スラグの場合は、鉄鉱石を精製する際の残り滓です。その転炉スラグの主成分はケイ酸カルシウムです。畑に撒くとまずは微量に含まれる生石灰により土壌はアルカリ性となりますが、やがてケイ酸カルシウムがじわじわ溶けてアルカリ性を保ち続けます。最初に十分量を撒いておけば、効果は10年以上保たれることが確認されています。転炉スラグはマグネシウム、マンガン、ホウ素、モリブデンなどの微量元素が豊富で、しかも雨が降っても溶けだして流出しません。植物の根からは酸が出て根の周囲の鉱物を溶かして養分とする働きがありますが、転炉スラグに含まれる微量元素は「く溶性」(クエン酸に溶ける性質)であるため、植物が出す酸により少しずつ溶けて長期間吸収出来るのです。

土壌がアルカリ性だとネコブカビの胞子は発芽するものの育ちませんから、連作するほど根にコブが出来にくくなります。なぜなら、作物を植えれば植えるほど胞子が発芽して死にますから、年々土壌中の胞子が減っていくからです。ただし、転炉スラグにはマグネシウムがカルシウム分に比べて少ないため、マグネシウム不足になりがちですから水酸化マグネシウムを撒く必要があります。また、ジャガイモは土壌がアルカリ性だとジャガイモそうか病になりやすいため、育てることは難しくなります。

現在、戦火に見舞われているウクライナは豊かな土壌を持つ穀倉地帯として有名で、かつての旧ソ連の食を支えたことでも知られています。ウクライナには非常に豊かな黒土がありますが、不思議とネコブカビが発生しません。この謎は土壌がアルカリ性でかつマグネシウムなどの微量元素が豊富であるためです。
そういえば、鉱滓なので残存する重金属が心配される向きもかもしれませんが、炉は約1700℃の高温ですから水銀や砒素、カドミウムなどの重金属は蒸発しており、安全性は確認されている資材です。
根にコブが出来るのはネコブカビだけではなく、ネコブセンチュウが原因の場合もありますが、そちらはまた別の対策が必要となります。そのうち記事にします。


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熱帯雨林は植物の宝庫ですから、昔から大変興味があります。生える植物も面白いものばかりです。日本でも世界中の植物が販売されるようになり、熱帯雨林原産の珍しい植物も見かけるようになっています。私も本などで熱帯雨林について調べたりしたものです。本日はそんな熱帯雨林についてのとりとめのない話をします。熱帯雨林とは何かとか、その定義とか言う話ではなく、単純に植物の話です。

熱帯雨林は高さ数十メートルの高木が隙間なく生えています。ですから、林床(森林の中の地面)は非常に暗く、下草すら生えていません。我々が熱帯と言って想像するカラフルな花々やトロピカル・フルーツは全く見当たりません。雑草の1本もなく、樹木の枝もはるか頭上にありますから、緑の葉すらないひたすらに薄暗い空間です。そもそも、熱帯雨林の土壌は貧弱で浅いことが知られています。立ち並ぶ巨木も深く根を張ることが出来ません。これは、落ち葉が地上に落ちてきても直ぐに分解されてしまい、積もらないことが原因です。暖かく湿潤なので微生物も活発です。そこにスコールでも降れば、葉の分解物も流されてしまいいつまで経っても土壌が堆積しないことになります。しかも、熱帯雨林には冬がありませんから、日本の秋のように一斉に落ち葉が降り積もることもありませんからなおさらです。
ただし、熱帯雨林は温暖・湿潤ですから、非常に多様性が高い世界です。単位面積あたりの樹木の種類は非常に高くなっています。ある1本の樹木の周囲数十メートル範囲に、同じ種類の樹木が存在しないなんてことも珍しくありません。樹木で言うならば、森林の多様性は暖かさに依存します。雪が多く湿潤でも、寒冷地では1種類の樹木からなる純林であることもあります。これは、環境の持つキャパシティーや、樹木が寒冷地に適応出来るか否かなどの複数の要因がありそうです。
とは言うものの、以上は極度に成熟した、ある種理想的な熱帯雨林の話です。実際には熱帯雨林は非常に動的です。実際の熱帯雨林は環境や地形も一様ではありませんから、多少は落ち葉も積もりますし、林床に生える植物は沢山あります。とは言うものの、やはり熱帯雨林に生える草本は暗い環境に適応したものが多いのも事実です。インテリアとして室内に飾られる観葉植物でも熱帯雨林原産のものは深く濃い緑色をしていて、室内でも日照不足にならずに育てることが出来るのです。
熱帯雨林の樹木は、常に古いものや、腐朽菌に侵されたもの、日照の奪い合いに敗れた樹木などが次々と枯れていきます。枯れた林床には日が差し、一斉に沢山の種類の芽生えが生えてきます。これを倒木更新と言いますが、熱帯雨林だけではなく世界中の森林で起きている現象です。この倒木更新は偶然起きている訳ではありません。なぜなら、たまたま倒木の周囲で種子がその時に出来て、その種子がこぼれて倒木により日が差して芽が出たというまぐれ当たりでは、一斉に生えてくる急速な芽生えを説明出来ないからです。一斉に生えてくる芽生えには、2つのメカニズムがあります。1つは暗い林床で発芽して耐える実生の存在です。日本のブナ林ではカイワレ大根のようにヒョロヒョロしたブナの実生が沢山生えています。ブナ林の林床は暗いので、まともな生長は望めませんからいつかは枯れてしまいます。しかし、このブナの実生は数年間、この状態で耐えることが出来ます。倒木があった時に、既に発芽しているヒョロヒョロの苗は日を浴びて急速に生長し、周囲の苗と競争するのです。もう1つが、貯蔵種子の存在です。これは、周囲の環境が変わるまで何年も種子のまま耐えるものや、種子がばらまかれても直ぐには発芽せずに、バラバラに発芽するものものがあります。後者は一斉に発芽してすべて枯れてしまうより、発芽をずらしてどれか1つが生き残れば良いという戦略です。

次に林冠を見てみます。林冠とは樹木が葉を広げる日照の争奪戦が行われる最前線です。実はこの林冠には沢山の草本が見られます。それは、いわゆる着生植物と呼ばれるもので、根で樹木の枝や幹に貼りついて育ちます。着生は寄生とは異なり根はただの足場で、自身で光合成を行っています。着生植物は日照を求めて明るい林冠に進出した植物ですが、熱帯雨林ではメジャーな存在です。我々日本人が見慣れた温帯の森林では、着生植物はほとんど見ることはありませんから実に対照的です。
代表的な着生植物と言えばラン科の植物です。もちろん、紫蘭やアツモリソウ、ジュエル・オーキッドなど地上に生える種類もありますが、ランの大半は着生です。よく栽培されるDendrobium(デンファレやセッコクを含む)、Cymbidium、Phalaenopsis(胡蝶蘭)、Cattleya、Oncidium、風ランなどはすべて野生種は着生植物です。
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このように、胡蝶蘭はコルク板に着生させて育てることも出来ます。

ラン科は超巨大なグループで、世界中に分布します。特に南アジアから東南アジア、熱帯アフリカ、中南米の熱帯域に集中しています。着生ランは毎日発生する濃霧から水分を吸収しているといいます。着生ランの根はうどんのように太く、スポンジのように水を吸収する特殊な仕組みがあります。

次にパイナップル科が有名です。その中でも、Tillandsiaはエアープラントなどと呼ばれて昔から流通しています。Tillandsiaはかなり特殊な植物で、根は固着するためだけにあり、本来の水を吸収する働きはありません。そのかわり、葉の全体から水分を吸収することが出来ます。また、最近流行りのタンク・ブロメリアなども着生するパイナップルの仲間です。タンク・ブロメリアも着生しますが、葉を筒状にして水を貯めます。この小さな水たまりの中で育つオタマジャクシもいるそうです。
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Tillandsia
たまに思い出したかのように針金のような硬い根を出すこともあります。


次はシダ植物です。日本でも沖縄に行くと、あちこちにシマオオタニワタリが着いています。着生シダでは、最近ビカクシダが人気ですね。日本でもシノブの仲間が木の幹や岩に着いていることがあります。
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シマオオタニワタリ
シダの葉は硬いものが多いので普通はシダを専門としている種類のヨトウムシくらいしかつきませんが、シマオオタニワタリの葉は柔らかいので普通の毛虫に食害されることがあります。

他にも熱帯雨林には様々な着生植物が自生します。例えば、アリノスダマと呼ばれるアリ植物は、現在地では珍しい植物ではなくあちこちに生えています。アリノスダマは膨らんだ茎の中が迷路状となっており、アリが巣を作ります。住み着いたアリの存在は、アリノスダマにとって2つのメリットがあります。1つは外敵からの防御です。葉を食害する毛虫などが来ても、直ぐにアリが気付いて排除に動きます。アリからしたら家に危害を加えて来たのですから、攻撃は当たり前のことです。もう1つは栄養面です。迷路の中の決まった部屋に、アリはゴミや仲間の死骸を捨てます。その部屋には根が出て来て養分を吸収するのです。
熱帯ではアリを利用するアリ植物が沢山あります。アリに住み家を提供するだけではなく、蜜や養分を与える植物すらあります。蜜を出してアリを集める植物は熱帯以外でも見られ、日本でもアカメガシワなどの葉に蜜腺が見られます。そういえば、クスノキの葉にはダニ室という小さな部屋があり、そこに肉食性のダニが住み着いてハダニを食べるのだそうです。あまり研究されていませんが、このようなダニを利用する植物も沢山あるのかもしれません。

基本的に着生は根がむき出しですから、基本的に養分不足です。養分を如何にして得るかも重要です。アリノスダマは上手くアリを利用していますね。そういえば、シマオオタニワタリも葉の内側に落ち葉を貯めて、水分と栄養を得ていると聞いたことがあります。また、ランの種子の発芽にはラン菌と呼ばれる菌類が必要とされますが、実はラン菌はランに支配されており都合よくランに栄養を提供させられています。共生関係でも完全に対等であるとは限らないのです。松茸なんかは逆に強引に松に共生関係を強いるらしく、見方によっては松茸は松の病気のようなものかもしれません。この植物と菌との関係はとても重要ですから、そのうち記事にしたいと思います。


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女王錦と千代田錦の花茎が伸びてきたものの、中々咲かないのでしびれを切らして、ツボミの様子を記事にしました。しかし、何と2種類とも記事を上げた翌日に咲き始めたのです。なんと意地の悪い、というより私の間が悪いだけですねこれは。しかし、冬は多肉植物たちも動きが緩やかですから、基本的に特筆すべきことはないものです。ユーフォルビアあたりは種類によっては花が咲きますが、ご存知の通り非常に地味です。冬型の多肉植物は基本的に育てていないので、冬のアロエの花は大変嬉しく感じます。

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女王錦 Aloe parvula

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千代田錦 Gonialoe variegata

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最近は中々忙しくて論文を読む時間が取れません。そのため、完全にネタ不足ですね。仕方がないので、多肉植物ではありませんが、植物関連の小ネタをポツポツ記事にしていくつもりです。


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最近、1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を入手し、その中のPaul Stephan氏のユーフォルビア・コレクションをご紹介しました。せっかく珍しい古い文献ですから、他にも何か面白い記事はないか索引を眺めていたところ、私の興味ある多肉植物であるガステリアについての記事がありました。

さて、本日は『Kakteenkunde』のガステリアに関する2つの記事をご紹介します。記事の執筆者はドイツの植物学者であるKarl Joseph Leopold Arndt von Poellnitzです。多肉植物を広く研究しましたが、特にHaworthiaの分類で著名です。Poellnitzia rubrifloraに献名されていることからご存知の方もおられるでしょう。
先ずは11月号の「Zwei neue Gasteria-Arten」から見ていきましょう。どうも、2種類のガステリアの新種を発表しているみたいです。植物の特徴は何とラテン語で記載されていました。全く読めませんから、機械翻訳の不細工な怪文書を解読してみました。

・Gasteria caespitosa von Poellnitz spec.nov.
根元から非常に多く増殖します。葉は完全に円柱状で、直立し長さ10~14cm、基部の幅は2cmです。両端には結節状の鋸歯があります。葉には光沢があり斑点があります。この先はさらなる詳細と花の特徴が続いているようですが、残念ながらかなり翻訳文が怪しいのでここまでとしましょう。
ここから先はドイツ語の翻訳です。どうやら、van der Bijl夫人が1929年にケープランドのSomerset Eastで採取したものを、von Poellnitzに贈ったものということです。von Poellnitzはこのガステリアを、育ったらGasteria maculata (Thunb.) Haw.、あるいはその類似種となると考えていたようです。しかし、その予想は外れて、葉のサイズは変わらずに良く花を咲かせているということです。von Poellnitzはこのガステリアを、Gasteria subnigricans Haw.やGasteria fasciata (Salm) Haw.と関係するが、それらと区別されるため新種と考えているようです。

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Gasteria caespitosa von Poellnitz spec. nov.
さて、ではこの種は現在どうなっているでしょうか?
取り敢えず、G. caespitosaから見てみましょう。
Gasteria caespitosa Poelln., First published in Kakteenkunde 1937 : 165

ちゃんと『Kakteenkunde』の165ページに載ってると書かれていますね。いや、当たり前の話ですが、何となく嬉しく思います。しかし、残念ながらこのG. caespitosaは現在認められている学名ではありません。現在はGasteria obliquaの異名扱いです。また、von PoellnitzがG. maculataと似ていると思った直感は正しく、Gasteria maculata Haw.も現在ではGasteria obliquaの異名ですから、同じ種を示していた訳です。ちなみに、G. subnigricansはGasteria brachyphylla var. brachyphylla、G. fasciataは何とまたもやGasteria obliquaの異名となっています。

・Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
無茎またはほぼ無茎で、非常に早く生長し増殖します。若い苗は尖った2列の葉を持ち、成熟すると葉は渦巻き状の密なロゼットとなり、直径12~14cmです。横向きの縞模様があります。
やはり、このガステリアもvan der Bijl夫人によるもので、種小名は夫人に対する献名です。種小名が大文字なので単純に誤植かと思いましたが、写真の方の学名も同様なのであえてそうしているような気もしました。献名なのでとか何か理由があるのか、本当にただの誤植がは分かりません。von Poellnitzが7年育てましたが、未だに花は咲いていないということです。von Poellnitzもまだ生長しきっていないため、確実に新種とも言い切れないようで、やや歯切れの悪い言い方をしています。

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Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
G. bijliaeは、現在ではGasteria carinata var. carinataの異名となっています。

では続けて10月号のvon Poellnitzによる「Gasteria humilis v.P.」を見てみましょう。G. humilisは1929年にvan der Bijl夫人がケープランドのGreat Brak川付近で採取した植物で、同年にvon Poellnitzにより新種として記載されました。密に螺旋状となり直径12~14cmとなります。8~12枚の葉は若い時は直立し古い葉はやや広がります。葉は三角形で先端はごく僅かに内側に曲がり、鈍く尖ります。葉は滑らかで光沢があり、濃い緑色で斑点があります。
G. humilisは確かにG. decipiens Haw.やG. parvifolia Bak.、G. gracilis Bak.、G. Beckeri 
Schönlandに関連しています。しかし、これらとは異なり葉の縁がトリミングされます。また、G. obtuse (Salm) Haw.はキールが上部で曲がり葉縁を形成しますが、G. humilisでは目立ちません。
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Gasteria humilis v.P
名前が出てきた中では、G. humilisとG. parvifoliaはGasteria carinata var. carinataの異名、G. decipiensとG. BeckeriはGasteria nitida var. nitidaの異名です。G. gracilisは何に相当するのかが不明な種です。


以上が論文の簡単な要約です。1937年にvon Poellnitzにより命名された2種類のガステリアは、残念ながら現在は認められておりません。過去に命名したG. humilisもG. carinata var. carinataの異名になってしまいました。学名は一度決まったら不変なものではなく、結構ダイナミックに変更され続けるものですから、昔の学名と異なるのは差程珍しいことではありません。しかし、ガステリア属はかなり特殊で、「分類学者の悪夢」と呼ばれるくらい異名だらけでした。個体差や地域変異がすべて別種として命名されてきたのでしょう。まあ、そもそもが外見的に区別するのが難しいグループなのかもしれません。たしか、1990年代くらいからvan Jaarsveldにより、ガステリア属は大幅に整理されました。現在、ガステリア属は26種類に集約されました。とは言うものの、そのうち9種類は2000年以降に発見されていますから、種類が少ないのに新種が次々と発見されているホットなグループでもあります。また、現在では遺伝子解析によりある程度は近縁関係が分かってきましたから、細かい修正は続くかもしれません。

さて、個人的にはこのような昔の記事が面白いので、是非とも記事にしたいのですが、中々古いものは入手が難しいものです。記事の内容を一応紹介していますが、どちらかと言うと1937年当時の画像を見ていただきたいだけだったりします。しかし、サボテンについての(恐らくは)貴重な記事もあるようですが、残念ながらサボテンはギムノカリキウム属以外はよく分かりません。私では何もコメント出来ませんから記事化は断念しました。もう少し色々な多肉植物に詳しければ良いのですが、こういうものは一朝一夕には身に付かないものです。少しずつ勉強していくつもりです。



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まだまだ寒い日が続きますが、日中は暖かくなってきたせいか早くも活動を始める多肉植物もポツポツ出てきました。まあ、室内にあるため冬に関係なく生長しているものもありますけどね。当然、室内でも休眠している多肉植物もあります。同じ仲間でも様々です。そんな、2月の多肉植物の動向を少し見てみましょう。

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貴青玉錦 Euphorbia meloformis cv.
E. meloformis系は冬でも元気に花を咲かせ続けています。斑入りの貴青玉錦は花の赤味が強く、少し目立ちます。


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紅青玉
やはり、E. meloformis系は冬の間も開花します。貴青玉自体が交配種と言われていますが、紅青玉はさらに交配させたものらしいです。現状では貴青玉と外見上の違いはありませんが、生長すれば差が見えるのでしょうか?

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勇猛閣 Euphorbia ferox
勇猛閣という名前はあまり使われず、「フェロックス」の名前の方が馴染みがあるかもしれません。不定期に目立たない花を咲かせますが、冬の間も新しいトゲが幾つか出て、花も咲かせています。

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紅彩閣 Euphorbia heptagona
紅彩閣は丈夫なので冬の間も生長を続けています。わびしい冬の間も新しいトゲが美しいですね。室内で冬の日照を確保出来ない場合、少し暖かいと生長をはじめて徒長してしまいます。冬に室内に多肉植物を取り込む人にとっては逆に育てにくいかもしれません。

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Euphorbia rossii
細長い葉が出る花キリンですが、完全に葉が落ちました。生長はかなり遅いようです。

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Euphorbia gottlebei
同じく細長い葉が出る花キリンですが、こちらも葉はすべて落ちました。ただし、こちらは新しい葉と花芽が出てきました。一足早く春を感じ取っているようです。


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Euphorbia mangokyensis
こちらも花キリンですが、葉は落ちたものの花芽が出てきました。まだ小苗ですから花は嬉しいですね。

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Gymnocalycium intertextum
学名に関しては色々と議論があり未だに定まりません。冬の間も元気でトゲは出続けます。


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女王錦 Aloe parvula
花芽が出てからここまで来るのにかなりの時間を要しています。やはり、明け方や夜間の寒さもあり、花芽の生長も緩やかなのでしょう。


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一番花が垂れてきたので、いよいよ開花が近いみたいです。

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千代田錦 Gonialoe variegata
こちらも、花芽が出てから中々伸びませんでしたが、最近急激に花茎が伸びて来ました。

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一番花が垂れて急激に膨らんで来ました。開花が楽しみです。

2月はまだ多肉植物の動きは緩やかですが、少しずつ目覚め始めています。いよいよ多肉植物の季節が近づいている事を予感させます。Fouquieriaたちも少しずつ葉が出始めています。そういえば、この冬は関東地方にも雪が降ったりしましたが、それでも暖かかったのか、Adenia glaucaは葉を落としませんでしたし、Pachypodiumたちもあまり葉を落としませんでした。逆にPachypodium makayenseなんかは冬の間にかなり太りました。本当に多肉植物も様々ですね。


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2013年頃からアロエの仲間の遺伝子が本格的に調べられはじめ、それ以降アロエの仲間は激変しました。AloeはAloe、Aloidendron、Aloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeに分割され、HaworthiaはHaworthiaとHaworthiopsis、Tulistaに分割されました。逆にChortolirionやLomatophyllumはアロエに含まれることが明らかとなりました。他のアロエ類である、Gasteria、Astrolobaについても命名規約上の問題があり議論されています。

さて、Bruce Bayerが2014年にアロエ類についての意見をコラム欄で簡潔に述べています。それが、Aloe striatula(現在はAloiampelos)の葉の配置について述べた、『Leaf arrangement in Aloe striatula』です。興味深い
内容ですから見てみましょう。
A. striatulaを上から見て、葉の配置が二列性あるいは三列性であることを示しています。Bayerは二列性なら1、3、5、7、9枚目あるいは2、4、6、8、10枚目の葉がセットで、三列性なら1、4、7、10枚目、2、5、8枚目、3、6、9枚目がセットであるとしています。
しかし、この説明は非常に分かりにくいので、私の育てているAloiampelos striatula var. caesiaを例に、別の表現で解説しましょう。

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二列性の配置
まず、二列性の配置ですが、向かい合う葉が対になります。つまり、1+2、3+4、5+6、7+8、9+10です。軸が回転するように、葉が重ならない配置となります。

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三列性の配置
三列性の配置では3枚が1セットとなります。つまり、1+2+3、4+5+6、7+8+9がセットとなります。

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葉の根元は鞘があり、茎を覆っています。A. striatulaの次の葉は前の鞘のすぐ下に挿入されています。葉は左右に交互に出ますから、螺旋状に葉は配置されます。また、Aloe broomiiは葉の挿入は連続的で、茎から全ての葉を剥がすことが出来ます。

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Aloe broomii

ほとんどのHaworthiaでは葉は不規則ですが、常に螺旋状の順序になっています。Haworthia wittebergensisには完全に挿入された葉があり、恐らくHaworthia blackbeardiana(現在のH. bolusii var. blackbeardiana)、Haworthia viscosa(現在のHaworthiopsis viscosa)にも当てはまります。

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Haworthiopsis viscosaは典型的な三列性

以上がコラムの内容となります。
2014年はまだアロエ類の分類についての議論が華やかなりし頃でしたから、このような論考があった訳です。とはいえ、単純な外見的特徴から遠近を判断するのは困難ですよね。
AloeやGasteriaは苗の頃は二列性ですが、やがて回転していきます。アロエ類は基本的には向かい合う2枚の葉が回転していきます。アロエ類の葉が回転するのは、全ての葉に効率的に太陽光線を当てるための仕組みです。アロエは茎が伸びて行くものが多いですが、Haworthiaは茎が伸びずにロゼット型となります。

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Aloe spectabilisの苗。左右に葉が向かい合う典型的な二列性です。

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現在のAloe spectabilis。ある程度育つと葉が回転し始めます。

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Haworthiopsis arachnoidea。回転する葉が密について茎が伸びないと、ロゼット型になります。


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fan aloe(扇アロエ)と呼ばれる多肉植物があります。蒼白い上向きの葉が左右に分かれて綺麗に並ぶことから、そのように呼ばれているのでしょう。以前は珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っています。一般的にはAloe plicatilisという名前で販売されています。しかし、2013年にGordon D.Rowleyによりアロエ属からクマラ属に移されました。つまりは、Kumara plicatilisです。しかし、この過程にも何やらややこしい事情が見え隠れしているようです。非常に面倒臭い話ですからご注意のほどを。書いている私もうんざりする内容です。

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Kumara plicatilis

事の発端は1753年まで遡ります。現在の学名の仕組みを作り出したCarl von Linneが、fan aloeを命名しました。この最初の学名は、Aloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。というのも、von Linneの時代はまだガステリア属はなく、当時のアロエ属には現在のガステリアやハウォルチアを含んでいたのです。ですから、Gasteria distichaも最初はアロエ属でした。そして、fan aloeは、何故かAloe disticha=Gasteria distichaの変種とされたのです。
1768年にfan aloeは独立し、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.とされました。しかし、1786年にKumara disticha Medik.という学名も提案されました。問題はここまでの経緯と、この先のクマラ属に移行する際の混乱です。この混乱についての論文は、Ronell R.Klopper, Gideon F.Smith & Abraham E. van Wykの2013年6月の論文『(2144) Proposal to conserve the name Kumara (Asphodelaceae) with a conserved type』、及び7月でた同著者らの論文である『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara (Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』に書かれています。

1786年にMedikusはKumara Medik.を創設し、Kumara disticha Medik.という1種類を命名しました。その時の図を見ると、Kumara distichaがfan aloeを指していることが分かります。また、1784年に命名されたAloe tripetata Medik.という異名は、Commelijnの1701年の銅版画に基づくものです。Commelijnの銅版画は明らかにfan aloeを描いています。これは、本来はAloe disticha var. plicatilis L.である必要があります。また、この時にMedikusは、Aloe disticha var. δ(※1)についても言及していますが、これは誤りでGasteria carinata (Mill.) Duval=Gasteria excavata (Willd.) Haw.を示しているようです。MedikusはAloe linguiformis Medik.をAloe disticha var. αに基づいており、Aloe verrucosa(※2)をAloe disticha var. γに基づき命名し、後の1786年にはAloe tristichaをAloe disticha var. βに基づいていました。

(※1)Aloe disticha L.は、現在のGasteria disticha (L.) Haw.を指しているとされていますが、Aloe distichaは他の種類のガステリアを含んだものだったようです。ですから、この場合は異なる種の混合であるAloe distichaを参照としており、仮にAloe distichaの変種δと表現しています。この後に出てくる変種αや変種βも同様です。

(※2)これは1768年に命名されたAloe verrucosa Mill.を示すため誤りで、正しくは1784年に命名されたAloe verrucula Medik.のことを指す。A. verruculaとは現在のGasteria carinata var. verrucosaのこと。

実際にはfan aloeはKumara distichaとは呼ばれずAloe plicatilisの名前が使用されてきました。しかし、遺伝子解析の結果からは、fan aloeがアロエではなくハウォルチアに近縁な仲間であることが分かりました。そうなると、fan aloeをアロエから独立させる時に、忘れ去られていたKumara distichaが浮かび上がって来るのです。
ここで問題が生じます。Kumara distichaは1786年の命名であり、Gasteria Duvalは1809年の命名ですから、もしAloe distichaがKumara plicatilisやGasteria carinataなどの様々な種を含んでいた場合、Aloe distichaはKumaraのバシオニム(基になった名前)となります。つまり、Aloe distichaを現在のGasteria distichaとした場合、GasteriaよりもKumaraの方が命名が早いので、現在のGasteriaは全種類Kumaraにしなければなりません。GasteriaはKumaraの異名となります。当然、Kumara plicatilisはKumara属を旧・Gasteriaに取られてしまったので、新たな命名が必要となります。これは、命名規約を厳密に適応するならば避けられない事態ですが、適応された場合の混乱は必至でしょう。
しかし、著者はKumara plicatilisを保存して、Gasteriaを現在のままにしておくことを提案しています。なぜなら、Gasteriaは200年以上に渡り使用されてきた学名であり、命名法の深刻な混乱を引き起こすからです。そして、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.の新たな命名としてKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.を提唱しています。
 
以上が論文の内容となります。内容が込み入っているため、適切に要約出来ているか怪しい部分もあります。しかし、話はこれで終わりではありません。まだ続くのです。やはり、同著者らの2013年8月の論文、『The correct name of Aloe plicatilis, the fan aloe, in the genus Kumara (Asphodelaceae), again』を見てみましょう。
Kumara Medik.がfan aloeであるAloe plicatilis (L.) Burm.f.のために復活した時に、7月の論文で著者らはKumara plicatilisに修正しました。この時に著者らはKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.と命名しました。しかし、2013年の4月にGordon D.Rowleyが『Alsterworthia』のSpecial Issueで、すでにKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyと命名していました。よって、著者らが命名したKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Smは不適切な名前であり、G.D.Rowleyの命名が優先されます。
また、Aloe plicatilisの引用元は1768年の3/1~4/6の出版物で命名されたAloe plicatilis (L.) Burm.f.であり、同年の4/16に命名されたAloe plicatilis (L.) Mill.は採用されません。

以上が論文の簡単な要約です。しかし、Kumara plicatilisのややこしすぎる経緯は、何ともすっきりしない感じがあります。この問題は結局のところ、Aloe distichaの曖昧さと、Aloe distichaに対するMedikusの引用の不確かさが招いた混乱と言えるでしょう。また、Aloe plicatilisやKumara plicatilisの命名にも混乱があり、どちらも同じ年に同じ名前が命名されていますが、タッチの差で採用される名前が決まってしまいます。学術世界も競争の世界なんですね。
この異名の処理については文献学的な資料探索と、実際の多肉植物の学術的な知識が必要ですから、それほど進んでいないのかもしれません。私のブログでもこの手の記事を幾つか書きましたが、まだまだこれからも出てくるのでしょう。見つけましたら、また記事にしたいと思います。



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去年の秋のことです。神奈川県川崎市にあるタナベフラワーで、謎の多肉植物を入手しました。とても変わっていて、見た瞬間頭が疑問符だらけになりました。その多肉植物が「ハオルチア・トリアングラリス」です。名札にはそう書かれていました。しかし、聞いたことがない名前です。Haworthiopsis(硬葉系)であることは見て直ぐにわかりましたが、2022年時点で19種類あるHaworthiopsisにはこの学名はなかったはずです。おかしいなあとは思いつつ、外見的な面白さもあり購入に至った訳です。

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Haworthia triangularis?
三方向に葉を広げます。種小名の「トリアングラリス」とはそのまま「トライアングル」のことですから、外見の特徴から来ていることが分かります。大型で葉の表面にはイボやざらつきはなく、滑らかで艶があります。また、日を浴びると黄色くなります。

さて、帰宅して「ハオルチア・トリアングラリス」を調べてみました。まあ、この場合はHaworthia triangularisですね。Euphorbia triangularisを知っていたので、種少名のスペルも直ぐに分かりましたね。早速検索してみると、何故かほとんど出てきません。海外のあるサイトでは、Haworthia triangularis (Lamarck)とあります。ああ、これは正式な命名規約に乗っとった学名ではないようです。括弧がある場合、属名が変更になったり亜種や変種が独立種になったりと、何かしらの変更があったことを示しています。括弧の中は以前の名前の命名者で、括弧の次に変更後の学名の命名者が来るはずですが、それがないのは実におかしなことだからです。
これは、おそらくはAloe triangularis Lamarckから来ているはずです。なぜなら、1809年にフランスのHenri August DuvalによりHaworthia Duvalが命名されるまでは、大抵のハウォルチアはアロエ属だったからです。ということで、Aloe triangularisを調べると、出てきました。1783年に命名されたAloe triangularis Lam., nom.superfl.です。やはり、推測は正しかったようです。命名者の後の'nom.superfl.'は、既に命名された同じタイプに別の名前がつけられたということですから、そもそも無効ではあります。では、このAloe triangularisは何者かというと、2016年に命名されたHaworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopperのことです。
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Haworthiopsis viscosa
Haworthiopsis viscosaは長い間Haworthiaでしたし、今でもHaworthia viscosaとして販売されています。その学名は1812年に命名されたHaworthia viscosa (L.) Haw.ですから、実に200年以上Haworthiaだった訳です。なるほど、新しい学名が浸透しない訳です。
しかし、初めて命名されたのは、1753年のAloe viscosa L.でした。これは、Aloe triangularisよりも30年早く命名されていますから、このAloe viscosa→Haworthia viscosa→Haworthiopsis viscosaの種小名の系統が正当な学名とされてきた訳です。Aloe triangularisは学術的には継承されず、園芸上はHaworthia triangularisとして使用されてきたということなのでしょう。

さて、ここまで学名を追って来ましたが、重大な問題が浮かび上がります。それは、Aloe triangularisがHaworthiopsis viscosaを指しているのならば、Aloe triangularisは典型的なHaworthiopsis viscosa(当時はAloe viscosa)に対して命名されたのではないかというものです。つまりは、私の所有している"Haworthia triangularis"は、1873年に命名されたAloe triangularisとは別物である可能性もあるのです。
そもそも、私の所有する"Haworthia triangularis"は由来がわからない多肉植物です。野生由来の個体なのか、栽培する中で生まれた突然変異株なのかすら不明です。学名の命名者達がどんな個体を見て命名したのかが分かりませんから、何とも言いようがありません。そもそも、古い論文は探しても見つからないことが多いので、それを確認することは中々困難です。もし、論文を見つけても、その命名の根拠となった標本は海外の大学や博物館にあるわけで、私にはその標本にアクセスする手段がありません。完全に手詰まりです。

ここで、私の所有する"Haworthia triangularis"(以下、引用符で囲った"Haworthia triangularis"は、私の所有する個体を表します)とHaworthiopsis viscosaを比較してみましょう。結構異なる部分があります。サイズが非常に大きく葉も長いことから、葉の重なり具合も異なります。また、Haworthiopsis viscosaの濃い緑色と比べて"Haworthia triangularis"は非常に明るい色です。葉の表面はざらつかず滑らかです。かなりの差があるように思えます。
しかし、自生地のHaworthiopsis viscosaの画像を検索してみると、思いの外その姿に多様性があり驚かされます。サイズや葉の重なり具合だけではなく、葉の表面のざらつき具合すら、かなりの幅があるようです。こうなると、"Haworthia triangularis"は、Haworthiopsis viscosaの変異幅の範疇に収まってしまう可能性が大です。
さて、これで一件落着かと思いきや、まだ続きがあります。Haworthiopsis viscosaには変種があり、Haworthiopsis viscosa var. 
variabilis (Breuer) Gildenh. & KlopperHaworthiopsis viscosa var. viscosaがあります。Haworthiopsis viscosa var. variabilisは、Haworthia variabilis (Breuer) Breuerの方が通りがいいかもしれませんが。さて、この変種variabilisは葉の長さが異なるようですが、幾つかの画像を見た限りではかなりの多様性があるみたいです。もしかしたら、私の"Haworthia triangularis"は、変種variabilisである可能性もあります。しかし、正確な見分け方がわからないので、可能性以上のことは言えません。

長々と書いてきましたが、まだ続きます。というのも、私の所有する"Haworthia triangularis"はAloe triangularis Lam.であるかのように書きましたが、実はAloe triangularisは2種類あるのです。それは、1784年に命名されたAloe triangularis Medik., nom.illeg.です。命名者、命名年、論文が記載された雑誌が異なります。要するに、Aloe triangularisという学名は2回命名されているのです。末尾の'nom. illeg.'は、命名規約の誤用が見られる名前という意味です。Aloe triangularis Medik.は、Haworthiopsis viscosa var. viscosaの異名です。
Aloe triangularis Lam.とAloe triangularis Medik.の違いに気付きましたか? 実はAloe triangularis Lam.はHaworthiopsis viscosaの異名で、Aloe triangularis Medik.は変種viscosaの異名なのです。同じように見えますが全く異なります。なぜなら、Haworthiopsis viscosaとは、変種viscosaと変種variabilisを合わせた名前だからです。つまりは、もし私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Lam.とされた植物由来ならば、変種viscosaであるか変種variabilisであるかはわからないということになります。しかし、私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Medik.由来であるならば、それはつまり変種viscosaということになるからです。とはいえ、それを確かめる手段はありませんから、虚しい空論かもしれません。

さて、Haworthiopsis viscosa自体は、Haworthiopsis scabraに近縁と言われているようです。ここで1つ思い浮かんだことがあります。それは、Haworthiopsis scabraとその変種starkianaの関係です。Haworthiopsis scabraというか変種scabraは、実にHaworthiopsisらしく、表面はざらざらしており全体的に暗い色合いです。しかし、変種starkianaは表面はツルツルで明るい色合いです。この関係は何やら私の"Haworthia triangularis"とHaworthiopsis viscosaとの関係に似ているような気がしたからです。こういう変異はよくあるパターンなのかもしれませんね。
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Haworthiopsis scabra var. scabra

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Haworthiopsis scabra var. starkiana

そういえば、Haworthiopsis pungensは、上から見るとちょっと似ていますね。
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Haworthiopsis pungens


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雪女王(Aloe albiflora)はマダガスカル原産の白い花を咲かせるアロエです。アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせますから、白い花のアロエは珍しいと言えます。しかし、なぜ白い花を咲かせるのでしょうか? とても不思議です。少し考えてみました。

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Aloe rubriflora
今年の1月に開催された世田谷ボロ市の出店で購入したばかりですから、まだ花は拝めていません。

アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせます。まず、この点から見ていきましょう。
花に様々な美しい色があるのは、何も我々の目を楽しませるためではありません。ポリネーター(花粉媒介者)にアピールするためです。植物が花を咲かせるのは、花を訪れる動物に花粉を運んでもらい、受粉して種子を作るためです。そのための報酬が甘い蜜で、目立つ色のついた花びらを標識として動物を呼び寄せるのです。日本では一般的に花の受粉は昆虫により行われます。しかし、世界にはハチドリ、ミツスイ、タイヨウチョウなど花の蜜を専門とする鳥も存在しますし、花の蜜を専門としていない鳥でも花の蜜を吸うことは珍しくありません。日本でも梅の花にメジロが訪れ花の蜜を吸っている姿を見ることが出来ます。
アロエが自生するアフリカにはタイヨウチョウが分布し、大型アロエの花にはタイヨウチョウ以外の様々な鳥が訪れ受粉に寄与しています。もちろん、アロエの花にはミツバチやネズミなども訪れますが、受粉のメインは鳥であると考えられており、アロエは鳥媒花とされています。大型アロエは大きな花と大量の蜜が出るため、様々な鳥を呼び寄せます。実は、タイヨウチョウは小型で頭が小さくクチバシが細長いため花の蜜だけを掠め取ってしまい、あまり受粉には寄与していないことが分かっています。そのため、大型アロエはある程度の大きさのある、花の蜜を専門としていない鳥に受粉してもらっているのです。大型アロエの場合、ターゲットは鳥ですから、その赤~橙系の花色は鳥に対するアピールと考えられます。他のアロエ類(アロエに近縁な仲間)を見てみると、GasteriaやAstroloba rubriflora(異名Poellnitzia rubriflora)は赤~橙系統の花を咲かせ、やはり鳥媒花であることが確認されています。
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Aloe arborescensの花

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Gasteria distichaの花

アロエ類は赤~橙系統の花だけではなく、白い花のものも沢山あります。例えばHaworthiaやHaworthiopsis、Astrolobaは白く小さな花を咲かせます。これらは花が小さいため、明らかに虫媒花です。しかも、その細長くすぼまった形から、鱗翅目(チヨウやガ)やハエ目(ハエやアブ)がターゲットなのでしょう。
実はカラフルな花の色はミツバチやマルハナバチを呼び寄せることが明らかとなっています。高山の森林限界を超えると、樹木はほとんど生えることが出来ませんが、様々な草本が花を咲かせ一般的に「お花畑」と呼ばれています。日本の高山のお花畑は非常にカラフルですが、海外の高山ではほとんど白一色のお花畑も存在します。これは、ミツバチやマルハナバチなどの蜜を集める膜翅目昆虫の不在が原因と考えられています。このように、花の色により虫媒花でも引き寄せる昆虫が異なる可能性があるのです。

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Haworthiopsis scabraの花

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Haworthiopsis glauca var. herreiの花

ではAloe albifloraはどうでしょうか? まだ開花していないので花を提示できませんが、アロエらしく釣り鐘型の花です。白く緑色のラインが入っており、花に膨らみが無いこと以外はハウォルチアの花に似ています。どうやら、Aloe albifloraは虫媒花、しかも鱗翅目やハエ目がターゲットのようです。ハウォルチアの花は細長いので、ターゲットはおそらく小型の蛾でしょう。しかし、Aloe albifloraの花はハウォルチアより大きく、しかも少し膨らんだ形です。蜜を吸うために小型のハエなども潜り込めるかもしれません。

とまあ、以上が雪女王について少し考えたことです。大した話ではありませんし、特に根拠のある訳ではありません。所詮は私の狭い知識の内での妄想です。本来はAloe albifloraを調査した論文があればよかったのですが、今のところ見つかっていません。何か面白い情報がありましたら、また記事にします。


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私の好きな多肉植物の産地は、大抵は南アフリカ、マダガスカル、メキシコあたりです。まあ、この辺りは多肉植物の宝庫ですから、実際に種類も豊富です。さて、私もそれなりに多肉植物が増えてきましたが、カナリア諸島やモロッコなど、多肉植物の産地としては少々変わった地域のものもちらほら入手しています。そんなおり、タンザニア原産のユーフォルビアを入手したので色々調べていたら、タンザニアのユーフォルビアについての記事を見つけました。それは、2008年のSusan Carterによる『Euphorbia in Tanzania』です。また、記事ではMonadeniumをEuphorbiaに含める考え方もあると注記がありましたが、現在ではMonadeniumは完全にEuphorbiaとされています。ですから、Monadeniumの学名の後にEuphorbiaとしての学名を追記しました。

タンザニアはケニアと比較すると、ユーフォルビアの多様化は低く、種類も少なくなっています。しかし、人口密度が高い沿岸地域から離れた中央高原は広大で、茂みに覆われツェツェバエ(アフリカ睡眠病を媒介する蝿)が蔓延していることからあまり探索されていません。

北部の草原地帯のSerengetiは、ケニアのMaasai Mara国立保護区よりはるかに広大です。ここでは、巨大な塊根を持つEuphorbia graciliramea PaxとEuphorbia similiramea S.Carter、さらに叢生するEuphorbia uhligiana Paxが見られます。この場所とNgorongoroの火山盆地の間には、2種類の局所的な分布のユーフォルビアが見られます。1つはEyassi湖のほとりのEuphorbia eyassiana P.R.O.Bally & S.Carterで、高さ80cmほどの多肉質の茎は紫がかります。もう1つはManyara湖のRift Valleyの断崖の斜面に見られるEuphorbia elegantissima P.R.O.Bally & S.Carterです。細長い多肉質の茎がブッシュ状となり3mほどになります。

ケニアとの国境沿いを南東に行きキリマンジャロを通り過ぎた北東のParesとUsambarasを横切る丘に到着します。海岸に近いのでよく調査されており、有名なユーフォルビアが生えます。北端にはEuphorbia robecchii Paxが生えます。苗のうちはトゲのある柱サボテン状ですが、大型になると幹は木質化し一見して樹木のように見えます。丘の麓には深い砂質土壌の開けた茂みがあり、Euphorbia heterochroma Paxが生えます。四角柱の柱サボテン状のユーフォルビアで、特徴的な規則的な緑色の斑紋があります。19世紀後半にドイツの博物学者により東アフリカ沿岸部が調査された時に発見された最初の種の一つです。Usambarasの急斜面のさらに南には、高さ15mになるEuphorbia quadrialata Paxが生えます。
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Euphorbia robecchii Paxの苗。Euphorbia robechchiiの名前で流通しているようです。

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大型のEuphorbia robecchiiは樹木状となります。
(P.R.O.Bally, 1954)

ケニアへ広がるこの沿岸地域には、樹木状で沢山の稜があるEuphorbia bussei Paxが見られます。また、3稜のEuphorbia nyikae Paxは、海からの湿気を利用しています。海岸から離れると、1本の幹から無数の枝を密につける有名なEuphorbia candelabrum Kotschyが見られます。

Great Ruaha川を内陸に辿ると、急な断崖のある渓谷に到着します。険しい断崖は植物を保護し、多くのユーフォルビアが生える理想的な生息地です。バオバブの木とともに、Euphorbia quadrangularis Paxは正方形の頑丈でまばらに枝分かれした茎を持ち、その高さは最大3.5mとなります。枝は主茎から直角に広がり、灰色がかった緑色の斑入りです。これはEuphorbia cooperi var. ussanguensis (N.E.Br.) L.C.Leachの分布の北東の限界でもあります。高さ10mとなります。さらに、断崖に沿って行くと、固有種のEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally &S.Carterが生えます。高さは30cmで暗赤色のトゲと青みがかる斑入りの茎が特徴です。
さらに、6種類以上の非常に異なったモナデニウムが生え、そのうち4種類はこの地域から固有です。急斜面の丘の中腹には高さ3.5mになる樹木、Monadenium elegans S.Carter=Euphorbia biselegans Bruynsが生えます。美しい紫がかる褐色のフレーク状の樹皮を持ち、明るい色の葉を持ちます。高さ4mになり、まばらに枝分かれした低木であるMonadenium arborescens P.R.O.Bally=Euphorbia neoarborescens Bruynsは、太い多肉質の緑色の茎と25cmになる大型で多肉質の葉をつけます。この種は、関連するMonadenium spectabile S.Carter=Euphorbia spectabilis (S.Carter) Bruynsと同様に谷底に生え、高さ3mで多肉質の大きなは木質葉があります。この地域の4つ目の固有種はMonadenium magnificum E.A.Bruce=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruynsです。丘の麓のブッシュランドのさらに北で見つかりました。高さ1.5mほどの低木で、15cmの多肉質の葉を出します。

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Euphorbia greenwayi P.R.O.Bally

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Monadenium magnificum E.A.Bruce
=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruyns


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茎や葉の裏に沢山のトゲをつけます。

他の地域にも分布するモナデニウムは2種類で、丘の間の低木地帯で見られます。Monadenium goetzei Pax=Euphorbia neogoetzei Bruynsは3種類の固有種と関連しています。草本性の多年草で、茂みの中から75cmまで育ちます。長さ17cmの多肉質の葉を持ちます。また、下草の中にはMonadenium schubei (Pax) N.E.Br.=Euphorbia schubei Paxがマット状に育ちます。時に高さ1m近く育ちます。

開けた茂みを南西に進むと、Euphorbia quadrangularisが豊富です。しかし、しばしば家畜が放牧されており、環境は渓谷とは異なります。緑がかる褐色の茎と1cmを超えるトゲを持つEuphorbia reclinata P.R.O.Bally & S.Carterが自生します。マラウイとザンビアに隣接する山の麓には、塊根を持つEuphorbia tetracanthoides Paxが見られます。

タンガニーカ湖の東岸に沿う低い丘を北に向かうと、Euphorbia grantii Oliv.が見られます。小さく枝分かれした樹木で多肉植物ではありません。葉は長さ30cmにもなります。関連する種としては、高さ3mの低木であるEuphorbia goetzei Paxがあります。ザンビアとマラウイにも分布します。多肉植物ではありません。同じく、関連するEuphorbia matabelensis Paxは鋭く尖った枝を持つ低木で、多肉植物ではありません。分布は南アフリカまで広がっています。
この丘には多肉質のユーフォルビアもあり、Euphorbia angustiflora Paxなどトゲのある種が知られています。マット状に育つこともあります。また、Euphorbia rubrispinosa S.Carterは明るい緑色で、4稜の茎と暗赤色のトゲを持ちます。


以上が記事の要約です。
タンザニアの多肉植物はあまり聞きませんが、非常に魅力的なユーフォルビアが沢山自生していることが分かります。しかし、それだけではなく、タンザニアの西部にはまだ未調査な部分があると言いますから、まだ知られていない未知のユーフォルビアが存在するかもしれません。今後に期待しましょう。



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本日は2022年のColin C.Walkerの記事、『Euphorbia evolution and taxonomy』をご紹介します。タイトルは「ユーフォルビアの進化と分類学」ですが、内容的には2021年に発表されたユーフォルビアに関する論文の紹介記事です。記事は3つのパートからなっています。早速、記事を見てみましょう。

①ユーフォルビアの分類
遺伝子解析の発達は、長い歴史を誇る植物分類学を一新してしまいました。特にここ10年と少しで急速に普及・発展し、その精度も高くなっています。全世界の植物学者が協力して植物の分類を決定しようとしたAPGというプロジェクトがあり、分類体系は様変わりしました。遺伝子解析によりユーフォルビアの分類も大きな影響を受けることになりました。

さて、ユーフォルビアは種類も多く姿も多様ですが、近年の遺伝子解析においてまとまりのあるグループであることが明らかとなっています。今までユーフォルビアから分離されてきたグループも、ユーフォルビアに合併される傾向があります。
2021年の論文、『Plastome evolution in the hyperdiverse genus Euphorbia (Euphorbiaceae) using phylogenomic and comparative analysis : large - scale expansion and contraction of the inverted repeat region』では、ユーフォルビア属は単系統です。Chamaesyce、Cubanthus、Eleophorbia、Endadenium、Monadenium、Pedilanthus、Poinsettia、Synadeniumは、ユーフォルビア属内で他のユーフォルビアと入れ子状となっていることが示されています。ユーフォルビア属の4つの亜属である、Athymalus、Chamaesyce、Esula、Euphorbiaは単系統でした。

次にやはり2021年の論文、『Euphorbia mbuinzauensis, a new succulent species in Kenya from the Synadenium group in Euphorbia sect. Monadenium (Euphorbiaceae) 』では、わずか14種類のグループであるシナデニウム属に焦点を当てています。シナデニウムは以前は熱帯アフリカの東部と南部のみに分布する、高さ18mまでの樹木です。既知の植物と一致しない種が発見されたので、分子生物学的研究が行われました。この新種はEuphorbia mbuinzauensisと命名されました。ケニア原産の高さ4mほどの低木です。この研究によりシナデニウム属がユーフォルビア亜属の構成員であることを確認しました。

②マダガスカル・ユーフォルビアの学名の改定
2番目はマダガスカルのユーフォルビアについての論文です。2021年の2本の論文、『Novelties in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』と『Taxonomic change and new species in Malagasy Euphorbia』です。

マダガスカルには200以上のユーフォルビアがあり、多様性があります。この2つの論文ではその分類法と命名法を再評価しています。マダガスカルのユーフォルビア48種類を評価しており、これらの論文の種名の変更を基に、将来的に学名が大きく改定される可能性があります。

1つ目の論文の焦点は、花キリンEuphorbia miliiの分類方法の再検討です。E. miliiの由来は1826年の命名以来謎のままであり、この名前は園芸業界で様々な品種に対して総称として使用されています。Euphorbia milii Des Moul.の名前は、先端を切ったような葉の種類に限定されます。楕円形の葉を持つ、赤色や黄色の花(苞)を持つ良く栽培される種類をEuphorbia splendens Bojer ex Hookerの名前で復元されています。
他のE. milii複合体については以外の通りに改定されております。
E. milii var. longifolia→E. betrokana
E. splendens var. bevilaniensis→E. bevilaniensis
E. splendens var. hislopii→E. hislopii
E. milii var. imperatae→E. imperatae
E. milii var. bosseri→E. neobosseri
E. milii var. roseana→E. roseana
E. splendens var. tananarivae→E.tananarivae
E. milii var. tenuispina→E. tenuispina


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Euphorbia imperatae cv. 

また、Euphorbia bosseri Leandriの分類方法も改定され、一般的なE. platycladaは異名となります。E. platyclada var. hardyiはEuphorbia hardyiとして変種から独立種に昇格しました。

他にも、いくつかの低木種の分類も改定されました。
E. primulifolia var. begardii→E. begardii
E. francoisii var. crassicaulis→E. crassicaulis
E. perrieri var. elongata→E. paulianii
E. berevoensis(E. nicaiseiを含む)
E. delphinensis
E. fanjahiraensis(E. isalensisを含む)
E. guillemetii(E. beharensisを含む)
E. leandriana(E. horombensisを含む)
E. mangokyensis(E. razafindratsiraeを含む)
E. pachyspina
E. perrieri
E. psammiticolia
E. werneri


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Euphorbia begardii

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Euphorbia mangokyensis

2番目の論文では、14種類ものマダガスカルの新種ユーフォルビアが記載され、近縁な種類と比較しています。その14種は、E. agatheae、E. atimovatae、E. fuscoclada、E. graciliramulosa、E. kalambatitrensis、E. linguiformis、E. mahaboana、E. makayensis、E. multibrachiata、E. parvimedusae、E. perrierioides、E. rigidispina、E. spannringii、E. tsihombensisです。
また、非公式なE. rubrostriataグループの新しい組み合わせが提案されています。E. itampolensis(E. neobosseri var. itampolensis)、再評価されているのはE. mahafalensis、E. rubrostriata(E. mainianaを含む)、E. xanthadenia(E. croizatii、E. ebeloensis、E. emiliennaeを含む)です。
さらに、新しい異名と新しい組み合わせが提案されています。
E. moratii var. antsingiensis→E. antsingiensis
E. enterophora subsp. crassa→E. crassa
E. rangovalensis(E. castilloniを含む)
E. enterophora→E. xylophylloides

③Euphorbia susannaeの調査
3つ目は、日本ではすっかり普及種となったEuphorbia susannaeについてです。その論文は2021年の『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。著者らはE. susannaeの分布と環境を調査し、野生のE. susannaeの個体数が非常に少数であることを報告しています。
実はこの論文は既に記事にしています。詳細は以下のリンクをどうぞ。


最後に
以上が最新のユーフォルビアのニュースとなります。ユーフォルビアは種類が多い割に論文が少なく、園芸的に人気があるアフリカの多肉質なユーフォルビアとなると、残念ながらほとんどない状態です。しかし、ユーフォルビア属自体は大変動の最中で、モナデニウム属などがユーフォルビア属に吸収合併されました。ユーフォルビア属内の大まかな分類も概ね解決しており、後は詳細な種の所属を明らかにすることや、種同士の関係性が気になるところです。次にマダガスカルのユーフォルビアについてですが、これは非常に大きな改定です。これからの分類が刷新される可能性もあり、重要な論文かもしれません。時間があれば一度読んでみたいと思っています。最後にEuphorbia susannaeについてですが、これは思いの外重要な論文です。多肉植物は、環境破壊や違法採取などにより、個体数を減らしたり絶滅が危惧されているものも沢山あります。しかし、希少植物を保護するにせよ現地調査は欠かせません。まずは知るところからがスタート地点です。しかし、残念ながらアフリカのユーフォルビアは、減少している可能性があるといった曖昧な情報が多く調査もなされていないため、仮に絶滅していてもそのことすら感知されない可能性があります。大変悲しいことです。


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昨年の夏頃に安価なミニ多肉として販売されていたE. リカルドシアエという名前のユーフォルビアを購入しました。このリカルドシアエは、マラウイ原産のEuphorbia richardsiaeのことですが、画像検索すると外見が異なるものが出てくるので、以前から気になっていました。取り敢えず、リカルドシアエの情報をまとめた記事がこちらです。
しかし、最近ユーフォルビアの画像を色々漁っていた時に、我が家のリカルドと似た画像が偶然見つかりました。それが、グリセオラ、つまりはEuphorbia griseolaです。龍尾閣という名前もあるようです。
我が家の謎のユーフォルビアの特徴を見てみましょう。

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トゲとトゲの間がつながっており、直線的に育ちます。E. richardsiaeはトゲが繋がらず、グネグネと歪曲しながら育ちますから明らかに特徴が異なります。どうにも、E. griseolaと特徴が符合します。

グリセオラの学名は1904年に命名されたEuphorbia griseola Paxです。亜種としてE. griseola subsp. griseola、E. griseola subsp. mashonica、E. griseola subsp. zambiensisがあります。
分布はかなり広く、ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、ザイールの原産です。原産地や育て方の情報はありませんが、育てた感想としてかなり生長が早く育てやすいと思います。
Dolomite euphoriaなる名前も出てきましたが、ドロマイトは苦灰石のことです。苦灰石を加工したものが苦土石灰ですから、アルカリ土壌に生えるのでしょうか?

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Euphorbia griseola Pax

ついていたラベルの名前が間違えているというのは、非常に困ったことです。特にユーフォルビアは類似したものも多く種類も多いので、似た種類をすべてピックアップして比較するということは非常に困難です。しかし、これは生産者が勝手に適当なラベルを挿した訳ではないと思います。生産者がうっかり間違った可能性もありますが、おそらくは購入した種子の名前が間違っているのでしょう。基本的に生産者は種子に書いてあった名前を、そのままラベルに記入しています。実際に、海外の種子で2種類の植物が混同されていたり、実生苗の学名のスペル・ミスがあちこちの生産者で共通していることが結構あります。ですから、この名前の誤りはそう簡単には解決しない問題と言えるでしょう。


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1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を見つけたのですが、残念ながらドイツ語はまったく分かりません。しかし、索引を眺めていたら、なんとユーフォルビアについて書かれた記事があるみたいです。これは内容が非常に気になります。仕方なく機械翻訳にかけてみました。若干、怪しい翻訳文ですが、86年前に書かれた実に興味深い記事です。
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記事のタイトルはVon Paul Stephanの『Einige wenig bekannte Euphorbia』、つまりはポール・ステファンによる「幾つかのあまり知られていないユーフォルビア」です。おそらく、Paul Stephanはハンブルク植物園で多肉植物のコレクションの管理をした植物コレクターのことでしょう。Paul Stephanは1929年にConophytum stephaniiの種小名に献名されていますね。この記事ではポール・ステファン氏が自慢のユーフォルビア・コレクションを写真付きで紹介しています。

Euphorbia stellata Willd.
ポール・ステファン氏の解説 : 太くて短い円筒形の幹の上から多数の枝が出ます。幹の樹皮は灰褐色で棘はありません。枝は暗い緑色で褐色の棘があります。枝は上部が凹み、幅は最大2cmで一対の棘で強化されています。棘は赤褐色で長さは2~3mmです。Euph. stellataは「Berger」ではEuph. uncinata DCとされていますが、これは古い名前で有効な名前であるstellataと呼ぶ必要があります。古くから知られていますが、コレクションには滅多に見られません。
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ポール・ステファン氏のコレクションの写真。何故か写真の学名は、Eu. uncinnataとなっていました。本来はstellataです。しかも、uncinataをuncinnataと誤植されています。枝が短いせいか、あまりE. stellataらしく見えませんね。むしろ、Euphorbia tortiramaに見えてしまいます。水を少なく遮光しないで育てているのかもしれません。

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E. stellataは日本では飛竜の名前で知られています。E. stellata Willd.は1799年の命名、E. uncinata DC.は1805年の命名です。数年前は日本でも割と珍しいユーフォルビアで、思いの外高額でした。現在は苗が出回っており、だいぶお値段も落ち着きました。

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Euphorbia tortirama

Euphorbia inermis Mill.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. inermis Mill.はEuph. caput-medusae L.の近縁種ですが、はるかに強力な側枝が異なる点です。caput-medusaeにある若い芽は失われています。枝の肋とこぶははるかに顕著です。幹は緑色で下部に向かうほど灰色になります。
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ポール・ステファン氏のコレクション。下の私の所有している個体と良く似ています。

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E. inermisは日本では九頭竜と呼ばれています。E. inermisは1768年の命名です。日本では量産されており、入手しやすいタコものユーフォルビアです。あまり強光を好まないみたいです。

Euphorbia valida N.E.Br.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. meloformisに最も近縁ですが色が異なります。花の残骸が残っていないため無防備です。それ以外はほぼ同じ植物で、Marlothによるとmeloformisの生長形態が異なるだけに過ぎないと言います。
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ポール・ステファン氏のコレクション。花柄は残っていません。かなり大型の個体のようです。

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Euphorbia validaとされる個体。花柄はあまり出ません。縞模様がよく目立ちます。現在、E. valida N.E.Br.、あるいはE. meloformis subsp. valida (N.E.Br.) G.D.Rowleyは、E. meloformis Aitonと同種とされています。原産地では、E. meloformisともE. validaともつかない中間個体が多いようです。要するに、多様な個体の中で特徴的なものをピックアップして命名されただけかもしれないのです。

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縞模様がほとんどない個体。花柄は長く伸びます。validaとは、ラテン語で「validus=強い」から来ています。

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Euphorbia infausta N.E.Br.は、現在はE. meloformisと同一種とされています。花柄は弱く残りにくいタイプです。

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貴青玉
E. meloformisのことを貴青玉と呼んでいたみたいですが、最近ではE. meloformis系交配種のことを貴青玉と言っているみたいです。


Euphorbia Suzannae  Marl.
ポール・ステファン氏の解説 : ほぼ球形で複数の稜があります。長さ10mmまでのイボがあり、マミラリアのような外見です。灰緑色。若い時は単頭で、やがて枝分かれします。
※誤植があります。種小名は本来は小文字で、さらにsuzannaeではなくsusannaeです。

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ポール・ステファン氏のコレクション。こちらには、Euph. Susannae Marl.と表記されていました。良くしまった美しい個体です。イボが長くて尖るタイプ。

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E. susannaeは日本では瑠璃晃と呼ばれることもありますが、あまり使われないかもしれません。私の所有個体はイボが短く丸味があるタイプです。そういえば、命名者のHermann Wilhelm Rudolf Marloth(ドイツ出身で南アフリカで活動した植物学者)の略はMarl.となっていますが、正式な学名の表記ではMarlothです。まあ、1937年の命名規約がどうなっていたかは分かりませんが。

以上がポール・ステファン氏のユーフォルビア・コレクションの紹介でした。しかし、まさか80年以上前のドイツのユーフォルビア・コレクションを写真で見られるとは思っておりませんでしたから、私も感銘を受けました。こういう記事をもっと書きたいと思うものの、中々古い時代の出版物は探しても見つからないことが多く難しいですね。一応は少しずつ探索を継続する予定です。


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年末年始に木更津Cactus & Succulentフェアと新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールがありましたから、そちらを優先したので気付けば鶴仙園にも去年の秋以来顔を出していませんでした。2月は個人的に気になる多肉植物のイベントはないようですし、都内に所用があるついでに池袋の鶴仙園を見てきました。金曜日は関東地方でもそれなりに雪が降りましたから積雪を心配しましたが、その後に雨が続いたのですっかり溶けてなくなりました。というわけで、鶴仙園に昨日行って来ました。
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前日の雪と雨が嘘のような快晴でした。

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今回はどのような多肉植物があるでしょうか?

今回はエケベリアとメセンは沢山ありましたが、私の好きな硬葉系ハウォルチアは、ほとんどありませんでした。相変わらず軟葉系ハウォルチアはうなる程ありましたが。あと、まだケープバルブも健在でした。サボテンの部屋には、入り口に交配系ガステリアが沢山ありましたね。サボテンは五反田TOCのビッグバザールでもお馴染みのRuchiaさんの出していたギムノカリキウムが結構ありました。
しかし、まあ2月ですから多肉植物はオフ・シーズンです。それほどめぼしいものはありませんでした。今回はサボテンの苗と特に珍しいわけではないユーフォルビアを購入しました。

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Gymnocalycium andreae v. leucanthum LB15239
G. andreaeはいわゆる黄蛇丸ですが、現在G. andreaeには変種はありません。しかし、v. leucanthumは現在ではG. andreaeの異名とはされていません。何やらG. bruchii系という情報もありますね。

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白角キリン 
Euphorbia resiniferaです。珍しいユーフォルビアではありませんが、モロッコ原産の多肉ユーフォルビアはあまりありませんね。ただし、白角キリンには以前から気になっていたことがあります。そのうち、記事にします。

それほど購入しませんでしたが、久しぶりの訪問で沢山の多肉植物を見れて良かったです。今日は店主の鶴岡秀明さんもいらっしゃいましたね。
去年は新型コロナの自主的な自粛もあり、鶴仙園へは朝イチで行って昼は家に帰っていましたが、色々解禁の雰囲気がありますから今日は西武池袋をあちこち見て回りました。デパ地下を2時間以上彷徨い歩いて惣菜だのお菓子だのを買い込みました。多肉植物が安くすんだ代わりに、こちらでだいぶ使ってしまいました。


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去年の秋頃のことでしたか、休日出勤でヘロヘロになりながら、帰りに池袋の鶴仙園に立ち寄りました。鶴仙園は毎度凄まじい量のハウォルチアがありますが、かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれたHaworthiopsisは少数派です。十二の巻あたりはいつでもありますが、それ以外は入荷次第な部分もあります。その時はなんとフィールドナンバー付きのHaworthiopsisがあったので購入しました。Haworthiopsis coarctata、つまりはいわゆる九輪塔です。

フィールドナンバー
フィールドナンバーは採取した場所などの情報が記載されています。フィールドナンバーが異なれば採取された地点が異なりますから、フィールドナンバーごとに特徴が異なります。
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Haworthia coarctata DMC06356 IB5850
ラベルはフィールドナンバーの情報に基づくため、Haworthiopsisにはなっていません。IBはIngo Breuer、DMCはDavid M. Cummingの略です。後ろの2つがフィールドナンバーですが、2つあるのはおかしな気もします。しかし、IBナンバーは他のフィールドナンバーから来ていることもあるようですから、この場合はIB5850=DMC06356なのでしょう。
さて、採取地点はFarm Begelly, 12km S of Grahamstownということです。グレアムズタウンは南アフリカの南東部です。グレアムズタウンの南に12kmですから、ポート・エリザベスとポート・アルフレッドの中間くらいかもしれないですね。


H. coarctataの分布
H. coarctataの分布は、西側はPort Erizabethで東側はGreat Fish Riverまでです。東側のさらに先にはHaworthiopsis fasciataが自生します。H. coarctataの分布は良く似たHaworthiopsis reinwardtiiと隣接するようです。
混同されがちなH. reinwardtiiとの見分け方は中々難しいところがあるようです。H. coarctataの結節は滑らかで丸味があり、H. reinwardtiiの結節は偏平で大型と言われます。しかし、実際に自生地で野生のH. coarctataとH. reinwardtiiを見分けるのは、大変難しいようです。

H. coarctataの学名の変遷
H. coarctataはやはりH. reinwardtiiと関連付けられがちで、H. reinwardtiiの変種とされたりして来たようです。1824年にはじめて命名された時は、Haworthia coarctata Haw.でしたが、1997年にはHaworthia reinwardtii subsp. coarctata (Haw.) HaldaHaworthia reinwardtii var. coarctata (Haw.) Haldaとされたこともあります。異名として、1829年に命名されたAloe coarctata (Haw.) Schult. & Schult.f.や、1891年に命名されたCatevala coarctata (Haw.) Kuntze.もあります。2013年にハウォルチアから独立しHaworthiopsisとなり、Haworthiopsis coarctata (Haw.) G.D.Rowleyとなり、これが現在認められている学名です。また、2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. coarctata (Haw.) Breuerが命名されており、やはりH. coarctataをH. reinwardtiiと関連付ける考え方は健在のようです。
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Haworthiopsis reinwardtii

変種アデライデンシスの学名の変遷
さて、H. coarctataには3つの変種があります。1つ目の変種は最初はやはりH. reinwardtiiの変種とされ、1940年にHaworthia reinwardtii var. adelaidensis Poelln.とされました。1973年にはHaworthia coarctata subsp. adelaidensis (Poelln.) M.B.Bayer、1999年にはHaworthia coarctata var. adelaidensis (Poelln.) M.B.BayerというH. coarctataの変種や亜種とする意見も出てきました。2010年には独立種であるHaworthia adelaidensis (Poelln.) Breuerも命名されました。最終的には2013年にHaworthiopsis coarctata var. adelaidensis (Poelln.) G.D.Rowleyと命名されています。他の異名として、1944年に命名されたHaworthia reinwardtii var. riebeekensis G.G.Sm.、1945年に命名されたHaworthia reinwardtii var. bellula G.G.Sm.、1983年に命名されたHaworthia coarctata f. bellula (G.G.Sm.) Pilbeamがあります。

変種テヌイス
2つ目の変種は、やはりH. reinwardtiiの変種とされ、1948年にHaworthia reinwardtii var. tenuis G.G.Sm.と命名されました。1973年にはHaworthia coarctataの変種とされHaworthia coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) M.B.Bayerとなりました。2010年には独立種とするHaworthia tenuis (G.G.Sm.) Breuerもありました。最終的に2013年にHaworthiopsis coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) G.D.Rowleyと命名されました。2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. tenuis (G.G.Sm.) Breuerという学名も命名されています。

変種コアルクタタの異名
ちなみに、変種アデライデンシスと変種テヌイスが出来たことにより、自動的に変種コアルクタタ、つまりHaworthiopsis coarctata var. coarctataが出来ました。というのも、H. coarctataとは、変種アデライデンシス+変種テヌイス+変種コアルクタタのことだからです。変種アデライデンシスと変種テヌイスが命名された時点で、変種アデライデンシスと変種テヌイスではないH. coarctataにも命名が必要となるのです。
しかし、変種コアルクタタには恐ろしいほどの異名があります。面倒なので年表形式で示しましょう。
1880年 Haworthia greenii Baker
              Haworthia peacockii Baker
1891
年 Catevala greenii (Baker) Kuntze
              Catevala peacockii (Baker) Kuntze
1906年 Haworthia chalwinii
                         Marloth & A.Berger
1932年 Haworthia fallax Poelln., orth.var.

1937年 Apicra bicarinata
                         Resende, nom.illeg.
              Haworthia reinwardtii
                         var. conspicua Poelln.
1938年 Haworthia resendeana Poelln.
1940年 Haworthia reinwardtii
                         var. pseudocoarctata Poelln.
1943年 Haworthia coarctata var. haworthii
                          Resende
              Haworthia coarctata
                          var. krausii Resende
              Haworthia coarctata
                          f. major Resende
              Haworthia coarctata
                          f. pseudocoarctata Resende
              Haworthia reinwardtii var. chalwinii
                       (Marloth & A.Berger) Resende
              Haworthia reinwardtii
                       var. committeesensis G.G.Sm.
              Haworthia greenii f. bakeri Resende
              Haworthia greenii f. minor Resende
              Haworthia greenii var. silvicola
                               G.G.Sm.
              Haworthia fulva G.G.Sm.
1944年 Haworthia baccata G.G.Sm.
              Haworthia reinwardtii
                         var. huntsdriftensis G.G.Sm.
1948年 Haworthia coarctatoides Resende
              Haworthia musculina G.G.Sm.
1973年 Haworthia coarctata var. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
1983年 Haworthia coarctata f. chalwinii
                         (Marloth & A.Berger) Pilbeam
              Haworthia coarctata f. conspicua
                         (Poelln.) Pilbeam
1997年 Haworthia reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Halda
1999年 Haworthia coarctata f. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
2016年 Haworthiopsis resendeana
                         (Poelln.) Gildenh. &Klopper
              Haworthiopsis reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Breuer

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Haworthiopsis resendeana
残念ながら変種コアルクタタの異名となり、吸収されてしまいました。

最後に
ここ数年来のエケベリアや近年のアガヴェ・ブームと比べれば細やかですが、透明な窓が美しい交配系の軟葉系ハウォルチアを中心にハウォルチアも流行の兆しがあります。しかし、硬葉系ハウォルチア=ハウォルチオプシス人気は今一つです。硬葉系は肌がざらつき暗い色合いだったり渋い存在ですから、好きな人は好きなんですけど、園芸店はおろかビッグバザールなどの販売イベントですら中々販売していないのが悩みどころです。そんな中でも、鶴仙園さんはハウォルチアに対する期待値は高いのですが、硬葉系が有るか否かは運次第です。頻繁に通いたいところですがそうも行かないのが悩みです。


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今年の正月明けに五反田TOCで開催された新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Euphorbia greenwayiというユーフォルビアを入手しました。赤いトゲと蒼白い肌色が大変美しいですね。どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。

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Euphorbia greenwayi

調べてわかったこととして、E. greenwayiはあまり情報がないということです。とは言うものの、実は論文が1報出ているのですが、何故かE. greenwayiの成分の殺菌作用について調べたものでした。ユーフォルビアは毒性のある乳液を出しますから、その成分を調べた論文は沢山出ています。ですから、この手の論文は珍しくはありませんが、研究者がヨーロッパに多いこともありヨーロッパのユーフォルビア、あるいは世界中に移植されているEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)が一般的で、わざわざE. greenwayiを使うのは珍しいと言えば珍しいですね。とはいえ、化学的な内容のものも多いため、あまり読む気にはなりません。というわけで、一般的な情報について記していきます。
E. greenwayiはタンザニア原産の希少なユーフォルビアです。というのも、分布するのはIringa断崖のみの1箇所で、推定される生息範囲はたった3km2に過ぎないと言います。海抜は1000~1250mほどです。

E. greenwayiの学名は1974年に命名されたEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally & S.Carterです。E. greenwayiを命名したP.R.O.Ballyとは、スイスの植物学者、植物画のイラストレーターであるPeter Rene Oscar Ballyのことです。S.Carterとはユーフォルビアとモナデニウムの専門家で、キュー王立植物園のSusan Carter Holmesのことです。国立ユーフォルビア協会の会長です。ちなみに、種小名はイギリスの植物学者で、タンザニアやケニアで研究したPercy (Peter) J.Greenwayに対する献名です。1987年には亜種のEuphorbia greenwayi subsp. breviaculeata S.CarterEuphorbia greenwayi subsp. greenwayiが命名されています。

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我が家に来てからまだ1ヶ月ですが、根元から新芽が吹いてきました。1月は氷点下にもなりましたが、最近は0℃以上の日が続いてますね。とはいえ、まだまだ寒い日が続いています。それでも、E. greenwayiは一足早く春の気配を感じているのかもしれません。

アフリカのユーフォルビアは素晴らしいものが多いのですが、環境破壊などにより絶滅を危惧されている種が沢山あります。E. greenwayiは生息域が狭く限られています。しかも、薪や炭焼きのために生息域の森林が伐採されており、環境が悪化し個体数を減らしているということです。非常に美しい植物ですから、自生地で絶滅してしまわないことを願っております。


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去年の春先に、異常な暑さと信じがたい日射しが我が家の多肉植物を襲いました。例年真夏でも無遮光で耐える強者揃いでしたが、室内から出してまだ慣れていないこともあり、一部は焼けたり焦げたり萎れたりして大変なことになりました。そんな中、Euphorbia cylindrifoliaは顔色1つ変えることなく平然としていましたが、近縁なEuphorbia ambovombensisは葉を完全にやられてしまいました。

DSC_1518
古い葉は全滅。何ともみすぼらしい姿に…
しかし、E. ambovombensisも花キリンの端くれですから、直ぐに強光に耐えられる新しい葉を沢山出すはずです。根に問題があれば別ですが、根張りがしっかりしていたので遮光はしませんでした。別に特別強光に弱いわけではないのですから平気なはず。

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現在のE. ambovombensis。葉はすっかり生え揃いました。しかし、我が家のE. ambovombensisは他の塊根性花キリンと比べて、生長が非常に遅く中々育ちません。新しい葉もあまり出ないのですが、葉がなくなったので流石にあわてて葉を出したみたいです。

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相変わらず枝は地を這うが如くです。厳しく育てているせいか枝が増えませんが、甘やかすと間延びしてしまいそうで怖くはあります。そういえば、去年は植え替えましたが、塊根が太るというよりずいぶん伸びたので少し浅植えしました。この時際が少しくびれているのは、何が原因なんでしょうね? Pachypodium succulentumもそんな感じでした。すべての塊根がそうだという訳ではありませんが少し不思議です。


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去年、鶴仙園西武池袋店でPlant's Workさんとのコラボイベントがあり、沢山の珍しいハウォルチアが並びました。私も参戦してフィールドナンバー付きのHaworthiopsis woolleyiを入手しました。H. woolleyiを見たのははじめてのことでしたから、非常に嬉しかったのを覚えています。本日はそんなH. woolleyiについて調べてみました。

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購入時のH. woolleyi。ラベルには'H. venosa ssp. wooleyi GM079 South of Kleinpoort'とありました。これは古い学名ですが、Plant's Workさんが間違えている訳ではありません。フィールドナンバーは採取された時点の情報で登録されていますから、フィールドナンバーの登録情報が現在と異なることは珍しいことではありません。そして、フィールドナンバーの情報を記載するのが普通です。なぜなら、最新の学名はまたいつか変更されるかもしれないからです。とはいえ、よく見ると'woolleyi'ではなく'wooleyi'となっており、間違いがありますが、これは元のフィールドナンバーの登録情報の誤りのようです。

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現在のH. woolleyi。我が家に来てわずか5ヶ月程度ですが、一回り大きくなった気がします。

H. woolleyiは、1937年に年にHaworthia woolleyi Poelln.と命名されました。さらに、1997年にはHaworthia venosa subsp. woolleyi (Poelln.) Haldaとなりヴェノサの亜種とされました。しかし、最終的にはGordon D.Rowleyにより2013年にハウォルチオプシス属とされ、ヴェノサの亜種ではなく独立種に戻りました。現在はHaworthiopsis woolleyi (Poelln.) G.D.Rowleyが認められた学名です。また、2016年にはHaworthiopsis venosa var. woolleyi (Poelln.) Breuerも提唱されており、H. venosaと関係があるという考え方は一貫しています。
そういえば、H. woolleyiがはじめて命名された1937年のKarl von Poellnitzの論文、『Vier ndue Haworthia-Arten』を読むことが出来ました。非常に簡素で、図はなく特徴を羅列している無駄のない論文です。この論文では、ハウォルチアの新種を4種類命名しています。1つ目はHaworthia gordonianaで、これは現在のHaworthia cooperi var. gordonianaのことです。2つ目はHaworthia woolleyiですが、何故かHaworthia woolleyiiとiが重複しています。このHaworthia woolleyiiが採用されていない理由は分かりませんが、語尾の形式は決まっているため訂正があったのかもしれません。3つ目はHaworthia stayneriiで、これは現在のHaworthia cooperi var. piliferaのことです。4つ目はHaworthia emelyaeです。ちなみに、H. woolleyiの種小名はStapelia収集家のC.H.F.Woolleyに対する献名ということです。


最後にフィールドナンバーの情報を見てみましょう。やはり、H. woolleyiではなくH. wooleyiとなっています。Plant's Workさんの情報は正確ですね。
Field number : GM 79
Collector : J. Gerhard Marx
Species : Haworthia venosa ssp. wooleyi
Locality : South of Kleinpoort, Eastern Cape, South Africa


残念ながら採取年は分かりません。採取地のKleinpoortはポート・エリザベスの近くですね。私の所有するHaworthiopsis fasciata DMC 05265の採取地はN. Hankey(ハンキー北部)とありますから、South of Kleinpoort(クレイン・プアトル南部)は非常に近いか可能性があります。フィールドナンバーがついていると、このようなこともわかり面白いですね。
そういえば、収集者のGerhard Marxは南アフリカの著名な芸術家で、ハウォルチアのコレクションでも有名です。自ら素晴らしい野生のハウォルチアの絵を書いており、幾つかの新種の多肉植物を発見しています。このH. woolleyiのように、Gerhard Marxにより採取されたフィールドナンバー付きのハウォルチアも沢山あります。



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グロエネワルディ(Euphorbia groenewaldii)は南アフリカのレッドデータブックで、絶滅危惧種に指定されている希少な植物です。そんなグロエネワルディを保護していくにはどのようなことが必要でしょうか? その参考となるMarula Triumph Rasethe & Sebua Silas Semenyaの2019年の論文、『Community's Knowledge on Euphorbia groenewaldii: Its Populations, Threats and Conservation in Limpopo Province, South Africa』をご紹介します。この現地調査をどう捉え、如何なる保全をしたら良いでしょうか?

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Euphorbia groenewaldii

E. groenewaldiiは南アフリカのLimpopo州、Porokwane自治区のDalmada(準都市部)とGa-Mothiba(農村)の2つの地域に固有で、6つの集団が確認されています。その生息域の狭さから、南アフリカでは絶滅危惧種(A2ac)とされています。さらに、E. groenewaldiiは開発や違法伐採、採掘、踏みつけなどにより、個体数が減少しています。E. groenewaldiiは2003年及び2004年の法制定により採取や許可なしの取引を禁止され、保全計画の推奨を謳っています。
しかし、著者はE. groenewaldiiの生息著者の地域社会が、E. groenewaldiiに対してどのように考え、その保護についてどのように捉えているのかが重要かもしれないとしています。なぜなら、生息域の住人こそが、保全や法に対する利害関係者だからです。という訳で、著者は農村であるGa-Mothibaにおいて、E. groenewaldiiに対する意識調査を実施しました。

ランダムに抽選された参加者たちは、残念ながらE. groenewaldiiが保護されている絶滅危惧種であることを知りませんでした。しかし、調査の参加者はE. groenewaldiiの保全に対する関心は高く、E. groenewaldiiを脅かす可能性があると思われる要因とは何かをインタビューしたところ、降雨不足・干魃、土壌侵食などによる生息地の劣化、農村集落の拡大、種の保全に対する知識の欠如、採掘活動、人為的火災など、かなり正確に問題点を捉えていることが明らかとなりました。
とは言うものの、農村の拡大は住民の望みでもあり、舗装された道路の施設など開発が進むことを望んでいます。採掘活動も村の経済と雇用機会にとって重要ですが、石灰岩の間などに生えるE. groenewaldiiは採掘により根こそぎ破壊されてしまいます。人為的火災は枯れ草を燃やすことにより、牧畜のための新しい牧草の育成に必要な作業です。また、家畜による踏みつけについては懸念としては浮かんでこない項目でした。

以上が論文の簡単な要約です。
まず言えるのは、保護を法律で定めても周知させなければ意味がないということです。保全活動に関係していない農村の住民にも、正しく伝えれば問題を理解し鋭く考えることはインタビュー結果からも明らかです。
次に保護活動は学者や保護活動家だけが関わるものではなく、地域住民にも知識や理念、活動の趣旨を理解してもらい、住民も参加することが望ましいということです。保護活動は明らかに住民の経済活動の利害に反し、強硬に推し進めれば反発を招き保護活動も頓挫するでしょう。また、開発は住民の権利ですから、我々が文句を言うことは出来ません。先進国に住む人々が、低開発国の発展を阻害するのは実に傲慢なことです。
経済活動に伴う環境やグロエネワルディそのものに対する損害に対しては、代替手段を用意すべきです。やり方を工夫しダメージが最小となる手段を考えたり、あるいは村に別の雇用機会を設けるなどです。実際に動物の保護活動では、密猟者をレンジャーとして雇用することもあります。なぜなら、密猟は欧米人のするようなゲームハンティングではなく、あくまでも経済活動だからです。雇用があり賃金が払われるならば、わざわざ密猟などしないのです。
私が思い付くのは所詮はこの程度で、何一つとして有効な解決策を提示出来てはいません。まあ、世界中の学者や保護活動家の頭を悩ませる問題を、私が簡単に解決出来ないのは当たり前かもしれません。
皆様はこの調査結果をどう捉えたでしょうか? 市販されている多肉植物でも、原産地では絶滅の危機に瀕しているものも珍しくありません。多肉植物を栽培する皆様にも是非、一度考えていただきたい問題です。


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ユーフォルビア・モラティイはマダガスカル原産の花キリンです。去年、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手しましたが、早くも花が咲きました。花キリンとは言ってもよく見るEuphorbia milii系ではなく、花や葉を見る限りEuphorbia cylindrifoliaやEuphorbia tulearensisの仲間でしょうから花は地味ですけどね。良い機会ですからどのような多肉植物なのか調べてみました。

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Euphorbia moratii

モラティイの学名は1970年に命名されたEuphorbia moratii Rauhです。モラティイは国際的に著名な生物学者、植物学者、作家のドイツのWerner Rauhが命名しました。種小名はモラティイを発見したフランス国立自然史博物館の植物学者Philippe Moratに対する献名ということです。
モラティイには3変種、Euphorbia moratii var. moratii、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. bemarahensis Cremers、1991年に命名されたEuphorbia moratii var. multiflora Rauhが認められています。
また、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. antsingiensis Cremersは、2021年に種として独立しEuphorbia antsingiensis (Cremers) Haev. & Hett.となり、モラティイの変種ではなくなりました。


E. moratiiはワシントン条約(CITES)の附属書 I に掲載されています。ワシントン条約は国際的な動植物の取引を規制していますが、附属書 I は絶滅の恐れがありる最も厳しい規制がなされており基本的に取引は禁止されています。これはすべてのワシントン条約登録種の3%、約1000種類の動植物のみと言いますから、珍しい花キリンですね。

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花は塊根性花キリンに典型的な雰囲気。

モラティイはマダガスカルのMahajanga州に分布するということです。調べると、マダガスカル北西部のようです。また、inselbergの岩の多い斜面に生えると言います。'inselberg'は孤立した丘である残丘の1種で、定義は「なだらかな斜面を持つ周囲の地形から飛び出した、急な斜面を持つ丘」のことで、特にアフリカの乾燥地帯に典型的な地形とのことです。

以上がモラティイの情報ですが、調べても情報がほとんど出てきません。何か良い論文が出てくれると嬉しいのですが。
塊根が出来るようですが、私のモラティイはまだ塊根は出来ていないでしょう。まあどちらにせよモラティイはコンパクトな小型種です。焦らずゆっくり育てていきます。



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ここのところ2日続けて、旧・アロエ属についてゴニアロエ(Gonialoe)とアロイアンペロス(Aloiampelos)の記事を書きました。個人的に旧・アロエ属を含むアロエ類は気になっており、アロエ(Aloe sensu stricto)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス、(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア(Haworthia)、ハウォルチオプシス(Haworthiopsis)、ツリスタ(Tuesday)、ガステリア(Gasteria)、アストロロバ(Astroloba)についてぼちぼち集めたりしています。
このアロエとハウォルチアの分割は中々の衝撃でしたが、私は
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文でアロエ類の遺伝子解析結果を見て、割と納得してしまってそれ以上調べませんでした。しかし、アロエやハウォルチアが分割された根拠となる論文がそれぞれにあるはずで、それらの論文を読んでいないのは片落ちではないかと今更ながら思った次第です。

2014年の論文の記事①
2014年の論文の記事②

さて、以前から学名を調べていると、ハウォルチオプシスやツリスタの命名者にやたらとG.D.Rowleyが出てくるなあと思っていました。実はハウォルチオプシスやツリスタはG.D.Rowleyがハウォルチアから分離させたことが原因でした。
その論文はGordon D. Rowleyの 2013年の、『HAWORTHIOPSIS AND TULISTA - OLD WINE IN NEW BOTTLE』です。「新しいボトルに入った古いワイン」という副題が面白かったので、記事のタイトルにしました。この論文の主題はツリスタ属とハウォルチオプシス属です。かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスは、この論文で16種が命名されました。
現在、ハウォルチオプシスは19種類が認められていますが、G.D.Rowleyはそのうち16種類をハウォルチオプシスとしています。G.D.RowleyはHaworthiopsis koelmaniorum、Haworthiopsis pungensはツリスタ属としました。また、Haworthiopsis 
henriquesiiは新しく2019年に命名されたため、この論文には登場しません。

ハウォルチオプシス19種類の情報は以外の3つの記事をご参照ください。


ツリスタ属はG.D.Rowleyが命名した訳ではなく、1840年にRafinesqueが命名した属名です。Rafinesqueは当時Aloe pumilaと呼ばれていた植物にTulista margariferaと命名しましたが認められませんでした。しかし、この忘れ去られていたツリスタ属をG.D.Rowleyが復活させたということです。どうも、副題の「新しいボトルに入った古いワイン」とはツリスタ属のことのようです。確かに論文が書かれた2013年から遡ること73年前の命名ですから、73年もののワインを新たな装いで出したようなものかもしれませんね。
さて、この論文におけるツリスタ属は、現在とは結構異なります。現在のツリスタ属の正式メンバーである、Tulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingianaはすでに含まれていますが、Tulista minorはいませんね。ちなみに、Aloe kingianaをG.D.Rowleyがはじめてツリスタ属としてTulista kingianaとした訳ですが、これは認められずに2017年に
Gideon F.Sm. & MoltenoによってTulista kingianaと命名され直しました。これは、Von PoellnitzがHaworthia kingianaと命名した論文を引用しなければなりませんが、G.D.Rowleyはその引用元を間違えていたため認められませんでした。
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Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

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Tulista kingiana (Poelln.)
                       Gideon F.Sm. & Molteno


また、この論文ではTulistaは13種類がリストアップされていますが、Astrolobaが7種、後のHaworthiopsisが2種、Aristaloeが1種が含まれていました。現在Astrolobaは10種類が認められていますが、この論文の後に命名された3種類、Astroloba cremnophila、Astroloba robusta、Astroloba tenaxは含まれていません。

Astrolobaについては過去に記事としたまとめています。

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Aristaloe aristata

以上が論文の内容です。
結局、G.D.Rowleyの主張はすべて認められているわけではありませんが、Haworthiopsisの創設とTulistaの復活を含む非常に重要な論文です。アロエ類が命名された論文はまだありますから、これから少しずつ読んでいくつもりです。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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昨日はメキシコ原産のソテツであるDioon eduleの情報についての記事を書きましたが、本日はD. eduleの論文をご紹介したいと思います。D. eduleはDioonの代表種であり、様々な角度から研究がなされています。非常に面白そうな論文が沢山あります。しかし、最近ではやや忙しく中々思ったように論文を読めていないのが悩みです。

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Dioon edule

そんな中、読んだ論文はAndrew P. Vovidesの1990年の論文、『Spatial Distribution, Survival, and Fecundity of Dioon edule (Zamiaceae) in a Tropical Deciduous Forest in Veracuruz, Mexico, with Notes on Its Habitat』です。

著者は野生のD. eduleが集中するメキシコのVeracuruz州中央の熱帯林で、その生長と繁殖に関するデータを4年間にわたり収集しました。
まずは実生の定着具合を見てみましょう。調査によると、高さ10cm以下の若い苗はほぼ枯れてしまうことが分かりました。やはり、小さな内は環境の変化や乾燥に耐えられないのでしょう。しかし、高さ40~50cmくらいに生長すると枯れてしまう個体は5%以下でした。ある程度生長できれば環境の変化にも対応出来るのでしょう。
次に樹齢を見てみましょう。調査した区域の139個体のD. eduleの中で最高齢は2001~2250歳と見られる個体が1本ありました。1501~2000歳の個体は0本、1251~1500歳の個体が1本、1001~1250歳の個体が2本、751~1000歳の個体が2本、501~750歳の個体が11本、251~500歳の個体が13本、0~250歳の個体が109本ありました。ここで分かることは、D. eduleは非常に寿命が長いということだけではありません。0~250歳の個体が109本ということは、この250年の間に生き残った実生は109本しかないということでもあります。この0~250歳の死亡率は88%にもなるようです。

種子を人工的に発芽させた場合、発芽率は98%と非常に高いことが分かりました。しかし、野生状態だとネズミ(Peromyscus mexicanus)に種子を食べられてしまうことが明らかとなっています。しかし、一般的にソテツには毒があり、ラットにD. eduleの種子を砕いて与えると24時間以内に死亡してしまいます。つまり、D. eduleの種子を食べるP. mexicanusはソテツの毒に耐性があるということです。
また、新しく葉は柔らかく、Eumaeus deboraという蝶の幼虫により食害されます。
実生が枯死する最大の要因は、おそらく極端な乾燥です。1983年の乾季には1~2歳のD. eduleはほぼ死滅しました。さらに、D. eduleの実生を人工的に2年間育てた後に2週間の乾燥させたことにより、20個体中18個体が枯死しました。やはり、若い個体にとって乾燥は大敵のようです。
D. eduleの生息地は山火事が起きやすく、大型の個体は耐えられますが、苗は耐えられないでしょう。しかし、山火事により一時期に土壌中に窒素が増加することにより、開花に寄与しているということです。結果的に種子の生産が増加するということです。


生育環境を見てみましょう。土壌の深さを測定すると、D. eduleの84%はたった6~20cmしかない浅い土壌に生えていることが分かりました。多くの場合、岩場に生えていました。土壌はカリウムとリン酸が貧弱であり、かなりの貧栄養のようです。pHは7.7でした。この岩場に育つことにより、種子が岩の隙間に入りネズミに食べられてしまう可能性は低くなるようです。
D. eduleには菌根が確認されているそうです。あまり知られていませんが、野生の樹木の根はキノコの菌糸で被われており、樹木とキノコの間で養分のやり取りがあり共生関係にあります。これを菌根と呼びます。菌根はまれな現象ではなく、森林には普遍的に存在し非常に重要な仕組みであることが分かってきました。D. eduleも共生している菌根から水分や栄養をもらい、乾燥し栄養の少ない過酷な環境に耐えているのでしょう。

以上が論文の簡単な要約となります。D. eduleが尋常ではない寿命を持つこと、あまりに過酷な環境ゆえに実生苗がほとんど死滅してしまうこと、そしてその過酷な環境に耐える仕組みがあることが分かりました。このような調査は単にD. eduleの科学的な知見が増えるだけではなく、将来保護を行うための基本的な下地にもなります。しかし、このような地味な研究には資金が中々出ない現状のため、多くの植物が調査すらされずに人知れず開発や違法採取で絶滅していることは大変悲しいことです。著者はD. eduleの繁殖にも関わっているようですから、そこら辺の活動についてもそのうち記事に出来たらと思っておりません。


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3年前くらい前のことですが、大型の園芸店にDioon eduleという海外のソテツの苗が販売されていることに気が付きました。冬だったこともあり葉が黄色く変色していたりして、購入を躊躇う状態でした。その後、2~3の園芸店やホームセンターで見かけましたが、基本的に状態は悪く入荷からそれなりに時間が経っていることがうかがえます。流石に復活可能かわからないので購入しませんでしたが、その後はDioon eduleを見かけることはありませんでした。おそらくは、Dioon eduleの種子をある程度の数輸入した一過性の実生苗だったようです。しかし、去年のクリスマスに千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、なんとDioon eduleを販売していたので購入しました。 ということで、Dioon eduleとは一体どのようなソテツなのでしょうか?

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Dioon edule

D. eduleの学名は、1843年に命名されたDioon edule Lindl.です。D. eduleはまあまあ異名が多いため、以下に年表で示しました。
1844年 Zamia maelenii Miq.
1845年 Platyzamia rigida Zucc.
1848年 Dioon imbricatum Miq.
1855年 Dioon aculeatum Lem.
1861年 Dioon edule f. imbricatum
                  (Miq.) Miq.
1863年 Dioon strobilaceum Lem.
1868年 Dioon edule var. imbricatum
                  (Miq.) Miq.
1884年 Macrozamia littoralis
                   Liebm. ex Dyer
              Macrozamia pectinata 
                   Liebm. ex Dyer
1899年 Dioon edule var. lanuginosum
                  (J.Schust.) Wittm.
1932年 Dioon edule f. lanuginosum
                   J.Schust.
              Zamia rigida Karw. ex J.Schust.

さらに、現在は独立種とされているDioon angustifoliumは、かつてDioon edule f. angustifolium、Dioon edule var. angustifolium、Dioon edule subsp. angustifoliumなどと呼ばれていました。幾つかのサイトでD. eduleの情報を収集しましたが、あるサイトではD. eduleはD. merolaeやD. holmgeniiと関連があるなどと書かれていましたが、遺伝子解析の結果ではD. eduleはD. angustifoliumと近縁です。分布が近い種は遺伝子も近縁な傾向があり、D. eduleとD. angustifoliumは分布が近いと言えます。
他にも現在は認められていないD. eduleの変種があります。Dioon edule var. latipinniumはDioon pectinatumに、Dioon edule var. sonorenseはDioon sonorenseとして現在ではそれぞれ独立種とされています。

さて、一般的なD. eduleの情報を探したところ、D. eduleはメキシコの海抜1500mにまで見られるということです。D. eduleは中型のソテツで、高さ1~1.5(~3)mで、直径は20~30cmになります。成熟した葉は15~20枚で、長さ0.7~1.6mとなり、小葉は片側120~160にもなります。Dioonの中でも小葉の縁にトゲがないことが、D. eduleの特徴とされているようです。D. eduleは乾燥した森林地帯に生え、浅い土壌の過酷な地域です。

Dioon eduleは大変美しいソテツで、育つほど葉は長くなり小葉の数も増えていきます。小葉は細長く隙間なく整然と並び、ある程度育ったD. eduleの葉は涼しげで非常に美しいものです。しかし、Dioon eduleは環境の悪化などにより個体数の減少が指摘されている貴重なソテツです。輸入種子由来の実生の流通が望ましく、違法採取株由来かもしれない現地球の販売はあまり望ましくありません。正規のルートで輸入された個体でも、違法採取株がファームを転々として日本に輸入された可能性も捨てきれません。
Dioon eduleはDioonの代表種です。異名が多くE. eduleから分離された種類があることからも、それはうかがえます。そのため、Dioonの中ではD. eduleは割と研究されており、論文も多少は出されています。明日はそんなD. eduleについて調査した論文をご紹介しましょう。


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近年、サンセヴィエリア属(Sansevieria、サンスベリア、サンセベリア)がドラカエナ属(Dracaena、ドラセナ)に吸収されてしまうという驚くべきニュースを目にしました。当該論文は公開されていないので、残念ながら読めていないのですが、その辺りの話は最近記事にしました。


その関連で少し興味が湧いたので、他にも何か論文はないかと調べてみたところ、Iris van Kleinweeらの2021年の論文、『Plastid phylogeny  of the Sansevieria clade (Dracaena ; Asparagaceae) resolves a rapid evolutionary radiation』を見つけました。ただし、この論文は全文を公開していないため、イントロと方法のみしか示されておりません。しかし、遺伝子解析結果は公開されていましたから、見てみましょう。

取り敢えず、サンセヴィエリアはドラカエナに吸収されてしまいましたが、ドラカエナの中でもサンセヴィエリアはまとまったグループのようです。このグループをSansevieria cladeと呼んでいるようです。しかし、Sansevieria cladeに含まれる種の分類はよく分かっていませんでした。どうやら、現存する旧・Sansevieriaたちは、新しい時代に急速に進化して様々な種類に分かれた可能性があるのです。
遺伝子解析はすべての遺伝子を調べているわけではなく、植物種の違いに関わらずよく使われる遺伝子があります。しかし、それらの遺伝子では、新しい時代に急速に進化した場合は上手く種を分離出来ないのです。ですから、この論文では実に7種類もの遺伝子を解析して、サンセヴィエリアの急速な進化に迫っています。
以下に示す分子系統では、A1、A2、B、C、D、Eの6グループに分かれています。このA~Eまではまとまりがあり、旧・Sansevieriaは近縁です。

                        ┏グループA1
                    ┏┫
                    ┃┗グループA2
                ┏┫
                ┃┗━グループB
            ┏┫
            ┃┃┏━グループC
            ┃┗┫
        ┏┫    ┗━グループD
        ┃┃
    ┏┫┗━━━D. angolensis
    ┃┃
    ┃┗━━━━グループE
┏┫
┃┃┏━━━━D. camerooniana
┃┗┫
┫    ┗━━━━D. sambiranensis
┃ 
┗━━━━━━D. aletriformis

グループA1
A1には、D. zeylanica、D. burmanica、D. roxburghianaが含まれます。インド亜大陸の原産です。
・D. zeylanicaはSansevieria zeylanicaのことです。Sansevieria ensifolia、Sansevieria grandicuspis、Sansevieria indica、Sansevieria pumilaと同種です。Cordyline zeylanicaと呼ばれたこともあります。
・D. burmanicaはSansevieria burmanicaのことです、Sansevieria maduraiensisと同種です。
・D. roxburghianaはSansevieria roxburghianaのことです。また、1805年にはSansevieria zeylanicaという学名もつけられましたが、これはD. zeylanica (Sansevieria zeylanica)とは別につけられたもののまったく同じ学名です。当然ながら認められていない学名です。

グループA2
A2には、D. pinguicula、D. perrotii、D. powellii、D. hanningtonii、D. arborescensが含まれます。
立ち上がり茎が伸びるタイプで、主に東アフリカの原産です。
・D. pinguiculaはSansevieria pinguiculaのことです。
・D. perrotiiはSansevieria perrotiiのことです。Sansevieria robusta、Sansevieria ehrenbergiiと同種です。
・D. powelliiはSansevieria powelliiのことです。
・D. hanningtoniiはPleomele hanningtoniiのことです。Dracaena oldupai、Sansevieria rorida、Sansevieria ehrenbergii、Sansevieria roridaと同種です。ちなみに、D. powelliiの異名の1つにS. ehrenbergiiがあり、D. hanningtoniiとかぶりますが、D. powelliiの異名のS. ehrenbergiiは後から同じく学名を付けてしまったパターンです。
・D. arborescensはSansevieria arborescensのことです。Sansevieria zanzibaricaと同種です。

グループB
Bには、D. raffllii、D. testudinea、D. canaliculata、D. liberica、D. longiflora、D. scimitariformis、D. sinus-simiorum、D. stuckyi、D. subspicata、D. spathulata、D. aethiopica、D. halliiが含まれます。アフリカ南部中心に分布します。
D. raffllii、D. testudinea~D. liberica、D. longiflora~D. haliiの3グループに分けられます。
・D. rafflliiはSansevieria rafflliiのことです。
・D. testudineaはSansevieria brauniiのことです。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena brauniiという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。
・D. canaliculataはSansevieria canaliculataのことです。Sansevieria schimperi、Sansevieria sulcataと同種です。
・D. libericaはSansevieria libericaのことです。Sansevieria chinensis、Sansevieria gentilisと同種です。
・D. longifloraはSansevieria longifloraと同種です。
・D. scimitariformisはSansevieria scimitariformisのことです。
・D. sinus-simiorumはSansevieria sinus-simiorumのことです。
・D. stuckyiはSansevieria stuckyiのことです。Sansevieria andradaeと同種です。
・D. subspicataはSansevieria subspicataのことです。
・D. spathulataはSansevieria cocinnaのことです。Sansevieria subspicata var. cocinnaは同種です。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena cocinnaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。
D. aethiopicaはSansevieria aethiopicaのことです。Sansevieria thunbergii、Sansevieria caespitosa、Sansevieria glauca、Sansevieria scabrifoliaは同種です。
D. halliiはSansevieria halliiのことです。

グループC
Cには、D. parva、D. singularis、D. phillipsiae、D. nilotica、D. dawei、D. bacularis、D. dooneri、D. trifasciata、D. francisii、D. sordida、D. suffruticosa、D. serpenta、D. newtoniana、D. conspicua、D. volkensis、D. hargeisana、D. forskalianaが含まれます。アフリカ大陸に広く分布します。
D. parva~D. trifasciata、D. francisii~D. serpenta、D. newtoniana~D. forskalianaの3グループに分けられます。
・D. parvaはSansevieria parvaのことです。Sansevieria bequaertiiは同種です。
・D. singularisはSansevieria singularisのことです。Sansevieria fischeriは同種です。
・D. phillipsiaeはSansevieria phillipsiaeのことです。
・D. niloticaはSansevieria niloticaのことです。Sansevieria massaeは同種です。
・D. daweiはSansevieria daweiのことです。
・D. bacularisはSansevieria bacularisのことです。
・D. dooneriはSansevieria dooneriのことです。
・D. trifasciataはSansevieria trifasciataのことです。Sansevieria aureovariegata、Sansevieria craigii、Sansevieria jacquinii、Sansevieria laurentii、Sansevieria trifasciata var. laurentii、Sansevieria zeylanica var. laurentiiは同種です。
・D. francisiiはSansevieria francisiiのことです。
・D. sordidaはDracaena variansの異名です。D. variansはSansevieria variansのことです。Sansevieria patens、Sansevieria sordida、Dracaena patensは同種です。
・D. suffruticosaはSansevieria suffruticosaのことです。
・D. serpentaはSansevieria gracilisのことです。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena gracilisという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。とはいえ、このD. gracilisは問題のある学名で、1796年に命名されたD. gracilisはDracaena reflexa var. angustifoliaの異名で、1808年に命名されたD. gracilisはDracaena ellipticaの異名です。これだけ使い降るされた学名ですから、3回目の使用となれば混乱は必至でしょうから使われないのは当然です。
・D. newtonianaはSansevieria newtonianaのことです。
・D. conspicuaはSansevieria conspicuaのことです。
・D. volkensisはSansevieria volkensisのことです。Sansevieria intermedia、Sansevieria polyrhytis、Sansevieria quarriaは同種です。
・D. hargeisanaはSansevieria hargeisanaのことです。
・D. forskalianaはSansevieria forskalianaのことです。Sansevieria guineensis var. angustior、Sansevieria elliptica、Sansevieria abyssinica、Convallaria racemosaは同種です。

グループD
Dには、D. zebra、D. senegambica、D. petheraが含まれます。D. zebraとD. senegambicaは非常に近縁です。
・D. zebraはSansevieria metallicaのことです。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena metallicaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。ただし、Dracaena metallicaはCordyline fruticosaの異名です。
・D. senegambicaはSansevieria senegambicaのことです。Sansevieria cornuiは同種です。
・D. petheraはSansevieria kirkiiのことです。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena kirkiiという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。

グループE
EにはD. kenyensis、D. dawnsii、D. caulescens、D. pearsoniiが含まれます
・D. kenyensisはデータベースに情報がありませんが、どうやらSansevieria bellaのことのようです。 Sansevieria bellaは現在ではDracaena neobellaとされています。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena bellaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。ただし、このDracaena bellaはCordyline fruticosaの異名です。
・D. dawnsiiはSansevieria dawnsiiのことです。
・D. caulescensはSansevieria caulescensのことです。
・D. pearsoniiはSansevieria pearsoniiのことです。Sansevieria deserti、Sansevieria rhodesianaのことです。



A~Eのグループに入らない種類についてですが、D. angolensisはSansevieria内にありますが、A~Eのグループには入りません。
・D. angolensisはSansevieria angolensisのことです。Sansevieria cylindrica、Sansevieria livingstoniaeと同種です。
・D. cameroonianaはSansevieriaではなく、はじめからDracaenaでしたが、Sansevieriaと近縁のようです。
・D. sambiranensisはSansevieria sambiranensisのことです。他のSansevieriaとは系統が異なります。
・D. aletriformisはSansevieriaではありません。Yucca aletriformisという異名があります。

Sansevieriaの葉の形状は様々で、葉の厚みも様々です。これは、乾燥に対する適応を示しています。しかし、葉の形状はグループごとに似ているわけではないようです。多肉質な葉は近縁ではないあちこちに現れるようです。
また、タイトルにありますように、Sansevieriaは急速に進化して様々な種類に分化したようです。どうやら、Sansevieriaは約500万年前に登場したようです。非常に昔なような気がしますが、新生代新第三紀終盤の鮮新世ですから、歴史年代からすると最近です。しかも、現在の種類が分化し始めたのは、第四紀更新世以降ですから、日本では旧石器時代という新しさです。本当に新しく現れた多肉植物と言えますね。



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