どれだけ小さな庭でも、そこに土があれば何かしらの雑草がたくましくも生えてきます。ガーデニングを趣味としている方なら、雑草は大なり小なり厄介な存在でしょう。私も育てている多肉植物の鉢に、どこから来たのか様々な雑草が生えてきます。早期に抜かないと根を深く張ってしまい、中々取り除くのにも手を焼くことになります。こんな趣味の範疇の園芸でも厄介な存在なのですから、農業における雑草は厄介どころの話ではないでしょう。もちろん、科学の力により除草剤なるものが開発され使用されます。しかし、たかが雑草と侮るなかれ。雑草には人間の知恵など凌駕する力があるようです。本日はその雑草が主役の話をしたいと思います。参考とするのは2003年に出版された『雑草の逆襲』(全国農村教育協会)です。早速、簡単に内容をご紹介しましょう。

農業では雑草は実に厄介な存在です。せっかくまいた肥料を吸ってしまいますし、背丈が高くなれば日照を遮ります。あまりに雑草が蔓延ると、そこから病害虫が拡がることもあります。風通しも悪くなりカビなどによる病気も起こりやすくなります。そのため、除草剤がまかれますが、日本各地で異変が起きているというのです。雑草は本来、実に沢山の種類があります。しかし、除草剤をまいていると、何故か1種類の雑草のみが蔓延る、奇妙な光景が現れ始めたのです。
事の起こりは1980年の埼玉県のことでした。荒川堤外地の桑畑でパラコートなどのビピリジリウム系除草剤に抵抗性があるハルジオンが見つかりました。驚くべきことに、このハルジオンは通常の16倍の除草剤にも耐えることが分かりました。
では何故除草剤が効かないのでしょうか? そもそもパラコートはどのように効くのかというと、葉に光が当たると光合成しますが、その反応にパラコートが作用して活性酸素を生じて葉の組織に損傷が生じるようです。そこで、パラコートに耐性のあるハルジオンやアレチノギクの葉を切って、切り口から標識したパラコートを吸わせてみました。すると、パラコートは葉脈にはありましたが、葉の組織にはありませんでした。つまり、光合成がおきる葉の組織にパラコートが行かないため、活性酸素が生じないということのようです。
しかし、不思議なのはハルジオンのパラコート耐性が、原産地の北米ではなく日本で初めて発生したという事実です。一般的に原産地は種内の多様性が高いことから、北米でこそパラコート耐性が出てくるような気がします。ただ、ハルジオンは日本では大量発生しますが、北米では重要な雑草ではありません。これは、ハルジオンが本来は存在しない侵略者であるため、競争相手がいないだとか、北米でハルジオンにつく病害虫が日本にはいないだとか理由は色々と考えられます。そのため、ハルジオンに対し日本では北米より大量のパラコートが使われてきたということかもしれません。
さて、除草剤に限らず薬剤耐性が起きる仕組みとは、①薬剤の吸収・移行を阻害する、②薬剤を分解してしまう、③薬剤の作用部位が変異してしまう、という3つが考えられます。ハルジオンのケースは①の薬剤の吸収・移行の阻害によるものですね。
さらに、北海道や東北で、水田雑草であるミズアオイやアゼトウガラシにSU剤という除草剤に対する耐性が見られました。SU剤は植物がアミノ酸を合成する過程のアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害しますが、ミズアオイやアゼトウガラシはALSの変異によりSU剤が効かないと考えられているようです。つまり、③の薬剤の作用部位の変異によるものです。
また、何も除草剤抵抗性は日本だけの話ではなく、世界中で起きている現象です。しかも、複数種類の作用機序が異なる除草剤に抵抗性を獲得した雑草も現れているようです。さらには、オーストラリアのボウムギやカリフォルニアのイヌビエのように、解毒機構を発達させてほとんどの除草剤を無効化する「スーパーバイオタイプ」と呼ばれる恐ろしい雑草さえ出てきてしまっています。②の薬剤の分解によるものですね。
しかし、考えて見れば雑草とは実にたくましいもので、人類の叡智など軽々と乗り越えてしまいます。まったく異なるタイプの除草剤が開発されても、基本的にはいたちごっこで、直ぐに乗り越えられてしまうのでしょう。これは、近年重大な問題と化している抗生物質に耐性のある細菌の出現と同じ現象です。こちらも多剤耐性菌の出現により医療現場に多大な負荷がかかってしまっています。やはり、こちらも除草剤と同様に終わりのない戦いを強いられています。
除草剤自体は人体にも有害な物質ですから、使わないに越したことはないのでしょう。しかし、狭い庭ですら雑草を蔓延らせている私には、農家は広い農地を手作業で雑草を抜くべきだとはとても言えません。やはり、人間の知恵など「たかが雑草」にすら勝てないのでしょうか? こうなってしまうと、除草剤とはまったく異なる手法による、新たな除草方法が求められているのかもしれませんね。
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農業では雑草は実に厄介な存在です。せっかくまいた肥料を吸ってしまいますし、背丈が高くなれば日照を遮ります。あまりに雑草が蔓延ると、そこから病害虫が拡がることもあります。風通しも悪くなりカビなどによる病気も起こりやすくなります。そのため、除草剤がまかれますが、日本各地で異変が起きているというのです。雑草は本来、実に沢山の種類があります。しかし、除草剤をまいていると、何故か1種類の雑草のみが蔓延る、奇妙な光景が現れ始めたのです。
事の起こりは1980年の埼玉県のことでした。荒川堤外地の桑畑でパラコートなどのビピリジリウム系除草剤に抵抗性があるハルジオンが見つかりました。驚くべきことに、このハルジオンは通常の16倍の除草剤にも耐えることが分かりました。
では何故除草剤が効かないのでしょうか? そもそもパラコートはどのように効くのかというと、葉に光が当たると光合成しますが、その反応にパラコートが作用して活性酸素を生じて葉の組織に損傷が生じるようです。そこで、パラコートに耐性のあるハルジオンやアレチノギクの葉を切って、切り口から標識したパラコートを吸わせてみました。すると、パラコートは葉脈にはありましたが、葉の組織にはありませんでした。つまり、光合成がおきる葉の組織にパラコートが行かないため、活性酸素が生じないということのようです。
しかし、不思議なのはハルジオンのパラコート耐性が、原産地の北米ではなく日本で初めて発生したという事実です。一般的に原産地は種内の多様性が高いことから、北米でこそパラコート耐性が出てくるような気がします。ただ、ハルジオンは日本では大量発生しますが、北米では重要な雑草ではありません。これは、ハルジオンが本来は存在しない侵略者であるため、競争相手がいないだとか、北米でハルジオンにつく病害虫が日本にはいないだとか理由は色々と考えられます。そのため、ハルジオンに対し日本では北米より大量のパラコートが使われてきたということかもしれません。
さて、除草剤に限らず薬剤耐性が起きる仕組みとは、①薬剤の吸収・移行を阻害する、②薬剤を分解してしまう、③薬剤の作用部位が変異してしまう、という3つが考えられます。ハルジオンのケースは①の薬剤の吸収・移行の阻害によるものですね。
さらに、北海道や東北で、水田雑草であるミズアオイやアゼトウガラシにSU剤という除草剤に対する耐性が見られました。SU剤は植物がアミノ酸を合成する過程のアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害しますが、ミズアオイやアゼトウガラシはALSの変異によりSU剤が効かないと考えられているようです。つまり、③の薬剤の作用部位の変異によるものです。
また、何も除草剤抵抗性は日本だけの話ではなく、世界中で起きている現象です。しかも、複数種類の作用機序が異なる除草剤に抵抗性を獲得した雑草も現れているようです。さらには、オーストラリアのボウムギやカリフォルニアのイヌビエのように、解毒機構を発達させてほとんどの除草剤を無効化する「スーパーバイオタイプ」と呼ばれる恐ろしい雑草さえ出てきてしまっています。②の薬剤の分解によるものですね。
しかし、考えて見れば雑草とは実にたくましいもので、人類の叡智など軽々と乗り越えてしまいます。まったく異なるタイプの除草剤が開発されても、基本的にはいたちごっこで、直ぐに乗り越えられてしまうのでしょう。これは、近年重大な問題と化している抗生物質に耐性のある細菌の出現と同じ現象です。こちらも多剤耐性菌の出現により医療現場に多大な負荷がかかってしまっています。やはり、こちらも除草剤と同様に終わりのない戦いを強いられています。
除草剤自体は人体にも有害な物質ですから、使わないに越したことはないのでしょう。しかし、狭い庭ですら雑草を蔓延らせている私には、農家は広い農地を手作業で雑草を抜くべきだとはとても言えません。やはり、人間の知恵など「たかが雑草」にすら勝てないのでしょうか? こうなってしまうと、除草剤とはまったく異なる手法による、新たな除草方法が求められているのかもしれませんね。
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